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母からの手紙
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―我が子フローサノベルドの心の支えとなるあなたへ
これを手にできたあなたはきっとフローサノベルドに近しく、そして魔力適合者であるに違いありません。
どうか、私の可哀そうな息子の心の支えとなって頂けるよう、心からお願いいたします。もし、あなたが私の願い通りフローの妻となる人物であれば、この上なく嬉しく思いますし、そうでなかったとしても側にいて支えて頂ければと思います。謝礼や経費が必要な場合は一緒に箱に入れている宝石類を使ってください。
魔力とは持つ者、持たない者、関係なく無意識に互いに干渉しあうものです。その干渉は僅かな違和感でしかなく、通常は気が付かないまま、心地が良い、悪い、などと感じることで終わることでしょう。
僅かながら相手に流れた魔力はその相手に触れられた瞬間に変質します。それが無意識に戻ってきたとき、人は快く思ったり、逆に不快に感じたりするのです。
私もフローも闇魔術師の資質があり、そして魔力の変質にとても敏感な家系です。これは人を選り好みしてしまう要因の一つとなり、きっとフローもわたしと同様、人と接することをよしとせず生きていくことになるでしょう。ちなみに亡き夫ルートは私の知る中の最高の魔力適合者でありました。
私は間もなく愛しい我が子を残してこの世を去らなければなりません。
どうか、息子のことをよろしくお願いします。そして、愛してあげてください。
グローリア=カザーレン
……開けなきゃよかった。
そう思える心に重い手紙を読んでしまった。その魔力適合すらきっとニッキーのお陰だろう。
「まいったな」
残された時間、きっとフロー様のお母様は生きているうちに息子にできることをなんでもしようとしたのだろう。一緒に入っていた袋に宝飾類がたくさん押し込められていたが、一つ取っても小さな家一軒ほどに高価なものであることは素人の私にも分かった。恐れ多すぎる。
そうして箱には手紙と宝飾類の入った袋の他に二冊の本が入っていた。
一冊は闇魔術の専門書。もう一冊は手書きのノートだった。
「これって……」
難しいことは分からないが、本の方を開くと恐ろしい文字が見えた。
蘇生闇魔術の式術……魂の蘇生……肉体の蘇生……。
「ひいっ」
ノートの日付はずいぶん古く、二十五年前になっていた。メモ書きに走り書きされるルートという名前……。これは、もしかしなくても、フロー様のお母様は、お父様を蘇生しようと試みたように思える。
何度も失敗し、絶望を繰りかえしていたようだった。
ノートのところどころには日記のように自分の心を書きなぐっている箇所もあり、
私を置いて行かないでほしい。一緒にそちらに行きたいがフローは巻き込めない。
などと、もう、心が痛む内容ばかりであった。辛い中、彼女の支えは変な話、夫の蘇生魔法の構築であったようで、それはそれは熱心に実験をくりかえしていた。
半分、心を病んていたのかもしれない。でも、彼女は息子のために父親のところに行くのは思いとどまったのだ。
死者を蘇えさせる魔術はご法度。禁術である。なにを想ってお母様はこの手紙と一緒にこの研究の記録まで入れたのだろうか。
不老不死や死者の蘇生は禁術で、その研究は禁止されている。理由はその研究過程にあり、実験していた動物が変質して魔物になったり、過去大規模な死傷者を出した事件もあった。時には赤子を連れ去って実験したり墓を掘り返したりと身も震える行動に出るものも少なくなく、高位闇魔術師には毎年精神鑑定が行われる仕組みになっているほどだ。
まさか、身近な人がこんな実験を繰り返していたとは……。
フロー様がかなり黒に近いグレーに思えてきた。
カザーレンの屋敷のどこかで禁術が行われていたのだとしたら、とんでもないことだ。
私の中のニッキーは……やはりフロー様が呼び戻したのだろうか。
ああ、こんなモヤモヤした気持ちで今晩またテンションMAXのニッキーのふりができるだろうか……。
テーブルで頭を抱えていると、コツコツと窓を叩く白い鳩が見えた。
「魔塔からの連絡だ」
ガバリと起き上がって窓を開けると鳩の足に着いた手紙を開いた。
――解読が終わりました。本日魔塔に来てください。いつでもお待ちしております。屋敷を出るタイミングは任せ致します。 魔塔長ポルト
よし、すぐ行こう。
私は騎士服に着替えてから準備運動をした。例のフロー様のお母様の箱を抱え、バルコニーから降り、屋敷を脱出する。トラップやルートは変な話、体が覚えていた。
きっと夕飯までに帰れば屋敷の誰も気が付かないはずだ。
フロー様、申し訳ありませんが、ニッキーは天国に送ってあげたいと思います。
これを手にできたあなたはきっとフローサノベルドに近しく、そして魔力適合者であるに違いありません。
どうか、私の可哀そうな息子の心の支えとなって頂けるよう、心からお願いいたします。もし、あなたが私の願い通りフローの妻となる人物であれば、この上なく嬉しく思いますし、そうでなかったとしても側にいて支えて頂ければと思います。謝礼や経費が必要な場合は一緒に箱に入れている宝石類を使ってください。
魔力とは持つ者、持たない者、関係なく無意識に互いに干渉しあうものです。その干渉は僅かな違和感でしかなく、通常は気が付かないまま、心地が良い、悪い、などと感じることで終わることでしょう。
僅かながら相手に流れた魔力はその相手に触れられた瞬間に変質します。それが無意識に戻ってきたとき、人は快く思ったり、逆に不快に感じたりするのです。
私もフローも闇魔術師の資質があり、そして魔力の変質にとても敏感な家系です。これは人を選り好みしてしまう要因の一つとなり、きっとフローもわたしと同様、人と接することをよしとせず生きていくことになるでしょう。ちなみに亡き夫ルートは私の知る中の最高の魔力適合者でありました。
私は間もなく愛しい我が子を残してこの世を去らなければなりません。
どうか、息子のことをよろしくお願いします。そして、愛してあげてください。
グローリア=カザーレン
……開けなきゃよかった。
そう思える心に重い手紙を読んでしまった。その魔力適合すらきっとニッキーのお陰だろう。
「まいったな」
残された時間、きっとフロー様のお母様は生きているうちに息子にできることをなんでもしようとしたのだろう。一緒に入っていた袋に宝飾類がたくさん押し込められていたが、一つ取っても小さな家一軒ほどに高価なものであることは素人の私にも分かった。恐れ多すぎる。
そうして箱には手紙と宝飾類の入った袋の他に二冊の本が入っていた。
一冊は闇魔術の専門書。もう一冊は手書きのノートだった。
「これって……」
難しいことは分からないが、本の方を開くと恐ろしい文字が見えた。
蘇生闇魔術の式術……魂の蘇生……肉体の蘇生……。
「ひいっ」
ノートの日付はずいぶん古く、二十五年前になっていた。メモ書きに走り書きされるルートという名前……。これは、もしかしなくても、フロー様のお母様は、お父様を蘇生しようと試みたように思える。
何度も失敗し、絶望を繰りかえしていたようだった。
ノートのところどころには日記のように自分の心を書きなぐっている箇所もあり、
私を置いて行かないでほしい。一緒にそちらに行きたいがフローは巻き込めない。
などと、もう、心が痛む内容ばかりであった。辛い中、彼女の支えは変な話、夫の蘇生魔法の構築であったようで、それはそれは熱心に実験をくりかえしていた。
半分、心を病んていたのかもしれない。でも、彼女は息子のために父親のところに行くのは思いとどまったのだ。
死者を蘇えさせる魔術はご法度。禁術である。なにを想ってお母様はこの手紙と一緒にこの研究の記録まで入れたのだろうか。
不老不死や死者の蘇生は禁術で、その研究は禁止されている。理由はその研究過程にあり、実験していた動物が変質して魔物になったり、過去大規模な死傷者を出した事件もあった。時には赤子を連れ去って実験したり墓を掘り返したりと身も震える行動に出るものも少なくなく、高位闇魔術師には毎年精神鑑定が行われる仕組みになっているほどだ。
まさか、身近な人がこんな実験を繰り返していたとは……。
フロー様がかなり黒に近いグレーに思えてきた。
カザーレンの屋敷のどこかで禁術が行われていたのだとしたら、とんでもないことだ。
私の中のニッキーは……やはりフロー様が呼び戻したのだろうか。
ああ、こんなモヤモヤした気持ちで今晩またテンションMAXのニッキーのふりができるだろうか……。
テーブルで頭を抱えていると、コツコツと窓を叩く白い鳩が見えた。
「魔塔からの連絡だ」
ガバリと起き上がって窓を開けると鳩の足に着いた手紙を開いた。
――解読が終わりました。本日魔塔に来てください。いつでもお待ちしております。屋敷を出るタイミングは任せ致します。 魔塔長ポルト
よし、すぐ行こう。
私は騎士服に着替えてから準備運動をした。例のフロー様のお母様の箱を抱え、バルコニーから降り、屋敷を脱出する。トラップやルートは変な話、体が覚えていた。
きっと夕飯までに帰れば屋敷の誰も気が付かないはずだ。
フロー様、申し訳ありませんが、ニッキーは天国に送ってあげたいと思います。
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