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コンニチワ! 監禁生活4
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そうして私は夜ニッキーに体を貸すことを容認し、フロー様からの求婚を受けた。すぐにカザーレン家から正式に作法や家の勉強の為、婚約を交わして先に屋敷に来てくれないかと打診があった。
どうせ、夜中に抜け出してフロー様と会っているのだ問題ない。私はすぐにカザーレンの屋敷に迎え入れられることになった。
「組織の件がまだ片付いていないので危ない。ジャニスは僕の屋敷で守られていてほしい」
朝早く私の迎えにわざわざフロー様がやってきた。にっこり笑う顔は本当に私が好きなように思えるが、それも今は私の中のニッキーに向けられるものだとわかっている。
『組織の件』とは本当なのだろうか。もしかして私の体をニッキーに明け渡す準備が出来ていたら……。
疑惑はあるが、まだフロー様の思惑がどういうものか、どこまで進んでいるのかがわからない。魔塔の長に面会できるようにリッツイ姉さんが根回しをしてくれている。少しでも情報を集めてから相談した方がいいだろう。
「ジャニス。承諾してくれて嬉しい」
差しだされた手を取るのに少しだけ戸惑った。私に対してフロー様はいつも優しかった。リッツイ姉さんが言うような冷たいフロー様の面を見てはいない。
この人は私の魂をニッキーと入れ替えようとする恐ろしい人なのだろうか。かける言葉が分からなくてフロー様の手をきゅっと握った。それに気づいた彼が私を愛おしむように見つめた。
胸がざわつく。知らずにいたら、きっと私はこの人に愛されていると思えただろう。
ドレスも、美味しい食べ物も、全部、嬉しかった。なによりフロー様の隣にいると自分が女の子になった気分になってくすぐったかった。
ああ、なんだか泣きたくなってくる。
「ジャニス、急に婚約だなんて急かして悪かった。しかし、パーティの時の君があまりに素敵だったから、誰にも取られたくなかったんだ」
「い、いえ。何も考えずに突っ走って、フロー様から頂いた特別なドレスをダメにしてしまいました。申し訳ございません」
「僕を守ってくれたのだから気にしていない。暗殺者を追っかけて行った時は肝が冷えたけどね。もう少し僕がしっかりしていればあんなことにはならなかった。けど……あの時のジャニスは……かっこよかった」
「か……」
だめだ、ニッキーと重ねられていると知っても勘違いしてしまう。カッコいいだなんて……頬が熱い。恥ずかしくて下を向くと握られていた手に目がいく。そこには擦り切れて古い革のベルトが巻かれていた。
「フロー様、そのベルトは?」
「あ、これは……ニッキーの首輪なんだ」
「……」
フロー様が私の手を外してもう片方の手でベルトを押えた。それを見てすっと心が冷える。大丈夫、自分の立ち位置を確認できた。勝手に膨らませていた恋心がしぼんでいくのが分かった。
連れて行かれたカザーレンの屋敷はとても立派で、私の部屋はいずれフロー様の隣になるらしいが、結婚までは来賓の部屋で過ごすことになった。
「ジャニス、庭を散歩しないか?」
「はい」
フロー様に贈られたドレスを着て、フロー様に贈られた靴を履いて歩く。お庭はきっとフロー様とニッキーの思い出が詰まった場所に違いない。庭の奥には大きな温室があり中央には東屋が作られていた。フロー様はゆっくりと私をベンチに座らせる。
「え、と、フロー様?」
そうして私の前で片膝をついた。
ま、まさか……まさか?
「改めてジャニスに結婚の申し込みを。愛してるジャニス。どうか結婚してください」
差しだされたのはビロードの小さな箱。知ってる。私でも知ってるよ。婚約指輪が入っているって。
「あ、あのぅ……」
いや、断るれるわけがない。でも承認したくない。しかし油断させておかないと私の魂はこの体から離れることになるかもしれない。
「ジャニス……」
「はい」
絞り出して言えたのはその一言だった。余計な事は言いたくないし。明日にでも魔塔の長に会う。早くこの状況を相談しないと。
パカリと開いた箱からは想像通りの指輪が出てきた。しかし、想像できていないのはそれが目玉が飛び出そうな大きくて赤い宝石がついていたことだった。宝石の色は相手の髪か瞳の色に合わせるという。この宝石はもちろんフロー様の瞳の色で、もう逃げられそうもない。ちなみに髪の色に合わせるのは『貴方のことで頭がいっぱい』という意味で、瞳は『貴方を見つめていたい』という意味があるらしい。なんか意味深で怖い。
こんな考えを頭の中で巡らさせていたら、目の前にフロー様の顔があった。
近い。……とても近い。どうしてこんなに近いのだろう。
「フロー様、近くないですか?」
「近づかないとできない」
「何を?」
「何をって……キスだが」
「ええええっ!」
ドン、と思わずフロー様の胸を押してしまう。キキキキキキスううう!?
「ジャニス?」
不思議そうに見るフロー様。顔が熱い。どうしていきなりキス!
「あわわわわわっ」
「……もしかして初めてなのか?」
「な、な、何がですか!?」
「キス」
「&%%$‘(#)=!」
「婚約したのだから、キスしよう」
両手を握りこまれてそんなことを言われる。いや、だから、でも、キ、キス!?
アワアワしていると顔がまた近づいて来る。ど、どうすればいい?
ちゅっ。
ぎゅっと目をつぶれば唇に柔らかい感触がした。そろりと目を開けるとフロー様が私を見て笑っていた。
「ジャニスは可愛いな。他の人としていなくてよかったよ」
「へ?」
「そんな男がいたら、ちょっと闇に葬ってしまったかも知れない」
にっこりと笑うフロー様は、とてもこの世の者とは思えない美しさだった。が、怖い。
てか、
キス、してしまった。
あああああああっ……。
どうせ、夜中に抜け出してフロー様と会っているのだ問題ない。私はすぐにカザーレンの屋敷に迎え入れられることになった。
「組織の件がまだ片付いていないので危ない。ジャニスは僕の屋敷で守られていてほしい」
朝早く私の迎えにわざわざフロー様がやってきた。にっこり笑う顔は本当に私が好きなように思えるが、それも今は私の中のニッキーに向けられるものだとわかっている。
『組織の件』とは本当なのだろうか。もしかして私の体をニッキーに明け渡す準備が出来ていたら……。
疑惑はあるが、まだフロー様の思惑がどういうものか、どこまで進んでいるのかがわからない。魔塔の長に面会できるようにリッツイ姉さんが根回しをしてくれている。少しでも情報を集めてから相談した方がいいだろう。
「ジャニス。承諾してくれて嬉しい」
差しだされた手を取るのに少しだけ戸惑った。私に対してフロー様はいつも優しかった。リッツイ姉さんが言うような冷たいフロー様の面を見てはいない。
この人は私の魂をニッキーと入れ替えようとする恐ろしい人なのだろうか。かける言葉が分からなくてフロー様の手をきゅっと握った。それに気づいた彼が私を愛おしむように見つめた。
胸がざわつく。知らずにいたら、きっと私はこの人に愛されていると思えただろう。
ドレスも、美味しい食べ物も、全部、嬉しかった。なによりフロー様の隣にいると自分が女の子になった気分になってくすぐったかった。
ああ、なんだか泣きたくなってくる。
「ジャニス、急に婚約だなんて急かして悪かった。しかし、パーティの時の君があまりに素敵だったから、誰にも取られたくなかったんだ」
「い、いえ。何も考えずに突っ走って、フロー様から頂いた特別なドレスをダメにしてしまいました。申し訳ございません」
「僕を守ってくれたのだから気にしていない。暗殺者を追っかけて行った時は肝が冷えたけどね。もう少し僕がしっかりしていればあんなことにはならなかった。けど……あの時のジャニスは……かっこよかった」
「か……」
だめだ、ニッキーと重ねられていると知っても勘違いしてしまう。カッコいいだなんて……頬が熱い。恥ずかしくて下を向くと握られていた手に目がいく。そこには擦り切れて古い革のベルトが巻かれていた。
「フロー様、そのベルトは?」
「あ、これは……ニッキーの首輪なんだ」
「……」
フロー様が私の手を外してもう片方の手でベルトを押えた。それを見てすっと心が冷える。大丈夫、自分の立ち位置を確認できた。勝手に膨らませていた恋心がしぼんでいくのが分かった。
連れて行かれたカザーレンの屋敷はとても立派で、私の部屋はいずれフロー様の隣になるらしいが、結婚までは来賓の部屋で過ごすことになった。
「ジャニス、庭を散歩しないか?」
「はい」
フロー様に贈られたドレスを着て、フロー様に贈られた靴を履いて歩く。お庭はきっとフロー様とニッキーの思い出が詰まった場所に違いない。庭の奥には大きな温室があり中央には東屋が作られていた。フロー様はゆっくりと私をベンチに座らせる。
「え、と、フロー様?」
そうして私の前で片膝をついた。
ま、まさか……まさか?
「改めてジャニスに結婚の申し込みを。愛してるジャニス。どうか結婚してください」
差しだされたのはビロードの小さな箱。知ってる。私でも知ってるよ。婚約指輪が入っているって。
「あ、あのぅ……」
いや、断るれるわけがない。でも承認したくない。しかし油断させておかないと私の魂はこの体から離れることになるかもしれない。
「ジャニス……」
「はい」
絞り出して言えたのはその一言だった。余計な事は言いたくないし。明日にでも魔塔の長に会う。早くこの状況を相談しないと。
パカリと開いた箱からは想像通りの指輪が出てきた。しかし、想像できていないのはそれが目玉が飛び出そうな大きくて赤い宝石がついていたことだった。宝石の色は相手の髪か瞳の色に合わせるという。この宝石はもちろんフロー様の瞳の色で、もう逃げられそうもない。ちなみに髪の色に合わせるのは『貴方のことで頭がいっぱい』という意味で、瞳は『貴方を見つめていたい』という意味があるらしい。なんか意味深で怖い。
こんな考えを頭の中で巡らさせていたら、目の前にフロー様の顔があった。
近い。……とても近い。どうしてこんなに近いのだろう。
「フロー様、近くないですか?」
「近づかないとできない」
「何を?」
「何をって……キスだが」
「ええええっ!」
ドン、と思わずフロー様の胸を押してしまう。キキキキキキスううう!?
「ジャニス?」
不思議そうに見るフロー様。顔が熱い。どうしていきなりキス!
「あわわわわわっ」
「……もしかして初めてなのか?」
「な、な、何がですか!?」
「キス」
「&%%$‘(#)=!」
「婚約したのだから、キスしよう」
両手を握りこまれてそんなことを言われる。いや、だから、でも、キ、キス!?
アワアワしていると顔がまた近づいて来る。ど、どうすればいい?
ちゅっ。
ぎゅっと目をつぶれば唇に柔らかい感触がした。そろりと目を開けるとフロー様が私を見て笑っていた。
「ジャニスは可愛いな。他の人としていなくてよかったよ」
「へ?」
「そんな男がいたら、ちょっと闇に葬ってしまったかも知れない」
にっこりと笑うフロー様は、とてもこの世の者とは思えない美しさだった。が、怖い。
てか、
キス、してしまった。
あああああああっ……。
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