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何度だって諦めてあげない5
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「千沙さん、コーヒー、ここに置きますよ」
「え、ああ。ありがとう」
上の空で答える千沙さんは最近元気がない。近づく口実に給湯室で淹れてきたコーヒーをデスクに置くと、その手首の細さになんだかそわそわした。どこか仕事にも身が入っていないようだ。なにか、あったのかな。孝也さんに聞いてみる? いや、でも僕がプライベートの事をそこまで突っ込むのも……前に宅飲みに誘ってもらってからは忙しくて連絡もしていない。特に意識はしていなかったがあれから半年は過ぎている。千沙さんとは毎日会社であっているのに今更孝也さんに連絡もしづらい。そうして気にしながらも千沙さんの様子を窺っていると衝撃的なニュースが飛び込んできた。
「営業企画と総務の鹿島夫婦、離婚、したって」
「うそっ!」
吉沢さんと神部さんが話しているのを聞いて、すぐさま僕はそこに割り込んだ。
「その話ってホント?」
「あ! 黒川さん。それが、本当なんですよ。すでに二カ月前に離婚していたらしくて、内緒だったらしいんですけど、今日からは旧姓の『寺田』にもどすそうですよ。黒川さんて鹿島夫婦と仲良かったですよね? 聞かされていなかったんですか?」
「うん……全然」
「まあ、言いにくいでしょうねぇ~なんでも旦那さんの方の浮気が原因らしいですから」
「え、孝也さんが浮気⁉」
「ほら、前に忠告したことがあるでしょ? 細井さん……彼女のこと妊娠させたらしいですよ」
「しかも妊娠⁉」
「うわ、サイッテ―ですね! 鹿島……ええと千沙さんかわいそう!」
「細井さんかなりグイグイ行ったらしいですよ。まあ、受け入れちゃったんだから男が悪いですけどね。しかも、妊娠て、ないわー」
彼女たちの言葉が頭の中でぐるぐる回るようで入ってこない。
千沙さんが離婚? あんなに孝也さんに尽くしていたのに?
他の女の人を妊娠させて?
酷い裏切りじゃないか。
「千沙さん、今日外回りですよね。帰ってきたら、きっとみんなに発表するんじゃないかな」
「仲良し夫婦だと思ってたからショック……黒川さん、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。驚いて……」
確かに僕は千沙さんが好きだけど、鹿島夫婦が幸せそうにしているのも好きだったんだ。
羨ましいって、ずっと思ってた。
それなのに。
衝動にかられて僕は孝也さんのところに向かった。
「黒川……」
「孝也さん、あの、離婚したって……」
「ああ、その話か……昼でも一緒にいくか」
総務に行った僕を迎えた孝也さんはお昼に誘ってくれた。会社近くのカフェに入ると言いにくそうに話を切り出した。
「千沙とは二カ月前に離婚したんだ」
「孝也さんが細井さんと浮気したって聞きました。本当なんですか?」
「……うん。遊びのつもりだったんだ。ちょっとした心の余裕が欲しかったんだよ」
「心の余裕?」
「千沙のこと愛してるよ。でもさ、会社の中心である企画営業でバリバリやってて、給料だって俺より上で家では家事も完璧。……正直息が詰まって苦しかった。そんな時に、派遣社員の細井が思い出に抱いてくれって言うもんだから、つい……な」
「そんな」
「ちゃんと、千沙のところに帰るつもりだったんだ。でも、子どもができたんだ。だから、責任取って俺、細井……凛音と結婚することにした」
「千沙さんは孝也さんのこと本当に大切にしていたんですよ」
「……わかってる。千沙には悪いと思ってる。でも、決めたんだ」
「後悔しますよ」
「俺が言えることじゃないけど、千沙のこと、頼みたい。社内不倫がバレて俺もしばらくしたら地方に飛ばされるから」
「……どこまでも上から目線なんですね。クズのくせに」
「え?」
この男は散々千沙さんより上にいるという態度をとって自分を保ってきたんだ。そして、浮気した今もそのつもりでいる。
何が『千沙のこと、頼みたい』だ。離婚した他人なのに自分の所有物みたいに言うな。気分が悪い。僕がきついことを言ったのが信じられなかったのか孝也さんはポカンとしていた。
言われなくたって、僕が千沙さんを支える。
せいぜい自分が捨てた妻がどれだけ大切な存在だったかを知って、後で嘆けばいい。
一口も食べなかった昼食代をテーブルに置いて立ち上がる。振り向かずに店を出て、その勢いで僕は孝也さんとの連絡先をブロックした。
「え、ああ。ありがとう」
上の空で答える千沙さんは最近元気がない。近づく口実に給湯室で淹れてきたコーヒーをデスクに置くと、その手首の細さになんだかそわそわした。どこか仕事にも身が入っていないようだ。なにか、あったのかな。孝也さんに聞いてみる? いや、でも僕がプライベートの事をそこまで突っ込むのも……前に宅飲みに誘ってもらってからは忙しくて連絡もしていない。特に意識はしていなかったがあれから半年は過ぎている。千沙さんとは毎日会社であっているのに今更孝也さんに連絡もしづらい。そうして気にしながらも千沙さんの様子を窺っていると衝撃的なニュースが飛び込んできた。
「営業企画と総務の鹿島夫婦、離婚、したって」
「うそっ!」
吉沢さんと神部さんが話しているのを聞いて、すぐさま僕はそこに割り込んだ。
「その話ってホント?」
「あ! 黒川さん。それが、本当なんですよ。すでに二カ月前に離婚していたらしくて、内緒だったらしいんですけど、今日からは旧姓の『寺田』にもどすそうですよ。黒川さんて鹿島夫婦と仲良かったですよね? 聞かされていなかったんですか?」
「うん……全然」
「まあ、言いにくいでしょうねぇ~なんでも旦那さんの方の浮気が原因らしいですから」
「え、孝也さんが浮気⁉」
「ほら、前に忠告したことがあるでしょ? 細井さん……彼女のこと妊娠させたらしいですよ」
「しかも妊娠⁉」
「うわ、サイッテ―ですね! 鹿島……ええと千沙さんかわいそう!」
「細井さんかなりグイグイ行ったらしいですよ。まあ、受け入れちゃったんだから男が悪いですけどね。しかも、妊娠て、ないわー」
彼女たちの言葉が頭の中でぐるぐる回るようで入ってこない。
千沙さんが離婚? あんなに孝也さんに尽くしていたのに?
他の女の人を妊娠させて?
酷い裏切りじゃないか。
「千沙さん、今日外回りですよね。帰ってきたら、きっとみんなに発表するんじゃないかな」
「仲良し夫婦だと思ってたからショック……黒川さん、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。驚いて……」
確かに僕は千沙さんが好きだけど、鹿島夫婦が幸せそうにしているのも好きだったんだ。
羨ましいって、ずっと思ってた。
それなのに。
衝動にかられて僕は孝也さんのところに向かった。
「黒川……」
「孝也さん、あの、離婚したって……」
「ああ、その話か……昼でも一緒にいくか」
総務に行った僕を迎えた孝也さんはお昼に誘ってくれた。会社近くのカフェに入ると言いにくそうに話を切り出した。
「千沙とは二カ月前に離婚したんだ」
「孝也さんが細井さんと浮気したって聞きました。本当なんですか?」
「……うん。遊びのつもりだったんだ。ちょっとした心の余裕が欲しかったんだよ」
「心の余裕?」
「千沙のこと愛してるよ。でもさ、会社の中心である企画営業でバリバリやってて、給料だって俺より上で家では家事も完璧。……正直息が詰まって苦しかった。そんな時に、派遣社員の細井が思い出に抱いてくれって言うもんだから、つい……な」
「そんな」
「ちゃんと、千沙のところに帰るつもりだったんだ。でも、子どもができたんだ。だから、責任取って俺、細井……凛音と結婚することにした」
「千沙さんは孝也さんのこと本当に大切にしていたんですよ」
「……わかってる。千沙には悪いと思ってる。でも、決めたんだ」
「後悔しますよ」
「俺が言えることじゃないけど、千沙のこと、頼みたい。社内不倫がバレて俺もしばらくしたら地方に飛ばされるから」
「……どこまでも上から目線なんですね。クズのくせに」
「え?」
この男は散々千沙さんより上にいるという態度をとって自分を保ってきたんだ。そして、浮気した今もそのつもりでいる。
何が『千沙のこと、頼みたい』だ。離婚した他人なのに自分の所有物みたいに言うな。気分が悪い。僕がきついことを言ったのが信じられなかったのか孝也さんはポカンとしていた。
言われなくたって、僕が千沙さんを支える。
せいぜい自分が捨てた妻がどれだけ大切な存在だったかを知って、後で嘆けばいい。
一口も食べなかった昼食代をテーブルに置いて立ち上がる。振り向かずに店を出て、その勢いで僕は孝也さんとの連絡先をブロックした。
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