純情可憐な社長令嬢はイケオジ弁護士に溺れていく

芦屋 道庵 (冷月 冴 改め)

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浅川 由梨花

婚約指輪

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 キッチンから音が聞こえてくる。

(うーん。利光さん、もう起きたんだ)

 いけない、寝過ごした。起き上がろうとしたが、下腹部に鈍い痛みを感じ、しかも下半身に力が入らない。

(腰が抜けちゃった)

 何度かもがいたが、結局立ち上がれず、あきらめてゴロリとしてしまった。

(昨夜は大変だったからなあ。疲れちゃった)

 利光さんから全身を愛撫され、何度も達しそうになった。ところがその直前に手を引込められてしまう。どうして止めるの、と抗議しても、笑ってはぐらかす。
 息も絶え絶えになって、ようやくひとつになれた時は、日付が変わっていた。少し痛かったが、十分に潤っていたことと、結ばれる喜びが大きかったので深い幸福感に包まれた。それからも甘い刺激が続き、ついに抱き潰されて意識を失ったのだ。
 改めて自分の体を見ると、赤い痕跡が、舞い散る花びらのようだ。いかに濃密な夜だったかがわかる。
 下着を着けているということは、利光さんが拭き清めて穿かせてくれたのだろう。

(やだ、恥ずかしすぎる)

 全身が真っ赤になるのを感じた。

(利光さんに朝ごはん作らせちゃった。早く起きなくちゃ)

 必死になって上半身を起こした時、利光さんが入って来た。

「お、おはようございます、利光さん」
「ん、おはよう?」

 なぜか利光さんが苦笑している。

「ごめんなさい、朝ごはん作ってもらっちゃって。すぐ起きますね」

 必死に立ち上がったが、足がもつれる。

「大丈夫?昨夜は由梨花が初めてだということを忘れて夢中になってしまった。もう少し手加減すれば良かった」

 ちょっと上目遣いに言った。

「ぜひお願いします。体が持ちません。利光さんは疲れてないのですか?」
「うん、全然平気」

 二十歳も年上なのに涼しい顔で笑っている。なんだか心配になって来た。私はこれから、利光さんの夜の相手が務まるのだろうか?

「由梨花は白くてフワフワしてて、反応も最高に良かった。これからも楽しみだ」
「あ、あの、休みの前だけにしてもらえませんか?これでは次の日、仕事に行けません」
「すまなかったね。これから気をつけるから」

 優しく髪を撫でられ、胸がいっぱいになる。

(しあわせだ)

「さ、シャワーを浴びておいで。上がってきたら、ザンギでビールでも飲もう」
「え、いま何時ですか?」
「五時だけど」
「そんなに朝早くからビールを?」
「いや、夕方の五時なんだけど」
「え、ええっ」

 ようやく、事態が飲みこめた。私は日曜日、一日中眠りこけていたということだ。

「す、すみません!」
「いいから、いいから」

 利光さんが作ってくれたのは、タコと鶏もも肉のザンギ、色どりの良い野菜サラダ、それからカリッと焼いたバゲット。まずはビールで乾杯する。

「あー、美味しい」
「今日は何も食べてないから、お腹が空いただろ?」
「利光さん、買い物にも行ってくれたんですか?」
「うん、由梨花が寝てる間にね」
「す、すみません」
「ま、札幌で休みの日は自炊することもあるから」
「仕事の日は?」
「居酒屋かな?」
「だから、それはいけませんって」
「はい、気を付けます」

 タコのザンギ、初めての味だ。

「ん、柔らかい」
「だろ?」

 鶏肉よりジューシーで、程よい歯ごたえだ。確かに美味しい。料理の腕もなかなかのものだ。またひとつ利光さんのことを知ったような気がしてうれしかった。
 
「今度札幌に行った時、釧路からうちの親を呼ぶつもりだ。一緒に行ってくれるね?」
「は、はい」
「それから小樽の女将さんや、事務所の仲間にも報告しようと思う。で、その前にすることがある。明日、仕事は定時で上がれるかな?」
「たぶん、大丈夫」
「じゃ、指輪を見に行こう。婚約指輪」
「え……」

 不意打ちに目をパチパチさせる。

「ま、ゆうべ身も心も結ばれたわけだし」
「ちょ、ちょっと……」
「あれ、照れてるの?」
「あ、当り前じゃない」
「あんなに感じていたのに?」
「もう、あんまり意地悪すると怒るわよ……」

 翌日、仕事が終わった後に、利光さんと私は銀座のジュエリーショップに出向いた。利光さんが予約を入れておいたらしく、すぐに小部屋に通された。
 
「由梨花、こんなのはどう?」
「すてき……」

 利光さんが提案してくれたのは、とても洗練されたデザインのダイヤモンドの指輪だった。

「こちらはいま、とても人気のデザインです。ただ石が大きいというのではなく、カットグレードとポリッシュ、シンメトリーの全てがエクセレントの評価で、トリプルエクセレントと呼ばれています。また、石の中にはハートや矢の形が見える、ハート&キューピッドで、非常に高い品質です。透明度はD、透明度はFLと、最高の評価です。旦那様は見る目がおありですね」
「愛する女性のために必死で勉強しました」
「まあ」
「私の方が一目ぼれして、命がけで口説き落としました。もう何度断られたかわかりません」
「奥様もお幸せですね」
「え、ええ、本当に」

 よくもまあ、そんな作り話ができたものだ。
 でも悪い気はしない。

「ありがとう、利光さん」
「どういたしまして。次は結婚指輪。いつかはエタニティリング。それまで生きていたいな」
「どうしてそんなこと言うんですか?」
「だって、すでにおじさんだから」
「そんなこと関係ありません。私のために長生きしてもらわなくては困ります」
「そうか、頑張るよ。ありがとう、由梨花」
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