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二章
ヘルコンダクター-1
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木村財閥の御曹司が家を飛び出したことはすぐに噂になった。だが木村家当主はそのことを大して気には留めなかった。それも当然だ。木村家当主にとって、それは実験の一環であり、息子が家を出ることなど最初から予測していたのだ。
結局、木村家の当主は噂を笑って否定した。いいえ、息子は留学中なのです。噂について問われるたび、木村家当主はそう言ってその場をごまかし続けた。中には木村を陥れるためにわざわざ海外に飛んで息子が在籍しているという大学に赴いた者もいるらしい。が、どういう訳かそんな真似をした者は悉く行方不明になったという。
恐らく木村家当主が裏で手を回したのだ。噂をしていた者たちは皆、口にはしないまでもそのことを理解した。やがて木村家当主を恐れた人々の手により噂は消され、それと同時に木村家の御曹司のことに誰も触れなくなった。
木村家当主は予定通り、息子に監視者を数名つけた。息子は巧妙に隠れたつもりなのかも知れないが、監視者にとって息子の行動は余りにも判り易すぎた。もし、本気で消息を絶つつもりであれば学校などに通ってはいけなかったのだ。
「ふっ、んふっ……んっ」
女が恍惚とした面持ちでため息のような声を漏らす。女の名は菅野文江。文江は大学で学生会の書記を務めている。文江は地味ながら容姿が整っているために男子学生には人気があるようだ。
淡い桃色のカーディガンをずらして柔らかなタートルネックのシャツをたくし上げる。文江は抵抗するでもなく、うっとりとした目でぼんやりと天井を見上げた。口許に淡い笑みを浮かべる文江の様子を男子学生が見たら驚くかも知れない。彼らは結局のところ学内の文江しか知らず、こうして快楽に耽る緩みきった表情など見たことはないのだ。
この部屋の天井と壁は全て写真で埋め尽くされている。大小様々の写真に写っているのは木村財閥の御曹司、木村順の裸体だ。隠し撮りのためにピントはずれている物が多いが、引き伸ばせばそれなりに見られるものになる。文江は部屋に入った時からずっと写真に囲まれているのだ。
写真の中の順はどれも硬い表情をしている。金のためとは言え、慣れないモデルのバイトをしている最中なのだからそれも当然かも知れない。だが、その理由を抜きにしても順は殆ど笑うことがないのだ。
自分が生まれてきた本当の理由を知ったあの日から、順は自然に笑うことは殆どなくなった。それでもあの家でじっと我慢し続けたのは妹の都子が居たからだろう。事実、他人を拒絶するようになった後も、順は都子にだけは自分から話し掛けていたという。だが残されたデータで判ることはごく限られている。何故、順が大学受験の後に家を出たのか、その理由についてはどこにも記されてはいない。
己が人とは異なる存在だと知る気分はどんなものだろう。木村家の当主は幼い順にあえて真実を報せることを選んだ。そのことによって性格形成にどのような影響が出るのかの実験をした。そしてその実験はそれまでテストの結果が芳しくなかった順の能力向上の目的も兼ねて行われた。
その筈だった。実験はある意味で失敗したのだ。
実験体である順と都子には定期的にテストが行われる。全身麻酔をかけた状態で行われるために本人たちは何をされているか感知は出来ない。木村家当主が事実を明かした後も順のテストの結果はその前と変わりはしなかったのだ。
「くふっ! あっ、ふっ、ああん!」
先ほどより幾分か強い声を上げて文江が仰け反る。たくしあげたシャツの下で文江の乳首はかたくしこっていた。下着をつけていない乳房を両手に掴み、指の間に乳首を挟む。人差し指と中指で乳首を挟んで捏ねると文江は更に強い声を上げた。
誘うように文江が肩越しに振り返る。強引に頭を押さえて前を向かせてから乳房を強くつかむ。
最初、文江はこの部屋に入ることすら激しく抵抗した。男子学生たちが好いた純真無垢な文江は間違いなく実在していたのだ。が、文江はとある時を境にあっけなくその意志を翻した。
実験体である順のテストと都子のそれでは少々内容が異なっている。順は失敗作であり、都子が初めての成功例だからだ。それ故、都子に対しては決して行われることのないテストも順には行われる。その内の一つが両者の繋がりがどこまで強いのかを知るためのテストだ。
順と都子を作る際に素材とされたものは同じモノだ。彼らには意図的にヒトではないモノが混ぜられている。違うのはその比率なのだ。
全身麻酔を施されていても順は非常に敏感に都子の気配を察知したという。平たく言えば、都子の体液の匂いに必要以上に反応するのだ。特に順が過敏に反応するのは都子の愛液だという。その匂いを感じ取れば意識があろうがなかろうが、順の男性器は強く反応し、ちょっとした刺激で射精に至る。
その性質を逆手に取り、木村家の当主は反抗しようとした順を脅した。その効果は抜群で順はそれきり反抗することを諦めたかに見えた。
だが順は失踪した。いや、当人は確かに失踪したと思っているのだ。
「ふぅんっ! ふぁっ……うん。くふぁあん!」
身体を震わせて文江が声を上げる。片方の乳房をつかんだまま、スカートの中に手を入れる。ショーツの底は既にぐっしょりと濡れており、女性器は浮き彫りになっている。下から上に股間をなぞり、尖りきったクリトリスをつつくと文江は泣いているような声を上げて背中を大きく反らした。
ヒトではあり得ないモノ。当時、そう言われていたモノは今は研究者の間で龍神と呼ばれている。が、龍神についてはまだ判らないことばかりで、その正体は到底解明には至っていない。
だが一つだけはっきりしていることがある。順が都子の体液に狂わされるように、龍神のそれは人の意志を大幅に狂わせてしまうのだ。
結局、木村家の当主は噂を笑って否定した。いいえ、息子は留学中なのです。噂について問われるたび、木村家当主はそう言ってその場をごまかし続けた。中には木村を陥れるためにわざわざ海外に飛んで息子が在籍しているという大学に赴いた者もいるらしい。が、どういう訳かそんな真似をした者は悉く行方不明になったという。
恐らく木村家当主が裏で手を回したのだ。噂をしていた者たちは皆、口にはしないまでもそのことを理解した。やがて木村家当主を恐れた人々の手により噂は消され、それと同時に木村家の御曹司のことに誰も触れなくなった。
木村家当主は予定通り、息子に監視者を数名つけた。息子は巧妙に隠れたつもりなのかも知れないが、監視者にとって息子の行動は余りにも判り易すぎた。もし、本気で消息を絶つつもりであれば学校などに通ってはいけなかったのだ。
「ふっ、んふっ……んっ」
女が恍惚とした面持ちでため息のような声を漏らす。女の名は菅野文江。文江は大学で学生会の書記を務めている。文江は地味ながら容姿が整っているために男子学生には人気があるようだ。
淡い桃色のカーディガンをずらして柔らかなタートルネックのシャツをたくし上げる。文江は抵抗するでもなく、うっとりとした目でぼんやりと天井を見上げた。口許に淡い笑みを浮かべる文江の様子を男子学生が見たら驚くかも知れない。彼らは結局のところ学内の文江しか知らず、こうして快楽に耽る緩みきった表情など見たことはないのだ。
この部屋の天井と壁は全て写真で埋め尽くされている。大小様々の写真に写っているのは木村財閥の御曹司、木村順の裸体だ。隠し撮りのためにピントはずれている物が多いが、引き伸ばせばそれなりに見られるものになる。文江は部屋に入った時からずっと写真に囲まれているのだ。
写真の中の順はどれも硬い表情をしている。金のためとは言え、慣れないモデルのバイトをしている最中なのだからそれも当然かも知れない。だが、その理由を抜きにしても順は殆ど笑うことがないのだ。
自分が生まれてきた本当の理由を知ったあの日から、順は自然に笑うことは殆どなくなった。それでもあの家でじっと我慢し続けたのは妹の都子が居たからだろう。事実、他人を拒絶するようになった後も、順は都子にだけは自分から話し掛けていたという。だが残されたデータで判ることはごく限られている。何故、順が大学受験の後に家を出たのか、その理由についてはどこにも記されてはいない。
己が人とは異なる存在だと知る気分はどんなものだろう。木村家の当主は幼い順にあえて真実を報せることを選んだ。そのことによって性格形成にどのような影響が出るのかの実験をした。そしてその実験はそれまでテストの結果が芳しくなかった順の能力向上の目的も兼ねて行われた。
その筈だった。実験はある意味で失敗したのだ。
実験体である順と都子には定期的にテストが行われる。全身麻酔をかけた状態で行われるために本人たちは何をされているか感知は出来ない。木村家当主が事実を明かした後も順のテストの結果はその前と変わりはしなかったのだ。
「くふっ! あっ、ふっ、ああん!」
先ほどより幾分か強い声を上げて文江が仰け反る。たくしあげたシャツの下で文江の乳首はかたくしこっていた。下着をつけていない乳房を両手に掴み、指の間に乳首を挟む。人差し指と中指で乳首を挟んで捏ねると文江は更に強い声を上げた。
誘うように文江が肩越しに振り返る。強引に頭を押さえて前を向かせてから乳房を強くつかむ。
最初、文江はこの部屋に入ることすら激しく抵抗した。男子学生たちが好いた純真無垢な文江は間違いなく実在していたのだ。が、文江はとある時を境にあっけなくその意志を翻した。
実験体である順のテストと都子のそれでは少々内容が異なっている。順は失敗作であり、都子が初めての成功例だからだ。それ故、都子に対しては決して行われることのないテストも順には行われる。その内の一つが両者の繋がりがどこまで強いのかを知るためのテストだ。
順と都子を作る際に素材とされたものは同じモノだ。彼らには意図的にヒトではないモノが混ぜられている。違うのはその比率なのだ。
全身麻酔を施されていても順は非常に敏感に都子の気配を察知したという。平たく言えば、都子の体液の匂いに必要以上に反応するのだ。特に順が過敏に反応するのは都子の愛液だという。その匂いを感じ取れば意識があろうがなかろうが、順の男性器は強く反応し、ちょっとした刺激で射精に至る。
その性質を逆手に取り、木村家の当主は反抗しようとした順を脅した。その効果は抜群で順はそれきり反抗することを諦めたかに見えた。
だが順は失踪した。いや、当人は確かに失踪したと思っているのだ。
「ふぅんっ! ふぁっ……うん。くふぁあん!」
身体を震わせて文江が声を上げる。片方の乳房をつかんだまま、スカートの中に手を入れる。ショーツの底は既にぐっしょりと濡れており、女性器は浮き彫りになっている。下から上に股間をなぞり、尖りきったクリトリスをつつくと文江は泣いているような声を上げて背中を大きく反らした。
ヒトではあり得ないモノ。当時、そう言われていたモノは今は研究者の間で龍神と呼ばれている。が、龍神についてはまだ判らないことばかりで、その正体は到底解明には至っていない。
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