冥府への案内人

伊駒辰葉

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四章

満ちていく刻

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 一面に順の写真の貼られた部屋で文江はいつものように快楽に溺れていた。数えるのもばからしいほどに幾度も絶頂に達しては激しい声をあげる。

 今日の文江は全身をロープで縛られていた。剥き出しになった乳房はロープに根元を絞られていつもより張りつめている。膝を折り曲げ、腿とふくらはぎは一緒にロープで縛ってある。足を縛るロープには別のロープが結わえられ、パイプベッドにくくりつけられている。そのため、文江の腿はずっと開きっぱなしだ。

 腕は背中に回して胴と一緒に縛られている。身動きのままならない格好で文江は悲鳴に似た声を上げた。尖りきった乳首は濡れて光っている。十二分に舐めて吸ったおかげで過敏になっているのだ。

 尖った乳首を指で乱暴に捏ねる。痛いくらいにつままれても文江は嫌がる声ひとつ上げない。それどころかうっとりと目を潤ませて腰をひくつかせる。噛ませたボール付きの口枷からは、既に涎が幾筋も伝っている。とても普段の文江からは想像出来ない姿だ。

 張りつめた乳房に押し込むように乳首を強く押さえつける。張りつめた乳房は指を動かすたびにゆらゆらと揺れる。苛立ちに任せて乳房を平手で叩く。すると文江はか細い悲鳴を上げて嫌がるように首を振った。どうやらまだ理性は残っているらしい。何度か叩くと白い肌に赤い手の跡がつく。

 ヘルコンダクターを使用すれば調教は可能だ。どんな人間でも簡単に性的な奴隷に変えることが出来る。それ故、ヘルコンダクターはとある方面の人々にはとても人気が高い。

 が、最大の弱点は即効性ではないことだ。完全に調教するには手間と暇がかかる。その手間隙を惜しんで奴隷を殺してしまったケースもあるという。もちろん、そのケースはほんの僅かだ。一番多いのは調教に失敗して対象が使い物にならなくなるケースだろう。

 濡れそぼったクリトリスを指で押し退ける。ベッドの上で開いたケースの中から細い透明な器具を取り上げる。こんなところで失禁されてはたまらない。それでなくともベッドは文江の淫水と汗でぐっしょりになっているのだ。

 極細の管を静かに尿道口に挿入する。何をされているか理解したのだろう。快楽の声を上げていた文江が大人しくなる。動けば怪我をすると先に脅しておいて正解だった。規定の位置まで管を入れ、小さなゴムポンプを握る。中が空洞のゴム球を何度か握るうちに細い管を薄い黄色の液体が流れてくる。断続的な声を漏らして文江が身震いする。放尿感に酔っているのだ。

 ベッドの下に据えた洗面器に尿が溜まっていく。調教を始めて一時間経っている。文江は相当に尿意を我慢していたようだ。丸く浅い洗面器の半分ほど溜まったところで尿は管から落ちなくなった。

 そっと管を引き抜いて専用のビニール袋に器具をしまいこむ。これらの器具は全て研究施設から支給されたものだ。まだ使ったことはないが、アタッシュケースの中にはろうそくや鞭まで入っている。

 文江がぼんやりとした目を天井に向ける。天井に貼られた写真を見止めた文江はうっとりとした面持ちで身震いした。放尿感が快楽に直結し、軽く達してしまったのだ。

 だが今日は文江には少し灸を据えなければならない。順とせっかく会えたというのに文江の態度は余りにも消極的過ぎた。それだからだろう。順はどうやらあらぬ誤解を抱いたようだ。

 ケースの中から浣腸器を取り上げる。微かな物音に気付いて文江が顔を戻す。その顔にほどなく驚愕の色が浮かぶ。既に文江の腸内は掃除してある。これ以上、浣腸したところで便は出てはこない。そのことを文江も理解しているのだろう。驚いたように浣腸器を見つめ、戸惑って視線を泳がせる。

 ケースには調教用の器具の他に硝子のシリンジや管瓶が入っている。表面に年月日と番号、アルファベットが振られているのは誤った使用を防ぐためだ。市販される類のものでないため、内容物を示す文字は全て手書きになっている。

 監視者と呼ばれる役割を持つ人間たちにまず最初に支給されるのがこれらの器具、薬剤の詰まったアタッシュケースだ。支給者は木村製薬。木村製薬は表向きはまっとうな製薬会社を営みながら、裏ではヘルコンダクターを始めとする特殊な薬剤を作っているのだ。

 順や都子を監視する役割を持つ者は数が非常に少ない。クリアしなければならない条件が厳しいのがその原因だ。本来ならもっと人員を派遣して手っ取り早く二人の周囲を固めてしまえばいいのだが、どうやら研究者たちはそれを効率的とは考えないようだ。出来るだけ自然な環境での二人の反応をみたい。それが研究者たちの望みだという。

 だが本当は研究者たちは二人の反撃を恐れているのではないか。今はまだ二人には自覚はないが、彼らは人ならぬモノで作られているのだ。人を超えた力を持っていても何ら不思議はない。だから研究者たちはデータが揃うまで二人をほぼ野放しにしているのではないか。それが監視者たちの間で囁かれている噂だ。

 もっと能率的に監視出来る環境は幾らでも整えられるのに。だが苛立ちに任せて考え続けてもろくな結果は出ない。そもそも監視者とは対象を監視していればいいだけの筈だ。なのにどうして監視以外のことをしているかと言えば。

 副業もけっこうな収入になるからだ。

 アタッシュケースから茶色い管瓶を取り上げる。浣腸器に中身を吸い上げる。茶色の瓶越しには色が判らなかったそれは、浣腸器に入ると白かったことが判る。管瓶に振られた番号を再度確かめ、浣腸器をおもむろに文江に向ける。

 窄まった菊座に浣腸器を押し付ける。ピストンを押すと浣腸器の中の溶液がゆっくりと減っていく。文江は目を見張って嫌がるように何度も首を横に振った。どうやら浣腸器に入れたものの正体に気付いたようだ。

 すぐに使い物になればいいのだが、そうもいかない。少なくとも文江を完全に調教するにはあとひと月はかかる。それまでのんびりと調教を続けるだけではつまらない。

 声にならない声を上げて文江が首を仰け反らせる。溶液を注ぎ込まれた文江の肛門はひくついている。経験のない快楽を感じているに違いない。文江の腸内に注いだのはヘルコンダクターだ。いつもなら膣内に入れるものを突然腸に注がれ、文江が喉の奥で叫ぶ。

 まだこれからだ。大きなパールビーズの連なるアナルバイブを取り上げて文江の肛門に押し当てる。腸壁から体内に吸収されたヘルコンダクターはきっといつもより文江を狂わせるに違いない。滑りを良くするためにパールビーズ全体にゼリーを塗布する。

 ひとつ、ふたつ。ゆっくりと数を数えながらパールビーズを肛門に押し込んでいく。腿を腹に触れるほど上げている文江の陰部は剥き出しになっている。最初は嫌がっていた文江もパールビーズが四つ腸内に納まる頃にはとろんとした顔つきになった。

 七つのパールビーズ全てが文江の腸内に納まる。コードの先にあるリモコンを操作した瞬間、文江は悲鳴を上げた。はしたない声を上げながら身体全体を大きく震わせる。アナルを攻められてあっけなく達してしまったのだ。

 アタッシュケースにしまいこまれた器具を使って文江に灸を据える。文江を虐めることは考えるよりはるかに強い快楽をもたらしてくれた。特にアナルバイブで肛門を攻めながら同時に膣を攻めた時は最高だった。文江はこれまでにない快楽を覚えたのか、拘束されているにも関わらず自ら腰を振っていた。前にも後ろにもヘルコンダクターを注がれ、訳が判らなくなるほどに感じた末、文江は失神した。

 外に出ると夏特有の生暖かい風が吹いていた。夜明け前の街は静まり返っている。指定時刻まであと少し。ケースの中の試験管には既に順の精液が詰められている。これも副業の一つだ。ヘルコンダクターの素となる順の精液は研究施設の連中が高値で買い取ってくれるのだ。

 夏を過ぎた頃には文江も使い物になる。それまでの辛抱だ。
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