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深まる疑惑2

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 「それでは失礼いたします。お嬢様はやはり、ニッキー様とご縁が深い方だったのですね」

 赤い目をしたヒルダが私を優しい目で見ていた。どうやらフロー様はこの屋敷で大切に想われているようだ。

フロー様はヒルダと私を会わせて、ニッキーがのりうつっていることがバレてもいいと思っていたのだろうか。屋敷の人がやたら一方的に私に親近感があるのをみると隠すつもりはないようだ。

ヒルダが部屋を退出してから、私は屋敷の見取り図を出した。自分がこれから住む場所を把握していていないと落ち着かないと執事に頼んでもらったものだ。

もしもフロー様がどこかで魂を呼び戻す儀式をしたとすれば、きっとそれは人目につかないところに違いない。

考えつくのは、隠し部屋(あるかどうか知らないけれど)。けれど屋敷の形状を見る限り、フロー様の執務室や寝室側に空間があるとは思えない。

次に地下室。 

あとは庭園の温室くらいだろうか。

よし、まずはフロー様の執務室と寝室、地下室を探ってみよう。

私はトレーニング服に着替えて髪をまとめた。一応覆面もかぶって、屋敷の探索に向かった。

「ここはムリか」

まずは執務室に着いたが、入り口に厳重にトラップ魔法がかけられている。入ろうとして無数の魔法の光にふれると警報が鳴る仕組みだ……もっともフロー様のことだから、警報が鳴るだけでは済まないかもしれない。もちろん国の一大事であればなんとか突破しようと思うが、真っ先に危険を冒す必要もないだろう。

「先に寝室に行ってみよう」

フロー様の寝室もトラップ魔法がかけられていたが、執務室ほどではない。光を避けて慎重に侵入すると、そこには多分フロー様のご両親の絵と隣にはニッキーの大きな絵がかけられていた。

「これが、ニッキー……」

シルバーグレーの毛並みにブルーの瞳。短毛でビロードのような美しい毛並み。無駄のない筋肉と均整の取れた肢体。堂々とした大型犬がそこに描かれていた。

「確かに、髪の色と目の色はそっくりかも……」

犬の寿命は十年前後で聞いていた。大型犬は短命なものも多く、十五年生きたニッキーはフロー様がどれだけ大事にしていたのかがわかる。

「未だ首輪を手に巻いているくらいだものね。とても愛していたんだろう」

軽く壁を叩いて隠し部屋がないか確かめる。特に不審な点はなかった。ただ、ニッキーの為に作られたと思われるチェストには、ブラシ、タオル、毛布、玩具などが綺麗に整頓されて置かれていた。

「……地下室にいこう」

もう一度慎重にトラップ魔法を抜けると今度は地下室に向かった。

地下室は見取り図には書いていない。けれどこういう屋敷には必ず作られている施設だ。屋敷によっては拷問部屋や監獄が作られている場合もある。カザーレン侯爵家ほどの屋敷にないわけがないのだ。

「きっとここだな」

目星をつけていた中庭に行くと女神像の裏を探るとレバーを見つけた。ぐっと引くと像が移動して取ってのついた扉が現れる。周囲の確認をしてそれを開けると地下に続く階段が現れた。

チャポン……。

光玉を出して点火するとぼんやりと中が映し出される。思っていたより小さな空間だったので、ここはメインの地下室でないかもしれない。

「あ……」

中に進んで行って、ようやく私はそれがなにか分かった――拷問部屋だ。ヤバいヤバい。通りで警備が甘いはずだ……。さっさと扉を閉めて女神の像を戻した。 いやー、本当にあるところにはあるんだ……こわっ。

次はどこへ行こうかと思って歩いていると不自然に植えてある木が目に入った。小さな若木が植えられていて、そこには石のプレートが置かれていた。

ニッキーのお墓だ。

ここに埋めてもらっていたのか。見上げるとフロー様の寝室の窓が見える。なんだかとてつもなく愛情を感じるな。

はあ。だからって自分の体をあげようとは思わないが、カザーレンの屋敷を探索して分かったのはフロー様にとってニッキーがどんなに大切な存在であったか、ということだ。リッツィ姉さんには聞いていたが、ここまでとは……。

「今日はこのくらいにしておこう」

これ以上探って入ればフロー様が帰ってくるかもしれない。与えられた部屋に戻ると、なんとなくモヤモヤとしながらパジャマに着替えてベッドに入った。

胸のクマのアップリケを探る。記憶玉はちゃんとそこに付いていた。







どうしてもうキスはだめなの?

 じゃあ、抱きしめて!

 あのね、これを見つけたの。そうよ、私のウサギ。

 いいでしょ!

 元気がないのね。お腹がすいた?

 そばにいるわ。

 いつだって……。


目が覚めて見る天井は、見慣れないものだ。それはそうだ。カザーレンの屋敷にいるのだから。

ツーっと目から涙がこぼれた。

事情がわかれば、ニッキーの想いが素直に受け取れる。彼女はフロー様が大好きで、ずっと彼を守ってきたのだ。そこには対価もなく、ただ、純粋に。

「運んでくれたのかな」

てっきり柔らかいベッドに体が馴染まなくてベッドを避けて寝ているのかと思っていたが、これも、フロー様が毎回運んできてくれたのだろう。

「どうしたものかな」

リッツィ姉さんに確認してもらう前に記憶玉にどんな映像が映っているか予想がついた。

幸せな夢などではなかったのだ。フロー様といて、幸せなニッキーの記憶。

申し訳ないが体を受け渡す気はない。

けれど……健。気なこのニッキーの愛情がフロー様の心を支えているのは確かだった
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