とける。

おかだ。

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拾弐

第60話

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繁華街での件から、善と木下は気まずい関係になっていた。

集会などで伊武の屋敷に集まった際、廊下ですれ違った善に挨拶をしようと視線を金髪の青年に向けた木下だったが、見事に無視されてしまったのだ。

善は移り気な性格ではあるが、部下の挨拶を無視するような男ではなかった。
木下が一番知っていることだ。

それだけでは無い。
会話も必要最低限になり、二人きりになるのを避けているようでもあった。

「・・・あの、お兄ちゃん」

「・・・ん?」

慌てて木下が物陰へ隠れる。
気まずさからか、咄嗟に隠れてしまった自分に舌打ちをして、視線の先に集中して聞き耳を立てる。

「わたし、クッキー取りたいの」

「・・・?」

言っている意味がわからないと言わんばかりに善が眉間に眉を寄せ首を傾げる。

少女の指差す善の背後にはアクリルケースに入った数種類のクッキーが置かれている。
どれも自分で好きな量をとる量り売りだ。

「ああ、これ欲しいの?」

モジモジと下を向いたまま頷いた少女に、善の表情がふっと綻ぶ。

「・・・俺のオススメ知りたい?」

「うん!」

子供用のステップ台を持ってきた善が少女を台の上に乗せ、少女と共にアクリルケースをのぞき込む。

物陰からその様子を見守っていた木下が、長いまつ毛を伏せて無邪気に笑う善の姿にほうっとため息を漏らした。

「チョコと苺のフレーバーが美味いよ。プレーンもいいけど──」

「・・・お兄ちゃん?その人、友達?」

「あー、どうかな」

少女に向けられていた無邪気な笑みが急速に冷えていく。
少女はと言うと、木下の厳つい見た目に脅えて善の片脚にしがみついて隠れていた。

「・・・っ善さんお話が」

「・・・なに?」
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