とける。

おかだ。

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拾参

第66話

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「チッ・・・誰だよこんな時にっ」

静かにドアに近付いた橘が体を密着させて小さな覗き穴の先を注視する。

雑居ビルと言っても使われているのは橘と陽真が居るこの小さな一室のみで、その他の部屋はどこも使われていないはずだった。

「なんだぁ?酔っ払いか?」

小さく男がボヤくうちにも、ドア越しの謎の男は気だるげに俯いたままインターホンを鳴らし続ける。

上下灰色のスーツに黒のフード付きロングコート。
背格好からして比較的若い男だろう。

顔を確認しようにも、俯いた男はフードを目深に被っていて頭をすっぽりと覆っている。

「・・・悠太、真逆お前サツ呼んだりしてねぇだろうな」

「っそんな事する訳!」

乱れた服を直していた陽真が慌てて否定する。

元々一ヶ月を期限に借金返済のため陽真はここに居るのだ。
通報するつもりならもっと早くしているだろうし、何よりもスマホは橘が取り上げていたので通報のしようがないはずだ。

ここを知っているのは陽真と橘、そして伊武のみだ。

万が一に備えてポケットに忍ばせていたメリケンサックを指にはめる。

「・・・・っくそ」

[「あれ、居ないのかなー」]

警戒して出渋っていた橘の耳にふと外の男の声が届く。
分厚い玄関扉とはいえ、橘が扉に密着する様に様子を伺っていたので男のボヤく声も微かにだが聞こえたのだ。

覗き穴越しにスーツ姿の男が顔を上げる。

「・・・・・ッ」

切れ長の目にセンターで分けられたやわらかそうなアッシュブロンド。
ライトブルーの澄んだ瞳が覗き穴越しに橘をじっと見つめていた。

ドア越しのくぐもった声は、あの頃何度もこの手で抱いたお気に入りの少年の声だった。

[「・・・居るんでしょ?開けてよ」]

「っ善・・・」

驚きのあまりメリケンサックが手からすり抜け、地面に落ちる。

慌てて鍵を開けて青年を部屋に引き入れた。

「・・・久しぶり、橘さん。それともって呼んだ方がいい?」

抱きしめた青年の体は陽真よりも一回り小さいだろうか。

玄関にコートを脱ぎすてた青年が橘の太い首に腕を回してつま先立ちになると、じゃれつく様に口付けをする。
初めは触れるだけのキスだったのが、男が青年の背を掻き抱き唇を割って舌をねじ込むと、橘を見上げる青年の瞳がとろんと熱を帯びる。

男に応えるように青年の唇が相手の唇を食み、背を抱いていた男の手がスルスルと腰におりてゆく。

「はっふ、・・・ハハ、がっつきすぎ。息続かないって」

「善・・・っ、善っ」

「ふふ・・・。あの日、突然消えちゃったんだもん。俺、折角アンタに用意してたのに」

銀色の糸をひいて橘が青年の唇から名残惜しそうに離れ、冷たい微笑を浮かべた善が口元を拭った。

「サプライズ?」

「もういいんだ。こうして今日会えたから」

上等そうなスーツを着た善は昔と比べ大人びて見えたが、と余り変わらない小柄な体格に橘が喉を鳴らす。

「そうか。積もる話もあるだろう?奥においで」

橘が青年の腰に手を回す。

「・・・奥、誰かいるの?」

突き当たりの大きな部屋にはリビング。
手前の扉の空いた部屋からはベッドが覗く。

リビングには橘が履くには不釣り合いな脱ぎ捨てられたスニーカーが一足、机には如何わしい拘束具や二,三人分のデリバリーのゴミが散乱していた。

善が散らかった部屋を冷静に見渡し、橘を通り過ぎ寝室に足を踏み入れる。

「・・・あっ、」

「・・・?」

ベッドには少し大きいダボッとした学ランを着た赤髪の少年が座り込んでいた。
体のあちこちには拘束されていたのか、青アザが目立つ。

勿論善は陽真と面識がある為、知らないわけがない。

短く横に首を振った善を見た陽真が、開きかけた口を閉じる。

「・・・新しいペット?今度はこんな所でガキ囲ってたんだ」

「あはは、ずっと目をつけてたガキでね。そこそこ可愛いだろ?若が譲ってくれたんだ」

ジャケットの前を開け、ネクタイを寛げた善がピタリと動きを止める。

「・・・へぇ。恭介さんが?なんで?」

「なんでって。へへ、お前もなんだろ?」

善の膝に伸びた橘の掌がいやらしくスラックスの上を這う。

ベッドフレームに両腕を繋がれた陽真の隣に善が押し倒され、横たわる二人を橘が満足気に見下ろす。
特に善に向けられる熱い視線は誰が見ても明らかなほどあからさまで、欲望に満ちた気色の悪いものだった。

、って?」

ベストのボタンを外し終えた善が両腕を枕元に上げ、誘う様に微笑む。

「っ、煽るじゃないか。昔はあんなに嫌がっていたのに」

「・・・だよ」

ベッドのスプリングがギシギシと軋み、シーツが擦れる。

善の薄いワイシャツのボタンを外そうと橘が大きな体を窮屈そうにかがめ、青年の首筋をねっとりと舌で愛撫しながらシャツのボタンに手を掛ける。

「へへっ、待ってろ?コイツの後に、またお前をかわいがってやるからな・・・」

唖然と二人を見つめる陽真とニヤついた橘の視線が合い、その直後大きな音が鼓膜を揺らした。
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