クエスト・オブ・ザ・ライフ 〜最速攻略するなんて、ゲームの9割損してる〜

茅ヶ崎杏

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【愛する人の形見】

1-1:プロローグ

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 とある岩山の頂上。

 水色と白を基調とした淡い色のローブに身を包んだ少女が1人。
 吹きすさぶ風に、薄い紫のロングヘアが大きく靡く。
 左手に、ローブと同じように水色と白を基調としたロッドを握り、背に刀身の太い立派な剣を背負っている、特殊な装備をした少女。
 彼女は、10mはあろうかという巨大な鳥と対峙していた。
 どちらの頭上にも、それぞれの体力を示すバーが表示されている。
 お互いに今はまだ、1ミリも削られていない。

 それは、瞬きほどの出来事だった。

 巨大鳥の鋭い視線に見つめられながら、少女はおもむろに、手に持っていたロッドを身体の前に構えた。
 それを合図にしたのか、巨大鳥は嘴を大きく開き、炎を吐く。
 初手にしては強すぎるその攻撃に、少女は一切慌てることなく、口元で小さく詠唱する。


「〔アクア・バリア〕」


 薄い水の膜が、少女の長い毛先まで、漏らさず包み込むように覆う。
 水の膜は、巨大鳥が吐いた炎の息ではビクともしない。
 炎に包まれる膜の中で、少女は攻撃に転じた。


「〔ブラック・ボール〕」


 凛としたソプラノの声で、小さく詠唱された魔法。声に呼応するかのように、ロッドの先が控えめに紫色に光り、巨大鳥の頭上に大きな黒い玉が出現する。
 次の瞬間、その玉は破裂し、小さな無数の玉の雨となって、巨大鳥に襲いかかった。

 ──ギャアアアアア

 劈くような断末魔とともに、みるみるうちに巨大鳥の体力バーが削られていく。
 黒い玉の雨が全て降り終える頃には、体力バーには何の色も残っていなかった。
 地響きとともに、地面に倒れた巨大鳥。

 同時に、少女の周りで電子音が鳴り、顔の前に半透明のリザルト画面が現れた。
 巨大鳥を倒したことで得られる経験値やドロップアイテムの情報が流れるそれに、少女は静かに目を通す。

 その画面の奥。
 まるで砂が崩れさるように、巨大だった体は光の粒となり宙に消えていった。
 巨大鳥の体が跡形もなく消え去った後。
 少女1人が佇む岩山に、少女とは違う声がどこからともなく響いた。


「お疲れさま、カリン! やっとクリアだね!」


 突如現れたのは、手のひらサイズの女の子。
 その背中には4枚の透明な羽が生えていて、当たり前のように空中に浮いている。いわゆる、精霊。
 カリンと呼ばれた少女は、突然現れた精霊という存在に動じる様子もなく、近くの岩に腰かける。


「手間取ったみたいな言い方しないでよ。雑魚のくせに量が多すぎただけ。それよりなにより登山疲れた。もう帰る」


 言いながら、握っていた手を何も無い宙で広げる。
 現れたホーム画面から、迷いなく受注クエスト一覧を開くカリン。
 そんなカリンの周りを精霊はくるくると飛び回る。


「そりゃ、たくさん出てくるでしょ。これ、そもそもパーティ推奨のクエストなんだから」
「そんなことわかってるよ」
「カリンならソロでも問題ないと思ってたから止めなかったけどさぁ」
「止められても行くけど」
「ほんと、いつまでもこんなところで遊んでないで、攻略チームに合流すればいいのにー」
「クエスト無視して、ゲーム攻略するとかありえない」


 その返答に、精霊は小さな肩を大きく揺らし、ため息をついた。
 呆れたように離れていく精霊に目もくれず、カリンは目的のクエスト画面を開く。

 ──【愛する人の形見】クリア

 クリアを確認したカリンは、続けてアイテム画面から目的のアイテムをタップした。
 選択したアイテムが、シャボン玉のような膜に包まれた状態でカリンの目の前に現れ、ぷかぷかと浮く。
 カリンは宙に開いた画面を大きく手を下に振り下ろして閉じると、膜に覆われたアイテムに触れた。
 膜が弾け、アイテムが実物大になり、カリンの手の中に収まる。

 それは取っ手のついた小さなベル。
 名前を〝瞬間移動鈴テレポート・ベル〟という。
 読み方はかっこいいけど、表示名。安直すぎて初めの頃は笑ったものだ。
 だがそんな安直な名前の割に、国や町の名前を言ってこのベルを鳴らすと、その場所にワープできるというかなり便利なアイテム。
 それなりに高難易度なクエストで手に入れたもので、使用可能回数は無制限。しかもバインド属性付きと、超レアものだったりする。
 ちなみに、使用者に触れている最大2人までは一緒にワープ可能。ただし、精霊が1人に換算されるのかは謎だ。

 ベルを手にしたカリンは、少し離れた場所で岩山の頂上からの景色を眺めていたマイペースな精霊に声をかける。


「帰るよ、ノア」
「はーい!」


 水の精霊ノアが肩に座ったのを確認し、〝瞬間移動鈴テレポート・ベル〟を掲げる。


「〈クレアシオン〉」


 それは、全ての始まりの街の名前──。
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