若様の餌係

竹輪

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鬼の慕情編

その二十

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「風花。俺が苦労して従兄と接触しようとしていたのは知っているよな?」

「はい……風花はお手伝いも出来ず、情けないばかりでした」

「雄飛の結界は強固なものでな。その名前や情報を掴むのに雄飛の力を弱らせる方法しかなかった」

「はあ」

「そうしないと接触して話すら出来んからな。だが、そろそろいい頃だろうと思うと雄飛の守りの力が復活する。俺は二度もその機会を逃した」

「……??」

「……ここまで言ってもわからないか?」

「あのね、風花かざばなちゃん……たぶん、若君が言いたいのは……風花ちゃんがせっかく若君が弱らせた雄飛君の結界を復活させて風花ちゃんが若君の邪魔してたってことじゃないかな……」

「へっ……??じゃ……じゃま??」

「それと、お前、雄飛に下らん術を掛けたよな?」

「……それは。ゴメンナサイ……うう」

「よくもまあ、俺をずぶ濡れに……」

パクパクと口を開けたり閉めたりしかできん……。藤が心底憐れなものを見るような眼で私を見ている。

まさか……

この若様の餌係が

若様命の風花が

若様にご迷惑をかけるとは……

が、

が、

がーーーーーーーーん

「若君、風花ちゃん、白目むいて魂抜けてますけど?」

「……はあ。ほっとけ。このくらいの事すぐ忘れる。アホだからな」

「ほっといても大丈夫なの?なんか、ブツブツ言ってるよ?」

「いいか、お前らこの際だから言っておくがこいつに惚れるならそれ相当の覚悟を持てよ」

「それは、俺を倒していけ的な感じで?」

「はっ! そんなわけあるか! そのうち分かるわ! この俺の血のにじむような努力を! このトラブル背負ってやってくるこいつの事がな!」

「そんなに言ったら風花が可哀想だよ。弱らせるしか方法がなかったとしても俺にとっちゃ体の調子も悪くさせる酷い方法だよな?」

「……」

「風花、聞こえる? うちに行こう? 野菜をご馳走してあげるよ。いつもみたいに犬の姿になれる?抱っこしてあげるよ」

放心していると雄飛が声をかけてくれた。しかし、雄飛、悪いのは風花なのである。その優しさが辛いのだ。

「はあ……」

若様が深ーいため息を吐いた。うう、情けないがこのロングブレスを私は何度も吐かせている。

「おい、獣体に戻れ。俺の懐に入れて連れて行ってやる」

若様の声で涙がぶわりと溢れた。すぐさまコギツネの身体に戻り、その懐に潜り込んだ。

若様、

若様、

ゴメンナサイ。

震えながら言った小さな声を拾ってくれたようで布越しに若様がポンポンと体を落ち着かせるようにそっと叩いてくれた。

「このくらいで愛想は尽かさん。落ち着け」

ぶっきらぼうにそう言われて更に涙をそそる。若様の最大級の優しい言葉である。

「わ、若様あああああああ! ズビー!!」

「こら、ちょっと、まて! 止めろ! ティッシュを使え!!」

しかし胸元を濡らし、鼻水だらけにした私は結局若様に大目玉を食らった。

そうこうしている内に雄飛の家に到着する。鉄鼠から連絡がないので何事もない筈だと皆が思っていた。

……だが。

「なにこれ!? ひどい事しやがる!」

真っ先に声を上げたのは藤だ。

店の奥、いつももみっちがお茶をしているテーブルには湯気の立った湯呑が置かれていた。

その奥の壁には……

鉄鼠がネズミの姿のままだらりと足を垂れたまま、釘で腹を貫かれて吊るされていた。
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