とける。

おかだ。

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第30話

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「ただいま・・・」

玄関の引き戸を開けて家の中に入る。いつもは大勢で出迎えをしてくるのに、庭に人一人いないどころか普段ならもうとっくに起きているはずの家主である聡一郎も喜島も見当たらない。

「──ッん、─・・・ぁ"、あッ・・─ぐ、クソッ──ぁっ、ぅ~、──はッは、ぁ」

喜島の部屋の前で足を止めた恭介が唾を飲み込んだ。この声は喜島の声だ。

喜島が悪夢でうなされることはよくあり、今回もそうだと思ったが、どこか様子が違う。苦しそうに喘ぐ声に、腹の底を掻き乱されるような色気が混じる。

「・・・・ッ(え?、え)」

その場にへたりこんでズキズキと痛む股間を押さえる。

あがる息を必死に殺して室内の音に耳をすますと、喜島の苦しそうに喘ぐ声と一緒にグチュグチュといやらしい水音が聞こえてくる。

「(これって、兄さん一人で・・・)」

頭が勝手に喜島の乱れる姿を想像し、股間を押さえていた手を上下に緩く動かす。

腰がカクカクと情けなく揺れるのも今は気にならなかった。

「ンッ、──はっ、はっ、ぅ・・・あっ!く、ぅ・・・!!」

「ッぁ・・・、ぅ!(っ兄さん!兄さん兄さん!)」

くぐもった声と濡れた音にウットリと耳を傾けて自身の性器を激しく上下に扱く。

恭介の声と水音は喜島の自慰の音にちょうどかき消され、喜島が果てるのとほぼ同時に恭介も体を震わせて掌の中に欲を吐き出した。

茫然と掌を見つめ、罪悪感でいっぱいになる。

とりあえずその場から立ち去ろうと中の様子を伺うと、シンと静まり返った室内から喜島のすすり泣く声が聞こえ、恭介の肩が小さく跳ねた。

「ッぅう"・・・なんで、だよ、変わった、のに・・・変わった筈、なのにッ!」

今まで聞いた事もない喜島の弱気な声に、恭介が静かに息を飲む。「いやだ、いやだ」と何度も幼い子供のように繰り返し静かに泣いている。

詳しくは教えて貰えなかったが、喜島は幼い頃複雑な環境で育ったと聞いていた。この家に来てから続いている悪夢も今回の自慰での事も、ソレと関係しているのだろうか。

布団が畳と擦れる音がしてすすり泣く声が小さくなり消えていくのを確認すると、恭介が腰を上げて静かにその場をあとにした。
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