72 / 89
拾肆
第72話
しおりを挟む
昔、組の古株にとても良くしてくれる男が一人いた。
仕事仕事で家を空けがちだった父親と違い、一週間に一度は遊び相手になってくれて、クリスマスや誕生日にはプレゼントを持ってやってくる男だった。
「おや、恭介坊ちゃん?眠れないんですか?」
「・・・橘」
「おいで」
昔は父親が心配するほどの泣き虫で、部屋を真っ暗にすると眠れないような怖がりだった。
小学校では家のせいで勝手に偏見を持たれ、弱虫で童顔だった恭介はクラスでも孤立しずっと独りだった。
母親が病気がちになり自由に甘えられなくなると、その寂しさと心細さが爆発して、一週間に一回はこの男の眠る部屋へ枕を抱えて出掛けたものだった。
「橘、俺・・・」
「怖い夢?」
男に背を向けて同じ布団に潜り込み、小さく頷く。
ただでさえ大きな体躯の男が横たわる布団は既に窮屈で、そこに六歳の少年が入り込むと掛け布団が盛り上がってこんもりと二つの大小の山が出来上がる。
「・・・父さんが、「お前は弱すぎる」って。伊武会の皆も、俺は頼りないんだって思ってるに決まってる。俺、良い所一つもない・・・嫌われてるんだ」
狭い布団で橘の腹にぴったりとくっついた恭介の小さな背中が身じろぎ、悲しげに鼻をすする。
「・・・そんなことないですよ、坊ちゃん。俺は坊ちゃんが大好きですから。俺だけは味方です」
男の分厚い手が少年の肩をさすり、耳の下辺りまで伸びた柔らかな黒髪を撫でる。
「・・・ぷっ、あはは!橘、俺の髪好きだねー」
髪を梳く大きく硬い手に思わず噴き出した恭介が男を振り返り微笑むと、男も口角を上げ笑う。
「可愛いなぁ・・・」
「橘?」
肩を掴まれボソリと囁かれた男の声に、六歳の少年がびくりと小さく肩を跳ねさせた。
男はと言うと思わず口からこぼれ出てしまった熱っぽい感情にギクリとして表情を隠し、繕うようにぎこちなく笑い極力優しい声色で囁いた。
「貴方は、笑顔の方がいい」
「・・・っうん」
そっぽを向いたままの少年の耳が気まずさに赤く染る。
単純に嬉しかった。
この男にだけは期待されている。
居場所がある。
背を撫でられる気恥しさにじっと蹲ったまま目を閉じると、急激に眠気が押し寄せてきた。
仕事仕事で家を空けがちだった父親と違い、一週間に一度は遊び相手になってくれて、クリスマスや誕生日にはプレゼントを持ってやってくる男だった。
「おや、恭介坊ちゃん?眠れないんですか?」
「・・・橘」
「おいで」
昔は父親が心配するほどの泣き虫で、部屋を真っ暗にすると眠れないような怖がりだった。
小学校では家のせいで勝手に偏見を持たれ、弱虫で童顔だった恭介はクラスでも孤立しずっと独りだった。
母親が病気がちになり自由に甘えられなくなると、その寂しさと心細さが爆発して、一週間に一回はこの男の眠る部屋へ枕を抱えて出掛けたものだった。
「橘、俺・・・」
「怖い夢?」
男に背を向けて同じ布団に潜り込み、小さく頷く。
ただでさえ大きな体躯の男が横たわる布団は既に窮屈で、そこに六歳の少年が入り込むと掛け布団が盛り上がってこんもりと二つの大小の山が出来上がる。
「・・・父さんが、「お前は弱すぎる」って。伊武会の皆も、俺は頼りないんだって思ってるに決まってる。俺、良い所一つもない・・・嫌われてるんだ」
狭い布団で橘の腹にぴったりとくっついた恭介の小さな背中が身じろぎ、悲しげに鼻をすする。
「・・・そんなことないですよ、坊ちゃん。俺は坊ちゃんが大好きですから。俺だけは味方です」
男の分厚い手が少年の肩をさすり、耳の下辺りまで伸びた柔らかな黒髪を撫でる。
「・・・ぷっ、あはは!橘、俺の髪好きだねー」
髪を梳く大きく硬い手に思わず噴き出した恭介が男を振り返り微笑むと、男も口角を上げ笑う。
「可愛いなぁ・・・」
「橘?」
肩を掴まれボソリと囁かれた男の声に、六歳の少年がびくりと小さく肩を跳ねさせた。
男はと言うと思わず口からこぼれ出てしまった熱っぽい感情にギクリとして表情を隠し、繕うようにぎこちなく笑い極力優しい声色で囁いた。
「貴方は、笑顔の方がいい」
「・・・っうん」
そっぽを向いたままの少年の耳が気まずさに赤く染る。
単純に嬉しかった。
この男にだけは期待されている。
居場所がある。
背を撫でられる気恥しさにじっと蹲ったまま目を閉じると、急激に眠気が押し寄せてきた。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
【変態医師×ヤクザ】高飛びしたニューヨークで出会いからメスイキ調教までノンストップで行われるえげつない行為
ハヤイもち
BL
外国人医師(美人系変態紳士)×ヤクザ(童顔だがひげを生やして眉間のシワで強面作っている)
あらすじ
高飛びしたヤクザが協力者である外国人医師に初めて会って、ハートフルぼっこで騙されて、ペットになる話。
無理やり、ひどいことはしない(暴力はなし)。快楽堕ち。
受け:名前 マサ
ヤクザ。組でへまをやらかして高飛びした。強面、顰め面。常に眉間にしわを寄せている。ひげ。25歳。
攻め:名前 リンク
サイコパス。ペットを探している。産婦人科医。紳士的で美しい見た目をしている。35歳。変態。
※隠語、モロ語。
※♡喘ぎ入ります。
※メスイキ、調教、潮吹き。
※攻めが受けをペット扱いしています。
上記が苦手な方、嫌悪感抱く方は回れ右でお願いします。
苦情は受け付けませんので、自己責任で閲覧お願いします。
そしてこちらpixivで投稿した作品になります。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16692560
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕はオモチャ
ha-na-ko
BL
◆R-18 エロしかありません。
苦手な方、お逃げください。
18歳未満の方は絶対に読まないでください。
僕には二人兄がいる。
一番上は雅春(まさはる)。
賢くて、聡明で、堅実家。
僕の憧れ。
二番目の兄は昴(すばる)。
スポーツマンで、曲がったことが大嫌い。正義感も強くて
僕の大好きな人。
そんな二人に囲まれて育った僕は、
結局平凡なただの人。
だったはずなのに……。
※青少年に対する性的虐待表現などが含まれます。
その行為を推奨するものでは一切ございません。
※こちらの作品、わたくしのただの妄想のはけ口です。
……ので稚拙な文章で表現も上手くありません。
話も辻褄が合わなかったり誤字脱字もあるかもしれません。
苦情などは一切お受けいたしませんのでご了承ください。
痴漢輪姦されたDKの末路
佐々羅サラ
BL
ある日タケルは、学校へ向かう電車内で男に痴漢されてしまう。
その時は逃げることが出来たが、後日その男と共に現れた男達に集団で囲われ、逃げられなくなってしまった。
そしてタケルはそのまま集団に輪姦され……。
その日から地獄の日々が始まった。
複数攻め×不憫受け。
受けがかなり可哀想な目に合ってます。
不定期更新。
第1章は完結しています。
番外編1は攻め視点です。ほぼエロ無し。
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる