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二十五歳、社長令嬢

ドールズキャンプ

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 シオリに「もうひとつの仕事」について説明しよう。

「今、時間ある?」
「……はい」
「じゃ、付いて来て」

 近くのパーキングに停めた高級ワンボックスカーに案内する。

「どうぞ」

 後部座席に乗るよう促す。続いて私も乗り込んだ。走行中、女が逃走を企てケガをしないよう、ドアはロックされている。

「出してくれる?」

 運転席の女が頷き、滑るように発進させた。

「あ、あの……」
「心配しなくていいのよ。悪いようにはしないから。話を聞いてイヤなら帰っても構わない」
「はい……」

 二十分ほど走ってベイエリアのマンションに到着した。ひっそりと地下駐車場に降りて行く。

「さあ、着いたわ。降りて」
「は、はい」

 緊張で少しよろけながら付いて来る。暗い地下駐車場に、ぽっかり明るい一角があった。エレベーターの脇のテンキーにパスワードを入力すると、すうっ、とドアが開いた。

「乗って……どうしたの?」
「こ、怖い」

 地獄への扉のように思うのだろう。足がガクガクしている。今更ながら来たことを後悔しているのかも知れない。

「言ったでしょ、悪くしないから」

 震える身体をドンと押し込む。

「ああっ……」

 上昇するエレベーターでニ十二階で止まる。シオリを促して降り立つと、そこは広々としたロビーだった。三十階建てのニ十二階以上は専用エレベーターでしか上がって来られない。乗るには十四桁のパスワードの入力が必須なのだ。

「ようこそ、ドールズキャンプへ」
「ここは……?」

 不安気にあたりを見回している。

「まず、あなたの仕事について話しておくわね。あなたは高級娼婦になるのよ。ここではドールと呼ばれている」
「高級……娼婦?……ドール?」

 小首を傾げ、小声でつぶやく。

「そう、高級娼婦ドールよ」
「娼婦って……ここで客を取るんですか?」

 私はふふっと笑い、

「ううん、全然別の場所よ」
「それなら、ここは?」
高級娼婦ドールたちの住居兼、トレーニング施設よ」
「トレーニング、って?」

 少し心配そうな顔をする。

「だって高級娼婦ドールは、世界でも有数のセレブを相手にするんだもの。ボディ、ベッドマナー、テクニック、その全てをプロ仕様に磨き上げる必要があるのよ」
「はあ……」

 まだ釈然としていない感じだが、

「さあ、シオリの部屋に行ってみよう」

 再びエレベーターに乗り、ニ十七階に昇る。ニ十六階以上の居住スペースは落ち着い色調で静けさが保たれていた。

「ここよ」

 シオリに用意された部屋は2LDK。広いリビングやパウダールーム、キングサイズのベッドが入った寝室。そしてジャグジー付きのバスルーム。ウオークインクローゼットには、高級なランジェリーやウエアが溢れている。

「ドレスと靴はサイズを確認してから改めて準備するから」
「す、すごい……」

 シオリは目を見張っている。

「どう、住むところも無い訳だし、悪い選択じゃないでしょ?もちろん、食事も摂れるわよ」
「素晴らしいけど、家賃が……」

 哀しげに俯く。

「それはタダよ」
「え……」
「だって、高級娼婦ドールをお客様に提供することで稼がせてもらってるんだから、当然の投資よ」

 そう、あなたは商品なのよ。口には出さないけれど。

「それじゃ、トレーニングエリアの見学よ」
「はい」
「その前にトレーニングウエアに着替えてくれる?クローゼットにあるわ」

 それはごく薄いヨガウェアだった。トップスもレギンスもぴっちりと身体に密着し、ボディラインが露わになる。

「あ、下着も取って直に着てね」
「え……は、はい」

 脱衣室に行こうとするシオリを呼び止める。

「ここで着替えて」
「で、でも……」
「なにビビってるのよ。これから身体を売って生きて行くんでしょ?イヤなら帰ってもいいのよ」

 哀しげな表情を見せたが、ノロノロと服を脱ぎ始めた。金も住む家も無いという現実はもちろんあるだろう。しかしそれ以上に、内面に隠された性欲と好奇心がシオリを動かしているのだ。なにせ大好きなセックスで稼げるのだから。
 下着姿になったところでシオリを止める。

「まっすぐ立って」

 商品であるボディをチェックする。経営者としては当然だ。いかにも洗いざらしの下着がシオリの現状を示していた。

 (続く)
 
 
 
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