生贄

竹輪

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生贄<サイラス視点>

生贄4

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 幸いなことにリラは従順でそれでいて賢い娘だった。長らくスリヤ姫に虐げられていたのが良かったというべきなのか。私はリラを王妃にするというルーファ様に従うことにした。入れ替わりは上手くいき、セローシェ国にも恩を売る形となった。

 私はリラを徹底的に孤独にした。ルーファ様にだけ心を砕くように。ルーファ様に頼るように。

 ルーファ様は毎日リラにべったりだ。普通なら異常な光景だろうが、孤独なリラにとってルーファ様は光であるに違いない。ルーファ様がリラを犯した事実は変わらない。あの時、形としてルーファ様が十日ほど監禁したことになる。監禁、立てこもりなどの異常な精神状態な時、被害者が加害者に好意を持つことが有るという。リラがまさにそうであるならこれほど幸運なことはない。

 使用人も顔見知りができないよう定期的に入れ替える。妃と受け答え以外で会話するのも禁止した。各言う私もリラと話をするときは壁越しでしか言葉も交わさない。

「貴方が上手くスリヤ姫を演じることが出来れば、貴方の弟のマルセルの今後も約束します。ただ、貴方はもうマルセルとは二度と会うことは叶わないでしょう」

 そしてリラの大切な肉親はこちらの手に渡ってもリラの人質だった。駆け落ちしたことをつづった手紙をマルセル宛に書かせ、弟と決別させる。リラには定期的にマルセルの報告をすると約束すると安堵の息をついていた。メイドのリラは護衛と駆け落ちしたのだから、リラはもうマルセルと会えるとは思っていなかった。察しがよくて助かる。私はもうリラに悪い印象は持っていない。それどころかルーファ様の幸せそうな顔を見るたびに感謝するようになっていた。この人をルーファ様に失わせるわけにはいかない。

「一介のメイドには大役ですが励みなさい。貴方のようなどこの馬の骨か分からない者がルーファ様の隣にいるのは納得できませんが仕方ありません。ご自分のお立場を見失わないように」

「……わかっています」

 リラの沈んだ声が壁越しに聞こえる。きつく当たるのも本来は心苦しい。だが、リラが心許すのはルーファ様でなければならない。美しいルーファ様の妃は病弱で式典にも出ない。潜むルーファ様の独占欲。狂気に走らぬよう、ルーファ様の動向を観察し、行動する。リラにはスリヤ姫のメイドごときが出席できると思うなと言ってある。私がつらく当たってひどく落ち込むとリラはルーファ様に甘えるしかない。

「もう少し、リラに優しくできないの?」
 
 ルーファ様は時折わたしの行動に苦笑する。

「私はリラ様を認めておりませんから」

 そう、答える私にルーファ様が安堵しているのを知っている。これからも籠の中の小鳥は怯えながらルーファ様にだけに懐けばいい。

 心が安定しているルーファ様は完璧だった。国政は上手くいき、国は益々潤う。

 リラ。

 可愛そうな生贄。

 籠からは一生出ることがないだろう。いずれ生まれる子供も貴方の傍に置くことはない。貴方の愛情はルーファ様にしか向かうことを許されていない。

 せめて

 貴方の籠の中の生活が快適にあるように。

 貴方のいとし子の瞳が紫ではないように。
 
 そう、願わずにはいられない。
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みんなの感想(4件)

hiyo
2024.03.18 hiyo

読み応えがありましたし、とても読み易かったです。
素敵な物語をありがとうございました。

解除
にゃん
2020.08.09 にゃん

思った以上に重かったw

竹輪
2020.08.09 竹輪

次は軽いのをUp していきます(笑)
読んでいただいてありがとうございました。

解除
栗栖 瀬貴哉
ネタバレ含む
竹輪
2020.08.09 竹輪

再度読んでいただけて嬉しいです。

随分と好き勝手書いてきたお話が貯まってきたので、古いものから見直して行こうとこちらに置かせていただきました。(私はなろうさんのフォームに小説を直書きしているもので(笑))しばらくは見直し→UP していくつもりです。そのうち落ち着いたらアルファさん向けにもかけたらいいなぁと思います。

まだまだ至らぬところばかりですが楽しんでいただけたら嬉しいです。こちらこそ感謝を。
有難うございました!

解除

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