とける。

おかだ。

文字の大きさ
上 下
13 / 89

第13話

しおりを挟む
ワーワーと騒ぐ音で目を覚ました。

寝すぎたのか瞼が重い。

目を擦らぼやけた視界で当たりを見渡すと、テレビからは再放送らしい夜のバラエティ番組が映っていた。

「・・・きじま」

小さい声で呟いてもう一度辺りを見渡す。

──カタッ

広縁の方からだ。

見ると障子が閉まっていて、陽の光で照らされた喜島の姿が影になって白い障子に写っていた。

足を組んでなにか電話をしているらしい。
あのへラリとした性格の喜島が真剣に話をしている。

「俺も、起きないと」

体を起こして立ちあがり、小さなローテーブルに置いてあった直刀を手に持った。

数時間前の情けない自分の姿を思い出してカァッと頬が熱くなる。

時計を確認すると昼の二時。
とっくに昼食の時間が終わっている。

「しまった、昼飯の手伝い!」

いつもは陽真がこの民宿の料理の手伝いや配膳を任されていたが、寝過ごしてしまったらしい。

電話をしている喜島を一瞥してから足早に部屋を出た。

階段を駆け下りると祖父がフロントから陽真の姿を見つけて驚いた顔をしていた。

「ごめん、じいちゃん。寝ちゃってて昼食の手伝いが・・・」

「部屋に起こしに行っても居ない。外に出かけたとばかり思ってたよ。なんだ、喜島さんと絵の話で盛り上がったのか?」

優しく笑う祖父にギクリとする。

「っ、そうじゃなッ・・・」

「いやぁ、そうなんですよ!今度私と街に行って展覧会を見に行く約束をしたんです」

「ッは、ぇ?」

慌てていつの間にか背後に立っていた喜島を振り返る。尾てい骨当たりをスリスリと撫でられる感覚。

「今朝、約束したよね」

「けさ・・・(ぁ、)」

陽真の腰をいやらしく撫でる喜島の手で察した。それと同時に、ストンと混乱していた気持ちが落ち着いた。

そうだ。これも仕事なんだから。

「ご主人、悠太君をお借りしても?」

陽真の体を抱き寄せた喜島が、人当たりのよさそうな笑顔を浮かべる。
陽真は知っている。悪い大人がいい大人の皮を被ってる時の顔だ。

「孫が良ければ、私は別に構いませんよ」

何も知らない祖父が台帳をめくりながら頷いた。

「それでは私がこの宿を出る一週間後にしましょう。悠太、それでいいね?」

「っうん・・・」

フロントに立つ祖父から見えないのをいい事に、喜島の手つきが陽真の反応を面白がるように少しずつ大胆になっていく。

穏やかな笑顔で陽真を見つめる喜島を、陽真が縋りつくように見つめ返す。

左手で何とか喜島の腕を祖父に見られないよう、後ろ手に止めようとするがビクともしない。

「ッ俺!じいちゃんの手伝いしないとッ!」

突き放すように喜島の腕を振り払って祖父に助けを求める。

「今日のお客さんは喜島さんだけなんだから、大丈夫。散歩がてらこのあたりの案内でもしてあげなさい」

「わぁ、良いですねぇ。私こう見えて長閑のどかな場所好きなんですよ」

やっとの事で出したSOSに気づいて貰えず、陽真がフルフルと体を震わす。このままじゃここで───

撫でられるだけの軽いものだと最初は止めるのを諦めていたが、何故だかその手の動きに誘われる様に無意識のうちに腰が揺れる。気持ちいいの波が思考を侵食していく。

「ッぁ、ぅ・・・ッ!!」

ぴくんと小さく体が跳ねてヘナヘナと地面に座り込む。

ああ、真逆──

「ぁー、あと少しでイけたのに、なぁ?」

陽真の腕を持ち上げて、喜島が面白そうに呟いた。
悪い大人の顔だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

処理中です...