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占者の洞窟
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「なるほど、天界の王の娘で火の神に愛されし者の夫の候補となると貴方たちに容易に手が出せなくなりますね。姫たちも悔しがるでしょう。」
「え、あ、リアムたちを守るためか。そういう事なら先に言ってよ!」
いきなりリアムがプロポーズするから心臓バックバクだよ!あーびっくりした!
「どちらにせよ、占者の洞窟であなたの美しさに叶うものなどありません。あそこの者たちは末端の者でも選りすぐられた「種」から生まれた子です。能力はもちろん、容姿も引き継いでいますが神の子である貴方には足元も及ばないでしょう。」
「しかし、父親を「種」呼ばわりとか失礼すぎる…。」
「命を何だと思っているのでしょうね。けれども私のように両親が愛し合って出来た子は洞窟には居ません。産まれても男児なら能力なしとジェカが判断すれば処分。魔力や能力があっても去勢。女児と辛うじて両性しか要らない。……あそこではそれが当たり前になっているのです。」
「でも、お腹にいた自分の赤ちゃんでしょ?」
「母性はありますから愛おしく感じる人がほとんどです。ですからジェカの目を盗んででも私に赤子を託すんです。でも、皆が皆我が子に愛情を感じるわけではありません。昔、無性を生んだ人がいました。生まれた瞬間に赤子は占者の「祖」だともてはやされましたがジェカが「能力なし」と判断した途端捨てられてしまいました。私が初めてジェカから救ったのはその子です。もう、18年も前になるでしょうか……。」
「ちょ、ちょっと待って!無性って……沢山いるの?」
「いえ。私が知る限りはその子だけです。私のような両性はたまに生まれますが。魔力も能力も、孕めもしない無性として当時は価値がないとジェカに判断されてしまいました。今思えばモーラ神が初めて心を許したのは無性の祖でしたから、自分よりモーラ神の愛を受けたらどうしようというジェカの嫉妬もあったかも知れません。」
「その子って、薄茶色の髪で黒い目してた?」
「え?ええ……。」
「右の手首に三角形の三つのホクロがあった?」
「どちらの手かは忘れましたが……パオラ様……もしかして、レダを知っているのですか?」
ああ!!
マティアから「レダ」の名前が出た時、涙がこぼれた。レダは、レダはここで生まれたんだ!
ΘΘΘ
広間に戻ってリュックからレダの遺髪をだしてマティアや皆に見せた。何よりもレダに故郷を感じてほしかったのかもしれない。
私があの孤児院に連れていかれたのは8つの時だった。その時の私は両親を失ったショックで生きたお人形のようだったと思う。トイレも頻繁に失敗していて院長夫婦も私の扱いを持て余していた。いつもただ部屋の隅で座って、食べさせないとご飯も食べなかった。そのころの記憶は曖昧だけど、レダは私より1か月後くらいに孤児院に入ってきたのだと思う。
二つ年上だったレダがどうしていつも部屋の隅っこで目を開けているだけの私を世話し始めたのかは分からない。けど、気が付いたらご飯を与えられて、トイレの世話もしてくれていた。夜は抱きしめてくれて涙を流せば拭ってくれた。そんな生活が半年くらい続いて、私はやっと自分を取り戻し始めた。
あの時、レダは私のすべてだった。好きだけでは表せれないくらい。私は常にレダの後をついて回って、レダが視界から消えると泣いた。レダは「大好きだよ、パオラ。」っていつも落ち着くまで抱きしめてくれた。
もともと私の外見に価値があると引き取った院長夫妻もレダが無性であることに安心していた。加えてレダはとても賢く、問題も起こさない。本を読めばその知識をすぐに吸収した。孤児院に寄付されていた本などすぐに読みつくしてしまい、町の図書室に通い14歳の頃にはレダは諸国12ヵ国ほどの簡単な読み書きと生活会話が出来ていた。
ーーとっても賢かったんだ。
16歳になったレダは町の学者のところへ奉公することが決まっていた。レダ自身も勉強ができるととっても喜んでいた奉公先だった。けれど、私がレダの可能性をつぶしてしまった。私がレダにいつもくっついている事で私を欲しがった貴族たちがレダを自分のところの奉公人にさせようと躍起になってしまったから。ーーある意味読まれていたんだよね。レダが一足先に外で働いて私を迎えてくれると約束してくれていたから。
結局、レダの学者の家という奉公先はつぶされてしまった。
けん制し合った貴族たちのせいでレダには結局、娼館の下男の仕事しか残らなかった。それなのに、私のせいなのにレダは私に恨み言一つも言わなかった。「そうなる運命だったんだよ。」そういって笑ってた。
私はバカで、それでもレダの勤め先に何度も会いに行った。レダはいつも優しく迎えてくれた。--でも本当はいじめられていたんだ。「気持ち悪い体」だって。裸にされて、タバコの火をおしつけられたり、殴られたりしてたみたい。レダの体には服から見えないところにいっぱい痕が残ってた。知らなかったじゃ済まないの。気づけなかったんだ。ちょっとやつれたなって思ってたのに「慣れてないから仕事が大変なんだよ。」ってレダのいう事をバカみたいに信じてた。レダが死んでしまうまで、気づけなかった。
ーー激しいいじめがあった翌日、レダは馬車にひかれて死んだ。
その日私は反対側の道にいてふらふらと危なっかしく歩くレダを見つけた。声をかけようと口を開いた時だった、レダがふらりと足をもつれさせて馬車の走る道に体を落とした。運悪く後ろから走ってきた馬車はレダの体を軽々と弾き飛ばして、レダはボールみたいに体を跳ねさせてから道に転がった。私は必死に走って、走って、レダの元へ駆けつけた。けど、レダの頭からは大量の血が流れていてもう意識は無かった……必死で助けを呼んで叫んだけどレダが息を吹き返すことは無かった。
学者のところへ奉公に行っていたらレダはその才能を開花させることが出来たと思う。それだけの力がレダには有ったから。
私がレダに結婚してって言わなければレダは細い体を「男性」にしなくて良かった。
「私は、レダを不幸にしちゃったんだ。」
みんなの前で私は懺悔した。きっとマティアは命がけでレダを救ってくれたに違いない。そんなレダを私は不幸にして、死なせてしまったのだ。
「え、あ、リアムたちを守るためか。そういう事なら先に言ってよ!」
いきなりリアムがプロポーズするから心臓バックバクだよ!あーびっくりした!
「どちらにせよ、占者の洞窟であなたの美しさに叶うものなどありません。あそこの者たちは末端の者でも選りすぐられた「種」から生まれた子です。能力はもちろん、容姿も引き継いでいますが神の子である貴方には足元も及ばないでしょう。」
「しかし、父親を「種」呼ばわりとか失礼すぎる…。」
「命を何だと思っているのでしょうね。けれども私のように両親が愛し合って出来た子は洞窟には居ません。産まれても男児なら能力なしとジェカが判断すれば処分。魔力や能力があっても去勢。女児と辛うじて両性しか要らない。……あそこではそれが当たり前になっているのです。」
「でも、お腹にいた自分の赤ちゃんでしょ?」
「母性はありますから愛おしく感じる人がほとんどです。ですからジェカの目を盗んででも私に赤子を託すんです。でも、皆が皆我が子に愛情を感じるわけではありません。昔、無性を生んだ人がいました。生まれた瞬間に赤子は占者の「祖」だともてはやされましたがジェカが「能力なし」と判断した途端捨てられてしまいました。私が初めてジェカから救ったのはその子です。もう、18年も前になるでしょうか……。」
「ちょ、ちょっと待って!無性って……沢山いるの?」
「いえ。私が知る限りはその子だけです。私のような両性はたまに生まれますが。魔力も能力も、孕めもしない無性として当時は価値がないとジェカに判断されてしまいました。今思えばモーラ神が初めて心を許したのは無性の祖でしたから、自分よりモーラ神の愛を受けたらどうしようというジェカの嫉妬もあったかも知れません。」
「その子って、薄茶色の髪で黒い目してた?」
「え?ええ……。」
「右の手首に三角形の三つのホクロがあった?」
「どちらの手かは忘れましたが……パオラ様……もしかして、レダを知っているのですか?」
ああ!!
マティアから「レダ」の名前が出た時、涙がこぼれた。レダは、レダはここで生まれたんだ!
ΘΘΘ
広間に戻ってリュックからレダの遺髪をだしてマティアや皆に見せた。何よりもレダに故郷を感じてほしかったのかもしれない。
私があの孤児院に連れていかれたのは8つの時だった。その時の私は両親を失ったショックで生きたお人形のようだったと思う。トイレも頻繁に失敗していて院長夫婦も私の扱いを持て余していた。いつもただ部屋の隅で座って、食べさせないとご飯も食べなかった。そのころの記憶は曖昧だけど、レダは私より1か月後くらいに孤児院に入ってきたのだと思う。
二つ年上だったレダがどうしていつも部屋の隅っこで目を開けているだけの私を世話し始めたのかは分からない。けど、気が付いたらご飯を与えられて、トイレの世話もしてくれていた。夜は抱きしめてくれて涙を流せば拭ってくれた。そんな生活が半年くらい続いて、私はやっと自分を取り戻し始めた。
あの時、レダは私のすべてだった。好きだけでは表せれないくらい。私は常にレダの後をついて回って、レダが視界から消えると泣いた。レダは「大好きだよ、パオラ。」っていつも落ち着くまで抱きしめてくれた。
もともと私の外見に価値があると引き取った院長夫妻もレダが無性であることに安心していた。加えてレダはとても賢く、問題も起こさない。本を読めばその知識をすぐに吸収した。孤児院に寄付されていた本などすぐに読みつくしてしまい、町の図書室に通い14歳の頃にはレダは諸国12ヵ国ほどの簡単な読み書きと生活会話が出来ていた。
ーーとっても賢かったんだ。
16歳になったレダは町の学者のところへ奉公することが決まっていた。レダ自身も勉強ができるととっても喜んでいた奉公先だった。けれど、私がレダの可能性をつぶしてしまった。私がレダにいつもくっついている事で私を欲しがった貴族たちがレダを自分のところの奉公人にさせようと躍起になってしまったから。ーーある意味読まれていたんだよね。レダが一足先に外で働いて私を迎えてくれると約束してくれていたから。
結局、レダの学者の家という奉公先はつぶされてしまった。
けん制し合った貴族たちのせいでレダには結局、娼館の下男の仕事しか残らなかった。それなのに、私のせいなのにレダは私に恨み言一つも言わなかった。「そうなる運命だったんだよ。」そういって笑ってた。
私はバカで、それでもレダの勤め先に何度も会いに行った。レダはいつも優しく迎えてくれた。--でも本当はいじめられていたんだ。「気持ち悪い体」だって。裸にされて、タバコの火をおしつけられたり、殴られたりしてたみたい。レダの体には服から見えないところにいっぱい痕が残ってた。知らなかったじゃ済まないの。気づけなかったんだ。ちょっとやつれたなって思ってたのに「慣れてないから仕事が大変なんだよ。」ってレダのいう事をバカみたいに信じてた。レダが死んでしまうまで、気づけなかった。
ーー激しいいじめがあった翌日、レダは馬車にひかれて死んだ。
その日私は反対側の道にいてふらふらと危なっかしく歩くレダを見つけた。声をかけようと口を開いた時だった、レダがふらりと足をもつれさせて馬車の走る道に体を落とした。運悪く後ろから走ってきた馬車はレダの体を軽々と弾き飛ばして、レダはボールみたいに体を跳ねさせてから道に転がった。私は必死に走って、走って、レダの元へ駆けつけた。けど、レダの頭からは大量の血が流れていてもう意識は無かった……必死で助けを呼んで叫んだけどレダが息を吹き返すことは無かった。
学者のところへ奉公に行っていたらレダはその才能を開花させることが出来たと思う。それだけの力がレダには有ったから。
私がレダに結婚してって言わなければレダは細い体を「男性」にしなくて良かった。
「私は、レダを不幸にしちゃったんだ。」
みんなの前で私は懺悔した。きっとマティアは命がけでレダを救ってくれたに違いない。そんなレダを私は不幸にして、死なせてしまったのだ。
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