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April
過激派親衛隊からのお呼び出し①
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「さてさて~。帰りましょうかねぇ~」
「あぁ……」
「なんだかあっという間だったねぇ~。あー、そういえばお土産買うの忘れてた~、最後に寄ってみよっかぁ。確か出入口のゲート付近にあったよねぇ?」
「……そうだな」
気のない返事をしながら、すっかり元に戻った澪の隣を歩く。
昼間は学園生でいっぱいだったテーマパーク内も、夕陽で赤く染った今は、人影がまばらになっていた。
来る時と同じく、帰る時間もペア毎に決められているわけだが、どうやら俺たちは遅い方らしい。
「ごめん~。ちょっとトイレ寄ってってもいい~?」
「あぁ」
「すぐ戻るから待っててね~」と駆けていく澪を見送って、近くのベンチに腰かける。
流石と言うべきか。世界的大女優の血を引いているだけはある。今の澪からは、観覧車の中にいた傷だらけの少年なんて、欠片も見えない。
誰にも言えない秘密を、分厚い鎧の下に完全に隠してしまっている。
俺の演技力では、あんなに綺麗に隠し切ることは出来ない。だから、いろんなところでボロを出して、周りに余計な心配をかけてしまっている。本当マジで情けない。
「すごいな、アイツは……」
「……あ、あの……」
突然声をかけられて、顔を上げる。
立っていたのは、辛うじて見覚えのある小柄な少年だった。
見覚えがあるということは、少なくとも新1年生ではない。恐らく2-Bなんじゃないかと思うけど、私服だから同級生かどうかすら分からない。
「えっと、何か用? ですか?」
「……あの、あ、あっちで、その……」
歯切れ悪く話す少年。
話の意図が見えないまま、彼が指差す先に視線を向けた。
そこは、建物と建物の間の細い通路。辺りが茜色に染まる中、そこだけは早くも薄暗い闇に包まれていて、何か殺気立ったものを感じた。
……なんて、見間違いか?
軽く首を捻りつつ、再度目の前に立つ少年を見上げてみる。
どちらかというと小柄な少年。そんな彼の体は小刻みに震えていて、明らかに何かに怯えていた。
それを見て、やっと合点がいった。
「……なるほどな」
まさか、学外でやるとは。
でもまぁ、こんなこと1年前にはよくあったことだ。しかも、路地裏に呼び出すだなんて、なんて典型的なパターン。
あまりにも王道で、呆れを通り越して笑ってしまいそうだ。
本来なら面倒だし無視したいところだが、そうしてしまうと目の前に立つ彼に矛先が向いてしまう。
こんなに怯えている人を見捨てるほど、まだ人として腐りたくは無いからな。
まぁ、何かあったとしても、正当防衛が成立する程度に軽く相手をして帰ればいいか。
そう考えた俺は、腰掛けていたベンチから立ち上がり、ぐっと伸びをした。
「あそこに行けばいいんすね?」
「……え、あ、はい……」
「りょーかい。行ってくるんで、貴方はもう帰ってください」
「へ? あ、いや、でも……」
帰れなんて言われるのは予想外だったのか、困ったように視線を彷徨わせる少年。
恐らくは「連れてこい」と命じられてるんだろう。
でも、彼を連れていくのはどう考えても得策じゃない。彼の精神衛生上もだし、最終的に俺が暴れることになったらそれも見せたくはないし。
「俺なら大丈夫です。人も少なくなってきたし、ペア相手もなしに1人で歩くもんじゃないっすよ」
「……あ、ありがとう、ございます……」
ここで1人で帰らすのも危ないかなーとは思いつつ頑なにそう告げると、彼は根負けしてくれた。
指定の場所とは逆の方向に、何度も振り返りつつ不安そうに歩いていく背中を見送る。
その姿が米粒くらいになった頃、俺は徐に踵を返した。
「さてと。行きますか」
小さくそう呟いて、薄暗い通路に向かって歩き出す。
こんなことをしでかす相手の、大体の予想はついていた。
なんてったって、今日1日独り占めしてしまったわけで。過激派を多く擁するあの親衛隊なら、やらかしてもおかしくは無い。
そう。
生徒会会計──つまり、澪の親衛隊だ。
王道学園ものでは、“過激派”であることが主流な親衛隊だから、入学初日に呼び出された時は「王道だっ!」って喜んだもんだ。
まぁ今となっては、ちょっとしたことで突っかかってくることも多いから面倒でしかないわけだけど。
とはいえ、王道学園モノを愛する腐男子としては、嬉しいことに変わりはないか。
そんなどうでもいいことを考えながら足を踏み入れた、薄暗くて狭い空間。まだ日が差しているから問題ないけど、あまり長居はしたくない。
少し心拍数が早くなったのが自分でもわかり、無意識に胸に手を当てながら先へと進む。
「お待ちしてましたよ、《女神様》」
しばらくして暗がりの中から飛んできた、かなり刺々しい声に立ち止まる。
通路を少し進んだ場所で待ち構えていたのは、4人のチワワ系。揃って腕を組み睨みつけてくる中、筆頭に立つ一際気の強そうな少年が、口を開いた。
「呼びに行かせたのにあまりにも遅いので、しっぽを巻いて逃げ帰ったのかと思いましたよ」
皮肉げな言葉に、少し顔を歪める。
つーか、待ってたのはあんたらの勝手だろ。それに、人を使って呼び出すとか、こいつら何様?
まぁ、どっかの金持ちのボンボンなことは間違いないだろうな。
さっきの少年とは違い見覚えがないから多分Sクラスで、おそらく先輩だと思うけど、こいつらに敬語を使う義理はないと判断した俺はにこりと対人用の笑顔を浮かべた。
「待たせて悪いね。で? 人を使ってまで俺を呼び出して、俺に何か用?」
「ご自分の胸に手を当てて聞いてみたらいかが? 今日を含めた、ここ最近のアンタの行動を」
憎々しげに吐き捨てて睨みつけてくる、見た目だけは可愛い少年。チワワ軍団のボスみたいだから、一旦ボスチワワって命名しておく。
恵まれた容姿のボスチワワに言われた通り胸に手を当てて見せて、俺は小さく頭を傾けた。わざと、煽るように。
「んー、特に何も思い当たらないな」
淡々とそう答えてあげると、きちんと整えられた眉がきっとつり上がった。
「ふざけんな! 突然生徒会の皆様に取り入ったか思えば、今日なんてペア組んで一緒に遊園地を楽しむだなんて……。一体何様のつもり!?」
「そんなこと言われても、俺が求めたわけじゃないからなぁ」
「はぁ? 不可抗力だとでも言いたげだけど、そんなわけないでしょ。アンタが何かしたに決まってる」
「つーかそもそも、庶民であるアンタがなんで桜花様の庇護を受けてんの? 何? あの人と寝たの?」
「ネコランクの票だって、身体使って得たんじゃねぇの? うわー、マジでないわ」
「どうせ、澪様ともそういう仲になりたかったんでしょうけど、あの方はアンタみたいなビッチを相手にしてるほど、暇じゃないから」
「そうそう。庶民を相手にするわけないだろ、バーカ!」
「……」
1歩下がったところにいた3人が、ここぞとばかりに寄って集って罵ってくる。
が、笑える。なんだよその頭の悪い台詞は。もうちょっとリアルな話しろよ。
「何笑ってんだよ!」
「あぁ顔に出てた? 悪い悪い。で、言いたいことはそれで全部?」
「は?」
「とりあえず言えることとしては、全部事実無根。マジ笑っちゃうレベルだわ。ついでに、アンタら澪のこと好きだとか言ってる割に、澪のこと全く理解してねぇな」
まぁ、内を見せない澪にも問題はあるけど。それにしても分かってない。
少なくともアイツは、庶民だからって見下したりする奴じゃない。それは今日一緒にいて、すごく伝わってきた。
本人が公立出身だからっていうのもあるだろうけど、きっと元々そんな風に人を見かけで判断する人じゃないんだろうなって思う。
こいつらはそれすら分かってない。親衛隊のくせに。
「な、何様のつもりっ!?!? 僕をバカにしていいと思ってんの!? 僕はあの、大手銀行の頭取の息子だぞ!!!」
「だから何? 庶民な俺にはそういうの通用しないけど?」
親の権力を傘に着て、マジで馬鹿馬鹿しい。
ついでにかなりボキャブラリーも貧困で、イライラを通り越して飽きてきた。
それならばと辺りを確認するが、先日見かけたマリモへの制裁と違って、ガチムチ達が通路の陰から現れて襲ってくる、なんて様子は無い。チワワが4匹、ずっとキャンキャン吠えているだけ。
あーあ、マジか。これならガチムチたちと一戦交えた方がスッキリするのに。
「何その顔!? マジでムカつくんですけど!!」
「あーはいはい、んじゃ飽きてきたから帰りますね」
「はあ? 逃げんなよ!」
顔がムカつくと言われたので、帰ろうと踵を返すとそんなことを言われる。
俺にどうしろってんだ。
「何? 文句は散々言ったじゃんか。これ以上なんの用があるわけ?」
「あんたに反省の色がこれっぽっちもないから許せないんだよ!」
「反省って……あーはいはい。すんませんでした。これでいい?」
「ふざけないで!!!」
「そんな謝り方、全然心がこもってないじゃない!!」
「もうやめなよ」
吠えるチワワ達を止めたのは、先頭に立つボスチワワ。
彼は始めと変わらない腕を組んだ尊大な態度で、ふっと嘲るように笑った。
「この人には何を言っても伝わらないよ。だって庶民だもん。平々凡々なサラリーマン家庭に育ったから、権力ってものを知らないんだよ。そんな、生まれも育ちも僕らとは違うこいつに、何言ったって通じない。所詮住む世界が違うんだもの」
「……あ?」
何言ってんのこいつ。
見つめる俺の視線をものともせずふんぞり返るボスチワワの言葉に、ヒートアップしていた取り巻きチワワも落ち着きを取り戻してくすくすと笑い出した。
「ふふ、確かにそうだね。僕としたことが、庶民相手にあんな熱くなっちゃって。はしたなかったな」
「だね~」
「そういえば、アイツどこ行ったの? 下僕のくせに、1人で先に帰ったわけ?」
「うっわ。マジ有り得ないんですけど。僕たちに逆らうなんて、家族がどうなってもいいみたいだね」
ケラケラと楽しげに笑う4匹のチワワ。
その、あまりにも人を見下した態度に、頭の奥で何かが切れる音がした。
静かに、チワワどもの方に向き直る。息を吐き、ぐっと足に力を込めた、次の瞬間──。
目の前にふわりと、茶色いものが降ってきた。
「はーい、そこまでー!」
「あぁ……」
「なんだかあっという間だったねぇ~。あー、そういえばお土産買うの忘れてた~、最後に寄ってみよっかぁ。確か出入口のゲート付近にあったよねぇ?」
「……そうだな」
気のない返事をしながら、すっかり元に戻った澪の隣を歩く。
昼間は学園生でいっぱいだったテーマパーク内も、夕陽で赤く染った今は、人影がまばらになっていた。
来る時と同じく、帰る時間もペア毎に決められているわけだが、どうやら俺たちは遅い方らしい。
「ごめん~。ちょっとトイレ寄ってってもいい~?」
「あぁ」
「すぐ戻るから待っててね~」と駆けていく澪を見送って、近くのベンチに腰かける。
流石と言うべきか。世界的大女優の血を引いているだけはある。今の澪からは、観覧車の中にいた傷だらけの少年なんて、欠片も見えない。
誰にも言えない秘密を、分厚い鎧の下に完全に隠してしまっている。
俺の演技力では、あんなに綺麗に隠し切ることは出来ない。だから、いろんなところでボロを出して、周りに余計な心配をかけてしまっている。本当マジで情けない。
「すごいな、アイツは……」
「……あ、あの……」
突然声をかけられて、顔を上げる。
立っていたのは、辛うじて見覚えのある小柄な少年だった。
見覚えがあるということは、少なくとも新1年生ではない。恐らく2-Bなんじゃないかと思うけど、私服だから同級生かどうかすら分からない。
「えっと、何か用? ですか?」
「……あの、あ、あっちで、その……」
歯切れ悪く話す少年。
話の意図が見えないまま、彼が指差す先に視線を向けた。
そこは、建物と建物の間の細い通路。辺りが茜色に染まる中、そこだけは早くも薄暗い闇に包まれていて、何か殺気立ったものを感じた。
……なんて、見間違いか?
軽く首を捻りつつ、再度目の前に立つ少年を見上げてみる。
どちらかというと小柄な少年。そんな彼の体は小刻みに震えていて、明らかに何かに怯えていた。
それを見て、やっと合点がいった。
「……なるほどな」
まさか、学外でやるとは。
でもまぁ、こんなこと1年前にはよくあったことだ。しかも、路地裏に呼び出すだなんて、なんて典型的なパターン。
あまりにも王道で、呆れを通り越して笑ってしまいそうだ。
本来なら面倒だし無視したいところだが、そうしてしまうと目の前に立つ彼に矛先が向いてしまう。
こんなに怯えている人を見捨てるほど、まだ人として腐りたくは無いからな。
まぁ、何かあったとしても、正当防衛が成立する程度に軽く相手をして帰ればいいか。
そう考えた俺は、腰掛けていたベンチから立ち上がり、ぐっと伸びをした。
「あそこに行けばいいんすね?」
「……え、あ、はい……」
「りょーかい。行ってくるんで、貴方はもう帰ってください」
「へ? あ、いや、でも……」
帰れなんて言われるのは予想外だったのか、困ったように視線を彷徨わせる少年。
恐らくは「連れてこい」と命じられてるんだろう。
でも、彼を連れていくのはどう考えても得策じゃない。彼の精神衛生上もだし、最終的に俺が暴れることになったらそれも見せたくはないし。
「俺なら大丈夫です。人も少なくなってきたし、ペア相手もなしに1人で歩くもんじゃないっすよ」
「……あ、ありがとう、ございます……」
ここで1人で帰らすのも危ないかなーとは思いつつ頑なにそう告げると、彼は根負けしてくれた。
指定の場所とは逆の方向に、何度も振り返りつつ不安そうに歩いていく背中を見送る。
その姿が米粒くらいになった頃、俺は徐に踵を返した。
「さてと。行きますか」
小さくそう呟いて、薄暗い通路に向かって歩き出す。
こんなことをしでかす相手の、大体の予想はついていた。
なんてったって、今日1日独り占めしてしまったわけで。過激派を多く擁するあの親衛隊なら、やらかしてもおかしくは無い。
そう。
生徒会会計──つまり、澪の親衛隊だ。
王道学園ものでは、“過激派”であることが主流な親衛隊だから、入学初日に呼び出された時は「王道だっ!」って喜んだもんだ。
まぁ今となっては、ちょっとしたことで突っかかってくることも多いから面倒でしかないわけだけど。
とはいえ、王道学園モノを愛する腐男子としては、嬉しいことに変わりはないか。
そんなどうでもいいことを考えながら足を踏み入れた、薄暗くて狭い空間。まだ日が差しているから問題ないけど、あまり長居はしたくない。
少し心拍数が早くなったのが自分でもわかり、無意識に胸に手を当てながら先へと進む。
「お待ちしてましたよ、《女神様》」
しばらくして暗がりの中から飛んできた、かなり刺々しい声に立ち止まる。
通路を少し進んだ場所で待ち構えていたのは、4人のチワワ系。揃って腕を組み睨みつけてくる中、筆頭に立つ一際気の強そうな少年が、口を開いた。
「呼びに行かせたのにあまりにも遅いので、しっぽを巻いて逃げ帰ったのかと思いましたよ」
皮肉げな言葉に、少し顔を歪める。
つーか、待ってたのはあんたらの勝手だろ。それに、人を使って呼び出すとか、こいつら何様?
まぁ、どっかの金持ちのボンボンなことは間違いないだろうな。
さっきの少年とは違い見覚えがないから多分Sクラスで、おそらく先輩だと思うけど、こいつらに敬語を使う義理はないと判断した俺はにこりと対人用の笑顔を浮かべた。
「待たせて悪いね。で? 人を使ってまで俺を呼び出して、俺に何か用?」
「ご自分の胸に手を当てて聞いてみたらいかが? 今日を含めた、ここ最近のアンタの行動を」
憎々しげに吐き捨てて睨みつけてくる、見た目だけは可愛い少年。チワワ軍団のボスみたいだから、一旦ボスチワワって命名しておく。
恵まれた容姿のボスチワワに言われた通り胸に手を当てて見せて、俺は小さく頭を傾けた。わざと、煽るように。
「んー、特に何も思い当たらないな」
淡々とそう答えてあげると、きちんと整えられた眉がきっとつり上がった。
「ふざけんな! 突然生徒会の皆様に取り入ったか思えば、今日なんてペア組んで一緒に遊園地を楽しむだなんて……。一体何様のつもり!?」
「そんなこと言われても、俺が求めたわけじゃないからなぁ」
「はぁ? 不可抗力だとでも言いたげだけど、そんなわけないでしょ。アンタが何かしたに決まってる」
「つーかそもそも、庶民であるアンタがなんで桜花様の庇護を受けてんの? 何? あの人と寝たの?」
「ネコランクの票だって、身体使って得たんじゃねぇの? うわー、マジでないわ」
「どうせ、澪様ともそういう仲になりたかったんでしょうけど、あの方はアンタみたいなビッチを相手にしてるほど、暇じゃないから」
「そうそう。庶民を相手にするわけないだろ、バーカ!」
「……」
1歩下がったところにいた3人が、ここぞとばかりに寄って集って罵ってくる。
が、笑える。なんだよその頭の悪い台詞は。もうちょっとリアルな話しろよ。
「何笑ってんだよ!」
「あぁ顔に出てた? 悪い悪い。で、言いたいことはそれで全部?」
「は?」
「とりあえず言えることとしては、全部事実無根。マジ笑っちゃうレベルだわ。ついでに、アンタら澪のこと好きだとか言ってる割に、澪のこと全く理解してねぇな」
まぁ、内を見せない澪にも問題はあるけど。それにしても分かってない。
少なくともアイツは、庶民だからって見下したりする奴じゃない。それは今日一緒にいて、すごく伝わってきた。
本人が公立出身だからっていうのもあるだろうけど、きっと元々そんな風に人を見かけで判断する人じゃないんだろうなって思う。
こいつらはそれすら分かってない。親衛隊のくせに。
「な、何様のつもりっ!?!? 僕をバカにしていいと思ってんの!? 僕はあの、大手銀行の頭取の息子だぞ!!!」
「だから何? 庶民な俺にはそういうの通用しないけど?」
親の権力を傘に着て、マジで馬鹿馬鹿しい。
ついでにかなりボキャブラリーも貧困で、イライラを通り越して飽きてきた。
それならばと辺りを確認するが、先日見かけたマリモへの制裁と違って、ガチムチ達が通路の陰から現れて襲ってくる、なんて様子は無い。チワワが4匹、ずっとキャンキャン吠えているだけ。
あーあ、マジか。これならガチムチたちと一戦交えた方がスッキリするのに。
「何その顔!? マジでムカつくんですけど!!」
「あーはいはい、んじゃ飽きてきたから帰りますね」
「はあ? 逃げんなよ!」
顔がムカつくと言われたので、帰ろうと踵を返すとそんなことを言われる。
俺にどうしろってんだ。
「何? 文句は散々言ったじゃんか。これ以上なんの用があるわけ?」
「あんたに反省の色がこれっぽっちもないから許せないんだよ!」
「反省って……あーはいはい。すんませんでした。これでいい?」
「ふざけないで!!!」
「そんな謝り方、全然心がこもってないじゃない!!」
「もうやめなよ」
吠えるチワワ達を止めたのは、先頭に立つボスチワワ。
彼は始めと変わらない腕を組んだ尊大な態度で、ふっと嘲るように笑った。
「この人には何を言っても伝わらないよ。だって庶民だもん。平々凡々なサラリーマン家庭に育ったから、権力ってものを知らないんだよ。そんな、生まれも育ちも僕らとは違うこいつに、何言ったって通じない。所詮住む世界が違うんだもの」
「……あ?」
何言ってんのこいつ。
見つめる俺の視線をものともせずふんぞり返るボスチワワの言葉に、ヒートアップしていた取り巻きチワワも落ち着きを取り戻してくすくすと笑い出した。
「ふふ、確かにそうだね。僕としたことが、庶民相手にあんな熱くなっちゃって。はしたなかったな」
「だね~」
「そういえば、アイツどこ行ったの? 下僕のくせに、1人で先に帰ったわけ?」
「うっわ。マジ有り得ないんですけど。僕たちに逆らうなんて、家族がどうなってもいいみたいだね」
ケラケラと楽しげに笑う4匹のチワワ。
その、あまりにも人を見下した態度に、頭の奥で何かが切れる音がした。
静かに、チワワどもの方に向き直る。息を吐き、ぐっと足に力を込めた、次の瞬間──。
目の前にふわりと、茶色いものが降ってきた。
「はーい、そこまでー!」
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