10 / 89
弐
第10話
しおりを挟む
「・・・あの人」
久しぶりに寝汗びっしょりで目が覚めた。
追ってきたんだ。
セックスをするためならまだいい。でも万が一、回収しきれなかった借金を直接回収しに来たのだとしたら・・・。
「じいちゃんごめんなさっ、ぉ俺・・・」
恐怖で体がガタガタ震えた。
快く自分を受け入れてくれた祖父までが、これから父に変わって苦しめられる事になるに違いない。
自分だって今度こそ殺されるかも。売られるかもしれないし───
たったの二年と少し。ちょっと前に戻るだけ。なんてことは無い。ちょっと痛くでも、目を瞑って、未来の事を考えるんだ。
「未来って、なんだよ・・・俺、いつまで」
グッと堪えていた目から自然と涙があふれる。
泣いちゃダメだ。
この場所と祖父を守らなければ。
涙を拭って頬を叩く。
机の上に散らかっていた彫刻刀を手に取った。
美術に興味を持った陽真の為に、基本だけでなく十四本セットのものを祖父が買ってくれたのだ。
闇金組織だかヤクザだか知らないが、相手が危険な事に違いない。もう十八だ。いくら人当たりが良さそうでも、見せかけだけの可能性だってある。
「ッ俺だって」
彫刻刀の直刀をズボンの尻ポケットに乱暴に突っ込む。刃渡り五センチ程はある。
もしも何かあった時はこれで──
あの男の泊まっている部屋は自室の真上だ。
昨日よりゆっくり階段を昇って、悟られないようにドアの前に立つ。
腕時計を見るとまだ朝四時半。祖父は後三十分でフロントに出てくるはずだ。
それまでに済まさないと。
──キィィ
戸を開けてドキリとする。
テレビの音が聞こえてくる。
「ッぁ、」
口をついて漏れた声に慌てて口を手で覆った。
「んッ、ぅ・・・」
「・・・(寝てる)」
寝苦しいのか、男のはだけた浴衣から覗く肌には汗の粒が沢山見える。何か小さな声でうわ言を言っていて夢でも見ているらしかったが、表情とうわ言からしてあまりいい夢では無さそうだ。
「き、じま・・・。喜島・・・、下の名前なんて言うんだろ」
男の寝顔を反対側の真上からぼうっと眺める。
「(あ、)」
左胸に大きな火傷跡がある。
皮膚の色が少し変色している程度だったが、形が何か工具のようなものを押し当てられたようだった。
久しぶりに寝汗びっしょりで目が覚めた。
追ってきたんだ。
セックスをするためならまだいい。でも万が一、回収しきれなかった借金を直接回収しに来たのだとしたら・・・。
「じいちゃんごめんなさっ、ぉ俺・・・」
恐怖で体がガタガタ震えた。
快く自分を受け入れてくれた祖父までが、これから父に変わって苦しめられる事になるに違いない。
自分だって今度こそ殺されるかも。売られるかもしれないし───
たったの二年と少し。ちょっと前に戻るだけ。なんてことは無い。ちょっと痛くでも、目を瞑って、未来の事を考えるんだ。
「未来って、なんだよ・・・俺、いつまで」
グッと堪えていた目から自然と涙があふれる。
泣いちゃダメだ。
この場所と祖父を守らなければ。
涙を拭って頬を叩く。
机の上に散らかっていた彫刻刀を手に取った。
美術に興味を持った陽真の為に、基本だけでなく十四本セットのものを祖父が買ってくれたのだ。
闇金組織だかヤクザだか知らないが、相手が危険な事に違いない。もう十八だ。いくら人当たりが良さそうでも、見せかけだけの可能性だってある。
「ッ俺だって」
彫刻刀の直刀をズボンの尻ポケットに乱暴に突っ込む。刃渡り五センチ程はある。
もしも何かあった時はこれで──
あの男の泊まっている部屋は自室の真上だ。
昨日よりゆっくり階段を昇って、悟られないようにドアの前に立つ。
腕時計を見るとまだ朝四時半。祖父は後三十分でフロントに出てくるはずだ。
それまでに済まさないと。
──キィィ
戸を開けてドキリとする。
テレビの音が聞こえてくる。
「ッぁ、」
口をついて漏れた声に慌てて口を手で覆った。
「んッ、ぅ・・・」
「・・・(寝てる)」
寝苦しいのか、男のはだけた浴衣から覗く肌には汗の粒が沢山見える。何か小さな声でうわ言を言っていて夢でも見ているらしかったが、表情とうわ言からしてあまりいい夢では無さそうだ。
「き、じま・・・。喜島・・・、下の名前なんて言うんだろ」
男の寝顔を反対側の真上からぼうっと眺める。
「(あ、)」
左胸に大きな火傷跡がある。
皮膚の色が少し変色している程度だったが、形が何か工具のようなものを押し当てられたようだった。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
インテリヤクザは子守りができない
タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。
冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。
なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる