とける。

おかだ。

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第44話

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「あの時刺されてたのか・・・」

善が間の抜けた声で呟いた。

「なっ?!なんだそれ!アンタは自分の破壊力をもっと自覚した方がいい・・・!!」

「・・・っは、なにそれ」

掴みどころのないくすんだ瞳孔が木下を捉え、きゅっと吊った善の目尻が細まった。

「昨夜はわるかった。真逆で死にかけるなんてな!・・・この話、もう終わりでいいだろ?な!」

口元は木下を揶揄うような笑みを浮かべており、いつも接している感情が希薄な善と比べると幾許いくばくか幼く見える。

善の無邪気な表情に一瞬安堵した木下だったが、深いため息をついて眉間に皺を寄せる。

「木下?」

このまま流されればいつもの善のペースに持っていかれてしまう。

「・・・この俺が、どれほどアンタの事心配したと思ってんですか?!ッ目の前でぶっ倒れて、呼吸は荒い!心臓が痛いとか言うし!───っ!」

焦れた木下が善の手首を掴むと、善の肩がビクリと震え、予想外の反応に釣られて木下も動揺する。

「っぁ!すいません・・・ッでも、ほら。まだ、怯えてる」

「・・・は、ぁ??なにが」

視線を逸らし唇を甘く噛む善の仕草を木下が指摘する。

極度のストレスや恐れで善が見せる唯一のストレスサインだ。そしてそれは木下だけが知っていた。

「っ俺の前では強がらなくていいんですよ、善さん。・・・本当は昨夜、怖かったんでしょう?」

「っちがう・・・」

「違わない。恐れてる」

「ッしつこい!・・・お前、ムカつく」

木下の手を振りほどき、息を整える。

白い肌が赤く染まり、動揺が目立つ。



「・・・気になってるんでしょう、あの後どうされたのか」

「ぇ?」

「・・・・はぁ。やっぱり。俺は、何もしてませんから」

善の瞳が木下を見つめる。

「善さんがそう言うの、嫌いなのは知ってるから・・・。辛そうだったけど、、・・・触ってません。信じてもらえるか分かりませんけど。ッ勿論他の二人アイツらにはこの事は言ってないので安心してください」

「・・・・・・・ぁ、あ、うぁ」

カッと顔が熱くなる。

いつものように軽く受け流して誤魔化したいのに、体が固まってしまって動かない。

受け流せるわけがなかった。

「あっ、わっすみません!俺、誤解して欲しくなくて・・・!!」

はっと我に返った木下が、善の握りしめた拳にぽたぽたと涙が落ちていることに気づき顔面蒼白になる。

背けた顔は木下からは見えない。

「・・・っすみません。気持ち悪いですよね。俺が一番善さんの事理解してるはずなのにこんな事」

「・・・・」

木下の座っていた丸椅子が軋み、善がピクリと反応する。

背後で木下が囁いた「ゆっくり休んで下さい」の声が善の耳に届いた頃には病室の扉は閉まっており、点滴のぽたぽたと落ちる音だけが聞こえていた。

「っ・・・?、??」
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