6 / 41
任務はお手柔らかに5
しおりを挟む
一緒に眠っていいでしょ?
……の温もりが一番安心するの。
ダメダメ、すき間なんて作らないで、ぴったり寄り添うのがいいの。
どうして今日はキスしちゃダメなの?
いつもしてるのに急にどうしたの?
そうよ、大好きなんだもの。いいじゃない。
いつもみたいに頭も撫でてくれなきゃ嫌よ。
そう、眠るまで……。
「ん……」
目覚めるとまだ朝日もうっすらと上がったところのようで、辺りはまだ薄暗かった。
「あれ?」
昨夜はベッドに入って眠ったはずなのに部屋の入り口に毛布にくるまっている。
え、あそこから私が移動したのだろうか。確かにベッドがフカフカ過ぎて落ち着かないとは思ったけど……寄宿舎のベッドの硬さに慣れて寝苦しいと移動したのか。
貧乏気質の自分が怖い。
もう一度ベッドに入って目を閉じたが、一度気づいてしまうとフカフカ過ぎて眠れそうになかった。
「仕方ない、朝の鍛錬でもしておこう」
ここのところつるつるになっていた髪がボサボサに戻っている。まあ、でも気にするものでもないしと後ろでひとくくりにした。
服を着替えて宿の外に出ると裏手の広場でその辺にあった木の棒を構えた。そのまま棒を振り続けていると後ろに気配を感じる。一瞬身構えたが現れたのはカザーレン様だった。
「おはようございます」
とりあえず挨拶をするとそのままカザーレン様がこちらにやってきた。まだ起きるには早いのに目が覚めてしまったのだろうか。
「あ、もしかして私がうるさくしてしまいましたか?」
「え? そんなことはない」
素振りの音がうるさかったのだろうかと聞くとそうでは無いようでホッとした。しかし、カザーレン様が宿に戻る様子はなかった。気が散るし、緊張するから帰ってくれたらいいのに。
「体を動かすのが好きなんだな」
「そうですね、少なくとも頭を働かせるより得意です」
そう答えるとカザーレン様が私をじっと見てから近くにあった枝を拾い上げた。そしてそれを私の目の前で少し振って見せつけてからポーンと向こうに投げた。私は向こうに飛んでいく木の枝の軌道を目で追った。
「拾いにいかないのか?」
「え?」
なんだ、これは新手の虐めなのだろうか。
突然友達から虐めてやりたい奴に変更されてしまったのか?
首をひねりながら拾えばいいのかと私は木の枝を拾いに行った。しかし、どれをカザーレン様が投げたのか見当もつかない。
どれだ? まあ、いいか。
適当に選んだ枝を拾い上げて戻るとカザーレン様に渡した。
「これでいいですか?」
「……もう一回投げなくていい?」
すると変なことを言いだした。
「カザーレン様が投げたいなら拾ってきますが……」
何がしたいのかさっぱりわからない。しかしカザーレン様は納得がいかないという顔で私を見てから宿へ帰って行った。
なんだ、あれ。
「ねえねえ、私さ、思ったんだけど、フローサノベルドはあなたのことが気に入ったんじゃないかしら!」
さて森まで出発だ、と装備を整えていると部屋に入ってきたリッツィ姉さんが私の元へと飛んできてそんなことを言った。
「え。そうですか?」
「そうよ! 今まで女の子を視界に入れることさえしてこなかったフローサノベルドが、髪の毛にキスするなんて有り得ない!」
「……大興奮ですね」
「これが興奮しないでいられるか! ああ、ついに彼にも春が来たんだわ」
「あの、そうだとしても亡くなった愛犬と私を重ねて見てらっしゃるだけですからね。今朝も会いましたけど、木の棒を投げて取ってこさせられましたよ」
「え、木の棒?」
「完全な犬扱いでした」
「……そ、それでも、あの時のフローサノベルドに比べたら、明るい顔だもの。ね、ジャニスは婚約者いないよね? どうかな、彼が気に入る女の子なんてこの先絶対に現れやしないって断言できる。ジャニスがOKなら、私が推薦するから」
「なっ、いきなり何言いだすんですか」
「いいじゃない」
「思ったんですが」
「な、なに?」
「そんなに私に薦めるのは何か裏があるのでは?」
「あー……いやあ、このままいけば私が婚約者にされてしまうっていうか」
「……そんなことだろうと思いましたよ。残念ながらお断りです。っていってもカザーレン様は侯爵ですよ。名ばかりの男爵家のうちとはつり合いが取れません。親戚で伯爵家のリッツィ姉さんが適任ですね。それにカザーレン様なら黙っていても押しかけてくるご令嬢はたくさんいるでしょう?」
「フローサノベルドが気に入らないんじゃ意味ないのよ! それにジャニスが気にしなくても貴族であれば問題ないから。何がダメなの? 彼は顔がいいし、侯爵で金持ちだし、闇魔術師で天才で、次期魔塔の長で間違いないのよ?」
「その言葉そっくりお返しします」
「じゃあ、ジャニスはどんな男が好みなのよ。私は断然、筋肉マッチョ。首の細い男なんていらない……」
「なるほど、だから騎士団の男連中が骨抜きにされていたんですね。私は筋肉だるまたちと育っているのでもうお腹いっぱいです」
「ほら、ほらほら! 悪いこと言わないからフローサノベルドにしなさいって、ちょっと性格は不思議ちゃんだけど、ツンツンしてるけど、そうよ、ニッキーだけは溺愛してたから!」
「だから、私はニッキーではありません」
少なくとも家の男どもを思い浮かべて胸がキュンなんてすることはない。体を鍛えることに特化した男に魅力を感じたことはない。だからと言ってカザーレン様は……まあ、確かに美男子で、男くさくない感じがいいとはいえる……かも?
しかし……今朝の態度を思い出す。確かに『お友達』なんて昨日は口にしていたけど、今朝の態度にいい印象は受けなかった。
私は喜んで枝を拾ったりできないぞ。
……の温もりが一番安心するの。
ダメダメ、すき間なんて作らないで、ぴったり寄り添うのがいいの。
どうして今日はキスしちゃダメなの?
いつもしてるのに急にどうしたの?
そうよ、大好きなんだもの。いいじゃない。
いつもみたいに頭も撫でてくれなきゃ嫌よ。
そう、眠るまで……。
「ん……」
目覚めるとまだ朝日もうっすらと上がったところのようで、辺りはまだ薄暗かった。
「あれ?」
昨夜はベッドに入って眠ったはずなのに部屋の入り口に毛布にくるまっている。
え、あそこから私が移動したのだろうか。確かにベッドがフカフカ過ぎて落ち着かないとは思ったけど……寄宿舎のベッドの硬さに慣れて寝苦しいと移動したのか。
貧乏気質の自分が怖い。
もう一度ベッドに入って目を閉じたが、一度気づいてしまうとフカフカ過ぎて眠れそうになかった。
「仕方ない、朝の鍛錬でもしておこう」
ここのところつるつるになっていた髪がボサボサに戻っている。まあ、でも気にするものでもないしと後ろでひとくくりにした。
服を着替えて宿の外に出ると裏手の広場でその辺にあった木の棒を構えた。そのまま棒を振り続けていると後ろに気配を感じる。一瞬身構えたが現れたのはカザーレン様だった。
「おはようございます」
とりあえず挨拶をするとそのままカザーレン様がこちらにやってきた。まだ起きるには早いのに目が覚めてしまったのだろうか。
「あ、もしかして私がうるさくしてしまいましたか?」
「え? そんなことはない」
素振りの音がうるさかったのだろうかと聞くとそうでは無いようでホッとした。しかし、カザーレン様が宿に戻る様子はなかった。気が散るし、緊張するから帰ってくれたらいいのに。
「体を動かすのが好きなんだな」
「そうですね、少なくとも頭を働かせるより得意です」
そう答えるとカザーレン様が私をじっと見てから近くにあった枝を拾い上げた。そしてそれを私の目の前で少し振って見せつけてからポーンと向こうに投げた。私は向こうに飛んでいく木の枝の軌道を目で追った。
「拾いにいかないのか?」
「え?」
なんだ、これは新手の虐めなのだろうか。
突然友達から虐めてやりたい奴に変更されてしまったのか?
首をひねりながら拾えばいいのかと私は木の枝を拾いに行った。しかし、どれをカザーレン様が投げたのか見当もつかない。
どれだ? まあ、いいか。
適当に選んだ枝を拾い上げて戻るとカザーレン様に渡した。
「これでいいですか?」
「……もう一回投げなくていい?」
すると変なことを言いだした。
「カザーレン様が投げたいなら拾ってきますが……」
何がしたいのかさっぱりわからない。しかしカザーレン様は納得がいかないという顔で私を見てから宿へ帰って行った。
なんだ、あれ。
「ねえねえ、私さ、思ったんだけど、フローサノベルドはあなたのことが気に入ったんじゃないかしら!」
さて森まで出発だ、と装備を整えていると部屋に入ってきたリッツィ姉さんが私の元へと飛んできてそんなことを言った。
「え。そうですか?」
「そうよ! 今まで女の子を視界に入れることさえしてこなかったフローサノベルドが、髪の毛にキスするなんて有り得ない!」
「……大興奮ですね」
「これが興奮しないでいられるか! ああ、ついに彼にも春が来たんだわ」
「あの、そうだとしても亡くなった愛犬と私を重ねて見てらっしゃるだけですからね。今朝も会いましたけど、木の棒を投げて取ってこさせられましたよ」
「え、木の棒?」
「完全な犬扱いでした」
「……そ、それでも、あの時のフローサノベルドに比べたら、明るい顔だもの。ね、ジャニスは婚約者いないよね? どうかな、彼が気に入る女の子なんてこの先絶対に現れやしないって断言できる。ジャニスがOKなら、私が推薦するから」
「なっ、いきなり何言いだすんですか」
「いいじゃない」
「思ったんですが」
「な、なに?」
「そんなに私に薦めるのは何か裏があるのでは?」
「あー……いやあ、このままいけば私が婚約者にされてしまうっていうか」
「……そんなことだろうと思いましたよ。残念ながらお断りです。っていってもカザーレン様は侯爵ですよ。名ばかりの男爵家のうちとはつり合いが取れません。親戚で伯爵家のリッツィ姉さんが適任ですね。それにカザーレン様なら黙っていても押しかけてくるご令嬢はたくさんいるでしょう?」
「フローサノベルドが気に入らないんじゃ意味ないのよ! それにジャニスが気にしなくても貴族であれば問題ないから。何がダメなの? 彼は顔がいいし、侯爵で金持ちだし、闇魔術師で天才で、次期魔塔の長で間違いないのよ?」
「その言葉そっくりお返しします」
「じゃあ、ジャニスはどんな男が好みなのよ。私は断然、筋肉マッチョ。首の細い男なんていらない……」
「なるほど、だから騎士団の男連中が骨抜きにされていたんですね。私は筋肉だるまたちと育っているのでもうお腹いっぱいです」
「ほら、ほらほら! 悪いこと言わないからフローサノベルドにしなさいって、ちょっと性格は不思議ちゃんだけど、ツンツンしてるけど、そうよ、ニッキーだけは溺愛してたから!」
「だから、私はニッキーではありません」
少なくとも家の男どもを思い浮かべて胸がキュンなんてすることはない。体を鍛えることに特化した男に魅力を感じたことはない。だからと言ってカザーレン様は……まあ、確かに美男子で、男くさくない感じがいいとはいえる……かも?
しかし……今朝の態度を思い出す。確かに『お友達』なんて昨日は口にしていたけど、今朝の態度にいい印象は受けなかった。
私は喜んで枝を拾ったりできないぞ。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
運命の赤い糸はとんでもない!
竹輪
恋愛
突然の父親の訃報によって、爵位を継がなくてはならなくなった冒険者の兄ハージが貧乏男爵のコートボアール家に帰ってきた。――足首に呪いの赤い糸と、とんでもない美男子の他国の王子様をくっつけて……。
他人事のように大好きな兄を応援していた妹アイラだが、ある日、呪いの赤い糸が兄と交換できると判明する。美男子と呪いに翻弄される兄妹は無事に赤い糸の呪いを解くことができるのか!?
「是非、お兄様の嫁に! 偏見なんて微塵もありません! 女性が苦手でも平気! お兄様に一生大切にさせます!」
~腐った本のせいで突っ走るブラコンアイラと赤い糸の呪いを解く愛の物語~
**小説家になろうでも(竹輪㋠の名で)公開中です**
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる