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April
《姫様》副会長の微笑み②
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異様な静けさに包まれる中、こちらを振り返った副会長。
彼は優雅な所作で、黒縁眼鏡のブリッジを押し上げる。
「さて」
瞬間、纏う雰囲気が変わった。
《姫様》の渾名にそぐわない、まるで獲物を狩る捕食者のような雰囲気を醸し出している。
天照学園の最高執行機関“生徒会執行部”の副会長様は伊達ではない。長年副会長という役職を努めてきただけのことはある。
何より恐ろしいのは、そんな雰囲気を醸しているにもかかわらず、人の良い微笑みを浮かべているところだ。
「貴方のような人が、ここに一体何の用でしょうか? 学園の《女神様》こと、藤咲蒼葉さん?」
「……俺の名前知ってるんですね」
「当たり前です。Sクラスでもない、高等部からの外部入学生で、ランキング3位入賞などという前代未聞の偉業を成し遂げた生徒の名前を知らないわけが無いでしょう」
顔は笑っているのに、射抜くような鋭い視線。
状況的には恐ろしいと感じはするものの、怖いかと言われるとそうでも無い。なんと言うか……居心地が悪い。
なんだろう、試されてるのか?
でもどうするのが正解なのかもよく分からない。
「で、どのような用でしょうか? 生徒会を代表して、私がお話を聞きますよ」
「いや、用と言われましても、別に何も」
つーか、俺はただ引っ張られて来ただけだし。どっちかと言うと被害者だ。
こんな、蛇に睨まれた蛙の気分を味わいに来たわでは無い。
なによりも、教室に帰れるのならありがたい。さぁ帰ろう。今すぐ帰ろう。そして、いつも通りの日常を取り戻すのだ。
「特に用事とかはありませんので、この辺りで俺は失礼しま──」
「蒼」
背後から低音ボイスに名前を呼ばれる。
振り返ると、成宮先輩は耳としっぽをぺたんと垂れさせている。ように見える。
つまり、かなりしょんぼりしている。
「どうされました、わんこ…じゃなくて、成宮せんぱ――」
「名前…」
「え?」
「名前、呼んで……?」
「え。…あ、はい。えーと、賢心、先輩?」
見上げながら呼びかけると、とても嬉しそうにしっぽを振った。否、嬉しそうに笑った。
これどうしよう、関われば関わるほどわんこにしか見えない。
大型わんこ。かわいい。
なんかもう今日、“かわいい”言いすぎて語彙力なくなった気がする。
「蒼も、部屋に…はいろ…っ?」
伺うように、首を傾げてこちらを見下ろす大型わんこの賢心先輩。
「あー、いやでも…」
扉に体を預けている副会長を見やる。
すると、俺の視線に気づいたのか、副会長が微笑みを崩さないままこちらに歩み始めた。え、やだ怖いぞ。
それを見た賢心先輩が、副会長に一生懸命語りかける。
「貴那。蒼、……とも、だち!」
その言い方、某宇宙人の映画みたいだな…。
なんて他人事のように考えていたら、蛇が……じゃなくて、副会長さんが真横まで来てしまった。
綺麗な黒髪を靡かせながら、わんこ先輩の話に相槌を打つ。
「おや。それは初耳ですね。私たちの中に、《女神様》と交流している人間はいないと思っていたのですが」
「今日、初めて……。ね?」
俺の方をちらりと見て、くしゃりと微笑んでくれた。
もう俺、この1時間ほどでギャップと癒しにメロメロですよ賢心先輩。俺をキュン死させる気ですか。一家に1わんこ欲しいですよ、いやガチで。
というか、“微笑み”というものも人によってこんなに違うんだなとか、ひねくれたことを考えながら副会長へと視線を向ける。
すると、ふっと副会長を纏っていた雰囲気が和らいだ。
「そうですか。初めて、ですか」
優しげな口調でそう呟く。なんだか感慨深そうな、不思議な言い方だった。
端正な顔立ちにその柔らかいながらも淡々としていて、まさにクールビューティという表現がぴったりの副会長さん。
腐界隈……特に王道学園モノでは“腹黒副会長”と決め打ちされているが、今の状態だと“腹黒”とはまだ決め難いところだ。少なくとも、仲間内に対しては優しそう。
「まぁ、揶揄うのもここまでにしましょう」
……ん? え。何? 揶揄われてたの、俺。
前言撤回。やっぱり腹黒いかもしれない。
苦笑いを浮かべる俺に、副会長さんは大変柔らかい微笑みを向けてきた。
それは、さっきまでと全く違うもので。
きらきらと、まるでおもちゃを見つけた子どものような表情で少し驚いた。
「今更ですが初めまして、《女神様》。生徒会副会長の姫川貴那と申します。以後、お見知りおきを」
「あ…初めまして。藤咲蒼葉です。どーぞよろしくお願いします…?」
「なぜ疑問形なのです?」
「…なんとなく?」
いや、よろしくするか?って思っただなんて、さすがにご本人様目の前にして言えねえわ。
真っ直ぐに向けられる視線を見返せずに若干目を伏せた俺に対して、目の前の人は特に気にした様子もなく。
むしろ、先程までよりも微妙に上がったように感じるトーンで言葉を紡いだ。
「まぁいいでしょう。貴方とはずっとお話してみたいと思っていたのですよ。我々は、貴方の── 《女神様》の来訪を心から歓迎致します」
「え、歓迎されるんですか。マジですか」
「何だか嫌そうですね。生徒会室へ訪れた際にそのような反応をされたのは初めてですよ。…興味深い」
くすり、と。
副会長さんは、口元に手を当ててとても愉しそうに笑った。
彼は優雅な所作で、黒縁眼鏡のブリッジを押し上げる。
「さて」
瞬間、纏う雰囲気が変わった。
《姫様》の渾名にそぐわない、まるで獲物を狩る捕食者のような雰囲気を醸し出している。
天照学園の最高執行機関“生徒会執行部”の副会長様は伊達ではない。長年副会長という役職を努めてきただけのことはある。
何より恐ろしいのは、そんな雰囲気を醸しているにもかかわらず、人の良い微笑みを浮かべているところだ。
「貴方のような人が、ここに一体何の用でしょうか? 学園の《女神様》こと、藤咲蒼葉さん?」
「……俺の名前知ってるんですね」
「当たり前です。Sクラスでもない、高等部からの外部入学生で、ランキング3位入賞などという前代未聞の偉業を成し遂げた生徒の名前を知らないわけが無いでしょう」
顔は笑っているのに、射抜くような鋭い視線。
状況的には恐ろしいと感じはするものの、怖いかと言われるとそうでも無い。なんと言うか……居心地が悪い。
なんだろう、試されてるのか?
でもどうするのが正解なのかもよく分からない。
「で、どのような用でしょうか? 生徒会を代表して、私がお話を聞きますよ」
「いや、用と言われましても、別に何も」
つーか、俺はただ引っ張られて来ただけだし。どっちかと言うと被害者だ。
こんな、蛇に睨まれた蛙の気分を味わいに来たわでは無い。
なによりも、教室に帰れるのならありがたい。さぁ帰ろう。今すぐ帰ろう。そして、いつも通りの日常を取り戻すのだ。
「特に用事とかはありませんので、この辺りで俺は失礼しま──」
「蒼」
背後から低音ボイスに名前を呼ばれる。
振り返ると、成宮先輩は耳としっぽをぺたんと垂れさせている。ように見える。
つまり、かなりしょんぼりしている。
「どうされました、わんこ…じゃなくて、成宮せんぱ――」
「名前…」
「え?」
「名前、呼んで……?」
「え。…あ、はい。えーと、賢心、先輩?」
見上げながら呼びかけると、とても嬉しそうにしっぽを振った。否、嬉しそうに笑った。
これどうしよう、関われば関わるほどわんこにしか見えない。
大型わんこ。かわいい。
なんかもう今日、“かわいい”言いすぎて語彙力なくなった気がする。
「蒼も、部屋に…はいろ…っ?」
伺うように、首を傾げてこちらを見下ろす大型わんこの賢心先輩。
「あー、いやでも…」
扉に体を預けている副会長を見やる。
すると、俺の視線に気づいたのか、副会長が微笑みを崩さないままこちらに歩み始めた。え、やだ怖いぞ。
それを見た賢心先輩が、副会長に一生懸命語りかける。
「貴那。蒼、……とも、だち!」
その言い方、某宇宙人の映画みたいだな…。
なんて他人事のように考えていたら、蛇が……じゃなくて、副会長さんが真横まで来てしまった。
綺麗な黒髪を靡かせながら、わんこ先輩の話に相槌を打つ。
「おや。それは初耳ですね。私たちの中に、《女神様》と交流している人間はいないと思っていたのですが」
「今日、初めて……。ね?」
俺の方をちらりと見て、くしゃりと微笑んでくれた。
もう俺、この1時間ほどでギャップと癒しにメロメロですよ賢心先輩。俺をキュン死させる気ですか。一家に1わんこ欲しいですよ、いやガチで。
というか、“微笑み”というものも人によってこんなに違うんだなとか、ひねくれたことを考えながら副会長へと視線を向ける。
すると、ふっと副会長を纏っていた雰囲気が和らいだ。
「そうですか。初めて、ですか」
優しげな口調でそう呟く。なんだか感慨深そうな、不思議な言い方だった。
端正な顔立ちにその柔らかいながらも淡々としていて、まさにクールビューティという表現がぴったりの副会長さん。
腐界隈……特に王道学園モノでは“腹黒副会長”と決め打ちされているが、今の状態だと“腹黒”とはまだ決め難いところだ。少なくとも、仲間内に対しては優しそう。
「まぁ、揶揄うのもここまでにしましょう」
……ん? え。何? 揶揄われてたの、俺。
前言撤回。やっぱり腹黒いかもしれない。
苦笑いを浮かべる俺に、副会長さんは大変柔らかい微笑みを向けてきた。
それは、さっきまでと全く違うもので。
きらきらと、まるでおもちゃを見つけた子どものような表情で少し驚いた。
「今更ですが初めまして、《女神様》。生徒会副会長の姫川貴那と申します。以後、お見知りおきを」
「あ…初めまして。藤咲蒼葉です。どーぞよろしくお願いします…?」
「なぜ疑問形なのです?」
「…なんとなく?」
いや、よろしくするか?って思っただなんて、さすがにご本人様目の前にして言えねえわ。
真っ直ぐに向けられる視線を見返せずに若干目を伏せた俺に対して、目の前の人は特に気にした様子もなく。
むしろ、先程までよりも微妙に上がったように感じるトーンで言葉を紡いだ。
「まぁいいでしょう。貴方とはずっとお話してみたいと思っていたのですよ。我々は、貴方の── 《女神様》の来訪を心から歓迎致します」
「え、歓迎されるんですか。マジですか」
「何だか嫌そうですね。生徒会室へ訪れた際にそのような反応をされたのは初めてですよ。…興味深い」
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