とける。

おかだ。

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第47話

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「お前の父親、殺したの俺なんだ・・・」

「・・・・・は、?」

陽真が何かの間違いだろうと喜島を見上げるが、喜島は静かに陽真を見下ろしていた。

冗談を言っている顔ではない。

「・・・なに、言って?だって父さんは・・・」

喜島が引きつった表情の陽真の頬を撫で、乾きかけた涙を拭う。

「・・・お前があの場にいなくて良かった」

「どういうこと?父さんは自殺、そうでしょ?俺はっ遺書だって読んだ・・・!警察も自殺だって!」

陽真が捲し立てると、じっと少年を見つめたままだった喜島が口を開いた。

「・・・・あの日、あのアパートには俺とお前の父親、そしてもう一人男がいた」

「っ・・・」

「お前をだった・・・」

低く小さな声で吐き捨てる様に呟いた喜島が、自身の指先に視線を落とした。

❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋

『陽真さん、今日がだ。覚えてるよね?・・・子供は?そろそろ肝をすえろよ』

スキンヘッドの男が舐め回すような気色の悪い目付きでアパート内を見回す。

『っあと一ヶ月!あと一ヶ月待ってくれ!そしたら金が用意できるっ!悠太の事は勘弁してくれっ』

喜島がボロボロのアパートの玄関に腰を下ろし、退屈そうにタバコを咥える。
 
呆れたものだ。
十六年もの間返す事が出来なかった借金を、今更数ヶ月で返すことが出来るわけが無いのに。

どんなやつだか知らないが目の前で泣き崩れる男の子供に心底同情した。

『チッ・・・、おい喜島ァ!』

『はい』

床にタバコを押し付けて立ち上がると、辺りを見回す。
最小限の家具しか置かれていないこの部屋に、十五歳の子供が隠れる事が出来る場所は限られるだろう。

備え付けの玄関の靴箱。
小さなシャワー室。
押し入れ。
ベランダ。

『・・・ここにはいませんね』

『っ息子はなんだ!今いる訳が無い!』

父親が喜島にそう叫ぶと、スキンヘッドの男がげらげらと笑い出す。

『金もねぇのにどうやって息子が学校に通うんだよバーカ!』

『・・・・は、?』

『テメェの親が借金で火の車なんだ。・・・健気な息子だよな?態々わざわざ行けなかった高校の制服を買って父親の目を誤魔化して、日中は親の借金を少しでも減らす為に知らない男に尻振ってるんだからよぉ』

部屋がシンと静まり返る。

『橘サン、あんたか。・・・勝手な事するなってオヤジも──』

喜島おまえは黙ってろッ!これは俺の仕事だ!金融事業いぶきファイナンスは俺が任されてる。いちいちオヤジを出してくるんじゃねぇよ』

太く短い指が喜島の尻を撫でる。

前々からこのスキンヘッド男、橘と喜島は反りが合わなかった。
それはそうだろう。橘にとって喜島は、若頭補佐でも組の一員ですらない。自分が手に入れ損ねた唯一のコレクションなのだから。

、お前は運良くオヤジに救われただけなんだ。とお前は違う。陽真コイツの息子の様になりたくなければ黙ってろ』

『・・・・』

悠太の父親とふと目が合う。
困惑している視線は喜島の背後に向けられ、それに気付いた橘が下卑た笑い声を上げた。

『陽真、喜島コイツが気になるんだろ?』

『えっ・・・』

ギュッと尻臀を摘まれ小さく顔を顰めると、男が面白そうにそれを笑った。

『気になるそうだ。自分の身分を教えてやれよ』

『・・・・親は借金を作って消えた』

『え?』

『コイツの親にも俺が金を貸していたって訳だ。陽真アンタと違って喜島コイツの親は聞き分けが良くてな。子供きじまを差し出せば借金をチャラにしてやるって言ったら一瞬で納得したよ。それなのに───』

憎々しげに橘が声を震わせる。

『それなのにッ、急にあの日、オヤジが『お前の仕事ぶりを見たい』なんて言ってきやがった!俺が甚振いたぶって、抱き潰してやる筈だったガキが・・・ッ!若頭補佐だって?!俺がその席に座るはずだったッ!俺より上の立場に行きやがってっ』

伊武に引き取られた初めは、橘が何故自分に異常な執着をするのか理解できなかったが、他の組員から事情を聞いて事実を知った時は両親がしそうな事だと納得した。

『だからお前の教育係をオヤジから頼まれた時はうれしかった。お前が一人前になる前に俺が潰してやる』

『・・・・』
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