20 / 28
鬼の慕情編
その二十
しおりを挟む
「風花。俺が苦労して従兄と接触しようとしていたのは知っているよな?」
「はい……風花はお手伝いも出来ず、情けないばかりでした」
「雄飛の結界は強固なものでな。その名前や情報を掴むのに雄飛の力を弱らせる方法しかなかった」
「はあ」
「そうしないと接触して話すら出来んからな。だが、そろそろいい頃だろうと思うと雄飛の守りの力が復活する。俺は二度もその機会を逃した」
「……??」
「……ここまで言ってもわからないか?」
「あのね、風花かざばなちゃん……たぶん、若君が言いたいのは……風花ちゃんがせっかく若君が弱らせた雄飛君の結界を復活させて風花ちゃんが若君の邪魔してたってことじゃないかな……」
「へっ……??じゃ……じゃま??」
「それと、お前、雄飛に下らん術を掛けたよな?」
「……それは。ゴメンナサイ……うう」
「よくもまあ、俺をずぶ濡れに……」
パクパクと口を開けたり閉めたりしかできん……。藤が心底憐れなものを見るような眼で私を見ている。
まさか……
この若様の餌係が
若様命の風花が
若様にご迷惑をかけるとは……
が、
が、
がーーーーーーーーん
「若君、風花ちゃん、白目むいて魂抜けてますけど?」
「……はあ。ほっとけ。このくらいの事すぐ忘れる。アホだからな」
「ほっといても大丈夫なの?なんか、ブツブツ言ってるよ?」
「いいか、お前らこの際だから言っておくがこいつに惚れるならそれ相当の覚悟を持てよ」
「それは、俺を倒していけ的な感じで?」
「はっ! そんなわけあるか! そのうち分かるわ! この俺の血のにじむような努力を! このトラブル背負ってやってくるこいつの事がな!」
「そんなに言ったら風花が可哀想だよ。弱らせるしか方法がなかったとしても俺にとっちゃ体の調子も悪くさせる酷い方法だよな?」
「……」
「風花、聞こえる? うちに行こう? 野菜をご馳走してあげるよ。いつもみたいに犬の姿になれる?抱っこしてあげるよ」
放心していると雄飛が声をかけてくれた。しかし、雄飛、悪いのは風花なのである。その優しさが辛いのだ。
「はあ……」
若様が深ーいため息を吐いた。うう、情けないがこのロングブレスを私は何度も吐かせている。
「おい、獣体に戻れ。俺の懐に入れて連れて行ってやる」
若様の声で涙がぶわりと溢れた。すぐさまコギツネの身体に戻り、その懐に潜り込んだ。
若様、
若様、
ゴメンナサイ。
震えながら言った小さな声を拾ってくれたようで布越しに若様がポンポンと体を落ち着かせるようにそっと叩いてくれた。
「このくらいで愛想は尽かさん。落ち着け」
ぶっきらぼうにそう言われて更に涙をそそる。若様の最大級の優しい言葉である。
「わ、若様あああああああ! ズビー!!」
「こら、ちょっと、まて! 止めろ! ティッシュを使え!!」
しかし胸元を濡らし、鼻水だらけにした私は結局若様に大目玉を食らった。
そうこうしている内に雄飛の家に到着する。鉄鼠から連絡がないので何事もない筈だと皆が思っていた。
……だが。
「なにこれ!? ひどい事しやがる!」
真っ先に声を上げたのは藤だ。
店の奥、いつももみっちがお茶をしているテーブルには湯気の立った湯呑が置かれていた。
その奥の壁には……
鉄鼠がネズミの姿のままだらりと足を垂れたまま、釘で腹を貫かれて吊るされていた。
「はい……風花はお手伝いも出来ず、情けないばかりでした」
「雄飛の結界は強固なものでな。その名前や情報を掴むのに雄飛の力を弱らせる方法しかなかった」
「はあ」
「そうしないと接触して話すら出来んからな。だが、そろそろいい頃だろうと思うと雄飛の守りの力が復活する。俺は二度もその機会を逃した」
「……??」
「……ここまで言ってもわからないか?」
「あのね、風花かざばなちゃん……たぶん、若君が言いたいのは……風花ちゃんがせっかく若君が弱らせた雄飛君の結界を復活させて風花ちゃんが若君の邪魔してたってことじゃないかな……」
「へっ……??じゃ……じゃま??」
「それと、お前、雄飛に下らん術を掛けたよな?」
「……それは。ゴメンナサイ……うう」
「よくもまあ、俺をずぶ濡れに……」
パクパクと口を開けたり閉めたりしかできん……。藤が心底憐れなものを見るような眼で私を見ている。
まさか……
この若様の餌係が
若様命の風花が
若様にご迷惑をかけるとは……
が、
が、
がーーーーーーーーん
「若君、風花ちゃん、白目むいて魂抜けてますけど?」
「……はあ。ほっとけ。このくらいの事すぐ忘れる。アホだからな」
「ほっといても大丈夫なの?なんか、ブツブツ言ってるよ?」
「いいか、お前らこの際だから言っておくがこいつに惚れるならそれ相当の覚悟を持てよ」
「それは、俺を倒していけ的な感じで?」
「はっ! そんなわけあるか! そのうち分かるわ! この俺の血のにじむような努力を! このトラブル背負ってやってくるこいつの事がな!」
「そんなに言ったら風花が可哀想だよ。弱らせるしか方法がなかったとしても俺にとっちゃ体の調子も悪くさせる酷い方法だよな?」
「……」
「風花、聞こえる? うちに行こう? 野菜をご馳走してあげるよ。いつもみたいに犬の姿になれる?抱っこしてあげるよ」
放心していると雄飛が声をかけてくれた。しかし、雄飛、悪いのは風花なのである。その優しさが辛いのだ。
「はあ……」
若様が深ーいため息を吐いた。うう、情けないがこのロングブレスを私は何度も吐かせている。
「おい、獣体に戻れ。俺の懐に入れて連れて行ってやる」
若様の声で涙がぶわりと溢れた。すぐさまコギツネの身体に戻り、その懐に潜り込んだ。
若様、
若様、
ゴメンナサイ。
震えながら言った小さな声を拾ってくれたようで布越しに若様がポンポンと体を落ち着かせるようにそっと叩いてくれた。
「このくらいで愛想は尽かさん。落ち着け」
ぶっきらぼうにそう言われて更に涙をそそる。若様の最大級の優しい言葉である。
「わ、若様あああああああ! ズビー!!」
「こら、ちょっと、まて! 止めろ! ティッシュを使え!!」
しかし胸元を濡らし、鼻水だらけにした私は結局若様に大目玉を食らった。
そうこうしている内に雄飛の家に到着する。鉄鼠から連絡がないので何事もない筈だと皆が思っていた。
……だが。
「なにこれ!? ひどい事しやがる!」
真っ先に声を上げたのは藤だ。
店の奥、いつももみっちがお茶をしているテーブルには湯気の立った湯呑が置かれていた。
その奥の壁には……
鉄鼠がネズミの姿のままだらりと足を垂れたまま、釘で腹を貫かれて吊るされていた。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる