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ガイに向かって魔法を放出していたメイジーが嗚咽を漏らしだしたのが後ろに聞こえた。上位種たちが魔獣になってしまいそうなガイを拘束している。どうやら剣を抜かないことには直接ガイに魔法は届かないようだ。
「ヒクッ……こ、んな筈じゃなかったの……。 私は……ヒクッ……こんなこと、望んで無かった。これからの地獄の日々を考えたら、ガイ様の『運命の番』になったらどんなに幸せかって……」
「メイジー! 貴方は、口を慎みなさい!」
懺悔しだしたメイジーはカタカタ震えていた。義母はそんなメイジーに腹を立てて声を荒げる。
「イザベラ様が! 助けてくれるって、言ったのではないですか!」
「そんな話はもういい! 早く、剣をぬかせろ!」
隣で聞いていた男が大声を上げた。見るとメイジーの他にも上位種がで脂汗を垂らしながらガイを止めていた。
私はガイの目の前に立った。ガイの目はもう虚ろでもう私が誰だか分からないようだった。
剣を抜けばガイは死に
抜かなければ死なずに済むが魔獣になる。
いっそのこと魔獣になってもガイが生き残るならいいのではないかと思えてくる。
近づくとガイから放出される魔法なのかぴしりと頬に何かが触れてそこが切れた感覚がした。ここにいる人たちは私が剣を抜くのを見守っているのだろうが私はそんなことはもうどうでもよかった。孤独に、嘆いているガイをただ抱きしめたかった。
「ガイ。独りにはしないから」
ピシッ
今度は右太ももが切れた。
ガイに近づくたびに私の身体は切り刻まれていく。
「グル……」
ガイに辿り着いた時、私はもう血だらけで片腕はかろうじて繋がって垂れさがり、伸ばした指先は無くなっていた。
「抱きしめることもできないなんて……」
なだれ込むように私はガイの胸に体を寄せた。このまま、一緒に魔獣になってしまってもいいと思った。
ガイ……私の命で貴方が救えたらよかったのに。
いつだって私を守ってくれていたのに。
なにもしてあげられなくてごめんなさい。
こうやって側にいくことしか出来なかった。
結局、私はガイに辿り着くのが精一杯で、剣を抜くなんて力は残っていなかった。
「早く抜かんか!」
「剣を!」
せかす声が沢山聞こえた。でも、もうどうでもよかった。食べられるかすぐに殺されてしまうかと思っていたけれど、寄りかかってもガイは私に何もしなかった。体のあちこちが欠損してもう痛みなのか何なのか感覚がなかった。
「……ガイ。愛してます」
せめて傍にいさせて。
カラン……その時、ガイの胸から『竜殺しの剣』が落ちた。霞んだ目で見るとガイが自分で抜いたようだった。
「ル……ネ」
喉を鳴らしただけのようなガラガラ声だったけれど、ガイが私の名を呼んだ。ただ、それが嬉しかった。
「……はやくこれなくて……ごめん……な、さい」
こんな姿になるまで気づいてあげられなかった。独りで、辛かったでしょう?
腕を持ち上げようにももう力がない。ガイが私を抱きしめようと動くのに抱き返すことができない。
「剣が抜けた!」
「剣が抜けたぞ!!」
「今だ! 攻撃しろ!」
「心臓を狙え!」
そんな声が聞こえてきた。きっと上位種たちがこの時を待ち構えていたのだろう。不思議と私は怖くはなかった。
なにもできない私だけどガイを一人で死なすことにならなくて良かった。
カルカ。
ミンミ。
こんなお母様でごめんなさい。
愛してるわ。
とても。
貴方たちに出会えて幸せだった。
上位種たちの放った攻撃魔法が私とガイに集中していた。ドゴン、と鈍い衝撃があって、ああ、死ぬのだな、と思った。そんな私をガイがギュッと抱きしめてくれた。私たちは『運命の番』ではない。
――けれど運命を共にできて良かったと思った。
「ヒクッ……こ、んな筈じゃなかったの……。 私は……ヒクッ……こんなこと、望んで無かった。これからの地獄の日々を考えたら、ガイ様の『運命の番』になったらどんなに幸せかって……」
「メイジー! 貴方は、口を慎みなさい!」
懺悔しだしたメイジーはカタカタ震えていた。義母はそんなメイジーに腹を立てて声を荒げる。
「イザベラ様が! 助けてくれるって、言ったのではないですか!」
「そんな話はもういい! 早く、剣をぬかせろ!」
隣で聞いていた男が大声を上げた。見るとメイジーの他にも上位種がで脂汗を垂らしながらガイを止めていた。
私はガイの目の前に立った。ガイの目はもう虚ろでもう私が誰だか分からないようだった。
剣を抜けばガイは死に
抜かなければ死なずに済むが魔獣になる。
いっそのこと魔獣になってもガイが生き残るならいいのではないかと思えてくる。
近づくとガイから放出される魔法なのかぴしりと頬に何かが触れてそこが切れた感覚がした。ここにいる人たちは私が剣を抜くのを見守っているのだろうが私はそんなことはもうどうでもよかった。孤独に、嘆いているガイをただ抱きしめたかった。
「ガイ。独りにはしないから」
ピシッ
今度は右太ももが切れた。
ガイに近づくたびに私の身体は切り刻まれていく。
「グル……」
ガイに辿り着いた時、私はもう血だらけで片腕はかろうじて繋がって垂れさがり、伸ばした指先は無くなっていた。
「抱きしめることもできないなんて……」
なだれ込むように私はガイの胸に体を寄せた。このまま、一緒に魔獣になってしまってもいいと思った。
ガイ……私の命で貴方が救えたらよかったのに。
いつだって私を守ってくれていたのに。
なにもしてあげられなくてごめんなさい。
こうやって側にいくことしか出来なかった。
結局、私はガイに辿り着くのが精一杯で、剣を抜くなんて力は残っていなかった。
「早く抜かんか!」
「剣を!」
せかす声が沢山聞こえた。でも、もうどうでもよかった。食べられるかすぐに殺されてしまうかと思っていたけれど、寄りかかってもガイは私に何もしなかった。体のあちこちが欠損してもう痛みなのか何なのか感覚がなかった。
「……ガイ。愛してます」
せめて傍にいさせて。
カラン……その時、ガイの胸から『竜殺しの剣』が落ちた。霞んだ目で見るとガイが自分で抜いたようだった。
「ル……ネ」
喉を鳴らしただけのようなガラガラ声だったけれど、ガイが私の名を呼んだ。ただ、それが嬉しかった。
「……はやくこれなくて……ごめん……な、さい」
こんな姿になるまで気づいてあげられなかった。独りで、辛かったでしょう?
腕を持ち上げようにももう力がない。ガイが私を抱きしめようと動くのに抱き返すことができない。
「剣が抜けた!」
「剣が抜けたぞ!!」
「今だ! 攻撃しろ!」
「心臓を狙え!」
そんな声が聞こえてきた。きっと上位種たちがこの時を待ち構えていたのだろう。不思議と私は怖くはなかった。
なにもできない私だけどガイを一人で死なすことにならなくて良かった。
カルカ。
ミンミ。
こんなお母様でごめんなさい。
愛してるわ。
とても。
貴方たちに出会えて幸せだった。
上位種たちの放った攻撃魔法が私とガイに集中していた。ドゴン、と鈍い衝撃があって、ああ、死ぬのだな、と思った。そんな私をガイがギュッと抱きしめてくれた。私たちは『運命の番』ではない。
――けれど運命を共にできて良かったと思った。
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