32 / 47
浅川 由梨花
ストレス
しおりを挟む
「……始まった」
一生の思い出に残る新婚旅行から一年とちょっとが過ぎた。私たちは日常生活に戻ったが、穏やかで充実した時間を過ごしていた。
結婚してから、二人の間で大きくなってきた気持ち……。
「赤ちゃんが欲しい」
こう言っては失礼だが利光さんも若いとは言えない。今は元気でも、後々のことを考えれば早い方が良い気がする。
夫婦の数だけ価値観がある。子どもができることだけが幸せではないと思う。でも私たちはそれを望んだのだ。
私は本を読み、基礎体温を付け始めた。あの年にしてはモンスター級のパワーを秘めた利光さんが相手なら、授かるまでにそんなに時間はかからないと思っていた。
しかし……
望むとなかなかできない。今月もまた始まってしまった。
「今月も来ちゃった」
俯きながら利光さんに報告する。
「そうか」
「ごめんね」
「由梨花が謝ることじゃないだろう」
なんだか泣きたくなった。
「なあ、プレッシャーがかかりすぎると却って良くないのかもしれないよ。もう少し気楽にいこうよ」
「うん」
「いつか来てくれるよ」
「だといいんだけど」
久しぶりに実家に帰って、母に話を聞いてもらった。
「それは、そんなに焦ってもだめよ。なるようになるから」
「そうかな……」
「昔は子どもができないのは妻が悪いと言われたけど、いまはそんな時代じゃないわ」
「今度、二人で診察を受けてみようかな」
「まあ、それで気が楽になるなら、いいんじゃない」
「最近、赤ちゃんを抱いたママを見るとなんか胸が苦しくて」
「ちょっと、大丈夫?追い詰められてない?ストレスが一番良くないのよ」
「うん」
ある日、社長室に呼ばれた。
「藤木君、仕事の方はどうだ?」
「はい、特に変わりは」
「就職してから五年近く同じ部署にいるわけだが、何か思うことはないか?」
「と、言いますと」
「別の部署に移ってリフレッシュしたいとか?」
「私は社長秘書にはふさわしくないということですか?」
社長はため息をつき、父親の顔になった。
「そうではない。母さんから話を聞いて、少し気分転換するのもいいかな?と思ったまでだ」
「ごめんなさい」
「思い切って本社を離れてみるか?」
「え、異動ってこと?」
「ま、その気があればだが、少しのんびりした環境で仕事するのもいいかもしれないぞ」
しかし、利光さんと離れてしまっては最優先するべきことが余計困難になってしまう。
「利光さんと別居は困る」
「そんなことは言っていないよ」
「心配かけてごめんなさい。でも大丈夫」
その夜、利光さんと話をした。
「そうか、社長も心配しているんだな」
「私、そんなに追い詰められてるように見える?」
「まあね。だけど由梨花はまだ二十七だろ?まだ全然焦る必要はないよ」
「そうなんだけど」
「ごめんな、ぼくの年齢を気にしてくれてるんだよな」
「そんなことないけど」
利光さんはニヤリと笑った。
「知ってる?精子は子宮の中で二日くらいは生きているんだ」
「そ、そうなの?」
「だから、昨夜ぼくから旅立っていった可愛い精子ちゃんは、まだここで生きているのさ」
そう言いながら、私の下腹部を撫でる。
「や、やめてよ、恥ずかしい」
「つまり、授かるチャンスは思ったよりずっと多いんだよ。だからもっと気楽にいこうよ」
「うん」
「ところで、今日の基礎体温は?」
「まだ低温期」
利光さんの目が獰猛に光った。
「チャンスじゃないか」
「そうだけど、利光さんの体力は大丈夫なの?」
「全然問題ないよ」
昨夜もあれだけ燃えたのに。まさにモンスターだ。
「じゃ、お手柔らかに」
「ま、母体優先。由梨花の体が壊れちまったら、なんにもならないからな」
「こ、壊さないでよ」
「はいはい。可愛い奥さん」
そして耳元でささやく。
「シャワー浴びておいで。あ、一緒に行く?」
「いえ、一人で」
「それじゃ待っているから」
「うん」
一生の思い出に残る新婚旅行から一年とちょっとが過ぎた。私たちは日常生活に戻ったが、穏やかで充実した時間を過ごしていた。
結婚してから、二人の間で大きくなってきた気持ち……。
「赤ちゃんが欲しい」
こう言っては失礼だが利光さんも若いとは言えない。今は元気でも、後々のことを考えれば早い方が良い気がする。
夫婦の数だけ価値観がある。子どもができることだけが幸せではないと思う。でも私たちはそれを望んだのだ。
私は本を読み、基礎体温を付け始めた。あの年にしてはモンスター級のパワーを秘めた利光さんが相手なら、授かるまでにそんなに時間はかからないと思っていた。
しかし……
望むとなかなかできない。今月もまた始まってしまった。
「今月も来ちゃった」
俯きながら利光さんに報告する。
「そうか」
「ごめんね」
「由梨花が謝ることじゃないだろう」
なんだか泣きたくなった。
「なあ、プレッシャーがかかりすぎると却って良くないのかもしれないよ。もう少し気楽にいこうよ」
「うん」
「いつか来てくれるよ」
「だといいんだけど」
久しぶりに実家に帰って、母に話を聞いてもらった。
「それは、そんなに焦ってもだめよ。なるようになるから」
「そうかな……」
「昔は子どもができないのは妻が悪いと言われたけど、いまはそんな時代じゃないわ」
「今度、二人で診察を受けてみようかな」
「まあ、それで気が楽になるなら、いいんじゃない」
「最近、赤ちゃんを抱いたママを見るとなんか胸が苦しくて」
「ちょっと、大丈夫?追い詰められてない?ストレスが一番良くないのよ」
「うん」
ある日、社長室に呼ばれた。
「藤木君、仕事の方はどうだ?」
「はい、特に変わりは」
「就職してから五年近く同じ部署にいるわけだが、何か思うことはないか?」
「と、言いますと」
「別の部署に移ってリフレッシュしたいとか?」
「私は社長秘書にはふさわしくないということですか?」
社長はため息をつき、父親の顔になった。
「そうではない。母さんから話を聞いて、少し気分転換するのもいいかな?と思ったまでだ」
「ごめんなさい」
「思い切って本社を離れてみるか?」
「え、異動ってこと?」
「ま、その気があればだが、少しのんびりした環境で仕事するのもいいかもしれないぞ」
しかし、利光さんと離れてしまっては最優先するべきことが余計困難になってしまう。
「利光さんと別居は困る」
「そんなことは言っていないよ」
「心配かけてごめんなさい。でも大丈夫」
その夜、利光さんと話をした。
「そうか、社長も心配しているんだな」
「私、そんなに追い詰められてるように見える?」
「まあね。だけど由梨花はまだ二十七だろ?まだ全然焦る必要はないよ」
「そうなんだけど」
「ごめんな、ぼくの年齢を気にしてくれてるんだよな」
「そんなことないけど」
利光さんはニヤリと笑った。
「知ってる?精子は子宮の中で二日くらいは生きているんだ」
「そ、そうなの?」
「だから、昨夜ぼくから旅立っていった可愛い精子ちゃんは、まだここで生きているのさ」
そう言いながら、私の下腹部を撫でる。
「や、やめてよ、恥ずかしい」
「つまり、授かるチャンスは思ったよりずっと多いんだよ。だからもっと気楽にいこうよ」
「うん」
「ところで、今日の基礎体温は?」
「まだ低温期」
利光さんの目が獰猛に光った。
「チャンスじゃないか」
「そうだけど、利光さんの体力は大丈夫なの?」
「全然問題ないよ」
昨夜もあれだけ燃えたのに。まさにモンスターだ。
「じゃ、お手柔らかに」
「ま、母体優先。由梨花の体が壊れちまったら、なんにもならないからな」
「こ、壊さないでよ」
「はいはい。可愛い奥さん」
そして耳元でささやく。
「シャワー浴びておいで。あ、一緒に行く?」
「いえ、一人で」
「それじゃ待っているから」
「うん」
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる