とける。

おかだ。

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拾肆

第72話

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昔、組の古株にとても良くしてくれる男が一人いた。

仕事仕事で家を空けがちだった父親と違い、一週間に一度は遊び相手になってくれて、クリスマスや誕生日にはプレゼントを持ってやってくる男だった。

「おや、?眠れないんですか?」

「・・・橘」

「おいで」

昔は父親が心配するほどの泣き虫で、部屋を真っ暗にすると眠れないような怖がりだった。
小学校では家のせいで勝手に偏見を持たれ、弱虫で童顔だった恭介はクラスでも孤立しずっと独りだった。

母親が病気がちになり自由に甘えられなくなると、その寂しさと心細さが爆発して、一週間に一回はこの男の眠る部屋へ枕を抱えて出掛けたものだった。

「橘、俺・・・」

「怖い夢?」

男に背を向けて同じ布団に潜り込み、小さく頷く。

ただでさえ大きな体躯の男が横たわる布団は既に窮屈で、そこに六歳の少年が入り込むと掛け布団が盛り上がってこんもりと二つの大小の山が出来上がる。

「・・・父さんが、「お前は弱すぎる」って。伊武会の皆も、俺は頼りないんだって思ってるに決まってる。俺、良い所一つもない・・・嫌われてるんだ」

狭い布団で橘の腹にぴったりとくっついた恭介の小さな背中が身じろぎ、悲しげに鼻をすする。

「・・・そんなことないですよ、坊ちゃん。俺は坊ちゃんが大好きですから。俺だけは味方です」

男の分厚い手が少年の肩をさすり、耳の下辺りまで伸びた柔らかな黒髪を撫でる。

「・・・ぷっ、あはは!橘、俺の髪好きだねー」

髪を梳く大きく硬い手に思わず噴き出した恭介が男を振り返り微笑むと、男も口角を上げ笑う。

「可愛いなぁ・・・」

「橘?」

肩を掴まれボソリと囁かれた男の声に、六歳の少年がびくりと小さく肩を跳ねさせた。

男はと言うと思わず口からこぼれ出てしまった熱っぽい感情にギクリとして表情を隠し、繕うようにぎこちなく笑い極力優しい声色で囁いた。

「貴方は、笑顔の方がいい」

「・・・っうん」

そっぽを向いたままの少年の耳が気まずさに赤く染る。

単純に嬉しかった。

この男にだけは期待されている。

居場所がある。

背を撫でられる気恥しさにじっとうずくまったまま目を閉じると、急激に眠気が押し寄せてきた。
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