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April
やっぱこの学園は普通じゃない①
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「あー、やっぱり桜花ちゃん捕まったかー……」
風紀室に桜花ちゃんを置いて俺が向かったのは4階。1-Sの教室がある階だ。
2階と3階は少し声がしたものの、4階まで来るとまた人の気配が無くなった。1-Sの教室を覗いてみると、予想通り誰もいない。
中に入り込んだ俺は、誰のか分からない机に着席してTSPを弄っていた。
きっと桜花ちゃん、自分から捕まったんだろうな。
覚悟を決めたような桜花ちゃんの顔を見て、そうなるかもしれないとは思ってた。思っていたけど。
そこまでして白城院くんを構う理由って一体。
気にはなるけど、それは2人の事柄だ。
部外者である俺が深入りするのは良くない。
誰にだって、知られたくない秘密はある。
悩み事なんてまるでなさそうなあの双子にだってあったんだ。
もちろん、俺だって例外じゃない──。
考えている間に黒くなったTSPの画面に、自分の姿が映る。
視線が向かったのは、耳元で揺れる雫型のピアス。画面越しでは色はわからないが、実物は深い青色をしている。
手入れする以外では外さない──否、外してはいけないそのピアスにそっと触れ、目を伏せたその時。
「やっほー」
ガラッと音を立ててドアが開かれた。
弾かれるように顔を向け、席から立ち上がる。その衝撃で、椅子が激しく倒れてしまった。
「ごめんごめん、そんなにびっくりさせると思わんかった」
「ナギか。マジびっくりしたー」
困り顔で駆け寄ってきたのはナギだった。
黒基調の、どちらかというと大人っぽい爽やかな私服に身を包んだナギは、制服の時よりも男らしく見える。
「ナギ、私服かっこいいなぁ」
「そう? 今日はこんな日ってことで地味なの選んだからちょっと心配やったんやけど、蒼葉くんの瞳にそう映ったんなら安心やね」
かっこいいナギに目を奪われていると、ふとその後ろに気がついた。
教室に入ってきたのは、ナギだけじゃなくて。
「ってか、今日みたいな日も変わらず引き連れてるんだな」
ナギを追うように入ってきた3人の強面の青年に、苦笑を漏らしながらそう告げる。
「だってついてくるんやもん。僕だって目立つからやめて欲しいんよ? でも何言うてもついてくるから、もう諦めた~」
俺の前の席に俺の方を向きながら腰掛けたナギは、机に頬杖をついてため息を吐く。そんな姿はいつも通りのナギで、ちょっと安心。
取り巻きさんたちは、何を言わずとも前後のドアから廊下を見張っていた。なんともよく出来た舎弟さんたちだ。
「こんな日までとは、やっぱ大変だなぁ」
「ま、慕ってくれてるんは素直に嬉しいんよ」
〈Dクラスの奇跡〉と言われる彼を崇拝する人は少なくない。
元々家の関係の配下だという人もいるみたいで、ナギが望む望まないに関わらず、彼がいく先には必ず誰かがついている。
それを振り切るために駆け込むのが、あの屋上だったりするんだろう。
「それよりも蒼葉くん。何か思い詰めてた感じやったけどどしたん?」
「え? あー、何でもない。走り回って疲れただけだ」
そう言って笑って見せる。が、我ながら曖昧な返事と、下手な愛想笑い。
ナギならきっと気付いているんだろうけど、彼は眉を八の字にしつつ「そっか」と微笑んでくれた。
その優しさに甘えて、仕切り直すように椅子に座り直す。
「そういや、桜花ちゃん捕まったな」
「あーうん。誰にやられたんやろね? まさか捕まるなんて、よっぽどの事があったとしか思えへんけど」
「それが実はさ──」
俺は、さっきの出来事を簡単に伝える。
するとナギは納得したように数度頷いた。
「なるほどねぇ。ということは、きっと桜花はルイくんを引き止めるために捕まったんやね」
「やっぱそうか」
「うん。あの2人の間には何か複雑な事情があるみたいやから」
「何かって、ナギも知らないのか?」
「詳しいことは知らんかなぁ。僕が小5の時に編入してきた時点で、2人はあんな感じの関係やったし」
頬杖をつきながら、ナギはそう言って息を吐く。
「みんなは知らん? あの2人の間に何があったんか」
廊下を警戒していた3人の青年がこちらを振り向く。この時やっと、取り巻きの3人をまじまじと見た。
名前もわかんないので見た目だけで簡単にいえば、プリン頭と赤髪と銀髪。なんて取り合わせだ。
「すんません、夕凪さん。俺は知らないっす」
前のドアを護るプリン頭さんが軽く左右に頭を振りながら告げると、横にいた赤髪さんが「あ!」と声を上げた。
「おい、アレじゃね? 2年の時の」
「あ? 2年の時って……あー、なんかクラスの奴らが大量に消えたやつ?」
「そうそれ。アレって確か、Sクラの誰かを襲ったとか何とかじゃなかったか?」
「そうだったか~? あんまり覚えてねぇな。それより3年の秋に大事になった制裁事件とかはどうよ?」
「あれは《女王様》関係ねーだろ。もっと上の学年の話だった思うぜ。3年って言やぁ、もう一個なんかなかったか?」
「それは確かBかCのイジメだった気がする。あー、先輩共と喧嘩して大事になったやつもあったな」
「そいつは覚えてるぜ。俺も知ってたら参加したって、あのころは思ったもんだ。あれもあったな、4年の時の──」
その後もどんどん飛び出してくる、小等部前半に起こったらしい数々の事件たち。
「結構色々事件があんだな……」
襲ったとか、喧嘩とか、イジメとか、制裁とか。
どれもこれもなんて恐ろしいワード。それを10歳にも満たない子どもがやってたなんて信じられないんだが……。この学園ではこれが普通なんだろうな。
1年ここにいて、身をもって体験した今となっては、ありえないとは嘘でも言えない。
「まぁねぇ。賢くて大人しいおぼっちゃまばっかりが集まってるわけと違うから。あぁもうええよ、2人とも」
そうナギが静かに告げると、2人はぴたりと会話をやめた。そしてピシッとナギに向かって頭を下げると、廊下への警戒に戻る。
おぉ、なんて躾が行き届いているんだ。うちのクラスもなかなかだけど、たった一声で自由に操れるナギはほんとすごい。
もしもナギの目の届く範囲でイジメとか喧嘩が起こっても、一瞬にして沈静化できるんだろう。
なぜかそんな確信が持ててしまう。
〈Dクラスの奇跡〉なんて肩書きを持ってるんだ。伊達じゃないよな。
風紀室に桜花ちゃんを置いて俺が向かったのは4階。1-Sの教室がある階だ。
2階と3階は少し声がしたものの、4階まで来るとまた人の気配が無くなった。1-Sの教室を覗いてみると、予想通り誰もいない。
中に入り込んだ俺は、誰のか分からない机に着席してTSPを弄っていた。
きっと桜花ちゃん、自分から捕まったんだろうな。
覚悟を決めたような桜花ちゃんの顔を見て、そうなるかもしれないとは思ってた。思っていたけど。
そこまでして白城院くんを構う理由って一体。
気にはなるけど、それは2人の事柄だ。
部外者である俺が深入りするのは良くない。
誰にだって、知られたくない秘密はある。
悩み事なんてまるでなさそうなあの双子にだってあったんだ。
もちろん、俺だって例外じゃない──。
考えている間に黒くなったTSPの画面に、自分の姿が映る。
視線が向かったのは、耳元で揺れる雫型のピアス。画面越しでは色はわからないが、実物は深い青色をしている。
手入れする以外では外さない──否、外してはいけないそのピアスにそっと触れ、目を伏せたその時。
「やっほー」
ガラッと音を立ててドアが開かれた。
弾かれるように顔を向け、席から立ち上がる。その衝撃で、椅子が激しく倒れてしまった。
「ごめんごめん、そんなにびっくりさせると思わんかった」
「ナギか。マジびっくりしたー」
困り顔で駆け寄ってきたのはナギだった。
黒基調の、どちらかというと大人っぽい爽やかな私服に身を包んだナギは、制服の時よりも男らしく見える。
「ナギ、私服かっこいいなぁ」
「そう? 今日はこんな日ってことで地味なの選んだからちょっと心配やったんやけど、蒼葉くんの瞳にそう映ったんなら安心やね」
かっこいいナギに目を奪われていると、ふとその後ろに気がついた。
教室に入ってきたのは、ナギだけじゃなくて。
「ってか、今日みたいな日も変わらず引き連れてるんだな」
ナギを追うように入ってきた3人の強面の青年に、苦笑を漏らしながらそう告げる。
「だってついてくるんやもん。僕だって目立つからやめて欲しいんよ? でも何言うてもついてくるから、もう諦めた~」
俺の前の席に俺の方を向きながら腰掛けたナギは、机に頬杖をついてため息を吐く。そんな姿はいつも通りのナギで、ちょっと安心。
取り巻きさんたちは、何を言わずとも前後のドアから廊下を見張っていた。なんともよく出来た舎弟さんたちだ。
「こんな日までとは、やっぱ大変だなぁ」
「ま、慕ってくれてるんは素直に嬉しいんよ」
〈Dクラスの奇跡〉と言われる彼を崇拝する人は少なくない。
元々家の関係の配下だという人もいるみたいで、ナギが望む望まないに関わらず、彼がいく先には必ず誰かがついている。
それを振り切るために駆け込むのが、あの屋上だったりするんだろう。
「それよりも蒼葉くん。何か思い詰めてた感じやったけどどしたん?」
「え? あー、何でもない。走り回って疲れただけだ」
そう言って笑って見せる。が、我ながら曖昧な返事と、下手な愛想笑い。
ナギならきっと気付いているんだろうけど、彼は眉を八の字にしつつ「そっか」と微笑んでくれた。
その優しさに甘えて、仕切り直すように椅子に座り直す。
「そういや、桜花ちゃん捕まったな」
「あーうん。誰にやられたんやろね? まさか捕まるなんて、よっぽどの事があったとしか思えへんけど」
「それが実はさ──」
俺は、さっきの出来事を簡単に伝える。
するとナギは納得したように数度頷いた。
「なるほどねぇ。ということは、きっと桜花はルイくんを引き止めるために捕まったんやね」
「やっぱそうか」
「うん。あの2人の間には何か複雑な事情があるみたいやから」
「何かって、ナギも知らないのか?」
「詳しいことは知らんかなぁ。僕が小5の時に編入してきた時点で、2人はあんな感じの関係やったし」
頬杖をつきながら、ナギはそう言って息を吐く。
「みんなは知らん? あの2人の間に何があったんか」
廊下を警戒していた3人の青年がこちらを振り向く。この時やっと、取り巻きの3人をまじまじと見た。
名前もわかんないので見た目だけで簡単にいえば、プリン頭と赤髪と銀髪。なんて取り合わせだ。
「すんません、夕凪さん。俺は知らないっす」
前のドアを護るプリン頭さんが軽く左右に頭を振りながら告げると、横にいた赤髪さんが「あ!」と声を上げた。
「おい、アレじゃね? 2年の時の」
「あ? 2年の時って……あー、なんかクラスの奴らが大量に消えたやつ?」
「そうそれ。アレって確か、Sクラの誰かを襲ったとか何とかじゃなかったか?」
「そうだったか~? あんまり覚えてねぇな。それより3年の秋に大事になった制裁事件とかはどうよ?」
「あれは《女王様》関係ねーだろ。もっと上の学年の話だった思うぜ。3年って言やぁ、もう一個なんかなかったか?」
「それは確かBかCのイジメだった気がする。あー、先輩共と喧嘩して大事になったやつもあったな」
「そいつは覚えてるぜ。俺も知ってたら参加したって、あのころは思ったもんだ。あれもあったな、4年の時の──」
その後もどんどん飛び出してくる、小等部前半に起こったらしい数々の事件たち。
「結構色々事件があんだな……」
襲ったとか、喧嘩とか、イジメとか、制裁とか。
どれもこれもなんて恐ろしいワード。それを10歳にも満たない子どもがやってたなんて信じられないんだが……。この学園ではこれが普通なんだろうな。
1年ここにいて、身をもって体験した今となっては、ありえないとは嘘でも言えない。
「まぁねぇ。賢くて大人しいおぼっちゃまばっかりが集まってるわけと違うから。あぁもうええよ、2人とも」
そうナギが静かに告げると、2人はぴたりと会話をやめた。そしてピシッとナギに向かって頭を下げると、廊下への警戒に戻る。
おぉ、なんて躾が行き届いているんだ。うちのクラスもなかなかだけど、たった一声で自由に操れるナギはほんとすごい。
もしもナギの目の届く範囲でイジメとか喧嘩が起こっても、一瞬にして沈静化できるんだろう。
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