とける。

おかだ。

文字の大きさ
上 下
29 / 89

第29話

しおりを挟む
喜島芥がここへ来たばかりの頃をよく覚えている。

伊武聡一郎の一人息子である伊武恭介は中学にちょうど上がる時期で、一年前、十一歳の頃に母親が亡くなったのもあり人に心を開かなくなってしまっていた。

「恭介、これが今日からお前の兄さんになる喜島芥だ。仲良くしなさい」

「・・・は?」

「芥、俺の息子の恭介だ」

「は?!誰だよこいつ。ちゃんと説明しろよ」

一年前に母が死んだばかりなのに、''呆れた''どこかで女でも囲っていたのか?

幾つだろう。相手の男の方が年が上だから、女を囲っていたとしたら母よりも長い付き合いかもしれない。

「恭介、落ち着け」

「・・・コイツがアンタの息子?アンタと違ってギャーギャー騒いで、まだガキだな」

冷たく恭介を見下ろした瞳が、軽蔑でもするかのように細まる。

喜島のストレートな言い様に恭介が怒るのも忘れて呆気に取られ、その隣で聡一郎が大爆笑した。

「まだガキで頼りないやつだが、いつか俺のあとを継ぐ。お前にはその補佐をして欲しいと思ってる。面倒を見てやってくれ」

「・・・そうか。名前聞いても?」

「伊武恭介。さっきの聞いてなかった訳?ポンコツロボットみたいだな」

悔しくなって口から出た悪口に、少し後悔する。何故なら一瞬喜島の表情が悲しそうに見えたから。

「よろしくな恭介」

向けられた喜島のぎこちない微笑に、恭介は何も言えなくなり、ただ頷くことしか出来なかった。

❋❋❋❋❋❋❋

はじめての高校登校日。隣に座る女子はどこかよそよそしくて、こちらを見ようともしない。

彼女だけでなく、クラス中が恭介を腫れ物のように扱い、友達を作るどころかクラス中から浮いていた。

「(まあ、こうなるよな)」

正直こうなる事はわかっていたし、友達を作る気もなかった。 教師も生徒も''ヤクザの息子''としか思っていないのだから、友達を作る必要は無い。

窓際の一番後ろの席で机につっ伏す。こうすると喧騒から遮断されるからだ。

窓から漏れる風が髪を揺らした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...