上 下
34 / 41

私のフローに手をだすな6

しおりを挟む
「ねえ、君の髪のリボンは僕があげたものじゃないよね」

 今、どうしてそんなことが気になったのだ。と驚く。私は少年の変装をするために髪を帽子の中に押し込んでいた。が、フロー様に会うために壁を駆けあがる前に邪魔だった帽子を取っていたのだ。しかしフロー様はいたって真剣に聞いてきた。

「そうですけど、それがなにか?」

「君には僕があげたものを身に着けて欲しいんだ」

 いや、何も考えずに今朝適当なもので髪を縛っただけだ。しかしフロー様はするすると私のリボンを取り去ってしまった。まあ、その下はきっちりと結ってあるから髪型が崩れることはないけれど。

「『マダム・キャット』の主要メンバーを五人を教えて欲しいけど、簡単には話さないだろうね。ちょうどいいからこれで縛るよ」

 フロー様は私から取ったリボンに詠唱し始めた。するとリボンは生き物のように男の手に絡みつき、両手を縛り上げた。

「お、お前は、フローサノベルドっ! 俺の魔道具で拘束されているはずじゃ……」 

 そこで完全に幻影が解けて、男はフロー様の正体を知ったようだ。

「あんなもの、僕の魔力量を知らないから着けられたんだよね。この闘技場一帯を壊滅状態にすれば簡単に外せるよ」

「え?」

「僕のこと、嬲って楽しかったい?」

 うっすら笑うフロー様に闇魔術師がガタガタ震え出した。それより気になるのは……

「嬲って? フロー様、この男になにかしたんですか?」

 思わず力が入って首元を少しさっくりしてしまった。

 ブシュッ、と飛び散った血がかからないように首を横に避けた。

「ぎゃああああっ」

「ジャニス、もう拘束したから下がっていいよ。僕が教えてもらうから」

「はい」

 フロー様に言われて男を睨みながら下がった。今度はフロー様が男の前に立った。

「これ、なにか知っているか?」

 そしてフロー様は男に宝石を一粒見せた。あ、アレは私が失くしてしまった記憶玉……フロー様が持っていたのだ……。これはやっぱり私がニッキーになっていることが知ったと全て知られている。

「それがどうしたっていうんだ」

「これはその時あった時のことを録画できる機能がある。でもね、高位魔術師しかできないこともある。それはね……」

 フロー様は記憶玉を闇魔術師の額にくっつけるとなにかブツブツと唱えた。すると、記憶玉が光って、男の頭の上になにかの映像が流れだした。

「は……、え?」

「さあ、主要メンバー五人を教えろ」

 その声で映像が揺らぐ、そして覆面や面をつけた人物が次々と映った。どうやら闇魔術師が考えたことが頭の上の映像に流れるようだ。もう、高度過ぎてなにも言えない。

「はあ、顔さえ明かされてもらっていなかったのか」

 フロー様が呆れた声を出すと、闇魔術師がびくりと肩を揺らした。

「あいつらは、絶対に姿を現さない。それらしき人物と話しはしたが、それが本物かすらわからないんだ」

「なにか、他に手がかりは?」

 私が聞くと青い顔で首を振る。

「しかし、自分の保身のために多少は調べただろう?」

 フロー様の質問に男がハッとする。頭の上の画像には喫煙具で煙を吸う女が映った。黒猫の面を顔半分にかぶり、堂々とした態度で椅子に座って、闇魔術師に金を渡していた。

「それが『マダム・キャット』なの?」

 自分の考えていることを映し出されて、観念したのかその問いには『多分……』と答えた。

「では、もう用済みだな」

「え?」

 フロー様が淡々とそう言った。

「お前がした一番残酷な仕打ちを自分の魔力で再現すればいい」

 紙にさらさらと魔法陣を描いたフロー様が記憶玉の代わりに魔術師の額に押し付けた。すると、フロー様が拘束時に施されていたように魔法陣だけが額に残って光っている。

「そんな、馬鹿な……」

「闇魔術師に登録もせず、今まで好き勝手汚いことに手を染めたのだろう? 思い浮かべればいい」

「い、いや、嫌だ……あれは、だって……」

 闇魔術師が何かを思い出し、そしてそれを考えないようにしているのか首を振った。男の体はみるみると水分が抜けて、しわしわになっていく。

 バタ……。

 最後にはミイラのようになった闇魔術師が床に転がった。誰かを餓死させたのか……それを見ても私は何も思わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

運命の赤い糸はとんでもない!

竹輪
恋愛
 突然の父親の訃報によって、爵位を継がなくてはならなくなった冒険者の兄ハージが貧乏男爵のコートボアール家に帰ってきた。――足首に呪いの赤い糸と、とんでもない美男子の他国の王子様をくっつけて……。  他人事のように大好きな兄を応援していた妹アイラだが、ある日、呪いの赤い糸が兄と交換できると判明する。美男子と呪いに翻弄される兄妹は無事に赤い糸の呪いを解くことができるのか!? 「是非、お兄様の嫁に! 偏見なんて微塵もありません! 女性が苦手でも平気! お兄様に一生大切にさせます!」 ~腐った本のせいで突っ走るブラコンアイラと赤い糸の呪いを解く愛の物語~ **小説家になろうでも(竹輪㋠の名で)公開中です**

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

処理中です...