とける。

おかだ。

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第20話

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「ねぇ、悠太君。あの日、"喜島"とはどこに行ってたの?展覧会の後、どこに?」

「・・・」

陽真が涙をぽろぽろ流しながら力なく首を横に振る。

「はぁ、私達は伊武恭介の尻尾を早く握りたいの!それには君の証言がいる。貴方と行動を共にしていた喜島芥!彼は伊武恭介を叩くのに重要な人物なの。教えて頂戴」

「おい、落ち着け。悠太君、ごめんね。俺達も悪い奴らを捕まえるのに必死なんだ、分かるだろ?」

口調が厳しくなっていく女刑事を、隣に座っていた男の刑事が止めた。
向かい側の椅子に腰掛けた陽真がふと顔を上げる。

「・・・カイ??」

「え?」

「喜島、カイって言うんだ。下の名前」

「え、えぇ。喜島芥、伊武会に突然現れて今では若頭である伊武恭介の補佐。貴方と貴方のお父さんを苦しめた人なのよ?」

「カイ・・・カイってどういう漢字書くの?おれ、あんまり学校行けなくて漢字分からないけど、知りたい」

女がめんどくさそうに顔を顰めた。
ラチのあかない問答にイライラが見え隠れし始める。

「こう書くんだよ」

「へぇ!芥・・・喜島、芥」

女の隣に座っていた男が、自分のメモ帳から紙を一枚ちぎってそこに書いて見せた。
嬉しそうに微笑んだ陽真が大切そうに紙を拾い上げた。

「・・・随分嬉しそうだね」

「──喜島は突然現れたんじゃない。だったんだよ」

「え?」

「刑事さん、俺にとって暖かい人はなんです。・・・これ以上俺から大切なもの奪わないで」

悲しげな力なのない笑顔だった。

ヤクザが悪いのはろくに学校に通えていない陽真にだって理解出来る。ましてや闇金だなんて陽真は間近で悲惨な現実を見てきた。
それを捕まえようとしてくれてる警察を、悪者扱いするのはどう考えてもお門違いだ。

「・・・刑事さん、もう今日は帰って下さい。孫も、疲れているようなので」

隣で黙って聞いていた祖父が、陽真の肩を優しく抱いて、そう言った。

陽真と女の刑事が驚いた様に顔を上げる。

「だってお爺さん!「うちの孫がヤクザに攫われた」って大騒ぎで私たちを呼んだじゃない!辛くても聞き出さないと!」

「すみませんが、帰って下さい」

祖父の語気が強まる。

「・・・では、また来ます」

去っていく車を呆然と見送る。

「喜島。捕まっちゃうのかな、俺のせいで」

携帯とその他は刑事達に持っていかれてしまった。証拠として大勢に見られるのだろうか。汚いと思われてしまうのが嫌だ。恥ずかしい。気持ち悪い。嫌だ嫌だ。



「喜島に嫌われちゃうな」

ぽつりと呟いた言葉につられて涙がこぼれた。何よりも嫌だ。嫌われたくなかった。
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