とける。

おかだ。

文字の大きさ
上 下
33 / 89

第33話

しおりを挟む
夜の繁華街。
客引きや喧嘩、媚びるような声が鼓膜に張り付く。

「・・・なんだ、凪咲なぎささんね。今日こそは喜島さんが来てくれると思ってたのにぃ」

ランジェリー姿の女が頬をふくらませてタバコをふかす男の隣の席に腰を下ろした。

「凪咲って呼ぶなよ。・・・響きが嫌いだ」

ピンク色のネオン輝く『フローリア』は伊武会が繁華街に抱えるファッションヘルス店の一つで、若頭補佐の喜島も視察や売上確認の為最近までよく通っていた。

店長から事務室で売上の説明を受けていた凪咲善なぎさぜんは喜島の部下の一人であり、屋敷から出ることの出来ない喜島の代わりにここ一帯の伊武会が保有する店舗を回っていた。

「ねぇ、最近喜島さんは?善さんの上司なんでしょ?少し前までよく来てくれたじゃない」

「・・・あの人は来ねぇなぁ。弟の子守りが大変なんでね」

酒を煽り、体にまとわりつく女を善が鬱陶しそうに宥める。

喜島は若く聡明でいて男前だと店の女の子達から人気があり、厄介な客が来た際に助けて貰ってから女性のファンが多く着くようにもなったらしい。

義弟に好かれて屋敷から出られないほどだ。軟禁しようとするのは理解できないが、惹かれる魅力があるのは善にも納得できる。

「子守り~?何それ?」

「はぁ・・・俺は金の回収に来てんの!あんたに構う暇はっ・・・と・・・そういやアンタの客、待合室で爪切って待ってたぞ。店長が知ったら・・・それこそ喜島さんに失望されるかもな~」

ふふふっと切れ長の目を細めて不敵に笑ってチラリと女を見る。

「あ!いけない!」

思い出したとばかりに慌てて事務室から出ていく女を見送って、タバコを灰皿に押付けた。

「さて、そろそろ帰るか」

現金を受け取りクラッチバッグに突っ込むと、受付に立っている店員に軽く挨拶を済ませ店を出た。

夜になり店に活気がでて来ると、悪質な客引きも目立つ。

「おにーさん!そこのおにーさん!めっちゃかっこいいね~!おにーさんみたいにかっこいい人がどうしてこんな所歩いてるの~?あっ!もしかして彼女と別れたとか?」

「・・・なんで?関係ないだろ」

ジロジロと善の体を上から下まで品定めした客引きの男がニヤッと顔をゆがめて笑った。

「その反応、当たりでしょ!今日は気晴らし?俺いい子知ってるよ~?連れてってあげるよ!おいで!」

「おいっ!」

グッと手首を掴まれて善が不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
クラッチバッグが手からすり落ち地面に落ちると、慌てて客引きの男がそれを拾い上げた。

男の眉がピクリと動く。

「・・・すげぇ。・・・・あ、カバン返します!ねね、うちの店来てくださいよ~!うちソープなんですけど、特別に指名料無料でいいですから~」

「悪いけど、これ俺の金じゃないから」

「え?」

客引きの背後に視線を向けた善を追うように振り返り、男が息を飲んだ。

「ウチの善さんになんか用か?」

「ひっ」

「善さん、遅いと思ったら!何絡まれてんすか」

「いや、ここで俺が抵抗してコイツ殴りでもしちゃダメだろ。騒ぎになるし、会に迷惑がかかるからな」

全てを理解した客引きの男が居竦むのを善が鼻で笑いタバコを咥えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

処理中です...