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かがむもの
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梅雨明けがなかった夏の年のことだ。
何ヶ月も曇り空が続き
気持ちにもカビが生えそうな憂鬱な雰囲気が
街全体を包み込んでいた。
駅に掲げられたリゾート地への明るいポスターもどこか空々しく
軽い残業の後は帰途への足取りも重い。
ホームには同じように曇鬱な表情をした人が電車を待っている。
食欲もわかないが
コンビニに寄って何か買って帰らねば
冷蔵庫は空っぽ。そんな事を考えて列に連なる。
妙に煌々とした自販機の脇に
膝を抱えた何かが蹲っていた。
酔っ払いか。
一瞥をくれたあと
入って来た電車へ視線を向ける。
流れる電車の窓に
自販機脇の何かが映っている。
ムクリ、と起き上がり
ゆらり、と右左に大きく揺れた。
驚くほど大きな女だ。
赤黒いワンピースのようなものを身にまとっている。
自販機の光源にその顔が照らされる。
カマキリのようだった。
顎が外れてるのではないかと思うほどの大きな口をパッカリ開き
左右に揺れながら列に向かって寄って来るのが見えた。
こちらに来なければいい。
そんな思いを見透かすように
人を喰いそうな口を開きゆらりゆらり
こちらに近寄ってくる。
電車が止まった。
扉が開く。
軽く焦りながら電車に乗り込んで
私は振り返った。
巨大な女など
何処にもいなかった。
何ヶ月も曇り空が続き
気持ちにもカビが生えそうな憂鬱な雰囲気が
街全体を包み込んでいた。
駅に掲げられたリゾート地への明るいポスターもどこか空々しく
軽い残業の後は帰途への足取りも重い。
ホームには同じように曇鬱な表情をした人が電車を待っている。
食欲もわかないが
コンビニに寄って何か買って帰らねば
冷蔵庫は空っぽ。そんな事を考えて列に連なる。
妙に煌々とした自販機の脇に
膝を抱えた何かが蹲っていた。
酔っ払いか。
一瞥をくれたあと
入って来た電車へ視線を向ける。
流れる電車の窓に
自販機脇の何かが映っている。
ムクリ、と起き上がり
ゆらり、と右左に大きく揺れた。
驚くほど大きな女だ。
赤黒いワンピースのようなものを身にまとっている。
自販機の光源にその顔が照らされる。
カマキリのようだった。
顎が外れてるのではないかと思うほどの大きな口をパッカリ開き
左右に揺れながら列に向かって寄って来るのが見えた。
こちらに来なければいい。
そんな思いを見透かすように
人を喰いそうな口を開きゆらりゆらり
こちらに近寄ってくる。
電車が止まった。
扉が開く。
軽く焦りながら電車に乗り込んで
私は振り返った。
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何処にもいなかった。
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