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参
第19話
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チュンチュンと雀の鳴き声が陽真の鼓膜を心地よく揺らす。
扇風機の風に煽られてゆるく風鈴が揺れると、チリンチリンと高い音が鳴った。
「んっ、・・・」
布団から気だるげに起き上がって、腰の違和感に顔を顰める。
「あっ」
喜島の体温や、感触。
そうだ。昨日は喜島と一緒にお出かけをして、初めての事ばかりでとても楽しくて、それで──
「・・・喜島?どこ??」
立ち上がると、ずんっと内蔵に響くような痛みが走った。力の入らない足を持ち上げて、よろよろと部屋を出ていく。
時折浴衣の裾を足で踏んずけて転びそうになりながら階段を慎重に降りていく。ここが二階と言う事は、自室ではなく客室に寝ていた事になる。
「あ、・・・おれ、いつの間に浴衣に着替えたんだろ」
ぽつりと呟いた何気ない一言でサッと血の気が失せた。
この浴衣はここの民宿で貸し出しているものだ。真逆喜島が借りてきて着替えをさせるなんてことは無いだろう。
じゃあ、それじゃあ誰が?
ガラガラと大きな音を立てて立て付けの悪い引き戸が開いた。陽真の部屋だ。
「っ、じいちゃん」
陽真の部屋から出てきた祖父が、孫のいつもより悲しげな笑顔を見て苦しそうに顔を背けた。
「ご、かいなんだ・・・。これは、、えっと」
「・・・何がだい。喜島ってやつの事か?それとも今までお前がさせられていた事?・・・まずは、掛衿を治しなさい」
祖父に言われて自分の胸元を見る。
「っ・・・ごめんなさい」
乱れた浴衣の胸元から覗く陽真の肌が、桜の花を散らしたように所々薄赤く染まっていた。
左胸の飾りを執拗に噛んだ痕があり、そこがジクジクと甘く傷んだ。
「っごめんなさいおれっ!じいちゃんにまで知られたくなくて・・・迷惑かけてごめんなさい、ごめんなさい許して下さい。なんでもするからここに置いて下さい」
「謝るな。可哀想に、謝らなくていい。こんなに可愛い孫をどこかにやるわけが無い。私こそ、気付いてやれなくてすまなかった・・・ごめんな、悠太」
自分の体をギュッと抱きしめた少し小さな曲がった背中と白髪混じりの頭を陽真が驚いた顔で見つめた。
「・・・じいちゃ??」
「お前の部屋の引き出しに入っていた携帯。あそこからじーぴーえす?アプリが出てきたって刑事さんが言ってたぞ。壊れたSDカードとCDも刑事さんが持っていった」
「っえ??」
部屋を見るとまだ数人のスーツ姿の男女がダンボールになにか詰めていた。若い女の刑事と目が合い、女が同情の目で陽真を見つめ、お辞儀をした。
ダメだ。あそこには──
「・・・だ、やだっ!返して下さいッ、あれはっ・・・見られたくない。返してッ!!」
ダンボールを持ち上げて運び出そうとしていた男の刑事にすがりつく。
引き出しに閉まってあった携帯は、男達が陽真を呼び出す為に与えていた携帯だ。
陽真が呼び出しに渋った時に、行為中の動画や写真を送ってきて脅していた。SDカードやCDも、嫌がらせだろう。ここに引っ越すまで誕生日に毎年送られてきていたハメ撮り動画や写真だ。
父親が死んだ時は、携帯は自分でポケットの中に持っていたし、SDカードやCDは隠していたから何とか見つからずにすんだのに。
引越しの際に処分の方法がわからず、ここに持ってきたくなかったがしょうがなく鍵付きの引き出しにしまっていた。
しかし、その引き出しは鍵なんて付けられていなかったように開いていた。
「貴方が陽真悠太くん?大丈夫。落ち着いて。私達は貴方を苦しめた奴らを逮捕して罰を受けてもらいたいだけなの!必ず逮捕してみせるから協力して欲しい。恥ずかしいだろうけど誰も悠太くんを責めたりしないわ。ね?」
陽真を宥めるように声を掛けてきたのは先程目が合った女の刑事だ。十八歳の少年がイヤイヤと首を横に振って駄々をこねる。
残りの若いスーツ姿の男が二人駆け寄ってきて、年配の刑事の足から陽真を引き剥がす。
「いやだッ!返して下さい!逮捕なんてどうでもいい、もうほっといてくれよ!!酷い!ひどいッ!!」
陽真がキッと睨み付けた女の刑事の顔が困った様に歪んだ。陽真を引き剥がした二人の男も困った様に首を振っている。
──酷い
そんなの自分が言う資格なんてない。
心配そうにこちらを見つめる祖父が、涙で濡れた視界に入った。
扇風機の風に煽られてゆるく風鈴が揺れると、チリンチリンと高い音が鳴った。
「んっ、・・・」
布団から気だるげに起き上がって、腰の違和感に顔を顰める。
「あっ」
喜島の体温や、感触。
そうだ。昨日は喜島と一緒にお出かけをして、初めての事ばかりでとても楽しくて、それで──
「・・・喜島?どこ??」
立ち上がると、ずんっと内蔵に響くような痛みが走った。力の入らない足を持ち上げて、よろよろと部屋を出ていく。
時折浴衣の裾を足で踏んずけて転びそうになりながら階段を慎重に降りていく。ここが二階と言う事は、自室ではなく客室に寝ていた事になる。
「あ、・・・おれ、いつの間に浴衣に着替えたんだろ」
ぽつりと呟いた何気ない一言でサッと血の気が失せた。
この浴衣はここの民宿で貸し出しているものだ。真逆喜島が借りてきて着替えをさせるなんてことは無いだろう。
じゃあ、それじゃあ誰が?
ガラガラと大きな音を立てて立て付けの悪い引き戸が開いた。陽真の部屋だ。
「っ、じいちゃん」
陽真の部屋から出てきた祖父が、孫のいつもより悲しげな笑顔を見て苦しそうに顔を背けた。
「ご、かいなんだ・・・。これは、、えっと」
「・・・何がだい。喜島ってやつの事か?それとも今までお前がさせられていた事?・・・まずは、掛衿を治しなさい」
祖父に言われて自分の胸元を見る。
「っ・・・ごめんなさい」
乱れた浴衣の胸元から覗く陽真の肌が、桜の花を散らしたように所々薄赤く染まっていた。
左胸の飾りを執拗に噛んだ痕があり、そこがジクジクと甘く傷んだ。
「っごめんなさいおれっ!じいちゃんにまで知られたくなくて・・・迷惑かけてごめんなさい、ごめんなさい許して下さい。なんでもするからここに置いて下さい」
「謝るな。可哀想に、謝らなくていい。こんなに可愛い孫をどこかにやるわけが無い。私こそ、気付いてやれなくてすまなかった・・・ごめんな、悠太」
自分の体をギュッと抱きしめた少し小さな曲がった背中と白髪混じりの頭を陽真が驚いた顔で見つめた。
「・・・じいちゃ??」
「お前の部屋の引き出しに入っていた携帯。あそこからじーぴーえす?アプリが出てきたって刑事さんが言ってたぞ。壊れたSDカードとCDも刑事さんが持っていった」
「っえ??」
部屋を見るとまだ数人のスーツ姿の男女がダンボールになにか詰めていた。若い女の刑事と目が合い、女が同情の目で陽真を見つめ、お辞儀をした。
ダメだ。あそこには──
「・・・だ、やだっ!返して下さいッ、あれはっ・・・見られたくない。返してッ!!」
ダンボールを持ち上げて運び出そうとしていた男の刑事にすがりつく。
引き出しに閉まってあった携帯は、男達が陽真を呼び出す為に与えていた携帯だ。
陽真が呼び出しに渋った時に、行為中の動画や写真を送ってきて脅していた。SDカードやCDも、嫌がらせだろう。ここに引っ越すまで誕生日に毎年送られてきていたハメ撮り動画や写真だ。
父親が死んだ時は、携帯は自分でポケットの中に持っていたし、SDカードやCDは隠していたから何とか見つからずにすんだのに。
引越しの際に処分の方法がわからず、ここに持ってきたくなかったがしょうがなく鍵付きの引き出しにしまっていた。
しかし、その引き出しは鍵なんて付けられていなかったように開いていた。
「貴方が陽真悠太くん?大丈夫。落ち着いて。私達は貴方を苦しめた奴らを逮捕して罰を受けてもらいたいだけなの!必ず逮捕してみせるから協力して欲しい。恥ずかしいだろうけど誰も悠太くんを責めたりしないわ。ね?」
陽真を宥めるように声を掛けてきたのは先程目が合った女の刑事だ。十八歳の少年がイヤイヤと首を横に振って駄々をこねる。
残りの若いスーツ姿の男が二人駆け寄ってきて、年配の刑事の足から陽真を引き剥がす。
「いやだッ!返して下さい!逮捕なんてどうでもいい、もうほっといてくれよ!!酷い!ひどいッ!!」
陽真がキッと睨み付けた女の刑事の顔が困った様に歪んだ。陽真を引き剥がした二人の男も困った様に首を振っている。
──酷い
そんなの自分が言う資格なんてない。
心配そうにこちらを見つめる祖父が、涙で濡れた視界に入った。
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