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結婚式
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一月、年が明けた吉日に、私たちは結婚式を挙げた。
ここまでは本当に大変で、クリスマスも年末年始もくつろいだ感じがしなかった。
おまけに入院騒動まで重なり、利光さんも疲れたと思う。
でも苦労した甲斐があって、思い出に残る式になった。
利光さんは顔が広く、その人脈は弁護士としての実力と信頼を感じさせた。表に出た時の利光さんは、妻の私がうっとりとしてしまうほど、大人で素敵な男性だった。
(まったく、あのブラック利光はどこに隠れているのよ)
内心いまいましい気持ちになるが、それも私にだけ見せる一面だと思えば優越感も感じる。
(あんな野獣のような顔は誰も知らないもの)
ん?
(もしかして知ってる?)
テーブルの上にちょこんと置かれた、小さなウサギのぬいぐるみに目で問いかけた。もちろんウサギは何も言わない。
こんなことしない方がいいのかなあ、と迷った。でも、なんとなく彼女に一緒にいてほしかった。
「あら由梨花、相変わらずカワイイもの好きだね」
大学時代の友人が話し掛けてきた。ウサギを横目で見ている。
「ねえ、旦那様を紹介して」
「うん」
「夫の利光です。由梨花がいつもお世話になっております」
「まあ由梨花から聞いた通り、素敵な方ですね。でも、正直言って、由梨花は大人の男性にはちょっと物足りないんじゃありません?」
「そんなことありませんよ」
「だって学生時代、セクシーな動画を見ても全然興味が無くて、しらーっとしているんですよ。もうびっくりしちゃった」
「いやいや、由梨花はこう見えて、とても上手なんですよ。私は年甲斐もなく張り切ってしまうんです」
「え、何にも知らなかった由梨花が?」
「はい、最高のパートナーです」
「どうして?いつの間に?」
友人は驚愕の表情を浮かべている。
「調教されちゃったの、旦那様に」
「ちょ、調教って」
「まあ、ぼくが一方的にじゃなくて、お互いに研究していますけどね」
「そ、そう……。それは新しい愛のカタチね」
少し羨望の色を浮かべて友人は離れて行った。
「ああ、少し酔いが回ったとはいえエロ夫婦をさらけ出してしまったわ」
「まったくだ」
「あの子、大学時代は私よりずっと経験豊富で、彼氏も何人もいた。でも今はずっとレス状態なんだって」
「それで、ぼくたちに皮肉を言いに来たのか」
「うん。でも運命なんてわからないね」
テーブルの上の白いウサギは必死に笑いをこらえているように見えた。
久しぶりに利光さんのご両親に会った。
「釧路は寒いけど、いまが一番きれいなんですよ。湿原にツルがたくさんいて、鳴くたびに白い息を吐くんです」
「わあ行ってみたいです」
「今度ぜひいらしてください。札幌より十度くらい気温が低いですけど」
その一言で、私は震え上がった。
「そうだな。釧路から札幌に戻ると暖かいな、と思うよ」
利光さんは、そんな街で育ったんだね。
「由梨花さん。利光は年取ってから淋しいんじゃないかと心配していたんです。でもこれで安心です。親として思い残すことはありません」
「一所懸命支えていきます」
「お願いします」
兄夫婦が来ていた。奥さんの絵美さんは赤ちゃんを抱いている。
「かわいい」
「でしょ」
「私、ママになりたいし、彼をパパにしてあげたい」
「うん、きっとなれるよ」
絵美さんは幸せなママの顔をしている。
「赤ちゃん育てるって、すごく大変。でも、楽しいよ。ちょっと目を離すともう違う顔をしているんだよ。その瞬間の顔は二度と見られない。だから一瞬も目が離せないんだ」
「そうなんだ」
その時、赤ちゃんが泣き始めた。顔を真っ赤にしている。
「ああ、泣いちゃった」
「いいのよ。泣くことは赤ちゃんの運動なの。こうやって全身を震わせてエクササイズしているんだよ」
「そうなんだ。でもこの小さな体で、すごいパワーだね」
「私もそう思う」
誰もが私たちを祝福してくれている。
テーブルの上の、あの小さなウサギも楽しんでくれたかな?
ここまでは本当に大変で、クリスマスも年末年始もくつろいだ感じがしなかった。
おまけに入院騒動まで重なり、利光さんも疲れたと思う。
でも苦労した甲斐があって、思い出に残る式になった。
利光さんは顔が広く、その人脈は弁護士としての実力と信頼を感じさせた。表に出た時の利光さんは、妻の私がうっとりとしてしまうほど、大人で素敵な男性だった。
(まったく、あのブラック利光はどこに隠れているのよ)
内心いまいましい気持ちになるが、それも私にだけ見せる一面だと思えば優越感も感じる。
(あんな野獣のような顔は誰も知らないもの)
ん?
(もしかして知ってる?)
テーブルの上にちょこんと置かれた、小さなウサギのぬいぐるみに目で問いかけた。もちろんウサギは何も言わない。
こんなことしない方がいいのかなあ、と迷った。でも、なんとなく彼女に一緒にいてほしかった。
「あら由梨花、相変わらずカワイイもの好きだね」
大学時代の友人が話し掛けてきた。ウサギを横目で見ている。
「ねえ、旦那様を紹介して」
「うん」
「夫の利光です。由梨花がいつもお世話になっております」
「まあ由梨花から聞いた通り、素敵な方ですね。でも、正直言って、由梨花は大人の男性にはちょっと物足りないんじゃありません?」
「そんなことありませんよ」
「だって学生時代、セクシーな動画を見ても全然興味が無くて、しらーっとしているんですよ。もうびっくりしちゃった」
「いやいや、由梨花はこう見えて、とても上手なんですよ。私は年甲斐もなく張り切ってしまうんです」
「え、何にも知らなかった由梨花が?」
「はい、最高のパートナーです」
「どうして?いつの間に?」
友人は驚愕の表情を浮かべている。
「調教されちゃったの、旦那様に」
「ちょ、調教って」
「まあ、ぼくが一方的にじゃなくて、お互いに研究していますけどね」
「そ、そう……。それは新しい愛のカタチね」
少し羨望の色を浮かべて友人は離れて行った。
「ああ、少し酔いが回ったとはいえエロ夫婦をさらけ出してしまったわ」
「まったくだ」
「あの子、大学時代は私よりずっと経験豊富で、彼氏も何人もいた。でも今はずっとレス状態なんだって」
「それで、ぼくたちに皮肉を言いに来たのか」
「うん。でも運命なんてわからないね」
テーブルの上の白いウサギは必死に笑いをこらえているように見えた。
久しぶりに利光さんのご両親に会った。
「釧路は寒いけど、いまが一番きれいなんですよ。湿原にツルがたくさんいて、鳴くたびに白い息を吐くんです」
「わあ行ってみたいです」
「今度ぜひいらしてください。札幌より十度くらい気温が低いですけど」
その一言で、私は震え上がった。
「そうだな。釧路から札幌に戻ると暖かいな、と思うよ」
利光さんは、そんな街で育ったんだね。
「由梨花さん。利光は年取ってから淋しいんじゃないかと心配していたんです。でもこれで安心です。親として思い残すことはありません」
「一所懸命支えていきます」
「お願いします」
兄夫婦が来ていた。奥さんの絵美さんは赤ちゃんを抱いている。
「かわいい」
「でしょ」
「私、ママになりたいし、彼をパパにしてあげたい」
「うん、きっとなれるよ」
絵美さんは幸せなママの顔をしている。
「赤ちゃん育てるって、すごく大変。でも、楽しいよ。ちょっと目を離すともう違う顔をしているんだよ。その瞬間の顔は二度と見られない。だから一瞬も目が離せないんだ」
「そうなんだ」
その時、赤ちゃんが泣き始めた。顔を真っ赤にしている。
「ああ、泣いちゃった」
「いいのよ。泣くことは赤ちゃんの運動なの。こうやって全身を震わせてエクササイズしているんだよ」
「そうなんだ。でもこの小さな体で、すごいパワーだね」
「私もそう思う」
誰もが私たちを祝福してくれている。
テーブルの上の、あの小さなウサギも楽しんでくれたかな?
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