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ナイトプール

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 スイートルームのベッドでうつらうつらするという極上の時間を過ごし、気が付くと少し日が傾いていた。

(悠馬はホントに私の胸が好きなんだね)

 子供の頃から変わらない。いつもふくらみに顔を埋めてくる。甘えられているようで、かわいい。それはこんな王子様になっても変わることはない。

(でも、いつかは他の子と……)

 玲子さんはああ言ってくれたけど、自信が持てない。悠馬が大学に行けば、モテないわけがない。他大学からもきれいな女の子が殺到するだろう。

(そうなったら、私は捨てられるのかな……)

 なんだか悶々としてしまう。悠馬の寝顔を見ていたら涙ぐんでしまった。

「あれ、どうしたの?」

 パッチリと目を開いた悠馬が驚いた顔をした。

「何でもないよ……」
「だって」
「大学生になった悠馬が私を置きざりにして、ほかの女の子と遊びに行っちゃうのが頭に浮かんで寂しくなったの。こんなのも、もうすぐなくなっちゃうのかな、って」

 悠馬がギュッと抱きしめてきた。

「まだ、そんなこと言ってるの?オレが信じられない?」
「そんなことないけど、女子は不安になるのよ」
「ねえ、もしかしてオレのこと好きになってくれた?」
「……うん。好きだから不安なの」

 思わず素直な言葉が出た。

「じゃあさ、オレはどうすればいい?」
「悠馬は今のままでいいよ」

 四時を過ぎて、影が長くなってきた。

「そろそろ行こうか」
「うん、そうだね」

 隣の部屋で水着を着る。今日までムダ毛の処理に時間を掛けてきた。

(はみ出してないよね)

 鏡も使ってチェックする。彼氏ができれば、いままで見せなかったところを見られるかもしれない。これは気を遣う。

(よし、大丈夫)

 プールガウンを着て部屋から出ると、悠馬が待っていた。

「行こう」
「うん」

 プールサイドまでの通路が、少し長く感じられた。心臓の音がこめかみに響く。ぱあっと明るくなって、青い水面が見えた。悠馬はパッとガウンを脱いで、白いプールサイドチェに投げた。

(うわ)

 なんて美しい肉体だろう。まったく無駄のない上半身。腹筋が六つに割れている。すらりと細くしかし、しっかり筋肉の付いた手足。そして……
 シンプルな競泳用の黒い水着。その下腹部は水着の上からでも大きく盛り上がっているのがわかる。

(お、大きい)

 思わず息を呑んでしまった。

「さくら」
「あ……」
「どこ見てるの?」
「え、い、いや」

 思わず焦りまくる私。

「早くガウンを脱ぎなよ」
「う、うん」

 悠馬に背を向けて、おずおずと脱ぐ。ブルーを基調としたボタニカル柄の水着が現れた。

「はい、こっち向いて」
「う、うん」

 恥ずかしくて、両手をどこに置いていいのかわからない。

「さくら、すごくきれいだよ」
「そ、そうかな」
「細いところは細くて、丸いところは丸くて」

 思わず胸を隠す。

「ほらほら、隠さない」
「だ、だって……」
「さくら、かわいい」

 うれしいけど。

「さ、泳ぐよ」
「うん」

 二人でシャワーを浴びる。悠馬の筋肉は濡れると余計に艶っぽくなった。それを見て体全体が熱くなる。私だって女だ。性欲だってある。
 悠馬が水に飛び込む。

「来て」

 悠馬が手を広げているあたりに私も飛び込む。

(あっ)

 硬い。健康な男の肉体にすっぽりと包まれて、守られているという実感がすごく心地いい。

(幸せだな)

 だからこそ、それを失うのが怖いのだ…。
私も悠馬も水泳は割と得意で、しばらくは思い切り泳いだ。
 ふと気が付くと黄昏が迫り、ライトが付いた。プールの底が抜けるように青い。
 いったん、水から上がり、ガウンを着た。飲み物とスナックを注文してチェアーで休む。

「オレ、すごく楽しい。さくらに思い切り甘えられてうれしい」
「なんか、私の方が甘えてる感じだけど」
「そんなことないよ。でもさ、オレ何にも不安は無いな。大学入試も絶対合格する。キャンパスをさくらと手をつないで歩く。卒業して会社を継ぐ」
「大した自信だね」
「うん。だってその未来には、いつもさくらがいて癒してくれるから。それがイメージできるから」
「え?あ、ありがとう」

 そんな重大なことを、力みもせずに当たり前のように言う。すごいと思った。自分の未来がしっかりと守られているというのはなんと心強いのだろう。
 真っ青なプールに再び入る。空を見上げるとすっかり暮れている。温水と悠馬の体温に包まれている。目を閉じると、二人して羊水に浮かぶ胎児のように思えた。きっと生まれる前から一緒だった、そういう気がした。

 私たちはプールから上がり、部屋に戻った。

「一緒にシャワーを浴びよう」

 もう、そんなことも拒む気にはならなかった。成長してからは初めて見るお互いの体。薄紅色の私の乳首は、はっきりと立ち上がっていた。
 お互いをいつくしむように体を洗い、バスローブを着て部屋に戻る。そこには松花堂弁当が用意されていた。若い健康な二人があれだけ運動したのだ。お腹が空かないわけがない。

「オレ、和食が好きだから……。フランス料理の方が良かった?」
「ううん、これすごく美味しい」
「これを食べたら帰ろう、今日は」
「うん」

 デザートのメロンまで厳選されたという感じで、本当に素晴らしい夕食だった。

「ねえ、さくら」
「なに?」
「オレに痕跡を残してもいいよ」
「え?」
「ほらここに」

 悠馬は自分の胸元を指差した。いままでの私だったら絶対にやらなかっただろう。でも、その時は理性が少し麻痺していた。
 少しふらつきながら近づくと、示された場所に唇を当てた。

「思い切り吸って」

 言われるままに、強く吸い付いた。

「もっと強く」
「んんっ」

 そこには赤紫色の痕が残った。

「内出血しちゃった……」
「これで、オレはさくらのもの。その証明だよ」
「でも高校生なのになんでそんなこと知ってるの?」
「だってクラスの奴ら、みんなやってるよ。男子が彼女に付けることが多いけどね」
「ひ、ひえぇ」
「さ、そろそろ時間だ。迎えが来てるから行こう」
「うん」
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