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陸
第33話
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夜の繁華街。
客引きや喧嘩、媚びるような声が鼓膜に張り付く。
「・・・なんだ、凪咲さんね。今日こそは喜島さんが来てくれると思ってたのにぃ」
ランジェリー姿の女が頬をふくらませてタバコをふかす男の隣の席に腰を下ろした。
「凪咲って呼ぶなよ。・・・響きが嫌いだ」
ピンク色のネオン輝く『フローリア』は伊武会が繁華街に抱えるファッションヘルス店の一つで、若頭補佐の喜島も視察や売上確認の為最近までよく通っていた。
店長から事務室で売上の説明を受けていた凪咲善は喜島の部下の一人であり、屋敷から出ることの出来ない喜島の代わりにここ一帯の伊武会が保有する店舗を回っていた。
「ねぇ、最近喜島さんは?善さんの上司なんでしょ?少し前までよく来てくれたじゃない」
「・・・あの人は来ねぇなぁ。弟の子守りが大変なんでね」
酒を煽り、体にまとわりつく女を善が鬱陶しそうに宥める。
喜島は若く聡明でいて男前だと店の女の子達から人気があり、厄介な客が来た際に助けて貰ってから女性のファンが多く着くようにもなったらしい。
義弟に好かれて屋敷から出られないほどだ。軟禁しようとするのは理解できないが、惹かれる魅力があるのは善にも納得できる。
「子守り~?何それ?」
「はぁ・・・俺は金の回収に来てんの!あんたに構う暇はっ・・・と・・・そういやアンタの客、待合室で爪切って待ってたぞ。店長が知ったら・・・それこそ喜島さんに失望されるかもな~」
ふふふっと切れ長の目を細めて不敵に笑ってチラリと女を見る。
「あ!いけない!」
思い出したとばかりに慌てて事務室から出ていく女を見送って、タバコを灰皿に押付けた。
「さて、そろそろ帰るか」
現金を受け取りクラッチバッグに突っ込むと、受付に立っている店員に軽く挨拶を済ませ店を出た。
夜になり店に活気がでて来ると、悪質な客引きも目立つ。
「おにーさん!そこのおにーさん!めっちゃかっこいいね~!おにーさんみたいにかっこいい人がどうしてこんな所歩いてるの~?あっ!もしかして彼女と別れたとか?」
「・・・なんで?関係ないだろ」
ジロジロと善の体を上から下まで品定めした客引きの男がニヤッと顔をゆがめて笑った。
「その反応、当たりでしょ!今日は気晴らし?俺いい子知ってるよ~?連れてってあげるよ!おいで!」
「おいっ!」
グッと手首を掴まれて善が不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
クラッチバッグが手からすり落ち地面に落ちると、慌てて客引きの男がそれを拾い上げた。
男の眉がピクリと動く。
「・・・すげぇ。・・・・あ、カバン返します!ねね、うちの店来てくださいよ~!うちソープなんですけど、特別に指名料無料でいいですから~」
「悪いけど、これ俺の金じゃないから」
「え?」
客引きの背後に視線を向けた善を追うように振り返り、男が息を飲んだ。
「ウチの善さんになんか用か?」
「ひっ」
「善さん、遅いと思ったら!何絡まれてんすか」
「いや、ここで俺が抵抗してコイツ殴りでもしちゃダメだろ。騒ぎになるし、会に迷惑がかかるからな」
全てを理解した客引きの男が居竦むのを善が鼻で笑いタバコを咥えた。
客引きや喧嘩、媚びるような声が鼓膜に張り付く。
「・・・なんだ、凪咲さんね。今日こそは喜島さんが来てくれると思ってたのにぃ」
ランジェリー姿の女が頬をふくらませてタバコをふかす男の隣の席に腰を下ろした。
「凪咲って呼ぶなよ。・・・響きが嫌いだ」
ピンク色のネオン輝く『フローリア』は伊武会が繁華街に抱えるファッションヘルス店の一つで、若頭補佐の喜島も視察や売上確認の為最近までよく通っていた。
店長から事務室で売上の説明を受けていた凪咲善は喜島の部下の一人であり、屋敷から出ることの出来ない喜島の代わりにここ一帯の伊武会が保有する店舗を回っていた。
「ねぇ、最近喜島さんは?善さんの上司なんでしょ?少し前までよく来てくれたじゃない」
「・・・あの人は来ねぇなぁ。弟の子守りが大変なんでね」
酒を煽り、体にまとわりつく女を善が鬱陶しそうに宥める。
喜島は若く聡明でいて男前だと店の女の子達から人気があり、厄介な客が来た際に助けて貰ってから女性のファンが多く着くようにもなったらしい。
義弟に好かれて屋敷から出られないほどだ。軟禁しようとするのは理解できないが、惹かれる魅力があるのは善にも納得できる。
「子守り~?何それ?」
「はぁ・・・俺は金の回収に来てんの!あんたに構う暇はっ・・・と・・・そういやアンタの客、待合室で爪切って待ってたぞ。店長が知ったら・・・それこそ喜島さんに失望されるかもな~」
ふふふっと切れ長の目を細めて不敵に笑ってチラリと女を見る。
「あ!いけない!」
思い出したとばかりに慌てて事務室から出ていく女を見送って、タバコを灰皿に押付けた。
「さて、そろそろ帰るか」
現金を受け取りクラッチバッグに突っ込むと、受付に立っている店員に軽く挨拶を済ませ店を出た。
夜になり店に活気がでて来ると、悪質な客引きも目立つ。
「おにーさん!そこのおにーさん!めっちゃかっこいいね~!おにーさんみたいにかっこいい人がどうしてこんな所歩いてるの~?あっ!もしかして彼女と別れたとか?」
「・・・なんで?関係ないだろ」
ジロジロと善の体を上から下まで品定めした客引きの男がニヤッと顔をゆがめて笑った。
「その反応、当たりでしょ!今日は気晴らし?俺いい子知ってるよ~?連れてってあげるよ!おいで!」
「おいっ!」
グッと手首を掴まれて善が不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
クラッチバッグが手からすり落ち地面に落ちると、慌てて客引きの男がそれを拾い上げた。
男の眉がピクリと動く。
「・・・すげぇ。・・・・あ、カバン返します!ねね、うちの店来てくださいよ~!うちソープなんですけど、特別に指名料無料でいいですから~」
「悪いけど、これ俺の金じゃないから」
「え?」
客引きの背後に視線を向けた善を追うように振り返り、男が息を飲んだ。
「ウチの善さんになんか用か?」
「ひっ」
「善さん、遅いと思ったら!何絡まれてんすか」
「いや、ここで俺が抵抗してコイツ殴りでもしちゃダメだろ。騒ぎになるし、会に迷惑がかかるからな」
全てを理解した客引きの男が居竦むのを善が鼻で笑いタバコを咥えた。
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