純情可憐な社長令嬢はイケオジ弁護士に溺れていく

芦屋 道庵 (冷月 冴 改め)

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浅川 由梨花

ストレス

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「……始まった」

 一生の思い出に残る新婚旅行から一年とちょっとが過ぎた。私たちは日常生活に戻ったが、穏やかで充実した時間を過ごしていた。
 結婚してから、二人の間で大きくなってきた気持ち……。

「赤ちゃんが欲しい」

 こう言っては失礼だが利光さんも若いとは言えない。今は元気でも、後々のことを考えれば早い方が良い気がする。
 夫婦の数だけ価値観がある。子どもができることだけが幸せではないと思う。でも私たちはそれを望んだのだ。
 私は本を読み、基礎体温を付け始めた。あの年にしてはモンスター級のパワーを秘めた利光さんが相手なら、授かるまでにそんなに時間はかからないと思っていた。
 しかし……
 望むとなかなかできない。今月もまた始まってしまった。

「今月も来ちゃった」

 俯きながら利光さんに報告する。

「そうか」
「ごめんね」
「由梨花が謝ることじゃないだろう」

 なんだか泣きたくなった。

「なあ、プレッシャーがかかりすぎると却って良くないのかもしれないよ。もう少し気楽にいこうよ」
「うん」
「いつか来てくれるよ」
「だといいんだけど」

 久しぶりに実家に帰って、母に話を聞いてもらった。

「それは、そんなに焦ってもだめよ。なるようになるから」
「そうかな……」
「昔は子どもができないのは妻が悪いと言われたけど、いまはそんな時代じゃないわ」
「今度、二人で診察を受けてみようかな」
「まあ、それで気が楽になるなら、いいんじゃない」
「最近、赤ちゃんを抱いたママを見るとなんか胸が苦しくて」
「ちょっと、大丈夫?追い詰められてない?ストレスが一番良くないのよ」
「うん」

 ある日、社長室に呼ばれた。

「藤木君、仕事の方はどうだ?」
「はい、特に変わりは」
「就職してから五年近く同じ部署にいるわけだが、何か思うことはないか?」
「と、言いますと」
「別の部署に移ってリフレッシュしたいとか?」
「私は社長秘書にはふさわしくないということですか?」

 社長はため息をつき、父親の顔になった。

「そうではない。母さんから話を聞いて、少し気分転換するのもいいかな?と思ったまでだ」
「ごめんなさい」
「思い切って本社を離れてみるか?」
「え、異動ってこと?」
「ま、その気があればだが、少しのんびりした環境で仕事するのもいいかもしれないぞ」

 しかし、利光さんと離れてしまっては最優先するべきことが余計困難になってしまう。

「利光さんと別居は困る」
「そんなことは言っていないよ」
「心配かけてごめんなさい。でも大丈夫」

 その夜、利光さんと話をした。

「そうか、社長も心配しているんだな」
「私、そんなに追い詰められてるように見える?」
「まあね。だけど由梨花はまだ二十七だろ?まだ全然焦る必要はないよ」
「そうなんだけど」
「ごめんな、ぼくの年齢を気にしてくれてるんだよな」
「そんなことないけど」

 利光さんはニヤリと笑った。

「知ってる?精子は子宮の中で二日くらいは生きているんだ」
「そ、そうなの?」
「だから、昨夜ぼくから旅立っていった可愛い精子ちゃんは、まだここで生きているのさ」

 そう言いながら、私の下腹部を撫でる。

「や、やめてよ、恥ずかしい」
「つまり、授かるチャンスは思ったよりずっと多いんだよ。だからもっと気楽にいこうよ」
「うん」
「ところで、今日の基礎体温は?」
「まだ低温期」

 利光さんの目が獰猛に光った。

「チャンスじゃないか」
「そうだけど、利光さんの体力は大丈夫なの?」
「全然問題ないよ」

 昨夜もあれだけ燃えたのに。まさにモンスターだ。

「じゃ、お手柔らかに」
「ま、母体優先。由梨花の体が壊れちまったら、なんにもならないからな」
「こ、壊さないでよ」
「はいはい。可愛い奥さん」

 そして耳元でささやく。

「シャワー浴びておいで。あ、一緒に行く?」
「いえ、一人で」
「それじゃ待っているから」
「うん」
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