腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

双子ちゃんたちの秘密①

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「よっと」


 無事に体育館の外階段に降り立った俺。
 振り返って、さっきまでいた旧校舎屋上に向かって手を振っておく。多分まだあの3人がいるような気がするから。

 この1回のためだけに、事前に渡して仕込んでおいたロープ。
 つまり、ジップラインの要領でここまで飛んできた。

 子どもの頃、よくこんなことして遊んだからそれを応用してみたんだけど。
 正直、あんなに驚かれるなんてな。お金持ちのおぼっちゃまたちには馴染みのない遊びだったんだろうか?
 まぁ俺としては、予想以上の反応が見れて満足。苦労した甲斐があったってもんだ。


「さてと。ここからどうしようかね」
「どうしますかね~?」


 独り言のつもりで呟いた言葉に、なんと上から声が降ってきた。
 驚いて見上げると、可愛らしいオレンジの髪に青のピン留めを着けた少年が1人、こちらを見下ろしている。

 彼はにこにこと楽しそうに笑いながら、階段を跳ねるように降り始めた。


「まさか空を飛んでくるだなんて思わなかったよ! すごいね、さすが《女神様》っ!」
「双子兄……」
「お、双子兄? 本当にー? ピン、青色だよ?」


 言われて気づいた。本当だ、青色だった。
 やってしまったと思ったが、今更どうしようもない。


「だとしても、お前は兄貴の方だろ?」


 確信を持って尋ねると、目の前まで降りてきた彼はにっこりと嬉しそうに笑う。


「正解だよ! やっぱり蒼くんは、ボクたちをちゃんと見分けられたんだねっ!」


 そう言いながら、いそいそといつも通りの赤色のピンに付け替える双子兄。


「そうだと思ったんだー! 確認が出来て嬉しいよ!」
「……もしかして、俺が見えたからわざわざ青色にしたのか?」
「うん! そうだよっ!」


 え。何それちょっとかわいいじゃんか。まぁ元々双子は可愛いけども!

 TSPを鏡代わりに髪を整えると、双子兄は俺へと向き直る。
 そして、元気いっぱいに自己紹介を始めた。


「改めまして、生徒会庶務をしています朝比奈椛だよ! 椛って呼んでね!」
「おう、よろしく椛ーって、なんでまた急に自己紹介?」


 ちょっと意図が分からない。確かにしっかりした自己紹介をされた覚えはないけど、そんなことしなくたって十分キミらのことは分かってるんだけど。
 握手をしつつ首を傾げる俺に、双子兄もとい椛は「だってー」と話し出す。


「椛個人として話すのは初めてでしょ? だったらちゃんと自己紹介をすべきかなーって」
「なるほど……?」
「ボクはボクとして、蒼くんとお話ししたかったんだ~!」
「双子としてじゃなくってことか?」
「そういうこと!」


 確か王道学園ものでは、双子は2人で1つとして見られたいというのが多かったはずだ。シンクロして可愛い僕たちを見てと。
 でも椛は、椛個人で見てほしいらしい。
 つまり非王道。……まぁもう今更、王道学園ものに近づけるなんて無理なのは分かりきってるんだけどさ。
 腐男子としましては、ちょっとしたことでも探しちゃうんだよな。王道らしい部分をさ。癖みたいなもんだな。


「オタクトークできる友達、1人増えると思うと嬉しいな~!」
「…………ん?」


 なんだか、イメージとかけ離れた単語が聞こえた気がする。
 じっと椛を見つめていると、彼は満面の笑みで返してきた。


「ハル兄から聞いてたんだ~! 蒼くんは、オタクだよーってね!」


 ハル兄…………?


「ハル兄って、もしかして陽希のことか?」
「そうだよ!」


 待ってくれ、ハル兄って……え?
 そんな距離感なの!?


「あんまり周りにいなくってさ~。ハル兄はボクにとって良きオタク仲間なんだけど──」
「オタク仲間ああ!?」
「そうだよ! あれ、聞いてない?」
「まっっっっっっっったく」
「んー? ハル兄、サプライズでもしたかったのかな?」


 こんなステキな関係性があったなら教えてくれよ陽希!
 マジもう"兄"呼び最高すぎる!
 お前、こんな可愛い弟がいたのかよ! 普段は桜花ちゃんとかナギの弟っぽい立ち位置なのに!


「蒼くーん? どうしたの?」


 下から覗き込むようにして、大きな瞳が見上げてくる。


「いや……。サプライズだとしたら大成功だなって思って」
「そんなにびっくりしたの?」
「まさか陽希が生徒会メンバーと繋がりがあったなんて思わなくって。ほら、陽希って桜花ちゃんサイドかなと思うし」
「そうなんだよね。あんまり表立って仲良くお話しできないのはちょっぴり残念」
「やっぱそうだよな」
「まぁ立場がどうであれ、ボクにとって大切なオタク友達であることには変わりないよ!」


 立場の壁を越えての友情だなんて。
 超アツい。アツいよ! あのヤロー、次会ったときに絶対に問い詰めてやる!

 とりあえず、馴れ初めでも聞いておこうと椛を促してみる。


「ハル兄との馴れ初め? うーんとね、ハル兄が5年生の時に来たから、僕は4年生の時かな。中庭の木の上で出会ったんだよ」
「かなり長い付き合いなのにもびっくりだけど、出会った場所にもびっくりだわ。なんで木の上?」
「授業サボって、木の上でお昼寝してたんだよね~。そしたら、隣の木にハル兄がいたの!」
「…………なるほど」


 椛が実はよく喋る子で、かなりの不思議ちゃんだということは理解できてきたぞ。
 俺も木登り好きだし、今でも良く登るけど。あんまりそんな場所で新たな出会いなんかないよな。漫画かよ。


「弟の楓くんは? 別の木の上にでもいたのか?」
「え?」


 いつもニコイチだからと思って気軽に聞いたら、なぜか固まった椛。
 そして、うろうろと視線を彷徨わせる。


「あー…………。あ、あの日は楓はお休みしてたんだよねぇ……うん」


 すんごく歯切れの悪い言い方。もしかして地雷だった……?
 え、どの辺が?


「まあとにかくっ!」


 仕切り直すように元気な声をあげる椛。
 なんか申し訳ない気持ちになるが、もう仕方ない。気づかなかったフリをしようそうしよう。


「ボク、オタク友達がいなかったから嬉しくって! 普段は楓に話聞かせてたんだけど、相槌しか打ってくれないから。語り合うのがこんなに楽しいんだって、その時気づいたんだよね~!」
「それはわかる! 否定せずに聞いてくれるだけなのも嬉しいけど、やっぱり語り合いたいよな!」
「そうなんだよ~!!」


 きゃっきゃと楽しげに話す椛の様子を察するに、どうやらオタクなのは椛だけらしい。
 ということは、陽希と友達してるのは椛だけってことか……?
 聞きたいけど今は我慢……。同じ地雷を踏むのは怖いからな流石に。


「そういや俺も、去年とかはよく蓮に話してたけど、アイツは相槌すら打ってくれなかったからな。まぁ、それなりに耳は傾けてくれてたみたいだけど」
「確かにレンくんは、聞いてないようで聞いてくれてたりするよねー! ぶっきらぼうだけど、実は面倒見がいいってやつだよね!」
「そうそう~。実はよく俺の面倒もみて………………ん?」


 待って、なんかまた聞き捨てならないことがあったような――。


「見つけた」
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