純情可憐な社長令嬢はイケオジ弁護士に溺れていく

芦屋 道庵 (冷月 冴 改め)

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浅川 由梨花

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(あったかい。すごく気持ちいい)

 冷え性の私は手足の冷たさを感じ、夜明けに目覚めてしまうことも多かった。
 ああ、天国みたい。夢うつつのうちに寝返りを打とうとすると、何かが手に当った。
 うーん、うっすら目を開けると、目の前に利光さんの顔があった。

「え?」

 同じ布団に入り、温みに誘われて近づき、自分で抱きついたようだ。これはちょっと恥ずかしすぎる。離れようとモゾモゾすると、利光さんの目がパッチリ開き、グイッと引き寄せられた。

「あ……」
「逃がさないよ」
「起きてたんですか?」
「なんとなく、ね」

 恥ずかしい、でもうれしい……

「私、冷え性なんで、もうあったかくて天国みたいです」
「あったかい?そうか。でも、素肌が触れ合うのは、また全然違うよ」

 ああ、もうめまいがする。悔しいけど、この経験値の差はどうにもならない。

「緊張してる?」
「は、はい。初めてなんで……」
「それじゃやっぱり、今夜からは向こうで寝るよ」
「意外と意地悪ですね、利光さん」

 あれ、何を言ってるの?

「もうこんな快眠を味わってしまったら、一人でなんか寝られませんよ」
「そうなの?でも、そのうち寝不足になっちゃうかもよ」
「どうしてですか?」
「一晩中寝かさないからさ」
「ええっ!」

 心臓が破裂しそうだ。利光さん、本当はエロい人だったの?

「ああ、いまから今夜が待ち遠しい」
「なんか、怖いです」
「怖くなんかないさ。ただひとつ怖いものがあるとすれば……」
「なんですか?」
「君に溺れていく自分自身さ」

 思わずプッと吹き出してしまった。

「おかしいか?」
「だって、いつも真面目そうなのに、あまりに豹変するから」
「ふふふ」
「やだ……」
「豹変だって?まだまだ、こんなもんじゃないよ」

 利光さんの方を向く。私の顔が、ちょうど利光さんの顎の下に収まるような感じで、すごく落ち着く。直接、視線が絡まないのが逆にいいのかもしれない。で、これが服を着ていない状態だったら、いったいどんな光景が見えるのだろう。

 「ここ、特等席です」

 美雪さんも自分の特等席があったんだろうな。

「トースト焼けましたよ」

 出勤前、朝食もキチンと摂ってもらわなければ。一鉢の野菜サラダは、なかなか良い色どりだ。それと、ハムエッグとコーヒー。ハムエッグはちょっと熱を入れすぎたけど、今日は許してもらおう。

「朝食はちゃんと食べてたんですか?」
「いや、コーヒーだけ……」
「やっぱり、そうでしたか」

 思わずため息が出る。

「これからは、そうはいきませんよ」
「はいはい」

 今日は、利光さんと出勤する。利光さんにはタクシーチケットが支給されていた。もともと、そういう契約になっていた。
 会社に着くと、まず社長に面会した。
 私はすっかり秘書モードになっている。

「では先生、これからは、社内のそれも同じフロアにいて下さるのですね」
「はい」
「それは何より。予防法務という点から、相談したいことは山ほどあるので」
「はい、ご期待にそえるよう全力を尽くします。まずは特許関連の見直しをしようかと」
「よろしくお願いします。浅川君、お部屋にご案内して」
「かしこまりました」

 私は誇らしい気持ちでいっぱいだった。

「こちらです」

 役員用よりは少しだけ狭いが、誰も使ったことのないまっさらな部屋だ。想像だが秘書課長クラスのための部屋なのではないか。

「いやあ、素晴らしい部屋ですね。ここなら秘密保持という点でも最適だ」
「デスクと椅子は、札幌の事務所にあるものと同等のものを用意しました。型番が新しいものに変わっていますが」
「うん、申し分ありません。仕事がはかどりそうです」

 さっそく資料の整理を始めた利光さんに熱意が感じられて、とても嬉しかった。

「どうだ、先生は。新しい部屋は気に入ってもらえたか?」
「はい、とても良い、と言ってくれました」
「それはなにより」

 社長は父親の顔になった。

「どうだ、うまくやっていけそうか?」
「うん、大丈夫だと思う。きっと利光さんを幸せにできると思う」
「してもらうんじゃなくて?」
「私が幸せにするわ」
「偉いな、由梨花は」
「そう?」
「そのうち、家に連れて来てくれ。母さんや光一たちも会いたくて仕方ないんだ」
「利光さんも同じ気持ちだと思う、きっと」

 
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