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1巻
1-3
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嫣然と微笑んだあの顔を思い出しただけで、嫌悪感が込み上げた。
(あの女、想像以上に厄介だ。後宮に荒波を立てるのではないか)
ため息を吐く翔偉。
先代の帝は、大変な好色だった。そのせいで後宮では、常に暗黙の女の闘いが繰り広げられていた。幼い頃から女たちの修羅場を見てきた翔偉は、後宮の存在そのものを嫌うようになった。
即位した際、後宮を廃止しようとしたが、近衛大将の孟史穀に反対された。
後宮に娘を送り、それを皇室が受け入れることによって、貴族と皇室は信頼関係を築き上げてきた。後宮をなくせば皇室は孤立し、内乱が起こりかねないとのこと。
一理あるため、後宮は形だけ留めることにした。
毎夜のように違う妃のもとを訪れても、誰とも通じていない。子を作ることもまた、諍いの火種となるからだ。
「主上、よろしいでしょうか」
戸の向こうから声がした。
入ってきたのは、赤髪をざっくりと結い上げた屈強な体躯の男――孟史穀である。
「いやあ、あの新入りの妃は面白いな。あからさまに苛立っているお前を相手に怯まず取り入ろうとするなど、見上げたものだ」
ハハハ、と豪傑な笑い声を響かせる史穀。
彼は家臣だが、従兄でもある。二歳しか違わず、兄弟のように育ったため、人目のないところでは無遠慮になる仲だった。
「まあ、俺たちの目の保養にはなったよ。我が国は貞淑を好む帝のせいで、妃たちの装いが枯草のようだからな。しかも相当な美人ときた」
含んだような笑みを浮かべている史穀は、翔偉をからかっているようだ。この男は、子供の頃から翔偉をからかって遊ぶのが好きなのだ。
翔偉は顔をしかめると、茘枝茶をぐいっと飲み干した。
史穀にからかわれるのは慣れているが、今回はやけに腹立たしい。
「欲しけりゃお前にくれてやる」
「またまた、お戯れを。家臣である俺が、帝のものに手を出せるわけがないだろう」
史穀のからかい口調は止まらない。
そんな史穀を、翔偉はぎろりと睨みつける。
「近衛大将が、戯言だけを言いにこんな時間にわざわざ来たのか?」
「ああ、そうだった。周各陵に主上との面会を取りなすよう頼まれてな。外で待たせているんだが、呼んでもいいか?」
「構わない」
史穀が手を叩くと、紺色の道袍に身を包んだ各陵が姿を現した。
癖のある茶色の髪を後ろで束ね、冠巾を被っている。邪念のない目つきのせいで若く見えるが、年は翔偉と変わらないはずだ。
「こ……皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
おずおずと挨拶をする各陵。
彼は先代である父の跡を継ぎ、宮廷道士になったばかりだ。
臆病な性格で、翔偉に会うたび、蛇に食われる前の鼠のように怯えている。
「俺は今機嫌が悪い。手短に話せ」
「はっ、はい……」
各陵が、びくびくしながら口を開いた。
「近頃、易経にて不吉な結果が続いており、ご報告に参りました」
翔偉は眉をひそめた。
「具体的にはいつからだ?」
「三日ほど前からです」
(李翠雨が皇宮に来た日だ。あの女が、宮中に不吉をもたらすということか?)
「心に留めておこう。もう下がれ」
「は、はい……」
各陵が房を出ていくなり、様子を見ていた史穀が話しかけてくる。
「近頃の皇宮の変化といえば、李翠雨だな。あの姫が、皇宮に波乱を起こすのかもしれないぞ」
史穀も同じことを考えていたらしい。
「面倒な女を招き入れてしまったようだ」
翔偉は今日何度目になるか分からないため息を吐いた。
他国の公主を娶った以上、殺すわけにも突き返すわけにもいかない。
翠雨の処遇について、頭の中で考えを巡らす。
「しばらくは様子を見よう。だがあの女の存在が害悪だと判断したら、古狸宮に居を移す」
史穀が目を見開き、声音を強めた。
「古狸宮だと? お前、正気か?」
「正気に決まっているだろう」
「古狸宮に追放された者がどうなるか、お前も知ってるだろ? 生殺しも同然じゃないか」
「生殺しにしたいからそうするんだ。殺すこともできないのだから、ほかに対処のしようがない」
翔偉は、双劉の目に残忍な光を宿した。
翔偉の母である雪永の父は、皇宮の厩で働く馬双だった。家は貧しく、父に届け物をしに来た雪永が帝に見初められたのは奇跡に等しかった。
後宮で母は、貴族出身の妃たちから爪はじきにされ、執拗にいびられた。翔偉が生まれてからも待遇は変わらず、寒風の吹きすさぶ掘っ立て小屋で、食事すらろくに与えられない毎日を過ごした。
そのため幼い翔偉は、食べられる草や木の実を求めて、しょっちゅう皇宮の外れにある草原をうろついていた。とりわけ気に入っていたのは、紫色の甘い草である。妃や女官から、まるで浮浪児のようだと嘲笑われたのは、一度や二度ではない。
当時の皇宮には、皇子と公主が大勢いた。そのため貧しい娘との間に戯れでできてしまった翔偉を、無慈悲な皇帝が気にかけることもなかった。
翔偉と母を率先して虐げていたのは、その頃後宮を牛耳っていた官吏長官の娘、敏である。
敏の毒花のような姿は、強い憎しみとともに、今も翔偉の脳裏に焼き付いている。敏のご機嫌取りよろしく、ほかの妃たちも翔偉と母をゴミのように扱った。
後宮に対する翔偉の嫌悪感は、この頃に生まれた。
翔偉が七歳になった年、都で疫病が流行った。
人間をあっという間に死に至らしめる恐ろしい病は皇宮でも猛威を振るい、大勢が死んだ。母もそのうちのひとりだ。そしてあろうことか、翔偉以外の皇子と公主は、全員亡くなってしまった。
翔偉が生き延びられたのは、日頃から食べていたあの紫色の甘い草のおかげだった。疫病の特効薬が開発されてから分かったことだが、あの草は、主原料となる薬草だったらしい。
疫病の後遺症で生殖機能を失った帝は、唯一の跡取りである翔偉を、人が変わったようにかわいがり始めた。
これに腹を立てたのが、子を失ったばかりの敏である。
そして妬みから、翔偉の食事に毒を盛った。
翔偉は一命をとりとめたものの、左目の視力を失った。左目は色素を失い、黒から銀色へと変化した。
激怒した帝は、唯一の跡取りを殺めようとした敏を、古狸宮送りにした。
以後、敏は翔偉の前から姿を消した。
三年の時を経て、翔偉はたまたま敏と出くわし、あまりの変化に衝撃を受ける。
大半が禿げ上がった真っ白な髪に、血走り落ちくぼんだ目、骸骨さながらに痩せ細った体。
山姥と見まがう醜い姿からは、かつての彼女は想像もできなかった。
焦点の合わない目で奇怪な笑い声を響かせ、出くわした翔偉を何者かも分かっていない様子。
敏は間もなくして狂い死んだ。
疫病で死んだ方が幸せだったと、皆が口を揃えて言った。
古狸宮とは、そういう場所である。
「だがあれほどの美人だ。惜しいと思わないのか?」
史穀が残念そうに言う。
「まったく思わない。あれのどこが美人だ? 性根の醜さが顔ににじみ出ていて、見るもおぞましい」
翠雨は、翔偉がもっとも嫌いなタイプの女だった。
そのうえ気の強そうな顔立ちは、どことなく敏を彷彿とさせる。
「お前にこれほど嫌われるなど、終わったな、あの姫様」
史穀が声に同情をにじませる。やがて史穀は適当に話を切り上げると、内殿から出ていった。
ひとりになった翔偉は、綿密な彫刻が施された格子戸から、月のない真っ黒な空を見上げる。
忌々しいことに、手を振り払った直後に見た翠雨の顔が、ずっと頭から離れない。
射るようなまなざしを向けてきた彼女の瞳には、惹きつけられるような何かがあった。
(……不覚だ)
一瞬とはいえ、あの毒婦に魅せられてしまった自分を、翔偉は心底恥じた。
❖
翠雨が後宮入りしてから、十日が過ぎた。
新月の宴での翠雨の振る舞いのせいか、翔偉はいまだ、翠雨の房を訪れていない。
どの妃のもとにも平等に訪れるという彼の、唯一の例外となったらしい。翠雨は密かに心躍らせていた。
相変わらず派手な色彩の襦裙をまとい、厚化粧も続けている。
嫁入り道具に艶やかな衣が多いのは、春栄国の帝が貞淑を好むという噂を知っていた姉たちの嫌がらせとしか思えない。おかげで装いには困らなかった。
「翠雨様、肩を出し過ぎです!」
翠雨の装いに、明明は今日もカリカリしていた。
「だから、わざと出しているのよ」
「いい加減目を覚ましてください! 陛下に嫌われて古狸宮に追放されたら、死んでしまうのですよ!」
げんなりと頭を抱える明明。
やたらと古狸宮に行きたがる翠雨に業を煮やし、最近はずっとこの調子である。
なんやかんやで面倒見のいい明明のことを、翠雨はいつしか好きになっていた。
「ふふ、心配してくれているの? 優しいのね」
翠雨が少女のようにカラカラと笑う。
明明が、毒気を抜かれたようにため息を吐いた。
「まったく、陛下好みの装いをなされば、桃蘭様のようにご寵愛を受けられる素材をお持ちなのに……」
ひっそりと嘆く明明の声は、今日も今日とて翠雨には届かない。
「明明、ところで散歩に行きたいのだけど、いいかしら?」
「かしこまりました。どこを散歩されますか? おすすめは、本宮の裏にある孔雀庭園でございます。芍薬や蘭が咲き誇る庭園に孔雀が放し飼いにされ、あまりの美しさからお妃様方にもっとも人気が――」
「そんなの興味ないわ」
明明の声を、翠雨はピシャリと遮る。
「古狸宮に行きましょう。早くに視察しておきたいの」
満面の笑みを浮かべれば、得意げだった明明の表情が凍りつく。
まったく乗り気でない明明を急き立て、翠雨は房を出た。
大広間では、妃たちが上品な笑い声を響かせながら双陸に興じていた。
翠雨が通りかかるなり、楽しげな雰囲気から一転して、ひそひそと耳打ちし合う妃たち。
「翠雨様よ、またあんな派手な恰好をして。よほど陛下のご寵愛を得たいみたいね、見苦しいわ」
「気の毒なことに、翠雨様だけ陛下のお渡りがまだなんですって。ご寵愛を得られるどころか嫌われるなんて、笑えるわよね」
クスクスという感じの悪い笑い声が響く。
翠雨の後ろを歩いている明明が、小さく嘆いた。
「ああ、生きた心地がしない……」
こんなふうに翠雨は、早くも後宮から爪はじきにされていた。
もはや、無視と陰口は日常茶飯事である。
もっとも、自ら好んで後宮の厄介者になろうとしている翠雨が、それを気に病むわけもなかったが。
皇宮の最奥にある北宮よりさらに奥にある、うっそうと生い茂る竹藪にたどり着く。
乱雑に伸びた竹が地面に影を落とし、華やかなほかの場所とは一線を画した、陰鬱な空気が漂っていた。
古狸宮は、この竹藪を抜けた先にあるらしい。
「翠雨様、待ってください……!」
足場の悪い道を躊躇なく進む翠雨を、明明が慌てて追いかける。
鈍色の空には、いつしか雲が垂れ込めていた。翠雨の鼻先が、ポツッと滴で濡れる。
「あら、雨が降ってきたみたいね」
翠雨が空を見上げたときのこと。
――グルルルル……!
地を這うような低い唸りが竹藪の奥から聞こえ、翠雨はハッと足を止めた。
明明が「きゃっ」と悲鳴を上げ、翠雨の袖にしがみつく。
「ああ、やっぱり! 霊獣の住処になっているんだわ!」
「霊獣?」
「はい。古狸宮で人が狂ったり死んだりするのは、霊獣のせいではないかという説があるんです。なんでも、九つの頭を持つ巨大な虎のような、見るも恐ろしい霊獣がいるのだとか」
明明がガタガタと震えながら言った。
人間にとって、霊獣とはそれほど恐ろしい存在なのだ。『悪さをしたら鼠翁山に捨てるぞ』という叱り文句は、子供をしつける際の常套句となっている。
「まあ、そうだったのね」
明明の話を聞いた翠雨がうっとりと言う。小雨の中で、「ふふっ」と笑う翠雨。
明明が、震えながらぎょっとした。
「なんで笑ってるんですか? 今の笑うところですか?」
「いいこと聞いちゃったから」
翠雨は歌うように答えると、踵を返した。
「さて、帰るわよ」
「え? 古狸宮まで散歩に行かなくてもいいのですか?」
「古狸宮の正体はだいたい分かったから、今日のところはもういいわ。こんなに怖がっているあなたを連れて行けないもの」
明明は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「それはつまり、私のために、古狸宮への散歩をあきらめるということですか?」
「ほかに何の理由があるのよ」
翠雨は当然のように答えると、北宮に向かってスタスタと歩き始める。
しばらくの間呆然とその後ろ姿を見つめていた明明だったが、やがて我に返ったように翠雨を追った。
「お待ちください、翠雨様……!」
そう叫んだ明明の横顔は、少しだけ照れくさそうだった。
散歩から戻ると、螢林が房にやってきた。
「翠雨様、またそんな恰好をして! ダメって言ったじゃないですか」
現れるなり、「めっ」というように翠雨を叱る螢林。
螢林は、宴の際に翔偉に色仕掛けで迫った翠雨を見て、自分がどうにかしないといけないという謎の使命感に駆られたらしい。あれ以来、日に一度は翠雨の様子を見に来るようになっていた。
「ごめんなさい、気づいたらこうなってしまうのです」
翠雨は、いつものように反省の色ひとつない笑顔を見せる。
螢林が、心配そうに眉を下げた。
「翠雨様。美しい襦裙を身に着けたいお気持ちは分かりますけど、ここでは厳禁です。くれぐれも陛下の目の届かないところで楽しまないと、古狸宮送りにされてしまいますわよ」
「ええ、ええ。分かっています」
どれだけ言っても装いを正さない翠雨を、めげずに教育しようとする螢林。世間知らずではあるが、悪い子ではないようだ。
「ところで、今度の演芸会では何を披露なさるのですか?」
他愛ない世間話をしたあとで、螢林が聞いてきた。
演芸会は後宮の定例行事で、妃たちが歌や楽器などの芸事を披露する。そして、もっとも皇帝を楽しませた者が、褒賞を貰えるらしい。
「まだ決めていませんわ。螢林様はお決めになられたのですか?」
「私は切り絵にしようと思っています。実は、子供の頃から得意でして」
螢林が胸を張った。
「本当は琵琶も得意なんですけど、桃蘭様の前では恥ずかしくて演奏できずにいるのです。桃蘭様の琵琶は、毎回褒賞をいただけるほどの、それは見事な腕前なのですよ。新月の宴の際、翠雨様もお聞きになられましたよね?」
「ええ、とても美しい音色でしたわ」
「ですよね! 私も桃蘭様の琵琶の大ファンなのです」
螢林が興奮気味に言い、茶杯に口をつけた。
茶杯を持つ螢林の中指に、黒と赤の糸を編んだものが結ばれている。翠雨はふと気にかかった。
「その糸はなんですか?」
「あ……これは〝詫び糸〟です」
「詫び糸?」
「我が家に伝わる、死者に許しを乞うまじないのようなものです。亡くなったお母様に、申し訳ないことをしてしまいましたので……」
螢林が、表情に影を落とす。
「先日の新月の宴の日に、櫃の中の衣がすべて水浸しになったというお話をしましたよね? そのうちのひとつが、病床のお母様が、命からがら私のために仕立てたものだったのです。絹でしたのであっという間に駄目になってしまって……。あの世でお母様がお怒りだと思い、こうして許しを乞うているのです」
翠雨はいたたまれない気持ちになった。
(いびりにしても度が過ぎるわ)
その衣には、死を覚悟した螢林の母の娘への思いが、精いっぱい込められていたのだろう。
死者の思いを踏みにじるとは許せない。
螢林をいびっている梅に対して、例えようのない怒りが湧く。
「螢林様が悪いわけではございません。悪いのはあくまでも、衣を水浸しにした者なのですから」
翠雨が真剣に言うと、螢林は一瞬だけ押し黙ったものの、すぐにかぶりを振った。
「……衣を水浸しにした者などいません。私の不注意が原因です」
あきらめたようなその顔を見て、翠雨は確信した。
螢林はおそらく、本当は梅の仕業だと気づいている。
それでも何も言わないのは、証言したところで、皆が尚書令の娘である梅の味方につくと分かっているからだろう。結果として騒いで翔偉の不興を買うのは、螢林になる。きっとこれまでも、梅が働いた多くの悪事が、なかったことにされてきたに違いない。
翠雨はますます梅を許せなくなった。
(あの女、想像以上に厄介だ。後宮に荒波を立てるのではないか)
ため息を吐く翔偉。
先代の帝は、大変な好色だった。そのせいで後宮では、常に暗黙の女の闘いが繰り広げられていた。幼い頃から女たちの修羅場を見てきた翔偉は、後宮の存在そのものを嫌うようになった。
即位した際、後宮を廃止しようとしたが、近衛大将の孟史穀に反対された。
後宮に娘を送り、それを皇室が受け入れることによって、貴族と皇室は信頼関係を築き上げてきた。後宮をなくせば皇室は孤立し、内乱が起こりかねないとのこと。
一理あるため、後宮は形だけ留めることにした。
毎夜のように違う妃のもとを訪れても、誰とも通じていない。子を作ることもまた、諍いの火種となるからだ。
「主上、よろしいでしょうか」
戸の向こうから声がした。
入ってきたのは、赤髪をざっくりと結い上げた屈強な体躯の男――孟史穀である。
「いやあ、あの新入りの妃は面白いな。あからさまに苛立っているお前を相手に怯まず取り入ろうとするなど、見上げたものだ」
ハハハ、と豪傑な笑い声を響かせる史穀。
彼は家臣だが、従兄でもある。二歳しか違わず、兄弟のように育ったため、人目のないところでは無遠慮になる仲だった。
「まあ、俺たちの目の保養にはなったよ。我が国は貞淑を好む帝のせいで、妃たちの装いが枯草のようだからな。しかも相当な美人ときた」
含んだような笑みを浮かべている史穀は、翔偉をからかっているようだ。この男は、子供の頃から翔偉をからかって遊ぶのが好きなのだ。
翔偉は顔をしかめると、茘枝茶をぐいっと飲み干した。
史穀にからかわれるのは慣れているが、今回はやけに腹立たしい。
「欲しけりゃお前にくれてやる」
「またまた、お戯れを。家臣である俺が、帝のものに手を出せるわけがないだろう」
史穀のからかい口調は止まらない。
そんな史穀を、翔偉はぎろりと睨みつける。
「近衛大将が、戯言だけを言いにこんな時間にわざわざ来たのか?」
「ああ、そうだった。周各陵に主上との面会を取りなすよう頼まれてな。外で待たせているんだが、呼んでもいいか?」
「構わない」
史穀が手を叩くと、紺色の道袍に身を包んだ各陵が姿を現した。
癖のある茶色の髪を後ろで束ね、冠巾を被っている。邪念のない目つきのせいで若く見えるが、年は翔偉と変わらないはずだ。
「こ……皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
おずおずと挨拶をする各陵。
彼は先代である父の跡を継ぎ、宮廷道士になったばかりだ。
臆病な性格で、翔偉に会うたび、蛇に食われる前の鼠のように怯えている。
「俺は今機嫌が悪い。手短に話せ」
「はっ、はい……」
各陵が、びくびくしながら口を開いた。
「近頃、易経にて不吉な結果が続いており、ご報告に参りました」
翔偉は眉をひそめた。
「具体的にはいつからだ?」
「三日ほど前からです」
(李翠雨が皇宮に来た日だ。あの女が、宮中に不吉をもたらすということか?)
「心に留めておこう。もう下がれ」
「は、はい……」
各陵が房を出ていくなり、様子を見ていた史穀が話しかけてくる。
「近頃の皇宮の変化といえば、李翠雨だな。あの姫が、皇宮に波乱を起こすのかもしれないぞ」
史穀も同じことを考えていたらしい。
「面倒な女を招き入れてしまったようだ」
翔偉は今日何度目になるか分からないため息を吐いた。
他国の公主を娶った以上、殺すわけにも突き返すわけにもいかない。
翠雨の処遇について、頭の中で考えを巡らす。
「しばらくは様子を見よう。だがあの女の存在が害悪だと判断したら、古狸宮に居を移す」
史穀が目を見開き、声音を強めた。
「古狸宮だと? お前、正気か?」
「正気に決まっているだろう」
「古狸宮に追放された者がどうなるか、お前も知ってるだろ? 生殺しも同然じゃないか」
「生殺しにしたいからそうするんだ。殺すこともできないのだから、ほかに対処のしようがない」
翔偉は、双劉の目に残忍な光を宿した。
翔偉の母である雪永の父は、皇宮の厩で働く馬双だった。家は貧しく、父に届け物をしに来た雪永が帝に見初められたのは奇跡に等しかった。
後宮で母は、貴族出身の妃たちから爪はじきにされ、執拗にいびられた。翔偉が生まれてからも待遇は変わらず、寒風の吹きすさぶ掘っ立て小屋で、食事すらろくに与えられない毎日を過ごした。
そのため幼い翔偉は、食べられる草や木の実を求めて、しょっちゅう皇宮の外れにある草原をうろついていた。とりわけ気に入っていたのは、紫色の甘い草である。妃や女官から、まるで浮浪児のようだと嘲笑われたのは、一度や二度ではない。
当時の皇宮には、皇子と公主が大勢いた。そのため貧しい娘との間に戯れでできてしまった翔偉を、無慈悲な皇帝が気にかけることもなかった。
翔偉と母を率先して虐げていたのは、その頃後宮を牛耳っていた官吏長官の娘、敏である。
敏の毒花のような姿は、強い憎しみとともに、今も翔偉の脳裏に焼き付いている。敏のご機嫌取りよろしく、ほかの妃たちも翔偉と母をゴミのように扱った。
後宮に対する翔偉の嫌悪感は、この頃に生まれた。
翔偉が七歳になった年、都で疫病が流行った。
人間をあっという間に死に至らしめる恐ろしい病は皇宮でも猛威を振るい、大勢が死んだ。母もそのうちのひとりだ。そしてあろうことか、翔偉以外の皇子と公主は、全員亡くなってしまった。
翔偉が生き延びられたのは、日頃から食べていたあの紫色の甘い草のおかげだった。疫病の特効薬が開発されてから分かったことだが、あの草は、主原料となる薬草だったらしい。
疫病の後遺症で生殖機能を失った帝は、唯一の跡取りである翔偉を、人が変わったようにかわいがり始めた。
これに腹を立てたのが、子を失ったばかりの敏である。
そして妬みから、翔偉の食事に毒を盛った。
翔偉は一命をとりとめたものの、左目の視力を失った。左目は色素を失い、黒から銀色へと変化した。
激怒した帝は、唯一の跡取りを殺めようとした敏を、古狸宮送りにした。
以後、敏は翔偉の前から姿を消した。
三年の時を経て、翔偉はたまたま敏と出くわし、あまりの変化に衝撃を受ける。
大半が禿げ上がった真っ白な髪に、血走り落ちくぼんだ目、骸骨さながらに痩せ細った体。
山姥と見まがう醜い姿からは、かつての彼女は想像もできなかった。
焦点の合わない目で奇怪な笑い声を響かせ、出くわした翔偉を何者かも分かっていない様子。
敏は間もなくして狂い死んだ。
疫病で死んだ方が幸せだったと、皆が口を揃えて言った。
古狸宮とは、そういう場所である。
「だがあれほどの美人だ。惜しいと思わないのか?」
史穀が残念そうに言う。
「まったく思わない。あれのどこが美人だ? 性根の醜さが顔ににじみ出ていて、見るもおぞましい」
翠雨は、翔偉がもっとも嫌いなタイプの女だった。
そのうえ気の強そうな顔立ちは、どことなく敏を彷彿とさせる。
「お前にこれほど嫌われるなど、終わったな、あの姫様」
史穀が声に同情をにじませる。やがて史穀は適当に話を切り上げると、内殿から出ていった。
ひとりになった翔偉は、綿密な彫刻が施された格子戸から、月のない真っ黒な空を見上げる。
忌々しいことに、手を振り払った直後に見た翠雨の顔が、ずっと頭から離れない。
射るようなまなざしを向けてきた彼女の瞳には、惹きつけられるような何かがあった。
(……不覚だ)
一瞬とはいえ、あの毒婦に魅せられてしまった自分を、翔偉は心底恥じた。
❖
翠雨が後宮入りしてから、十日が過ぎた。
新月の宴での翠雨の振る舞いのせいか、翔偉はいまだ、翠雨の房を訪れていない。
どの妃のもとにも平等に訪れるという彼の、唯一の例外となったらしい。翠雨は密かに心躍らせていた。
相変わらず派手な色彩の襦裙をまとい、厚化粧も続けている。
嫁入り道具に艶やかな衣が多いのは、春栄国の帝が貞淑を好むという噂を知っていた姉たちの嫌がらせとしか思えない。おかげで装いには困らなかった。
「翠雨様、肩を出し過ぎです!」
翠雨の装いに、明明は今日もカリカリしていた。
「だから、わざと出しているのよ」
「いい加減目を覚ましてください! 陛下に嫌われて古狸宮に追放されたら、死んでしまうのですよ!」
げんなりと頭を抱える明明。
やたらと古狸宮に行きたがる翠雨に業を煮やし、最近はずっとこの調子である。
なんやかんやで面倒見のいい明明のことを、翠雨はいつしか好きになっていた。
「ふふ、心配してくれているの? 優しいのね」
翠雨が少女のようにカラカラと笑う。
明明が、毒気を抜かれたようにため息を吐いた。
「まったく、陛下好みの装いをなされば、桃蘭様のようにご寵愛を受けられる素材をお持ちなのに……」
ひっそりと嘆く明明の声は、今日も今日とて翠雨には届かない。
「明明、ところで散歩に行きたいのだけど、いいかしら?」
「かしこまりました。どこを散歩されますか? おすすめは、本宮の裏にある孔雀庭園でございます。芍薬や蘭が咲き誇る庭園に孔雀が放し飼いにされ、あまりの美しさからお妃様方にもっとも人気が――」
「そんなの興味ないわ」
明明の声を、翠雨はピシャリと遮る。
「古狸宮に行きましょう。早くに視察しておきたいの」
満面の笑みを浮かべれば、得意げだった明明の表情が凍りつく。
まったく乗り気でない明明を急き立て、翠雨は房を出た。
大広間では、妃たちが上品な笑い声を響かせながら双陸に興じていた。
翠雨が通りかかるなり、楽しげな雰囲気から一転して、ひそひそと耳打ちし合う妃たち。
「翠雨様よ、またあんな派手な恰好をして。よほど陛下のご寵愛を得たいみたいね、見苦しいわ」
「気の毒なことに、翠雨様だけ陛下のお渡りがまだなんですって。ご寵愛を得られるどころか嫌われるなんて、笑えるわよね」
クスクスという感じの悪い笑い声が響く。
翠雨の後ろを歩いている明明が、小さく嘆いた。
「ああ、生きた心地がしない……」
こんなふうに翠雨は、早くも後宮から爪はじきにされていた。
もはや、無視と陰口は日常茶飯事である。
もっとも、自ら好んで後宮の厄介者になろうとしている翠雨が、それを気に病むわけもなかったが。
皇宮の最奥にある北宮よりさらに奥にある、うっそうと生い茂る竹藪にたどり着く。
乱雑に伸びた竹が地面に影を落とし、華やかなほかの場所とは一線を画した、陰鬱な空気が漂っていた。
古狸宮は、この竹藪を抜けた先にあるらしい。
「翠雨様、待ってください……!」
足場の悪い道を躊躇なく進む翠雨を、明明が慌てて追いかける。
鈍色の空には、いつしか雲が垂れ込めていた。翠雨の鼻先が、ポツッと滴で濡れる。
「あら、雨が降ってきたみたいね」
翠雨が空を見上げたときのこと。
――グルルルル……!
地を這うような低い唸りが竹藪の奥から聞こえ、翠雨はハッと足を止めた。
明明が「きゃっ」と悲鳴を上げ、翠雨の袖にしがみつく。
「ああ、やっぱり! 霊獣の住処になっているんだわ!」
「霊獣?」
「はい。古狸宮で人が狂ったり死んだりするのは、霊獣のせいではないかという説があるんです。なんでも、九つの頭を持つ巨大な虎のような、見るも恐ろしい霊獣がいるのだとか」
明明がガタガタと震えながら言った。
人間にとって、霊獣とはそれほど恐ろしい存在なのだ。『悪さをしたら鼠翁山に捨てるぞ』という叱り文句は、子供をしつける際の常套句となっている。
「まあ、そうだったのね」
明明の話を聞いた翠雨がうっとりと言う。小雨の中で、「ふふっ」と笑う翠雨。
明明が、震えながらぎょっとした。
「なんで笑ってるんですか? 今の笑うところですか?」
「いいこと聞いちゃったから」
翠雨は歌うように答えると、踵を返した。
「さて、帰るわよ」
「え? 古狸宮まで散歩に行かなくてもいいのですか?」
「古狸宮の正体はだいたい分かったから、今日のところはもういいわ。こんなに怖がっているあなたを連れて行けないもの」
明明は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「それはつまり、私のために、古狸宮への散歩をあきらめるということですか?」
「ほかに何の理由があるのよ」
翠雨は当然のように答えると、北宮に向かってスタスタと歩き始める。
しばらくの間呆然とその後ろ姿を見つめていた明明だったが、やがて我に返ったように翠雨を追った。
「お待ちください、翠雨様……!」
そう叫んだ明明の横顔は、少しだけ照れくさそうだった。
散歩から戻ると、螢林が房にやってきた。
「翠雨様、またそんな恰好をして! ダメって言ったじゃないですか」
現れるなり、「めっ」というように翠雨を叱る螢林。
螢林は、宴の際に翔偉に色仕掛けで迫った翠雨を見て、自分がどうにかしないといけないという謎の使命感に駆られたらしい。あれ以来、日に一度は翠雨の様子を見に来るようになっていた。
「ごめんなさい、気づいたらこうなってしまうのです」
翠雨は、いつものように反省の色ひとつない笑顔を見せる。
螢林が、心配そうに眉を下げた。
「翠雨様。美しい襦裙を身に着けたいお気持ちは分かりますけど、ここでは厳禁です。くれぐれも陛下の目の届かないところで楽しまないと、古狸宮送りにされてしまいますわよ」
「ええ、ええ。分かっています」
どれだけ言っても装いを正さない翠雨を、めげずに教育しようとする螢林。世間知らずではあるが、悪い子ではないようだ。
「ところで、今度の演芸会では何を披露なさるのですか?」
他愛ない世間話をしたあとで、螢林が聞いてきた。
演芸会は後宮の定例行事で、妃たちが歌や楽器などの芸事を披露する。そして、もっとも皇帝を楽しませた者が、褒賞を貰えるらしい。
「まだ決めていませんわ。螢林様はお決めになられたのですか?」
「私は切り絵にしようと思っています。実は、子供の頃から得意でして」
螢林が胸を張った。
「本当は琵琶も得意なんですけど、桃蘭様の前では恥ずかしくて演奏できずにいるのです。桃蘭様の琵琶は、毎回褒賞をいただけるほどの、それは見事な腕前なのですよ。新月の宴の際、翠雨様もお聞きになられましたよね?」
「ええ、とても美しい音色でしたわ」
「ですよね! 私も桃蘭様の琵琶の大ファンなのです」
螢林が興奮気味に言い、茶杯に口をつけた。
茶杯を持つ螢林の中指に、黒と赤の糸を編んだものが結ばれている。翠雨はふと気にかかった。
「その糸はなんですか?」
「あ……これは〝詫び糸〟です」
「詫び糸?」
「我が家に伝わる、死者に許しを乞うまじないのようなものです。亡くなったお母様に、申し訳ないことをしてしまいましたので……」
螢林が、表情に影を落とす。
「先日の新月の宴の日に、櫃の中の衣がすべて水浸しになったというお話をしましたよね? そのうちのひとつが、病床のお母様が、命からがら私のために仕立てたものだったのです。絹でしたのであっという間に駄目になってしまって……。あの世でお母様がお怒りだと思い、こうして許しを乞うているのです」
翠雨はいたたまれない気持ちになった。
(いびりにしても度が過ぎるわ)
その衣には、死を覚悟した螢林の母の娘への思いが、精いっぱい込められていたのだろう。
死者の思いを踏みにじるとは許せない。
螢林をいびっている梅に対して、例えようのない怒りが湧く。
「螢林様が悪いわけではございません。悪いのはあくまでも、衣を水浸しにした者なのですから」
翠雨が真剣に言うと、螢林は一瞬だけ押し黙ったものの、すぐにかぶりを振った。
「……衣を水浸しにした者などいません。私の不注意が原因です」
あきらめたようなその顔を見て、翠雨は確信した。
螢林はおそらく、本当は梅の仕業だと気づいている。
それでも何も言わないのは、証言したところで、皆が尚書令の娘である梅の味方につくと分かっているからだろう。結果として騒いで翔偉の不興を買うのは、螢林になる。きっとこれまでも、梅が働いた多くの悪事が、なかったことにされてきたに違いない。
翠雨はますます梅を許せなくなった。
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