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本編
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「早かったですね」
部屋に戻るとロイが俺を見てそう言った。
「峠に向かうのに寝不足じゃダメだろ。準備もあるし」
「あなたのそういうところ気に入ってますよ」
手入れしていた弓矢に視線を戻してロイが言う。峠からは危険な魔獣がうじゃうじゃ出てくるだろう。まだ整備されていない道だからだ。念には念を。道具の準備を怠ると碌なことはねえ。そう言う面ではロイも俺も道具は大事にしている。
抜けるように白いロイの横顔を見ていつも思う。ロイはこういう晩は何を考えているのだろうと。
俺は少なくとも死と隣り合わせになる仕事の前は気が高ぶるし、故に大抵女を抱く。多分、その先の死を感じ取って体がそうさせるのかもしれない。でも、この感覚が嫌いなわけではない。自分が生きているというのを味わえるからだ。ロイと組んでからは驚くほど怪我もしていないが、俺は二度ほど瀕死の状態を味わったことが有る。一つはハンターとしてソロ活動していた時に魔獣にやられて。もう一つは幼いときに親兄弟から受けた暴行でだ。魔獣にやられたのは仕方ない、俺の経験不足だ。でも、家族から受けた暴力は今でもふと体を震えさせられることが有る。漠然とした死がそこにあった。俺の体はそれを知っている。
「どうかしましたか?」
「いや、ロイはその…。まあ、いいや」
「気になる言い方ですね」
「いや、大したことじゃねえ。……俺は戦う前の昂りを可愛いニャンコちゃんで癒してきたけど、ロイは平気なのかなって思ってさ。」
「そんなことですか。エルフの快楽は愛情に比例しますからね。行為だけというのは無理なんですよ。そういう意味ではあなた方と獣人とは違いますね。私はこうやって道具を磨いて気持ちを落ち着かせるしかないですから。」
「なんだよ、人を本能だけで生きてるみたいに。」
「スウには言っていませんでしたか。私たちエルフには「唯一の番」というものがあるんです。」
「……なんか、高尚で純愛っぽく聞こえるけど?」
「聞こえはいいかもしれませんがエルフ族の男は一生に一人、番にしか欲情しないのです。エルフ族にとったら子孫を残すのには致命的欠点とも言えますね。まあ、その代りエルフ族の女性は五人の番を選べます……男は所詮スペアですからね」
ロイは複雑そうな顔をした。女は貴重でハーレム作って子供を作る。あやかれなかった男はスペアで一生独身って事か。長寿ってのも大変だな。
「まあ、気楽にやっていこうぜ」
多分、ロイも俺と同じなのかもしれない。常に死と隣り合わせでないと自分が生きている感覚を得られない悲しき生き物。俺の7倍ほど生きてきたロイにとったらとてつもない孤独だろう。
「ああ、昼間いい状態の薬草が手に入ったんだ。潰してもってく」
「いつもありがとう」
フッと男も見とれそうな美しい微笑みを向けられる。人嫌いなロイは買い物も気が進まない。でも俺は人付き合いが好きだから交渉を楽しみながら露店を巡ってきていた。本当はそんなに感謝されるようなことでもなんでもない。
「大したことじゃねえし」
そう言いながらロイから視線をそらして考える。ロイほどの男ならペアもあまり必要ない。それどころか下手にコンビを組むと足手まといだ。エルフと組めるなんて俺は最高にラッキーで。しかも、人族や獣人族を見下げているエルフが普通の世の中、ロイはこんな俺にもちゃんとお礼を言ってくれる性格のいいエルフだ。奴が女なら嫁にしたいくらいだ。と、いっても俺なんか願い下げだろうけどな。
エルフのことを良く知る口汚いやつは言う「可愛そうに、エルフの男は大抵童貞で死ぬらしいぜ」と。
子孫を残すという観点から言えばセックスを知らなくっても知っていても子供を残すことが出来なければ同じことじゃないかと思う。その点では俺だって出来損ないで死ぬのが関の山だろう。
生死と苦楽を共にして二年……
いつしか俺はロイを家族のように感じていた。
部屋に戻るとロイが俺を見てそう言った。
「峠に向かうのに寝不足じゃダメだろ。準備もあるし」
「あなたのそういうところ気に入ってますよ」
手入れしていた弓矢に視線を戻してロイが言う。峠からは危険な魔獣がうじゃうじゃ出てくるだろう。まだ整備されていない道だからだ。念には念を。道具の準備を怠ると碌なことはねえ。そう言う面ではロイも俺も道具は大事にしている。
抜けるように白いロイの横顔を見ていつも思う。ロイはこういう晩は何を考えているのだろうと。
俺は少なくとも死と隣り合わせになる仕事の前は気が高ぶるし、故に大抵女を抱く。多分、その先の死を感じ取って体がそうさせるのかもしれない。でも、この感覚が嫌いなわけではない。自分が生きているというのを味わえるからだ。ロイと組んでからは驚くほど怪我もしていないが、俺は二度ほど瀕死の状態を味わったことが有る。一つはハンターとしてソロ活動していた時に魔獣にやられて。もう一つは幼いときに親兄弟から受けた暴行でだ。魔獣にやられたのは仕方ない、俺の経験不足だ。でも、家族から受けた暴力は今でもふと体を震えさせられることが有る。漠然とした死がそこにあった。俺の体はそれを知っている。
「どうかしましたか?」
「いや、ロイはその…。まあ、いいや」
「気になる言い方ですね」
「いや、大したことじゃねえ。……俺は戦う前の昂りを可愛いニャンコちゃんで癒してきたけど、ロイは平気なのかなって思ってさ。」
「そんなことですか。エルフの快楽は愛情に比例しますからね。行為だけというのは無理なんですよ。そういう意味ではあなた方と獣人とは違いますね。私はこうやって道具を磨いて気持ちを落ち着かせるしかないですから。」
「なんだよ、人を本能だけで生きてるみたいに。」
「スウには言っていませんでしたか。私たちエルフには「唯一の番」というものがあるんです。」
「……なんか、高尚で純愛っぽく聞こえるけど?」
「聞こえはいいかもしれませんがエルフ族の男は一生に一人、番にしか欲情しないのです。エルフ族にとったら子孫を残すのには致命的欠点とも言えますね。まあ、その代りエルフ族の女性は五人の番を選べます……男は所詮スペアですからね」
ロイは複雑そうな顔をした。女は貴重でハーレム作って子供を作る。あやかれなかった男はスペアで一生独身って事か。長寿ってのも大変だな。
「まあ、気楽にやっていこうぜ」
多分、ロイも俺と同じなのかもしれない。常に死と隣り合わせでないと自分が生きている感覚を得られない悲しき生き物。俺の7倍ほど生きてきたロイにとったらとてつもない孤独だろう。
「ああ、昼間いい状態の薬草が手に入ったんだ。潰してもってく」
「いつもありがとう」
フッと男も見とれそうな美しい微笑みを向けられる。人嫌いなロイは買い物も気が進まない。でも俺は人付き合いが好きだから交渉を楽しみながら露店を巡ってきていた。本当はそんなに感謝されるようなことでもなんでもない。
「大したことじゃねえし」
そう言いながらロイから視線をそらして考える。ロイほどの男ならペアもあまり必要ない。それどころか下手にコンビを組むと足手まといだ。エルフと組めるなんて俺は最高にラッキーで。しかも、人族や獣人族を見下げているエルフが普通の世の中、ロイはこんな俺にもちゃんとお礼を言ってくれる性格のいいエルフだ。奴が女なら嫁にしたいくらいだ。と、いっても俺なんか願い下げだろうけどな。
エルフのことを良く知る口汚いやつは言う「可愛そうに、エルフの男は大抵童貞で死ぬらしいぜ」と。
子孫を残すという観点から言えばセックスを知らなくっても知っていても子供を残すことが出来なければ同じことじゃないかと思う。その点では俺だって出来損ないで死ぬのが関の山だろう。
生死と苦楽を共にして二年……
いつしか俺はロイを家族のように感じていた。
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