上 下
11 / 41

この夜

しおりを挟む
 私の実家は利光さんの訪問を受けて、お祭り騒ぎとなった。会社で頻繁に会っている父はともかく、母は利光さんのイケメンぶりに、ぽーっとなったようだ。
 兄は唯一、ちょっと厳しい考えを持っていて、妹が傷つくような話なら壊してやろうと思っていたらしい。しかし実際に話すうち利光さんの誠実さがわかったらしく、しばらくすると和やかに談笑するようになった。兄の奥さんは、完全に目がハート型になっていた。
 
「北海道の方のお口に合うかどうか……」
「いえ、やっぱりお寿司は東京が本場ですよね。まず、シャリが全然違います。それに鮪や鯛、そして穴子はさすが豊洲、という感じです」

 そんなことを言いながら、お昼に出されたお寿司を上品に完食した。

(さすが弁護士、会話力は半端じゃないわ)

 手土産の「豹屋」の羊羹が出されて、女性陣の称賛はより大きくなった。

「おいしい」
「上品な味だわ」
「やっぱり本物は違うね」
「その甘味は和三盆を使っているのですよ。小豆はもちろん、北海道の十勝産です」

 その巧みなスピーチに誰もが聞き惚れてしまう。
 そして、その時はやってきた。利光さんが居ずまいを正す。予期して待っていたであろう私の家族も真顔になった。

「由梨花さんと私は、二十も年が離れています。しかも私は妻と死別しております。本来なら、このようなお願いはするべきではないのかもしれません。しかし上京中、由梨花さんに栄養のサポートなどしていただき、忘れかけていた温かさを思い出しました。そばに誰かがいるって、いいなと。もう一度家庭を持ちたい、その気持ちが抑えられなくなりました。どうか、由梨花さんとの結婚をお許しください」

 父が言った。

「利光さんは、由梨花のどこが好きですか?」
「心の大きさ、深さでしょうか」
「ほう……」
「由梨花さんが札幌に来た時、私は亡き妻との思い出の場所で妻と決別しようとしました。由梨花さんが見ている前で」

 家族はみな、息を呑んでいる。

「そのとき、由梨花さんは言ってくれたんです。人の心はそんなに変わるものではない。いまあるがままの貴方が好きだと」
「由梨花、お前はいいのか?無理をしていないのか?」
「はい。私は小樽で美雪さんの話をいっぱい聞いて、その夜に美雪さんと話ができたような気がしました。とてもすてきだと思った、美雪さんも利光さんも。お父さんもそのために行かせたのでしょう?」
「そうだ。本当のことを知った方が良いと思ったからだ。そのうえで本人たちが惹かれ合うのなら
それは運命だと思ってな」

 父は利光さんの方を向いた。

「つい最近まで、娘は本当に子供だった。もちろん、そういう育て方をしたのが悪いのですが。でも、ほんの少しの間に目を見張るような成長をしました。それも利光さんに出会ったおかげです。もう二人のことを反対できる者など誰もいません。利光さん、娘のこと、よろしくお願いします」

 そう言いながら父は頭を下げた。

「ありがとうございます」
「ありがとう、お父さん」

 一大イベントが終わり、私たちは帰路についた。マンションが近づくにつれ心臓の鼓動が強くなる。そして二人とも無口になっていた。
 実家でかなり食べたので、夕食は軽いつまみとサラダ、そしてワインをグラス二杯。もう緊張で体が凝り固まっている。

「シャワーを浴びておいで」.

 利光さんが優しく言った。頷いてバスルームへ向かう。

(あ……)

 お腹の中から溢れてくるものがある。利光さんが上京するまでの間、私なりに準備をした。アダルト動画を観てみた。

(すごい……)

 大学の友達と観た時は何も思わなかったのに、いまはわかるような気がする。
 なぜあんなに体が跳ねるのか。なぜ、あんな声が出るのか。
 思い切って、指で触れてみたら、体に電流が走ったような気がした。

(利光さんのことを思うと、それだけで敏感になる)

 利光さんが札幌にいる時は、毎晩自分の指で敏感な部分に触れていた。

(ああ、気持ちいい)

 利光さんと同居してからは今夜こそと期待していたが、利光さんは私の両親に挨拶するまでは、ということだったのだろう、私を抱こうとはしなかった。
 そのぬくもりに幸せを感じつつも、そのじれったさは甘い拷問だった。

 シャワーを終えると、入れ替わりに利光さんが入って行った。
 待っている時間が無限に思われた。乳房が張っている。

(早く来て、利光さん)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

秘密 〜官能短編集〜

槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。 まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。 小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。 こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...