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April

双子とわんこは癒し要員②

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 扉を押し開け現れたのは、双子とわんこ書記とマリモだった。
 4人は仲良さそうに喋りながら、奥のVIPルームに向かっている。


「双子とわんこだけって、なんか変な組み合わせやな?」
「確かにな。つーか、後のメンバーどこいった?」
「仕事してるんやろか?」
「それならそれでいいんだけどな」


 止めていた手を動かして、うどんを啜る。
 咀嚼しながら下を見ると、見上げていた瓶底眼鏡が反射した。
 驚いて固まると、唯一見えている口元がまあるく弧を描く。

 あ、やべぇ。嫌な予感。

 頭で理解する前に俺は動いた。
 食べ物を残すのは良くないけど、それよりここでマリモに捕まる方が良くない。これからの俺の学園ライフ的に良くない。

 そう思って、立ち上がった瞬間。


「蒼葉あー!!!!」


 マリモの声は食堂中に響き渡った。

 恐る恐る、マリモのいたところを見下ろす。
 しかしそこにいるのは、双子とわんこだけ。
 思わず陽希を見ると、その視線は階段の方を向いていた。

 しまった、と思ったがもう遅い。


「やっぱり蒼葉だ!! 朝振りだな!!」


 瞬間移動かと思うほどのスピードで目の前に現れたマリモ。

 え、マジでどういう状況?
 キミ、3秒くらい前まで下にいませんでしたっけ?

 ここなら大丈夫だと高を括っていた昨日の俺に、王道転入生の力を甘く見ちゃいけませんって言いたい。全くダメだった。


「今から、椛と楓と賢心と昼飯食うんだ!! 蒼葉も一緒に食おうぜ!!」


 驚き、動けずにいた俺の腕をマリモが掴む。
 そこでやっと、口が動いた。


「あーいや。俺もう食べ終わったから」
「何言ってんだ!? まだ残ってるじゃないか!! 食べ物を残すのは良くないんだぞ!」
「腹いっぱいなんだよ」
「なんでそんなこと言うんだよ!! オレたち親友だろ!?」


 でた。人類みな親友理論。
 今朝初めて喋った相手が昼には親友になるなんて、一体どんな思考回路なんだ。
 ってか、腹いっぱいだっつってるのに、親友だ、どうのこうのは関係ないだろ。

 助けを求めるつもりで陽希たちを見るが、2人とも目を逸らしてこっちを見てくれない。そりゃそうか。巻き込まれたくない気持ちはよく分かる。
 普通に食事を続けているようだが、でも陽希はどことなくソワソワしている。
 気にはなるけど関わりたくないといったところか。
 ここにナギがいなかったら大いに巻き込んでやるのに。くそっ!


「じゃ、そういうことなんで」


 2人を……というか、主にナギを巻き込まないために、俺は席を離れようと試みる。


「あ、待てよ蒼──」
「さっちゃん酷いよー!」
「よー!」
「きゅ……に、はしる……。びっくり……」
「椛! 楓! 賢心!」


 何とも最悪な展開になってきた。

 やっとのことでマリモに追いついたらしい3人の生徒会役員。
 階段を駆け上がってきたからか、少し息を切らしている可愛い双子庶務と、たどたどしく話すわんこ書記。
 俺にとっては、生徒会の癒し要員の3人だったりする。


「さっちゃんどうしたの?」
「したの?」


 双子は基本的に同じ動きをするが、よくよく見ると実は少し違う。
 先に話すのが兄の椛で、それを追いかけるように話すのが弟の楓だ。つまり、シンクロしていると言うよりは、お兄ちゃんの真似をしているような感覚。
 今も、2人は同じようにこてんと頭を傾ける。

 いやはや可愛い。
 これが1つ年下なだけなんて、年齢サバ読んでるんじゃないだろうかと疑いたくなる。


「蒼葉を見つけたからさ! あ、蒼葉って言うのはコイツだ! オレのクラスメートで親友なんだ!!」
「朔……の、しんゆ……う?」


 たどたどしいこの話し方。
 わんこ書記先輩、本当に可愛い。昨日も思ったけどなでなでしたくなる。
 先輩だし、生徒会だし、絶対にしないけど。


「学園では《女神様》って呼ばれてるんだって、巧が言ってたぞ!!」
「「あー!!」」


 双子が可愛いくりくりの瞳で俺を見つめた後、全く同じ反応で俺を指差して叫んだ。
 おぉ、今のは見事にシンクロしてたぞ。まるで双子みたいだ……って、双子だった。

 双子はもう片方の手をお口に手を当てて、目を丸くする。
 まったく、反応がいちいち可愛い。
 キミたち本当に高校男子ですか?


「知ってる!」
「学園の《女神様》!」
「「藤咲蒼葉!!」」
「2人も知ってるのか!! 蒼葉は有名人だな!!」


 有名になりたかったわけではないんですけどね。

 そう思いながら、目の前で繰り広げられるきゃっきゃしたやり取りをぼーっと眺める。
 今なら逃げ出せそうに思えるのだが、掴まれっぱなしの右腕のせいで逃げ出せない。
 振り払ってもいいけど、なんか痛いほどに掴まれているのでやめておいた。

 よくある王道設定に則ると、マリモはどこかの族の頭かなんかでくそ強いはずだし。
 ってかそもそも、それ関係の恨みとかでここに来てたりする設定のものもあったはず。復讐的な。
 ……俺自身に思い当たる節がなくもないので、下手に争いごとを起こして、正体がバレるようなことは避けたい。
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