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本編
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その日、俺は傷薬用の軟膏につかう材料を町で仕入れた帰りだった。
「スウちゃん! これ持ってきなよ! エルフの好物だろ!?」
「わあ! ありがと! おば……お姉ちゃん!」
おば……イヤイヤ露店のお姉ちゃんが差し出してくれたのはラオの実だ。エルフが好んで食べる果物で、もちろん俺の愛しいロイの大好物だ。
「エルフの友達も訪ねてきたんだろ! 全部持ってきな!」
「え?」
「エライ美形だったねえ~~。まあ、ロイさんも凄いからねえ。エルフが美形しかいないってのは本当だったんだねぇ。はあ、目の保養、目の保養。」
袋いっぱいのラオの実も加わってヨタヨタと家に戻ると人の気配がした。とてつもない嫌な予感がする。きっと、行かない方がいいと俺の本能が言っていた。それでも家に帰るしかない俺がリビングに入ると、客人とロイが言い争っていた。
「ただいま……」
俺の声ではっとしたロイと客人がこちらを覗った。取りあえずキッチンのテーブルに荷物をおく。
「まさか、コレだって言うんじゃないだろうね、ロイ」
客人は俺をコレ呼ばわりして指をさした。忘れてたけどエルフの人族の扱いはこっちの方が通常運転で聞いてる。
「こんにちは……」
挨拶するも客人は完全無視を決め込んでいるようだ。まあ、上位種ってこんなもんだ。ロイが稀なだけで。お茶の用意がいるかとロイに目で聞くとロイは首を振った。
「スウ、気にすることはないよ。すぐお帰りになるから」
「ふん! 茶ぐらい出したらどうだ! エルフを誑し込みやがって!」
「……」
美形のエルフは敵意むき出しのようだ。このエルフは覚めるような薄いブルーの髪の美形だ。俺は薄桃色のロイの髪色と顔の方が好きだけどな!しかし、まあ。ロイの童貞をいただいてしまったんだ、誑かしたと言われれば……反論できねぇ。
「ブレア。いくら君でもスウを傷つけたら許さないよ」
ロイが俺を守るように低い声で客人に注意してくれる。それだけで俺はあっったかい気持ちになれる。いくらなんでもロイのお客様だからと、とっておきのお茶とラオの実を出す。ブレアと言う名の客人は黙ってそれを完食した。
「さ、用はすんだだろう?帰ってくれ、ブレア」
「ロイ、考え直せ。そして、帰って来い。こんな機会はもうないんだぞ!」
意味深な言葉を告げてブレアはロイを諭すように言った。ロイはなにも言わずにブレアに手を振った。そして、小さくなっていくブレアの後姿を見送っていた。
***
「すいません」
「だれだ、こんな夜中に」
「ロイの……えと、ロイのことで」
俺がそう言うと宿屋のドアが少し開いた。怪訝そうにこっちを見るのは昼間家を訪れたブレアだ。
「男のところに夜中に来るなんてとんだアバズレだな」
「中に入れてください。話がしたいんです」
「はっ! 俺は騙されないからな!」
そうは言いつつもブレアは部屋の中に俺を入れてくれた。奴も俺には話すことが有るらしい。
「昼間のことなんですけど、もしかしたら、ロイはエルフの里に帰るようにいわれているんですか?」
「ふううん。察しが良いんだな。人族のくせに。そうだ。光栄にもラナ様の第五の夫として迎えられることになった」
「……やはり、そうですか」
「ちなみに俺は第四だ。お前、エルフの男が結婚できる意味が分かるか?」
「「唯一の番」、ですよね?ロイから聞きました」
「そうだ、それ以外に俺たちが子孫を残せる方法はない。この機会を逃せばもうロイには一生めぐって来ないだろう」
「……。どうか、ロイを説得して里に戻してあげてください」
そう言うと同時に俺はブレアに土下座した。俺の行動にブレアは心底驚いたようだ。
「お前はそれでいいのか?」
「俺……私は初めからそのつもりです」
「しかし、ロイはお前を嫁にしたからここを離れんと言っていたぞ」
ロイ……。お前ってばほんとにいい奴だな。
「元々、ワームに咬みつかれた後遺症が残っていたせいなんですよ。ですから」
「……。まあ、ちょうどいい。そうだな、お前が不貞でも働けば、ロイも愛想つかすだろう」
「へ!?」
あれ?!エルフって性欲ないんだよな?嫁さんもいるブレアは「唯一」しか発情しないんだよな?なんか、これ、嫌な雰囲気なんだが。
「ロイとヤってるんだろ? あいつをその気にさせるなんて……興味がある」
「ちょい、まて、お前さんは嫁がいるんだよな?」
「ああ、あれにこだわるのは「古代種」だけだ。最近はエルフも生き延びる為に変化してんだ」
「へええええ!!」
ロイはめっちゃこだわってたけど!?
「お前みたいな低俗な人族を抱くのは不本意だが、ロイが懇意にしてるんならまあ、試してやる」
「うは! いや! 俺、無理! 無理無理無理無理無理!!」
「相当誑し込んできたんだろ!?」
「無理! 俺、ロイじゃないと無理だから!」
そう叫んだ俺の声が合図のようにバン!と宿屋のドアが蹴破られていた。
「私も、スウだけです」
「「え……」」
仲良くブレアと声を合わせてドアの方を恐る恐る覗うと……。
鬼の形相のロイが立っていた。
「スウちゃん! これ持ってきなよ! エルフの好物だろ!?」
「わあ! ありがと! おば……お姉ちゃん!」
おば……イヤイヤ露店のお姉ちゃんが差し出してくれたのはラオの実だ。エルフが好んで食べる果物で、もちろん俺の愛しいロイの大好物だ。
「エルフの友達も訪ねてきたんだろ! 全部持ってきな!」
「え?」
「エライ美形だったねえ~~。まあ、ロイさんも凄いからねえ。エルフが美形しかいないってのは本当だったんだねぇ。はあ、目の保養、目の保養。」
袋いっぱいのラオの実も加わってヨタヨタと家に戻ると人の気配がした。とてつもない嫌な予感がする。きっと、行かない方がいいと俺の本能が言っていた。それでも家に帰るしかない俺がリビングに入ると、客人とロイが言い争っていた。
「ただいま……」
俺の声ではっとしたロイと客人がこちらを覗った。取りあえずキッチンのテーブルに荷物をおく。
「まさか、コレだって言うんじゃないだろうね、ロイ」
客人は俺をコレ呼ばわりして指をさした。忘れてたけどエルフの人族の扱いはこっちの方が通常運転で聞いてる。
「こんにちは……」
挨拶するも客人は完全無視を決め込んでいるようだ。まあ、上位種ってこんなもんだ。ロイが稀なだけで。お茶の用意がいるかとロイに目で聞くとロイは首を振った。
「スウ、気にすることはないよ。すぐお帰りになるから」
「ふん! 茶ぐらい出したらどうだ! エルフを誑し込みやがって!」
「……」
美形のエルフは敵意むき出しのようだ。このエルフは覚めるような薄いブルーの髪の美形だ。俺は薄桃色のロイの髪色と顔の方が好きだけどな!しかし、まあ。ロイの童貞をいただいてしまったんだ、誑かしたと言われれば……反論できねぇ。
「ブレア。いくら君でもスウを傷つけたら許さないよ」
ロイが俺を守るように低い声で客人に注意してくれる。それだけで俺はあっったかい気持ちになれる。いくらなんでもロイのお客様だからと、とっておきのお茶とラオの実を出す。ブレアと言う名の客人は黙ってそれを完食した。
「さ、用はすんだだろう?帰ってくれ、ブレア」
「ロイ、考え直せ。そして、帰って来い。こんな機会はもうないんだぞ!」
意味深な言葉を告げてブレアはロイを諭すように言った。ロイはなにも言わずにブレアに手を振った。そして、小さくなっていくブレアの後姿を見送っていた。
***
「すいません」
「だれだ、こんな夜中に」
「ロイの……えと、ロイのことで」
俺がそう言うと宿屋のドアが少し開いた。怪訝そうにこっちを見るのは昼間家を訪れたブレアだ。
「男のところに夜中に来るなんてとんだアバズレだな」
「中に入れてください。話がしたいんです」
「はっ! 俺は騙されないからな!」
そうは言いつつもブレアは部屋の中に俺を入れてくれた。奴も俺には話すことが有るらしい。
「昼間のことなんですけど、もしかしたら、ロイはエルフの里に帰るようにいわれているんですか?」
「ふううん。察しが良いんだな。人族のくせに。そうだ。光栄にもラナ様の第五の夫として迎えられることになった」
「……やはり、そうですか」
「ちなみに俺は第四だ。お前、エルフの男が結婚できる意味が分かるか?」
「「唯一の番」、ですよね?ロイから聞きました」
「そうだ、それ以外に俺たちが子孫を残せる方法はない。この機会を逃せばもうロイには一生めぐって来ないだろう」
「……。どうか、ロイを説得して里に戻してあげてください」
そう言うと同時に俺はブレアに土下座した。俺の行動にブレアは心底驚いたようだ。
「お前はそれでいいのか?」
「俺……私は初めからそのつもりです」
「しかし、ロイはお前を嫁にしたからここを離れんと言っていたぞ」
ロイ……。お前ってばほんとにいい奴だな。
「元々、ワームに咬みつかれた後遺症が残っていたせいなんですよ。ですから」
「……。まあ、ちょうどいい。そうだな、お前が不貞でも働けば、ロイも愛想つかすだろう」
「へ!?」
あれ?!エルフって性欲ないんだよな?嫁さんもいるブレアは「唯一」しか発情しないんだよな?なんか、これ、嫌な雰囲気なんだが。
「ロイとヤってるんだろ? あいつをその気にさせるなんて……興味がある」
「ちょい、まて、お前さんは嫁がいるんだよな?」
「ああ、あれにこだわるのは「古代種」だけだ。最近はエルフも生き延びる為に変化してんだ」
「へええええ!!」
ロイはめっちゃこだわってたけど!?
「お前みたいな低俗な人族を抱くのは不本意だが、ロイが懇意にしてるんならまあ、試してやる」
「うは! いや! 俺、無理! 無理無理無理無理無理!!」
「相当誑し込んできたんだろ!?」
「無理! 俺、ロイじゃないと無理だから!」
そう叫んだ俺の声が合図のようにバン!と宿屋のドアが蹴破られていた。
「私も、スウだけです」
「「え……」」
仲良くブレアと声を合わせてドアの方を恐る恐る覗うと……。
鬼の形相のロイが立っていた。
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