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弐
第7話
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とある田舎の無人駅に、地図を握りしめて顰め面をする男が立っていた。
「どこだ?ここ・・・」
長時間の移動で寝込んでいたらここで降ろされたのだが、全く場所を把握出来ていなかった。
格好からは一見サラリーマンの様だが、夏用の
薄いワイシャツが男の背中の立派な鯉の刺青を透かしていた。
鬱陶しそうに前髪を掻き上げ、汗ばむ体を冷やそうと襟元を緩ませパタパタと動かす。
「とりあえず寝床探すか」
まだ昼間だったが、ここまで何も無い田舎だと夜の外出は何があるか分からない。夜になってから宿を探すよりは昼間のうちに確保しておくのが最良だろう。
スマホを取り出しマップ検索をかけると何とか一件だけ近所に宿屋を発見した。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋
「いやぁ!助かりました。道に迷ってどうしようかと」
ニコニコと人懐っこそうな笑顔を向けた男に老人がゆっくりと頷いた。
「ここらはあまり観光で来る人間はいないですからね。都会の人が怖いんでしょう」
車から荷物を下ろして玄関に入る。
主人である老人は小さな民宿だと言っていたが、想像以上に趣深い立派な佇まいに「すげぇな」と声が漏れた。
「ここには観光ですか?ええと、・・・」
「ああ、すみません。名前は喜島芥です。鬼じゃなくて歓喜の喜の方の喜島。芥は芥川龍之介の芥です」
天井に描かれた畳一畳ほどの鯉の絵に見とれながら喜島が上機嫌に話す。
「いえ、仕事の用事でしてね。上司に無理矢理・・・でもこの民宿に来れて良かったですよ。いいものが見れた」
度入りのサングラスを少しズラして天井を眺めては「凄い」また眺めては嬉しそうにニコニコ笑う。
「気に入って頂けてよかった。孫が描いたんですよ?凄いでしょう。絵を描くのが好きだと言うから天井板の張替えの際に試しに描かせたんです」
「お孫さんがいるんですか?プロの方が描いたのかと・・・凄いですね」
喜島の褒めちぎる姿に民宿の主人が嬉しそうに頷いた。
「孫ももうすぐ帰ってくると思うので部屋に挨拶させにきましょう。温泉もございますのでそれまでお部屋で寛いでいてください」
「どこだ?ここ・・・」
長時間の移動で寝込んでいたらここで降ろされたのだが、全く場所を把握出来ていなかった。
格好からは一見サラリーマンの様だが、夏用の
薄いワイシャツが男の背中の立派な鯉の刺青を透かしていた。
鬱陶しそうに前髪を掻き上げ、汗ばむ体を冷やそうと襟元を緩ませパタパタと動かす。
「とりあえず寝床探すか」
まだ昼間だったが、ここまで何も無い田舎だと夜の外出は何があるか分からない。夜になってから宿を探すよりは昼間のうちに確保しておくのが最良だろう。
スマホを取り出しマップ検索をかけると何とか一件だけ近所に宿屋を発見した。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋
「いやぁ!助かりました。道に迷ってどうしようかと」
ニコニコと人懐っこそうな笑顔を向けた男に老人がゆっくりと頷いた。
「ここらはあまり観光で来る人間はいないですからね。都会の人が怖いんでしょう」
車から荷物を下ろして玄関に入る。
主人である老人は小さな民宿だと言っていたが、想像以上に趣深い立派な佇まいに「すげぇな」と声が漏れた。
「ここには観光ですか?ええと、・・・」
「ああ、すみません。名前は喜島芥です。鬼じゃなくて歓喜の喜の方の喜島。芥は芥川龍之介の芥です」
天井に描かれた畳一畳ほどの鯉の絵に見とれながら喜島が上機嫌に話す。
「いえ、仕事の用事でしてね。上司に無理矢理・・・でもこの民宿に来れて良かったですよ。いいものが見れた」
度入りのサングラスを少しズラして天井を眺めては「凄い」また眺めては嬉しそうにニコニコ笑う。
「気に入って頂けてよかった。孫が描いたんですよ?凄いでしょう。絵を描くのが好きだと言うから天井板の張替えの際に試しに描かせたんです」
「お孫さんがいるんですか?プロの方が描いたのかと・・・凄いですね」
喜島の褒めちぎる姿に民宿の主人が嬉しそうに頷いた。
「孫ももうすぐ帰ってくると思うので部屋に挨拶させにきましょう。温泉もございますのでそれまでお部屋で寛いでいてください」
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