とける。

おかだ。

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第10話

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「・・・あの人」

久しぶりに寝汗びっしょりで目が覚めた。

追ってきたんだ。

セックスをするためならまだいい。でも万が一、回収しきれなかった借金を直接回収しに来たのだとしたら・・・。

「じいちゃんごめんなさっ、ぉ俺・・・」

恐怖で体がガタガタ震えた。

快く自分を受け入れてくれた祖父までが、これから父に変わって苦しめられる事になるに違いない。

自分だって今度こそ殺されるかも。売られるかもしれないし───

たったの二年と少し。ちょっと前に戻るだけ。なんてことは無い。ちょっと痛くでも、目を瞑って、未来の事を考えるんだ。

「未来って、なんだよ・・・俺、いつまで」

グッと堪えていた目から自然と涙があふれる。

泣いちゃダメだ。
この場所と祖父を守らなければ。

涙を拭って頬を叩く。

机の上に散らかっていた彫刻刀を手に取った。
美術に興味を持った陽真の為に、基本だけでなく十四本セットのものを祖父が買ってくれたのだ。

闇金組織だかヤクザだか知らないが、相手が危険な事に違いない。もう十八だ。いくら人当たりが良さそうでも、見せかけだけの可能性だってある。

「ッ俺だって」

彫刻刀の直刀をズボンの尻ポケットに乱暴に突っ込む。刃渡り五センチ程はある。

もしも何かあった時はこれで──

あの男の泊まっている部屋は自室の真上だ。

昨日よりゆっくり階段を昇って、悟られないようにドアの前に立つ。

腕時計を見るとまだ朝四時半。祖父は後三十分でフロントに出てくるはずだ。

それまでに済まさないと。

──キィィ

戸を開けてドキリとする。
テレビの音が聞こえてくる。

「ッぁ、」

口をついて漏れた声に慌てて口を手で覆った。

「んッ、ぅ・・・」

「・・・(寝てる)」

寝苦しいのか、男のはだけた浴衣から覗く肌には汗の粒が沢山見える。何か小さな声でうわ言を言っていて夢でも見ているらしかったが、表情とうわ言からしてあまりいい夢では無さそうだ。

「き、じま・・・。喜島・・・、下の名前なんて言うんだろ」

男の寝顔を反対側の真上からぼうっと眺める。

「(あ、)」

左胸に大きな火傷跡がある。
皮膚の色が少し変色している程度だったが、形が何かようだった。
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