純情可憐な社長令嬢はイケオジ弁護士に溺れていく

芦屋 道庵 (冷月 冴 改め)

文字の大きさ
上 下
26 / 47
浅川 由梨花

薔薇と花瓶

しおりを挟む
 私たちの結婚式は、年が明けてすぐ、浅川ロイヤルホテルで執り行われることになった。
結婚式の次の週末には、札幌の法律事務所の人たちがパーティを開いてくれるそうだ。
 今日は式の衣装合わせに来ている。

「まあ、よくお似合いですわ。奥様は肌がお綺麗なので背中が開いたドレスがよろしいかと」

 ちょ、ちょっと、そんなこと言われて、急に恥ずかしくなってきた。
 救いを求めて利光さんを見ると

「露出多めのほうがいいんじゃない?」

とか言って涼しい顔をしている。

(まったく……)
 
 内心、憮然としていると

「あ、やっぱりそれはやめましょう。他の男に妻の肌を見せたくないんで」

 あ、余計恥ずかしいじゃない……

「まあまあ、旦那様は独占欲がお強いようで。それならば、こちらの少し大人しめのデザインにいたしましょう。それからお色直しは二回と聞いておりますが」

 ええっ、二回もやるの?

「まあ、しょうがないよ。超大手企業・浅川物産のお嬢様の結婚式だ。招待客は三百人以上だと聞いたよ。宴会場を三室ブチ抜きで天井からゴンドラで降り立つ演出もあるんだろ?そこで熱烈なキスを……」
「ああっ、もうやめて……」

 これって罰ゲームなの?

「まあ、ぼくは二度目だからね。こんな華やかなのはちょっと気が引けるけど」
「全然気にすることない。この恥ずかしさに二人で耐えよう。でも、ドレスは露出控えめに賛成してくれてありがとう」
「ああ、あれね。背中とか胸元とか広いと、痕が見えちゃうかもしれないと思って。最近ちょっと付け過ぎちゃったからな」

 へ、ヘンタイ……

「式まで実家に帰らせていただきます」
「そんなに怒るなって。由梨花だって嫌いじゃないだろ?」
「もう、知らない」
「今度から、内腿とか見えないところにするからさ」
「バカ」

 その晩、紅い薔薇を買って、あの花瓶に生けた。
 リビングの出窓に置いた薔薇からはとてもいい香りがした。
 利光さんは書斎で仕事をしている。
 心の中で語り掛ける

(ねえ、綺麗だね、香りもいいし)
(もうすぐ式を挙げるのよ)
(私、しあわせになっていいかな?)
(利光さんをしあわせにしてあげていいかな?)

 ミシリと音がした。
 はっ、振り返るが誰もいない。
 私は薔薇に視線を戻した。
 と、その時。
 薔薇の花がひとつ、ポロリと落ちた。
 まるで首を刎ねられたかのように。

(え……)

 呆然とする私の目の前で、さらに異変が起こった。
 まるで毒液を浴びせられたかのように、茎から葉から茶色に変色し、みるみる萎れていった。花も真っ黒になり、下に落ちる。
 何者かの悪意、いや殺意を感じた。

「だ、だれ?」
(やっぱり許してくれないの?)

 周りの温度がどんどん下がっていく。首筋に冷たいものが触れた瞬間、声を振り絞って、絶叫した。

「いやあ、た、す、け、てー!」

 後ろから誰かが抱き着いてくる。

「お願い、離して」
「由梨花、どうした」

 利光さんの声が聞こえた。
 気が付くとベッドの中だった。

(夢だったのか)
「怖い夢を見たのか?」

 頷きながら、涙を流す。

「私たち、結婚しない方がいいのかもしれない」
「どうした、急に」
「だって、薔薇が」
「薔薇がどうしたって?」

 リビングの花瓶のところに行くと、そこには美しく咲く花と、得も言われぬ香りが漂っていた。

「夢の中でね、見る見るうちに枯れていってしまったの。幸せになっちゃいけない、って言われてるような気がして」
「は?」
「利光さんを返せって」

 利光さんが呆れた顔をした。

「ぼくの前の奥さんのこと、そんなふうに思わないでほしいな。彼女は決して由梨花を傷つけたりしない」
「だって」
「現に、薔薇だってこんなに生き生きとしてるじゃないか」
「私の心が、あの夢を見せたと言うの?」

 利光さんが柔らかく笑った。

「まるで神隠しのように何かが無くなることがある。そんな時思うんだ。ああ、自分の身代わりになって消えてくれたんだって。それが何かはわからないけど、魔がさすということがあるんだよ。事故だったり、病気だったり、夫の浮気だったり」
「えっ!」
「まあ最後のは冗談だけど。夢の中で枯れていった薔薇は、きっと由梨花の身代わりになって守ってくれたんだよ。そう思えばいいじゃないか」
「うん」
「あと、美雪は由梨花が大好きだ」
「わかるの、そんなこと?」
「わかる」

 利光さんはキッパリと言い切った。

「そうでなければ背中を押してくれなかったさ」
「背中を押す?」
「顧問弁護士の話が出て迷っている時、行けって言ったんだ、夢の中で。その後も何度も押された」

 不思議な話ではある。しかし私たちは護られている。そんな気がした。
 一週間ほどして、薔薇の花は力尽きて散っていった。
 花瓶から茎を抜いた時、あるものに気付いた。

(発根してる!)

 根元に細い根がひょろりと生えていた。この花瓶の中でパワーを受け、命をつないだのだ。
 さっそく鉢植えにしよう。そうすれば、あの美しい花が蘇るだろう。
 応援してるよ、ふそんな声が聞こえたような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...