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歩いていく、その道の先で
灼熱の砂漠、冷めぬ思い 前編
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〇この章は後日談や閑話となっています。先に本編をお勧めします。
【1】
某日、世界に夜が訪れていた。例に漏れず、セントガルド城下町も暗闇に包まれ、しかし各所に立てられた篝火が仄かに照らす。室内から漏れる明かりと星明りで多少は夜道も照らされて迷う程でもなく。
けれど、次第に静かになる町並み。其処に僅かに冷たくなった風が吹き込む。それを受けたなら帰路に、家路を急ぐだろう。或いは別の目的の為の足を急がせるに違いない。
その選択肢の一つ、とある小さな公道の終着点と言わんばかりに立ち塞ぐ建物が一つ。温かい色合いの木造建築の外見、取り分け西部劇に出てきそうな古めかしい酒場のそれと同一。窓、正面の小さな出入口から赤い光が漏れる。夜でも、いや夜だからこそ営業しているのだろう。
踏み入れば木材の暖かな色と穏やかな空気に包まれた店内が迎える。更に飾る音楽は無くとも、薄暗さが相まって慎ましい色合いは来る者を惜しまず受け止める温かさを覚えさせる。まるで実家のような安心感。
だからなのか、少し騒がしい。粛々と酌み交わして静かに談笑する姿も見れば、家族連れと思しき微笑ましい光景も映る。大人びた空間なれど、様々な料理を提供する様は万人を受け止める懐の大きさを感じられた。
まるで夕闇のような明るさでも、日中にも負けない温かい店内に踏み入って正面に構えられるのはカウンター。数人の、旧友との親交を深めているような空気や熟成させた絆を深めているような老人達の光景とは掛け離れた空気の青年が一人。
似つかわしくない雰囲気を醸す彼、青い短髪と褐色の肌は実に健康的であり、陽気さを象徴するかのよう。相当する性格と年齢故に相応しく感じるのだろうか。
けれど、彼に対面する執事のように礼服を着飾っていながら、隠し切れない屈強な体格と輪郭を見せる男性店員もまた同様に映る。壮年に差し掛かったその彼は柔らかな笑みを浮かべて優しく諌めていた。
「何度も言っているけど、駄目だからね」
「良いじゃないスか、バーテルさん。前々から興味あったんスよ!飲んでみたんスよ!特に此処の酒!バーテルさんのお薦めの奴、飲ませて下さいよ!」
硝子容器を磨く店員に対して青年は駄々を捏ねる。様子からして幾度と同じ遣り取りをしているようだ。
「駄目だよ。君は未成年、お酒を知るのは僕としても嬉しいけど、嗜むにはまだ早いよ。責任云々よりも、お酒を嗜む人達が如何なってしまうのかを良く確認し、それに対する弊害を良く観察、予習しないとね」
周りに視線を移動させてそう促す。それは他の客に失礼にもなるのだが、実際に許容範囲を超えて飲んだ弊害に苦しむ人が何人か居る。その姿を見て危惧し、危機感を持つようと。
「・・・分かったスよ・・・」
口調こそフランクではあるものの、仕事中なのかとても紳士的な態度と言葉遣い。丁重なる、年上である上に酒場経営に携わる人物の言葉を受け、幾ら我儘を突き通す彼でも折れるしかなかった。落胆しながらも聞き入れ、代わりに差し出された水を含み、カウンターに垂れていた。その姿は子供じみて。
子供のように振る舞う彼、その背にはこの空間では最も物騒で、平穏な空気に持ち込んではならない代物が背負われる。遠目で見れば鉄の塊であり、持ち手の柄を突き刺しただけの無骨な何か。近くで見れば、大よそ剣とは思えぬ、鉄塊を荒く削り出したかのような大剣が背負われていた。振るえば遊ばれるか、そもそも持てないようなそれを軽々と背負って。
「このところ連日のように来ているけど、如何したのかな?お酒を飲みたいのは分かるけど、それ以上に退屈そうだね。仕事に間が空いているのかな?」
注文を受け、氷を丸く砕きながらバーテルは質問を投げる。利用してくれる事は嬉しい一方、若い者が酒目的に入り浸る事を嘆く様に。
「・・・まぁ、そうっスね。やっと忙しくなくなって来たんスけど、そしたら時間が空く様になったんですよ。そしたら、天の導きと加護に行きまくるのも如何かなって思いまして」
「だからって、若い身が酒に溺れるような真似はしたら駄目だよ」
暇潰しの手段として選ぶのは相応しくないと窘めながら別の客に酒を提供する。ほんの僅かに橙色に染まった透明の液体は店内の明かりで鈍く光る。それから香るのはオレンジに居た柑橘系の香り。それを覆い隠すアルコールと思しき匂いが運ばれていく。
「それで、何かしようかな~、って思っているんスけど、何か無いっスかね?」
「ん?そう・・・だね・・・」
忙しさとは無縁のような振る舞いを今まさに示す彼が相談する。それを受けたバーテルは親子の食事を渡した後に考え込む。その真剣さは自分に置き換えて考えての事だろう。
「・・・そうだね、いっその事遠くに・・・そう!遠出も良いね!行った事のない場所に向かうのは色々な発見や体験があって楽しいと思うよ」
「遠出、っスか、それも良い・・・おっ!」
相談に対する一つの案を良案と聞き止めた瞬間、彼の様子が急変する。カウンターに預けていた身体を一瞬にして直立、両目に輝きを灯して活力を漲らせた。その脳裏には一つの画策が浮かんで。
必ず成功すると言う奇妙な自信に満ち溢れる。それの根本には散々に願いながらも機会を逃してきた口惜しさ、それを成功させると言った意気込みである。
「ありがとうございます!バーテルさんのお陰で良いのが思い付いたっス!!」
「そう?だったら良かったよ」
明らかに余計で、迷惑や面倒を巻き込む類が思い付いた彼。その彼の高揚した感謝の言葉を受け、バーテルは微笑んでいた。明らかに悪い顔をしているというのに、気にならないのは彼の勢いで気付けなかったのか、彼の成長と見て容認したのか。
「そしたら、早く用意しねぇとな。互いに意識させるようにするには・・・いや、単純に連れて行きゃあ良いか?・・・なら・・・」
足早に店内を後にする彼、画策を広げる最中に零す呟きは如何考えても不穏に。悪事では決してなくとも、そうだと危惧するほどの邪悪さが滲んで。
気付かないまま、詮索もせずに見送ったバーテルは業務を続ける。少しでも助けになれて良かったと嬉しそうに、接客に勤しんで。
それ以降もその酒場では憩いの時間が続く。穏やかな夜に相応しき、やや潜めた声量でゆっくりと会話を、食事を楽しむ。時折、喉を潤しながら。瞬く間に夜は過ぎ去る。ただ一人を除けば。
【2】
彼方から朝を呼び込む、太陽は明々とし、天上を占める青空は曇りの一つの存在を許さない。快晴は何処までも澄み渡る。流れ来る風は柔らかく、途切れる事無く彼方へと。
穏やかな風が届く城下町、建物が延々と並ぶ其処は灰色で様々な傷を負った頑強に聳える外壁に包まれる。有翼生物以外には越えられないそれに安心感は多少は感じよう。そう、有翼生物に襲われた経験のある者からすれば安心し切れず。
色鮮やかな群衆、規則正しく林の如く並ぶ建物達。犇めいたそれらを統括するように、一際目立つ存在が奥に構える。際立って異彩を放つ、白と青で驚異的な輝きを放つそれは巨城。輝かしく、雄々しく立つ城は神秘的な外見の反面、父性を感じさせる雄々しさも放つ。その城は日常の光景を見守るかのように変わらずに存在する。そう、足下でかなりの活気と元気を漲らせ、陽の明かりに負けないだけの輝きを放つ人々の様を観察するように。
人々の営みの中、とある建物にも朝は例外なく迎えられる。その建物は住民の安全を第一に考え、任務と称する、雑務の如き仕事を請け負って活動する団体の拠点として構えられる。ギルド、人と人を繋ぐ架け橋の職員が其処で日々を過ごしていた。
普段は外見から見ても廃墟同然の静けさに包まれていると言うのに、その日は珍しく騒がしくされていた。そう、ギルドの者である、とある人物の声が響かれていた。朝にしては元気に満ち溢れ、酷く耳障りな声で周囲を騒がせていた。内容云々は別とし、様子は駄々を捏ねている様にしか思えず。
「なぁ~?良いじゃねぇ~か~、お前も暇だろぉ~?」
挑発するような口調で、我儘を振る舞う姿は相手を腹立たせるには容易く。もうそれなりの青年が、可愛さの欠片も無い外見から繰り出されれば誰でも苛立つだろう。それも個室で近い距離で行われていれば更に。
部屋の主、つい先程まで眠りに居た青年は実に不機嫌に佇む。少し長い黒髪、その前髪から鋭い眼光を覗かせる。陰りを見せた整った顔立ちながらも人を寄せ付けない気配を放つ。今は、赤紫の瞳は怒りに滲ませて更に。
その手に純黒に染まった剣を握り締め、気を治める為に手入れを行っているのだが効果が出ていない。今にもそれで斬り掛かりそうなほどの激怒を抱き、身体に強烈な熱を纏わせる。彼の名はトレイド、ガリードの唯一無二の親友である。
「・・・だから、何で俺が行かなきゃならないんだよ!お前の我儘に一々付き合っていられるかッ!寝起きでふざけた事を抜かしやがって!」
「いや、もう昼近くだけどよ」
怒りの余り、危険だが剣を突き付けて威嚇するほどの剣幕を見せる。けれど、全くの意味を成していない。全く怖気ないまま、我儘を展開させるばかり。今日も今日とて、平常運転で退く気を毛頭見せない。
「俺は色々と忙しいんだ、お前と遊んでいる暇なんてないんだよ!」
漸く一段落を終え、肩の荷が下りたと思いきや、様々な準備が待ち構えていた。それに追われ、珍しくギルドの個室を利用して見れば、友人による強襲を受けた。安眠ではないものの、邪魔されれば誰だって激怒しよう。
結局、ガリードは叩き出されていた。トレイドは二の次を言わせないまま、力任せに。その彼は悔しがり、ならばと画策していた別の案に乗り出していた。その足は浮足立つように、スキップ気味に。
翌日、変わらずの晴天を迎えたセントガルド城下町。とある通り、古びた建物と新しい建物が並ぶ。其処には魔族の女性や子供達が仮住まいをし、多少和気藹々として。
その中にトレイドは居た。魔族の今後を考え、彼女達と行動している。今まさに相談している最中であった。其処に騒がしく、叫んでいなくとも怪しげな雰囲気が気取らせるのだろうか。
「おう!トレイド!仕事だぜ!」
やや暗い通り、最初に気付いた近所の子供に陽気に振る舞った後、それ以上に明るく呼び掛けたのはガリード。朝早くではないのだが、底抜けたような明るさは聞き取った親友に苛立ちを与えた。
「・・・仕事だと?」
呆れた様子で聞き返しながら振り返る。瞬間顰めてしまう。これまた決め顔で親指を立てて、サムズアップする様は実に腹立たしく。光が滲み出すほどの満面の笑みが、実に酷く腹立たしくて。
「そうそう!丁度さ、イデーアに向けての依頼があったからよ、受けてきたんだよ!」
やけに嬉し気に、興奮した様子で駆け寄ってくる。その様に知らない魔族の女性達は困惑するばかり。トレイドは顔を歪めるばかり。
「それで?」
「荷物運送の護衛でな、数時間後に出発だからな」
「それは良かったな、頑張れよ」
「ん?お前も行くに決まってんだろ?」
念願のイデーアに行けると喜んでいると受け取り、冷たくあしらおうとした彼にキョトンとした様子で言い放つ。さも当たり前かのように。
「何でそうなる?」
「俺がそう決めて受けたからな。ちゃんとユウさんには言ってあるぜ?ほら、行くぞ。どうせ、何も予定はねぇんだろ?」
「特別な用は特にないが・・・お前って奴は・・・何で勝手に決めるんだよ・・・」
少しずつ様子を荒めていく。悪びれもせず、まるで世話してやるかのような、いやそうする事が当然かのように振る舞う様に苛立ちは募る。
「散々言っているけどな・・・ああ!もういい!この阿呆が!」
怒れども、もう決まってしまった事。事情を上司に話した処で同情されても決定は覆らない。野放しにしてしまった事を後悔しながら思いを発散する声を漏らす。
その様、トレイドの在り来たりな若者の姿を前に、魔族の女性達は驚き半分、納得が半分示して。
「・・・はぁ、取り敢えず確認だ。お前は信用ならない」
「疑うなって」
厳しく言い放つと確認する為に所属するギルドに足を急がせるのであった。魔族の女性達に一言断りを入れ、やけに陽気なガリードが続いて来る事を拒みながら。
しかし、結局は彼の画策通りになってしまう。確認を取っても護衛任務は確定事項であり、人員も不足している為に変更は出来ず。どの道、仕事は振るわれていたであろうと溜息が一つ。
時間が押していると仕方なく待ち合わせ場所に二人は向かう。大きな公道の一つ、末に待ち構える巨大な門前。両側に販売店が無い為か、人気は少ない。その為に、待ち構えられていた馬車がとても目立って。
二頭のレイホースが巨大な馬車を引く。頑丈性を優先してか、所に鉄材で補強される。重厚な印象を受ける馬車であれど丸みを帯び、親しみ易い印象も受ける。
「お!来たな!予定より早い到着、仕事熱心は感心感心!」
到着した二人を丁度出迎えたのは剥げ頭に引き締まった肉体を晒した半裸の中年である。運送業を担っているとは思えぬ強面ではあるが、見た目からも頷ける元気溌溂と竹を割った様な性格の男性が立っていた。
「もう少しで積み終えるからよ、待っててくれや」
そう語る彼、とても護衛を必要としている風貌ではない。いざとなれば一人で無双しかねない雰囲気を纏う。けれど、荷を積む者は見る限り同僚ではないようで、彼一人と言った様子。流石に一人では無茶なのだろう。
「手伝いましょうか?」
「いや、大方積んでいるしな、英気を養う積もりで待っててくれ」
「分かったっス!」
即座に手伝おうとするのは心意気は褒められるもの。だからこそ憎めないとトレイドは再び溜息を零して。
「それと・・・兄ちゃん等、其処に魔族が立ってるんだが知り合いか?ちょっと前に来て、ずっと誰かを待っているようだからよ」
「魔族?」
その言葉に疑問符を浮かべたトレイドが男性が指差す方向を確認する。丁度馬車に隠れており、少し移動して知る。
薄茶色のローブ、全身を包み込んで身体の輪郭を隠すそれは魔族を象徴する。地味な色、格好ではあるものの町中ではあれば目立とうか。そして、局部が強調されるように盛り上がっていれば目を惹いてしまおうか。そう、隠し切れない膨らみの上で花のブローチが小さく耀いて。
フードを被っていない為に、身体をやや大きく見せてしまいかねない頭髪がふわりと広がる。朱色の長髪の広がり具合は少し不思議に思えよう。その面、険しさを感じさせない穏やかな顔立ち。母性を感ずるその面、トレイドには見間違えようも無かった。
彼女はクルーエ。何故か彼女がその場に立っていたのだ。加えて遠出するような荷物を持って。故にトレイドは驚く。そして、察してしまう。彼女が此処に立つ事が何よりの答えであった。
「・・・彼女も同行させる積もりか?」
「おお、そうだな」
「何で彼女が同行するんだ!ギルドの人間じゃない、部外者を連れて行こうとするな!」
「とは言ってもなぁ。もう行く事になってるし、クルーエさんも了承しているぜ?」
「この・・・っ!」
怒涛のように畳み掛けてくる決定事項に怒りを滾らせていく。彼の厚顔無恥、平然とする様は燃料を投下するように。
「仕事を受けてお前の所に行く時に丁度クルーエさんに会ったからよ、良い機会だし、誘ってみたんだよ。そしたら、イデーアに興味があるらしくて、直ぐに了承してくれたって訳だな」
そう、白々しい嘘だと分かってしまう説明を平然と吐く。当然トレイドは不満顔で睨み、だが考えに耽る。先ずその説明に指摘しないのは彼女が絡んだ為に。
確かに彼女は何かの準備を行っていた。それを横目に見たが追及はしなかった。今思えば遠出の準備だったと納得してしまう。同時にガリードの画策に乗せられた事への罪悪感と、友に対して憤慨する。故に気付けない。よくよく考えれば気付ける事に。準備は朝早くから行われていた事に。
そして、この事をギルドは知らないだろう。彼がわざわざ無関係者の随伴を伝える事はしないだろう。そうしてトラブルを生み出す、呼び込む人間なのだ。
ガリードと言う青年を再認識したトレイドは流れるように、その顔面に鉄拳を叩き込む。不意のそれに痛がり、地面に転がって悶える。その次に腹部にもう一撃叩き込まれて。
当然に悶え苦しむ姿が足元に転がる。溜息を零し、訝しむ男性に平静とした態度で対応しながら彼は受け入れていた。そう、諦めた面で。
今迄振り回された経験から早々に怒りを鎮めていた。クルーエを同行させたくない思いは残れども、それも諦めるしかなかった。説得しても彼女が見た目に反して意固地である事を知っているから。来なくても良いと言っても、手伝いますと言って折れないだろうと想像するには簡単だったから。
「トレイドさん」
苦しみ悶える声が少し治まった頃にクルーエが気付く。見せる笑顔は実に楽しそうに、嬉しそうに映る。実際、嬉しいのだろうか。
「・・・済まないな、クルーエ。阿呆が迷惑を掛けて」
「い、いえ!私も、その・・・そう、我儘で、一緒に行くので・・・」
その言葉は仕事である事は認識していると判断する。だが、それとは別の考えがある事を、少しの動揺が嘘を匂わせる。それにはトレイドは気付けず。
「・・・そうか、やっぱり知り合いか」
「・・・ああ」
苦しむ友を心配する姿を横にするトレイドに男性が話し掛ける。その様子は敵意、いや不審であろう。それが指し示すのは記憶に依る、理不尽な確執。
「同行しても問題ない筈だ。彼女は非常に役に立つ。運搬にしても、護衛にしても。それこそ俺達以上にな」
「・・・面倒事を起こさないなら、構わない。それと、もう積み終わったようだし、早速行くか」
強烈な拒絶こそなくとも、不信感を示しながら彼は馬車の先頭へ、運転席へと向かう。言動通りに馬車の大部分は積み荷で満たされ、運搬していた者は御辞儀を残して立ち去っていく。それを見送りながらトレイドの眉間は寄って。
まだまだ溝は広く、深い事を理解していた。ただの一人であろうと、嫌悪感を示された事を嘆く様に溜息を零す。嫌気が滲んだそれは気付かれぬように。
「・・・行くか」
「おう!」
「分かりました」
悩んでも、悔やんでも仕方ないと気持ちを切り替え、出発する馬車に続く。その背に接近する一つの影に気付けずに。
巨大な壁が町を、城を取り囲んで居座る。頑強、有り触れた外見と色合いなれどその壁面には多大な傷を負う。それでも、背後の更に巨大な黒壁よりも雄大に見えるのは身近に、もしもの時は実際に守ってくれる壁であるからか。その様は難攻不落を思わせて。
何処までも広がる緑の平野、其処を踏み込む屈強な二体のレイホース。力強き歩行の跡、蹄鉄の形が容赦なく刻まれて。巨大な馬車を行く様は実に勇ましく。
その馬車の両翼を護る様に配置するのはトレイドとガリード。此処に魔物は生息しておらず、襲われた報告は聞かないのだが万が一もある為に警戒して。
もしもの時の備えのように、クルーエは馬車の中で待機する。男性には疑われたのだがトレイドは押し通していた。その彼女の前には別の女性が座る。何故か、予定になかった彼女が図々しく居座る様に。
黙々と白いパンと鮮やかな野菜と加工肉での軽食を食する彼女。少ない量でも集中している為か、細身は少し曲がり、無表情ながらも眠たそうに映るのは嘗ての世界に存在した生物に似た雰囲気を感じる為であろう。目を惹くような装飾を一切纏わず、目立たぬ色合いの服装が僅かに助長し、目を惹いてしまう頭髪が一番の要因となる。二か所がまるで耳のように盛り上がっている為に。
彼女はノラ、とある日にガリードと出会い、彼の手料理に味を占めた謎の女性である。その彼女が、セントガルドから出発する寸前に何処からともなく現れ、強引に同行を言い出したのだ。三人が困惑する中、依頼主の中年男性が文句を言ったのは言うまでも無い。それを強引に納得させたのは護衛の依頼の追加費用には掛からない事と、『食料があれば俺が作るっスから』とガリードが必死に説得した事で了承されていた。
庇っている間もそれからも彼女は態度を変えず、ガリードに食事を強請って馬車内で待機する。何が目的なのか分からない為、了承した二人は勿論、庇ったガリードさえも理解に及べなかった。
「・・・ガリード」
「悪ぃ、聞いても言わねぇんだよ」
「そうか・・・」
出発して序盤から疲労困憊したような表情を浮かべる彼にそれ以上の追及はしなかった。我儘で自分勝手に振る舞う友人を困惑させるほど。なら、手に負えないと想像に諦めるしかなかった。それを深く吐き捨てた溜息が示していた。
そのような調子で彼等はセントガルド城下町を出発、イデーアまでの護衛が始まる。滑車の音色は芝生状の草に吸い込まれても、奏でるそれは心障りの良く流されている。揺れる振動もまた、室内で座する人物をまるで揺り籠の様に揺らすようでもあった。
【3】
終始、行商人である中年男性からの警戒は彼女に、クルーエに堪えたであろう。大人である為か、ある程度の認識改善が為されたのか、表立っての拒絶は示さなかった事が幸いか。いや、同行する間の視線が刺さり続ける事はストレスでしかない。クルーエは目立たないように留まり、トレイドは胸を痛めていた。
僅かに空気が悪い中を、ガリードが明るく振る舞ったお陰で、大よそ絡んでいると思えるほどに主に男性に話し掛けたお陰で多少は和んでいた。時に彼の呆れてしまう程の性格は役に立つ者だろう。
長い長い行路の果て。ガリードの飛び抜けた明るさに手を焼きながら、敵意に気付いて変に気を遣うクルーエを心配しながら、何事にも動じないまま食事を強請るノラに呆れながら辿り着いていた。
緩やかな境界線、環境変化の境目に立った一行は準備を始めていた。一日を越え、朝早くだと言うのに熱さと暑さの対策を行れていた。
「ほら、兄ちゃんら。これを着な」
商人の男性は護衛を頼んだトレイドとガリードに厚手のコートを手渡す。特殊な素材で作られたそれは耐熱を目的として。それは護衛の為に用意したものであろう。
「ありがとうっス!でも俺達は持っているんスよ」
「代わりに二人に使わせて貰っても良いか?」
二人は砂漠に向かうと言う事で事前準備を整えており、耐熱コートも用意していた。なので、準備が整っていないであろうクルーエとノラに貸し与えるように述べる。すると男性は難色を示す。
だが、それは当然とも言える。クルーエとノラはただ便乗していると言っても過言ではない。ほぼ無関係の人間に気を遣う必要など無いのだ。加えて魔族、抵抗はあろう。
「い、いえ、私は大丈夫です。用意していますから」
彼女は事前にガリードから連絡を受けており、その為の準備も行っていた。勿論、備えも整えている。いざとなれば操魔術も使える彼女、だからこそ余分と言えるほどに気を遣って。
「・・・なら、姉ちゃんは使えよ」
その言葉で多少安心したかのように男性はノラにコートを手渡していた。全くと言っても良いほどに用意していないノラには必須、彼女は小さく礼を示しながら受け取って着込んでいた。
レイホースに対しても準備を進めている横、トレイドは気落ちするクルーエに近付く。傍目から見ても傷付いている為に、それを慰める事も含めて。
「・・・済まない、クルーエ。ガリードの阿呆が面倒事に付き合わせてしまった為に」
「大丈夫です、その・・・慣れていますから」
慣れる必要のない仕打ちに対し、悲し気な笑顔を示す彼女。それにトレイドは憤る。変えたいと思う価値観を前に、気を遣わせてしまう事に。
「・・・クルーエは砂漠には来た事はあるのか?」
「いえ、初めてです」
「なら、慣れていない環境だ。自分だけに操魔術を使っても良いからな」
「・・・使いません。使ってあらぬ誤解を生ませたくありませんので」
彼女は断った。自分だけ得するのは嫌なのだろう。反対に使用して更なる誤解や警戒を与えて要らぬ偏見を持たれたくないと言う気持ちもあるようだ。ならば、同じように準備して進む事が最良と判断して。
その判断を否定したい思いのトレイドだが飲み込む。今まさに苦しむ彼女に余計な悩みを与えたくないと、彼女の意思を尊重して言葉を飲み込む。
「辛いと思ったら何時でも使っても良い。その後は全部俺に任せてくれて構わない」
代わりの言葉を告げる。それが幾分か彼女にゆとりを与えたのだろう、示した笑顔から険が和らいでいた。
そうするうちに準備は整い、男性の合図の下、再出発する。此処からが本番だと示すように、三人は慣れぬ地へと踏み込んでいく。恐らくはノラもそうであろうが、彼女は常に無表情で佇んでいる為に読めなかった。
ただ、其処に敵意があれば幾らかは気分は紛れただろうか。恨む先があれば、心にもゆとりが生まれる。けれど、自然が織り成す熾烈さなのだから受け止めるしかないのだ。
雨と表現すれば驟雨であろう、それも滝すらも超え得る圧力か。身を潰しかねないほどに、微塵の隙間すらも無く、敷き詰めるほどに降り注ぐのは陽光。素肌を晒していれば焦がすほどに強烈に。
濃厚なまでの青の空、其処に君臨するが如く燃え盛る太陽、赫耀と輝き揺れる球体は視認を許さず、接近する一切を灰燼に帰すだろうそれ。例え、失明を覚悟で視認したとして明るさに視界を白に埋め尽くし、正体を掴ませない。ひたすらに煌々と、そして神々しさを覚えるだけ。
その熱線、熾烈な陽光を受け止め続けるのは砂。柔らかき茶色の砂は一握ですらも数を数える事が嫌気差す量となる。意識を遠退かせる猛烈な熱が蔓延し、陽炎が生じて彼方は揺らめくのみ。その視界の彼方にまで色が続く砂原が其処に有る。
なだらかに起伏を為し、所に砂丘が映る。それでも延々と続く景色はぼやけた彼方が見えるほど平坦に。故に、吹き抜ける風は自由に行き交い、だが炙られて熱風と化して地に立つ全てを焼いて回る。
障害物は無く、焼き乾いた地に植物など皆無。猛烈な熱と暑さに焦げた砂、明るい地獄の一つと言えば納得しよう。言うまでも無い、此処が砂漠地帯、寒さとは正反対の厳しさが広がる環境。通行は考えるまでもなく、立っている事すらも困難となるのは皆目の答え。
「此処が、砂漠、か・・・」
「あ・・・っちぃなぁ・・・」
「です、ね・・・」
まだ環境の変わり目に、境界を踏み越えただけだと言うのに猛烈な熱量に、極度な暑さに慣れていない者達は既に疲弊を示す。特にクルーエは今にも倒れそうな表情、立っている事も辛いほどであろう。
「おいおい、兄ちゃん達。踏み入ったばっかりでそんな調子じゃ先がやられるぜ」
往来を繰り返し、暑さにすっかり順応している男性、明るい場所では良く映える焦げた肌を鈍く光らせながら若者達を呆れる。トレイドガリードに対しては至極当然の感想と言えよう。
「ちゃんと防暑コートを着ろよ。水分補強も都度、塩も舐めるのもな。頼りにする奴がお荷物になるのは笑えないからな」
悪態吐きながらも指示を送る。当然のそれに反論する訳がなく、手早く準備を進める。
「・・・クルーエ、無理しないでも良いんだぞ?」
「いえ、大丈夫です・・・」
血の気が引けたような、耐えられない狭間に立っているような彼女に再度呼び掛けるも断る。要らぬ誤解を与えまいと。此処で有用性を示すべきかと思えども、彼女の意思を尊重し、
「・・・さっきも言ったが、本当に耐えられないと思ったら使え。倒れたら元も子もない」
疲れ切った表情の彼女に再度釘を刺し、仕事を全うする為に早々に準備を済ませる。その横、のろのろと防暑コートを着込んだ、汗を流すガリード。その意識は馬車に向けられており、仕事を放り出して馬車に乗り込んで逃げたい思いが滲み出している。それを阻止せんと言うように、トレイドは目を光らせていた。
それらの端、ノラは実に無口に、淡々と準備を進めていた。強烈な暑さにもたじろぎせず、表情もその色も全く変えずに。環境変化に強いのか、辛さを表に出さないのか。恐らくは前者であり、対処が出来ならと早々に馬車に乗り込んで軽食を口に運んでいた。全く逞しいものだろう。
また、馬車を引くレイホースも同じに。苛烈なる環境下でも平然とする様、極寒の逆の環境に対して全く意に介せぬ姿は驚くあまりに。
慣れない者達は商人の男性に呆れられながらも休み休みに砂漠を渡る。トレイドとガリードはいざと言う時に守れるように疲労を蓄積させない程度に。しかし、熾烈な環境は何処までも続く、まさに火に炙られ、焦がされる暑さは堪えるばかり。そう、耐暑など意味を為さないと言ってしまう程に。
汗が伝い落ちれば、砂上で小さな音を立てて消え去る。それだけで程度を思い知れてしまうと言うもの。広大なこの環境の凄まじさ、気を失いそうなそれに文句を叫んだとしても、陽炎に掻き消されてしまうであろう。
黄砂の世界は熱線で黄金に輝く。砂丘は穏やかに、取り囲む砂の海はただただ平坦だと言うのに、茹ったかのように揺れる。蹄鉄と滑車の跡を強く残したとしても見えなくなって。
此処に踏み入れた時、いや徐々に移り変わった地帯に接近した頃から抱いていたに違いない。似通った感想を述べるに違いない。それは独白でも、独り言であっても。知らぬ場所、新しき場所に到着した時、哀愁であり、悲愴であり、感動であり、呆然であったりと、様々に。だが、今回は大方が相似する。熱い、暑い、苦しい、と。
そのような外を歩くのは堪ったものではない。絶えず焼かれ続ける砂上に立てば宛ら鉄板の上。上下からの熱に苦しめられる。着物で覆っても、靴を履いていても容赦なく浸透するから厄介でしかない。もう既に酷き表情で歩いているガリードがそれを証明して。
「これを・・・」
度にクルーエが水を差し出して気を遣う。変に誤解を与えぬように我慢し、周りで苦難に耐える皆を励ます。それは男性も漏れず。無論、良い顔はされなかったものの、多少なりとも警戒を解く要因にはなったかも知れない。そう、払い除けるような真似はしなかった為に。
それでも道中は息苦しい時間でしかない。魔族に対する偏見に気を回す事も含め、やはり環境が神経を削り続けるのだ。唸っても仕方ないとしても厳暑に対して恨むばかり。
寒さよりも熱さと暑さは対策の幅が狭まる。どちらにせよ、最終的には忍耐力が試される。この世界、特異な能力を使わなければそうなろう。だが、常に晒される猛射、衣服や鎧に身を包んでも、晒さなければならない顔などの肌はまさに焼かれる。篭もる熱と度重なる二重の苦しみに憤りは湧く。水を飲んだとしてもひたすらに喉は渇き、汗が伝う肌を拭っても衣服は張り付いて久しい。それでも、ひたすらに我慢し、依頼者である商人の傍を離れずに砂地を進む。
「クルーエ、我慢し過ぎるな。このままだと倒れるぞ」
陽の陰りが見えず、まだ灼熱の砂海が広がっている。馬車の中に待機していると言えど、その中も蒸し焼きにされている様に暑い。暑さに慣れていないクルーエでは拷問に近く、壁に凭れ掛かってしまう程に参ってしまう。
「いえ・・・大丈夫です」
だが、彼女は意思を曲げない。流石にトレイドも辛抱の限界だと強制させようとする。寸前、彼は何かに気付いて声を止める。
「トレイド!来たぞ!」
「分かっている!クルーエ、ノラ。もしもの時、商人を頼む」
外で警戒していた友の声に応答、同行していた女性二人に一声掛けて馬車から飛び出す。二人の声も聞かないままに、その身に猛烈な熱線を浴びながら降り立った。
広大なる砂漠の光景、なだらかな砂丘が広がる其処は変化の発見はし易いもの。そう、何かしらの気配は気取り易い。その証拠に、黄砂の平地、とある方面を睨むガリードの姿があり、トレイドも迷う事無く隣に立った。
「群れだな」
「おお、群れだな」
接近する群れ、黄砂の平地。其処に異物が立っていれば否が応でも気付こう。そして、その周辺には砂が噴き出す。砂中から這い出して来るのは似たような存在、生物であるも当然に人でなく、そして人に友好的なそれでもなかった。
苦しさ、或いは辛さを顔に刻んだ二人は湧き出て来るように姿を晒す生物を睨む。武器を構え、次第に詰めていく様子からそれらは魔物である事を指す。気力を殺がれ続ける中、この展開は一縷たりとも望まない。しかし、やはり逃れられずに。
小さな振動と間欠泉を思わせるように大量の砂を散らせて這い出すそれは巨躯、武器たる何かを砂地に突き立てながら姿を晒す。その姿は金色に輝く地には紛れるように、鈍き光沢を帯びていた。
多くの黒き眼球、単眼がぎょろぎょろと動いたと思えば均一に獲物を捉える。その下、捕食する為の鋏角を怪しく蠢かせて食欲を示す。その渇望を指し示すように、巨大な触肢、鋏状のそれで地面を叩き、抉る。寸胴な腹部よりも大きいそれは捕縛よりも獲物を切断させるほどに鋭利に輝く、それ以上に潰す事を目的にするように厚く。
背から覗くは、気味悪く湾曲する針。先端は黒に着色されて不気味に揺らす。それは多接に繋がった尾の先端であり、それは鞭のように撓る為に更に不気味に。そうした全身を支える、計八本の多足は不釣合いなほど細く長く。その姿は他の生物よりも気味の悪く歪に見え、得体の知れない身の毛の弥立つ怖気を纏う。多き単眼、蠢かせる鋏角の為か。
そして、この地に相応しき体躯は黄金色に近く。擬態出来るに容易な金色に光沢を放つ装甲。鈍き光から重厚さは想像させられた。人の身など優に超えるそれはこの砂漠地帯に固有棲息する、スリオンと呼ばれる蠍を模す魔物であった。
砂の中に潜める存在がわざわざ姿を晒すのは解せないのだが、砂中を潜行出来ないのか、大きく道を外れたから慌てて飛び出してきたのか。それよりも、黄金の体躯を、巨大な触肢を広げて接近する様は体格が倍になったかのように錯覚する。それが数体も並べば圧力を感じよう。
「おう、兄ちゃん達頼むぜ!」
「・・・構わないが、普段からあれだけ遭遇するのか?」
「いや~・・・ないな!でも、兄ちゃん達なら大丈夫だろ?凄腕って聞いたしな!」
商人は全幅の信頼を置く様に、戦う二人を鼓舞するように煽てる。乗せられ易い、調子に乗り易いガリードでも流石に今回ばかりは反応が薄く。
「・・・危なくなったら急いで避難するんだぞ」
「おお、分かっている。もしもの時の準備はしているからな!」
「クルーエ、ノラ。いざと言う時は、頼むぞ!」
正念場も経験した事があるのか、余裕を見せて明るく振る舞う商人を見送りながら、二人の女性に再度呼び掛ける。二人からの返事はない。暑さに弱っているのだろうか。だが、聞こえていると判断してトレイドは剣を地面に突き刺した。それはお得意の黒い結晶を呼び出す予備動作。
「・・・!」
苦い表情で念じたトレイドだが意にそぐわない結果となり、更に皺を深めてしまう。それは偏に猛烈な暑さに邪魔されて、慣れぬ熱さに消耗し、距離感を狂わされた為であろう。
無尽を思わせる砂間から飛び出した、多面の表面を持つ、やや歪んだ黒き結晶。それが幾多にも飛び出す。大小、太細入り混じるそれは熱射に照らされて輝く身を、忙しなく多脚を動かす黄金蠍に襲い掛かる。両鋏を開閉させて威嚇を、多間接の尾を振り上げ、湾曲する毒針を光らせて、食欲を漲らせるように砂を乱暴に散らす様に襲った。
騒音を鳴らし、接近する様は食物連鎖の真髄を表すかの様に。そう、現実はどちらにしても厳しいものであった。
青い飛沫が、金色の世界に散る。輝く装甲が陥没、砕ける音を立てる。貫かれた身はその場に固定される。間髪入れずに追撃の如く、黒き槍の群れが襲う。槍は円錐を模る多面の結晶体、それが接近してきた串刺しにしていく。容赦無く穿たれたならばそれは致命傷となり、次第に命は落ちていく。
そうした同胞を一瞥もせず、多数の黄金蠍は砂地を駆け抜ける。獲物を狩らんと砂塵を舞わせる。無数の黒い結晶の円錐の群れにて瞬殺せしめられた。けれど、その多くは届かなかった。惨たらしく絶命させられたのは数体、絨毯爆撃の如く攻撃したと言うのに、その多くを外してしまったのだ。先述の通り、暑さと熱さが邪魔したのだ。
「すまない、ガリード」
「仕方、ねぇな」
次弾を投擲するよりも早く接敵する、それを理解して早口の謝罪が飛ぶ。受けたガリードは苦い顔を浮かべ、肩に担いでいた大剣を力任せに構えて迎え撃った。
黄金蠍の先手は巨大な鋏による叩き潰し、巨体の動力をそのまま乗せた威力は易々と砂地に同型の窪みを作り出す。けれど、そのような見え透いた攻撃など避けるのは容易い。それが波のように押し寄せてきたとしても。
だが、慣れぬ地、劣悪な環境に苦難する。情の無い熱線、抵抗の少ない熱き砂地は動きの邪魔をされて余計に体力を削られる。結果、回避しただけでも酷く消耗する、大量に流れる汗と共に。気を確り保たなければ身体がふら付いてしまう程。
「動きは単調だけどなっ!」
「ああ、本当になッ!!クソ熱ぃし、暑ぃなッ!!」
その黄金の甲殻はそれなりの武器なら弾いてしまう。なら、その関節は如何か。結論で言えば苦戦を強いられる強者とは言えない。関節部は攻撃に弱く、それなりの武器でも切断は可能。一つの足を切断すれば動きは一気に鈍化し、討伐は更にし易くなろう。
けれど、魔物は手強いもの。多足を活かした機敏な動き、相手の動きを潰すように振るう両鋏は脅威であり、尾にしたためた毒は戦闘には脅威の何物でもない。鋏で掴まれれば毒を滴らせる尾針が飛び、そうでなくても振るえばただの鞭であり、自身の隙を補うように空を震わせる。
だとしても、幾多の魔物との戦闘を経た二人ならば、多少なりとも知識を得ている二人ならば対応も可能。襲い来る波の如き攻撃を躱し、出来た隙を衝く。トレイドの黒き剣が装甲ごと関節を切り伏せる。ガリードの大剣が厚き装甲を陥没させる威力を放つ。一体一体であれば問題は無かった。
「ああ・・・しんどいな、コレはよッ!」
「そうだなッ!」
強引に気合を入れる二人。慣れぬ環境下では思った動きは出来ず、消耗は激しくなるばかり。踏み込めば砂地に沈んで足を取られ、攻撃も思うように展開出来ない。咄嗟の動きも同様の為、回避も危うくなるばかり。トレイドが強引に終わらせようと黒結晶を展開させようとしても集中が定まらず、黄金蠍に邪魔されてばかりで終わらせられず。
命を危ぶめる事は無くとも想定以上に苦戦する。数に苦しめられるばかり。護衛対象が居る為、急くばかりに。
「ああ、クソッ!!取り逃した!トレイドッ!!」
「ッ!!クルーエッ!!」
今の彼等に群れの対処は困難であった。それなりに手強い彼等の相手は面倒とも感じたのか、数体の黄金蠍が標的を遠くで待機する馬車に変えて多足を忙しなく動かした。それを迎撃しようにも一日の長を見せ付けるかのように砂地を俊敏に動いて距離を空け、追い付かせなかった。指示を受けたトレイドもそれを察知し、振り返りながら大声で呼び掛けた。
その先、黄金蠍が駆け抜ける先に馬車は待機する。慌てた様子の商人が馬車を動かそうとし、外に出た女性二人の姿もある。熱き場所に出ている理由は蠍だけではなかった。
別方向から長く蠢く何かが接近していた。遠目でも蛇の姿は見え、魔物である事は瞬時に理解する。漁夫の利を狙われたか、偶然に発見されたのか、どちらにせよ危機であり、その対応をしようとノラは短剣を構え、クルーエは躊躇っていた。その理由は言うまでもなく、トレイドの声に少し吃驚して。
「使うんだ、クルーエ!!後の事など考えるなッ!!今は自分の身を、いや命を護る事だけを考えるんだッ!!」
自身の負傷も顧みずに結晶を呼び出そうとする動作の中、警告を叫ぶ、懇願を響かせた。魔族の批難を危惧して誰かの命を見殺しにする、何に置いてもそれだけは許容など出来ない。仮定の恐れより、誰かの迷惑より、やはり命を、彼女自身の思いから目を背けないで欲しくて。
その言葉が勇気付けとなったのか、躊躇いを排除したのか、クルーエの表情に、動きに余計な配慮と躊躇が消え去った。
「はいっ!」
強い口調の返事と共に彼女は念じた。自分を護る為に、それ以上に傍のノラと商人を護る為に。その思いは今其処に居る誰よりも強く、彼女の力として顕現する。この環境に相反する形となって。
這って接近する蛇の頭上に巨大な塊が形成された。鉱石の類ではなく、凍て付いた氷であった。透き通ったそれは水晶を思わせるほどの純度を誇り、熱線を乱反射させる内部を見せる。けれど、暑さでは解けず、魔物の体躯を悠々と超えて滞空する。
舌を見せ付け、大口を開けて接近する様に落下する。敵意を以て降り注いだそれは砂地に突き刺さった。押し潰したのだ。その重さは下敷きにした蛇体を鎮めてしまう程であり、落下した下部は尖っていた為に貫通もしたのだろう、這い出す事は無かった。
また、その巨大な氷塊は接近していた黄金蠍も潰していた。甲殻も砕き、砂地に潜らせてしまい、もう動けなくして。
あっと言う間の出来事にノラは小さく見開き、商人はただただ呆気に取られるばかりであった。それでも脅威は取り除かれ、緊張していたクルーエは弛緩してその場に座り込んでしまう。直ぐにも暑そうにして馬車に近付いていって。
氷と言う手段を選んだのは彼女の今の願望が顕著に表れたのだろう。つまりは、あまりにも熱い、暑くてたまらないと、声にならない猛烈な主張として。
なんであれ、脅威は去り、操魔術を解禁したクルーエが傍に居るので一先ずは安全だとトレイドとガリードは気を緩めた。
「凄ぇな、やっぱり。俺達も負けてられねぇな!」
「ああ、さっさと終わらせないとな」
彼女の強さに触発されるように二人は気合を入れ、黄金蠍の群れと相対する。その為か、環境に多少は慣れたのか、戦闘も多少の機敏さと取り戻して戦いを終了していた。少々の手傷を負いながらも。
黄金の甲殻が辺りに転がる。それなりの硬度を有していても、群れを成して猛威を振るったとしても、命を喪えば他の生きる者の糧となる。その甲殻であったり、血肉であったり。
それらを見渡す中、目を惹くのは氷塊。極暑の地でもそれは形を保ち、今もなお下敷きにした魔物を凍て付かせ続けている。
周辺を警戒し、他が無い事を確認しながら待機する馬車の下へトレイドとガリードは急ぐ。その先では熱さに疲弊したクルーエと黙して立つノラが見え、少し離れて男性商人が氷塊を眺めて立つ尽くす。
彼に警戒しながらもクルーエを心配してトレイドは駆け寄る。
「・・・助かった、クルーエ」
「・・・すみません、トレイドさん。私の所為で・・・」
「謝るな、君のお陰で全員が助かったんだ。後の事は俺に任せていればいい」
状況を打開出来た事を、命を助けられた事を喜ぶより、操魔術と言う脅威による弊害を恐れて彼女は謝る。それを否定し、後の憂いなど他に任せてくれと励ます。暑さに負けてか、実に弱々しく見えて。
「・・・あれが、魔族ってのか・・・」
呆気に取られていた商人がぼやく。その声にクルーエ、そしてトレイドが警戒する。そうして動く彼の動向に警戒を強める。次に吐かれる言葉、或いは行動に警戒して動向を具に睨んで。
「・・・なんで、さっさと使わねぇんだよ!強いじゃねぇか!兄さんたちよりもずっとよ!!」
直後に送られたのは賞賛であった。恐れからもそれでなく、純粋な好意での言葉。それを予期していなかったクルーエは瞬きを繰り返す。遠回しに役に立っていないと言われてトレイドは少し渋い顔となる。
「・・・魔族、だからな。後々の事を考えて・・・」
「それよりも氷を出したんだろ!?なら、俺達を涼める事も出来るのか!?熱さを紛らわせるとかさ!」
「で、出来ます・・・」
悪意による圧ではなく、尊敬の念が乗った勢いに圧倒されて彼女は戸惑うばかり。蚊帳の外のトレイドも警戒を解いて見守る。
「なぁんだよ!それならジャンジャン使ってくれって!クソ熱いのに我慢する必要なんて、全くねぇ!!アンタは変な我慢をするんだな!それとも、使い続けるのはきついのか!?」
「いえ・・・長時間使う事も出来ます」
「そっか!!じゃ、使ってくれ。いや、是非頼む!何なら、報酬も払うからさ!存分に涼めてくれや!」
「い、いえ、お金は構いません。無理を言って乗せて・・・」
「そんな事無いっ!すげぇ事じゃねぇか!弾むから、ジャンジャンな!っと、長話しちまったな、さっさとイデーアに行くか!!」
魔族の利点を知って上機嫌の彼は周りの反応も置き去りに話を進める。その強引さあるからこその商人であろう。それに皆は呆気に取られながら先を目指す。その足取りの中、クルーエは大きく安心を浮かべ、トレイドもまた心底から安心を浮かべていた。
【1】
某日、世界に夜が訪れていた。例に漏れず、セントガルド城下町も暗闇に包まれ、しかし各所に立てられた篝火が仄かに照らす。室内から漏れる明かりと星明りで多少は夜道も照らされて迷う程でもなく。
けれど、次第に静かになる町並み。其処に僅かに冷たくなった風が吹き込む。それを受けたなら帰路に、家路を急ぐだろう。或いは別の目的の為の足を急がせるに違いない。
その選択肢の一つ、とある小さな公道の終着点と言わんばかりに立ち塞ぐ建物が一つ。温かい色合いの木造建築の外見、取り分け西部劇に出てきそうな古めかしい酒場のそれと同一。窓、正面の小さな出入口から赤い光が漏れる。夜でも、いや夜だからこそ営業しているのだろう。
踏み入れば木材の暖かな色と穏やかな空気に包まれた店内が迎える。更に飾る音楽は無くとも、薄暗さが相まって慎ましい色合いは来る者を惜しまず受け止める温かさを覚えさせる。まるで実家のような安心感。
だからなのか、少し騒がしい。粛々と酌み交わして静かに談笑する姿も見れば、家族連れと思しき微笑ましい光景も映る。大人びた空間なれど、様々な料理を提供する様は万人を受け止める懐の大きさを感じられた。
まるで夕闇のような明るさでも、日中にも負けない温かい店内に踏み入って正面に構えられるのはカウンター。数人の、旧友との親交を深めているような空気や熟成させた絆を深めているような老人達の光景とは掛け離れた空気の青年が一人。
似つかわしくない雰囲気を醸す彼、青い短髪と褐色の肌は実に健康的であり、陽気さを象徴するかのよう。相当する性格と年齢故に相応しく感じるのだろうか。
けれど、彼に対面する執事のように礼服を着飾っていながら、隠し切れない屈強な体格と輪郭を見せる男性店員もまた同様に映る。壮年に差し掛かったその彼は柔らかな笑みを浮かべて優しく諌めていた。
「何度も言っているけど、駄目だからね」
「良いじゃないスか、バーテルさん。前々から興味あったんスよ!飲んでみたんスよ!特に此処の酒!バーテルさんのお薦めの奴、飲ませて下さいよ!」
硝子容器を磨く店員に対して青年は駄々を捏ねる。様子からして幾度と同じ遣り取りをしているようだ。
「駄目だよ。君は未成年、お酒を知るのは僕としても嬉しいけど、嗜むにはまだ早いよ。責任云々よりも、お酒を嗜む人達が如何なってしまうのかを良く確認し、それに対する弊害を良く観察、予習しないとね」
周りに視線を移動させてそう促す。それは他の客に失礼にもなるのだが、実際に許容範囲を超えて飲んだ弊害に苦しむ人が何人か居る。その姿を見て危惧し、危機感を持つようと。
「・・・分かったスよ・・・」
口調こそフランクではあるものの、仕事中なのかとても紳士的な態度と言葉遣い。丁重なる、年上である上に酒場経営に携わる人物の言葉を受け、幾ら我儘を突き通す彼でも折れるしかなかった。落胆しながらも聞き入れ、代わりに差し出された水を含み、カウンターに垂れていた。その姿は子供じみて。
子供のように振る舞う彼、その背にはこの空間では最も物騒で、平穏な空気に持ち込んではならない代物が背負われる。遠目で見れば鉄の塊であり、持ち手の柄を突き刺しただけの無骨な何か。近くで見れば、大よそ剣とは思えぬ、鉄塊を荒く削り出したかのような大剣が背負われていた。振るえば遊ばれるか、そもそも持てないようなそれを軽々と背負って。
「このところ連日のように来ているけど、如何したのかな?お酒を飲みたいのは分かるけど、それ以上に退屈そうだね。仕事に間が空いているのかな?」
注文を受け、氷を丸く砕きながらバーテルは質問を投げる。利用してくれる事は嬉しい一方、若い者が酒目的に入り浸る事を嘆く様に。
「・・・まぁ、そうっスね。やっと忙しくなくなって来たんスけど、そしたら時間が空く様になったんですよ。そしたら、天の導きと加護に行きまくるのも如何かなって思いまして」
「だからって、若い身が酒に溺れるような真似はしたら駄目だよ」
暇潰しの手段として選ぶのは相応しくないと窘めながら別の客に酒を提供する。ほんの僅かに橙色に染まった透明の液体は店内の明かりで鈍く光る。それから香るのはオレンジに居た柑橘系の香り。それを覆い隠すアルコールと思しき匂いが運ばれていく。
「それで、何かしようかな~、って思っているんスけど、何か無いっスかね?」
「ん?そう・・・だね・・・」
忙しさとは無縁のような振る舞いを今まさに示す彼が相談する。それを受けたバーテルは親子の食事を渡した後に考え込む。その真剣さは自分に置き換えて考えての事だろう。
「・・・そうだね、いっその事遠くに・・・そう!遠出も良いね!行った事のない場所に向かうのは色々な発見や体験があって楽しいと思うよ」
「遠出、っスか、それも良い・・・おっ!」
相談に対する一つの案を良案と聞き止めた瞬間、彼の様子が急変する。カウンターに預けていた身体を一瞬にして直立、両目に輝きを灯して活力を漲らせた。その脳裏には一つの画策が浮かんで。
必ず成功すると言う奇妙な自信に満ち溢れる。それの根本には散々に願いながらも機会を逃してきた口惜しさ、それを成功させると言った意気込みである。
「ありがとうございます!バーテルさんのお陰で良いのが思い付いたっス!!」
「そう?だったら良かったよ」
明らかに余計で、迷惑や面倒を巻き込む類が思い付いた彼。その彼の高揚した感謝の言葉を受け、バーテルは微笑んでいた。明らかに悪い顔をしているというのに、気にならないのは彼の勢いで気付けなかったのか、彼の成長と見て容認したのか。
「そしたら、早く用意しねぇとな。互いに意識させるようにするには・・・いや、単純に連れて行きゃあ良いか?・・・なら・・・」
足早に店内を後にする彼、画策を広げる最中に零す呟きは如何考えても不穏に。悪事では決してなくとも、そうだと危惧するほどの邪悪さが滲んで。
気付かないまま、詮索もせずに見送ったバーテルは業務を続ける。少しでも助けになれて良かったと嬉しそうに、接客に勤しんで。
それ以降もその酒場では憩いの時間が続く。穏やかな夜に相応しき、やや潜めた声量でゆっくりと会話を、食事を楽しむ。時折、喉を潤しながら。瞬く間に夜は過ぎ去る。ただ一人を除けば。
【2】
彼方から朝を呼び込む、太陽は明々とし、天上を占める青空は曇りの一つの存在を許さない。快晴は何処までも澄み渡る。流れ来る風は柔らかく、途切れる事無く彼方へと。
穏やかな風が届く城下町、建物が延々と並ぶ其処は灰色で様々な傷を負った頑強に聳える外壁に包まれる。有翼生物以外には越えられないそれに安心感は多少は感じよう。そう、有翼生物に襲われた経験のある者からすれば安心し切れず。
色鮮やかな群衆、規則正しく林の如く並ぶ建物達。犇めいたそれらを統括するように、一際目立つ存在が奥に構える。際立って異彩を放つ、白と青で驚異的な輝きを放つそれは巨城。輝かしく、雄々しく立つ城は神秘的な外見の反面、父性を感じさせる雄々しさも放つ。その城は日常の光景を見守るかのように変わらずに存在する。そう、足下でかなりの活気と元気を漲らせ、陽の明かりに負けないだけの輝きを放つ人々の様を観察するように。
人々の営みの中、とある建物にも朝は例外なく迎えられる。その建物は住民の安全を第一に考え、任務と称する、雑務の如き仕事を請け負って活動する団体の拠点として構えられる。ギルド、人と人を繋ぐ架け橋の職員が其処で日々を過ごしていた。
普段は外見から見ても廃墟同然の静けさに包まれていると言うのに、その日は珍しく騒がしくされていた。そう、ギルドの者である、とある人物の声が響かれていた。朝にしては元気に満ち溢れ、酷く耳障りな声で周囲を騒がせていた。内容云々は別とし、様子は駄々を捏ねている様にしか思えず。
「なぁ~?良いじゃねぇ~か~、お前も暇だろぉ~?」
挑発するような口調で、我儘を振る舞う姿は相手を腹立たせるには容易く。もうそれなりの青年が、可愛さの欠片も無い外見から繰り出されれば誰でも苛立つだろう。それも個室で近い距離で行われていれば更に。
部屋の主、つい先程まで眠りに居た青年は実に不機嫌に佇む。少し長い黒髪、その前髪から鋭い眼光を覗かせる。陰りを見せた整った顔立ちながらも人を寄せ付けない気配を放つ。今は、赤紫の瞳は怒りに滲ませて更に。
その手に純黒に染まった剣を握り締め、気を治める為に手入れを行っているのだが効果が出ていない。今にもそれで斬り掛かりそうなほどの激怒を抱き、身体に強烈な熱を纏わせる。彼の名はトレイド、ガリードの唯一無二の親友である。
「・・・だから、何で俺が行かなきゃならないんだよ!お前の我儘に一々付き合っていられるかッ!寝起きでふざけた事を抜かしやがって!」
「いや、もう昼近くだけどよ」
怒りの余り、危険だが剣を突き付けて威嚇するほどの剣幕を見せる。けれど、全くの意味を成していない。全く怖気ないまま、我儘を展開させるばかり。今日も今日とて、平常運転で退く気を毛頭見せない。
「俺は色々と忙しいんだ、お前と遊んでいる暇なんてないんだよ!」
漸く一段落を終え、肩の荷が下りたと思いきや、様々な準備が待ち構えていた。それに追われ、珍しくギルドの個室を利用して見れば、友人による強襲を受けた。安眠ではないものの、邪魔されれば誰だって激怒しよう。
結局、ガリードは叩き出されていた。トレイドは二の次を言わせないまま、力任せに。その彼は悔しがり、ならばと画策していた別の案に乗り出していた。その足は浮足立つように、スキップ気味に。
翌日、変わらずの晴天を迎えたセントガルド城下町。とある通り、古びた建物と新しい建物が並ぶ。其処には魔族の女性や子供達が仮住まいをし、多少和気藹々として。
その中にトレイドは居た。魔族の今後を考え、彼女達と行動している。今まさに相談している最中であった。其処に騒がしく、叫んでいなくとも怪しげな雰囲気が気取らせるのだろうか。
「おう!トレイド!仕事だぜ!」
やや暗い通り、最初に気付いた近所の子供に陽気に振る舞った後、それ以上に明るく呼び掛けたのはガリード。朝早くではないのだが、底抜けたような明るさは聞き取った親友に苛立ちを与えた。
「・・・仕事だと?」
呆れた様子で聞き返しながら振り返る。瞬間顰めてしまう。これまた決め顔で親指を立てて、サムズアップする様は実に腹立たしく。光が滲み出すほどの満面の笑みが、実に酷く腹立たしくて。
「そうそう!丁度さ、イデーアに向けての依頼があったからよ、受けてきたんだよ!」
やけに嬉し気に、興奮した様子で駆け寄ってくる。その様に知らない魔族の女性達は困惑するばかり。トレイドは顔を歪めるばかり。
「それで?」
「荷物運送の護衛でな、数時間後に出発だからな」
「それは良かったな、頑張れよ」
「ん?お前も行くに決まってんだろ?」
念願のイデーアに行けると喜んでいると受け取り、冷たくあしらおうとした彼にキョトンとした様子で言い放つ。さも当たり前かのように。
「何でそうなる?」
「俺がそう決めて受けたからな。ちゃんとユウさんには言ってあるぜ?ほら、行くぞ。どうせ、何も予定はねぇんだろ?」
「特別な用は特にないが・・・お前って奴は・・・何で勝手に決めるんだよ・・・」
少しずつ様子を荒めていく。悪びれもせず、まるで世話してやるかのような、いやそうする事が当然かのように振る舞う様に苛立ちは募る。
「散々言っているけどな・・・ああ!もういい!この阿呆が!」
怒れども、もう決まってしまった事。事情を上司に話した処で同情されても決定は覆らない。野放しにしてしまった事を後悔しながら思いを発散する声を漏らす。
その様、トレイドの在り来たりな若者の姿を前に、魔族の女性達は驚き半分、納得が半分示して。
「・・・はぁ、取り敢えず確認だ。お前は信用ならない」
「疑うなって」
厳しく言い放つと確認する為に所属するギルドに足を急がせるのであった。魔族の女性達に一言断りを入れ、やけに陽気なガリードが続いて来る事を拒みながら。
しかし、結局は彼の画策通りになってしまう。確認を取っても護衛任務は確定事項であり、人員も不足している為に変更は出来ず。どの道、仕事は振るわれていたであろうと溜息が一つ。
時間が押していると仕方なく待ち合わせ場所に二人は向かう。大きな公道の一つ、末に待ち構える巨大な門前。両側に販売店が無い為か、人気は少ない。その為に、待ち構えられていた馬車がとても目立って。
二頭のレイホースが巨大な馬車を引く。頑丈性を優先してか、所に鉄材で補強される。重厚な印象を受ける馬車であれど丸みを帯び、親しみ易い印象も受ける。
「お!来たな!予定より早い到着、仕事熱心は感心感心!」
到着した二人を丁度出迎えたのは剥げ頭に引き締まった肉体を晒した半裸の中年である。運送業を担っているとは思えぬ強面ではあるが、見た目からも頷ける元気溌溂と竹を割った様な性格の男性が立っていた。
「もう少しで積み終えるからよ、待っててくれや」
そう語る彼、とても護衛を必要としている風貌ではない。いざとなれば一人で無双しかねない雰囲気を纏う。けれど、荷を積む者は見る限り同僚ではないようで、彼一人と言った様子。流石に一人では無茶なのだろう。
「手伝いましょうか?」
「いや、大方積んでいるしな、英気を養う積もりで待っててくれ」
「分かったっス!」
即座に手伝おうとするのは心意気は褒められるもの。だからこそ憎めないとトレイドは再び溜息を零して。
「それと・・・兄ちゃん等、其処に魔族が立ってるんだが知り合いか?ちょっと前に来て、ずっと誰かを待っているようだからよ」
「魔族?」
その言葉に疑問符を浮かべたトレイドが男性が指差す方向を確認する。丁度馬車に隠れており、少し移動して知る。
薄茶色のローブ、全身を包み込んで身体の輪郭を隠すそれは魔族を象徴する。地味な色、格好ではあるものの町中ではあれば目立とうか。そして、局部が強調されるように盛り上がっていれば目を惹いてしまおうか。そう、隠し切れない膨らみの上で花のブローチが小さく耀いて。
フードを被っていない為に、身体をやや大きく見せてしまいかねない頭髪がふわりと広がる。朱色の長髪の広がり具合は少し不思議に思えよう。その面、険しさを感じさせない穏やかな顔立ち。母性を感ずるその面、トレイドには見間違えようも無かった。
彼女はクルーエ。何故か彼女がその場に立っていたのだ。加えて遠出するような荷物を持って。故にトレイドは驚く。そして、察してしまう。彼女が此処に立つ事が何よりの答えであった。
「・・・彼女も同行させる積もりか?」
「おお、そうだな」
「何で彼女が同行するんだ!ギルドの人間じゃない、部外者を連れて行こうとするな!」
「とは言ってもなぁ。もう行く事になってるし、クルーエさんも了承しているぜ?」
「この・・・っ!」
怒涛のように畳み掛けてくる決定事項に怒りを滾らせていく。彼の厚顔無恥、平然とする様は燃料を投下するように。
「仕事を受けてお前の所に行く時に丁度クルーエさんに会ったからよ、良い機会だし、誘ってみたんだよ。そしたら、イデーアに興味があるらしくて、直ぐに了承してくれたって訳だな」
そう、白々しい嘘だと分かってしまう説明を平然と吐く。当然トレイドは不満顔で睨み、だが考えに耽る。先ずその説明に指摘しないのは彼女が絡んだ為に。
確かに彼女は何かの準備を行っていた。それを横目に見たが追及はしなかった。今思えば遠出の準備だったと納得してしまう。同時にガリードの画策に乗せられた事への罪悪感と、友に対して憤慨する。故に気付けない。よくよく考えれば気付ける事に。準備は朝早くから行われていた事に。
そして、この事をギルドは知らないだろう。彼がわざわざ無関係者の随伴を伝える事はしないだろう。そうしてトラブルを生み出す、呼び込む人間なのだ。
ガリードと言う青年を再認識したトレイドは流れるように、その顔面に鉄拳を叩き込む。不意のそれに痛がり、地面に転がって悶える。その次に腹部にもう一撃叩き込まれて。
当然に悶え苦しむ姿が足元に転がる。溜息を零し、訝しむ男性に平静とした態度で対応しながら彼は受け入れていた。そう、諦めた面で。
今迄振り回された経験から早々に怒りを鎮めていた。クルーエを同行させたくない思いは残れども、それも諦めるしかなかった。説得しても彼女が見た目に反して意固地である事を知っているから。来なくても良いと言っても、手伝いますと言って折れないだろうと想像するには簡単だったから。
「トレイドさん」
苦しみ悶える声が少し治まった頃にクルーエが気付く。見せる笑顔は実に楽しそうに、嬉しそうに映る。実際、嬉しいのだろうか。
「・・・済まないな、クルーエ。阿呆が迷惑を掛けて」
「い、いえ!私も、その・・・そう、我儘で、一緒に行くので・・・」
その言葉は仕事である事は認識していると判断する。だが、それとは別の考えがある事を、少しの動揺が嘘を匂わせる。それにはトレイドは気付けず。
「・・・そうか、やっぱり知り合いか」
「・・・ああ」
苦しむ友を心配する姿を横にするトレイドに男性が話し掛ける。その様子は敵意、いや不審であろう。それが指し示すのは記憶に依る、理不尽な確執。
「同行しても問題ない筈だ。彼女は非常に役に立つ。運搬にしても、護衛にしても。それこそ俺達以上にな」
「・・・面倒事を起こさないなら、構わない。それと、もう積み終わったようだし、早速行くか」
強烈な拒絶こそなくとも、不信感を示しながら彼は馬車の先頭へ、運転席へと向かう。言動通りに馬車の大部分は積み荷で満たされ、運搬していた者は御辞儀を残して立ち去っていく。それを見送りながらトレイドの眉間は寄って。
まだまだ溝は広く、深い事を理解していた。ただの一人であろうと、嫌悪感を示された事を嘆く様に溜息を零す。嫌気が滲んだそれは気付かれぬように。
「・・・行くか」
「おう!」
「分かりました」
悩んでも、悔やんでも仕方ないと気持ちを切り替え、出発する馬車に続く。その背に接近する一つの影に気付けずに。
巨大な壁が町を、城を取り囲んで居座る。頑強、有り触れた外見と色合いなれどその壁面には多大な傷を負う。それでも、背後の更に巨大な黒壁よりも雄大に見えるのは身近に、もしもの時は実際に守ってくれる壁であるからか。その様は難攻不落を思わせて。
何処までも広がる緑の平野、其処を踏み込む屈強な二体のレイホース。力強き歩行の跡、蹄鉄の形が容赦なく刻まれて。巨大な馬車を行く様は実に勇ましく。
その馬車の両翼を護る様に配置するのはトレイドとガリード。此処に魔物は生息しておらず、襲われた報告は聞かないのだが万が一もある為に警戒して。
もしもの時の備えのように、クルーエは馬車の中で待機する。男性には疑われたのだがトレイドは押し通していた。その彼女の前には別の女性が座る。何故か、予定になかった彼女が図々しく居座る様に。
黙々と白いパンと鮮やかな野菜と加工肉での軽食を食する彼女。少ない量でも集中している為か、細身は少し曲がり、無表情ながらも眠たそうに映るのは嘗ての世界に存在した生物に似た雰囲気を感じる為であろう。目を惹くような装飾を一切纏わず、目立たぬ色合いの服装が僅かに助長し、目を惹いてしまう頭髪が一番の要因となる。二か所がまるで耳のように盛り上がっている為に。
彼女はノラ、とある日にガリードと出会い、彼の手料理に味を占めた謎の女性である。その彼女が、セントガルドから出発する寸前に何処からともなく現れ、強引に同行を言い出したのだ。三人が困惑する中、依頼主の中年男性が文句を言ったのは言うまでも無い。それを強引に納得させたのは護衛の依頼の追加費用には掛からない事と、『食料があれば俺が作るっスから』とガリードが必死に説得した事で了承されていた。
庇っている間もそれからも彼女は態度を変えず、ガリードに食事を強請って馬車内で待機する。何が目的なのか分からない為、了承した二人は勿論、庇ったガリードさえも理解に及べなかった。
「・・・ガリード」
「悪ぃ、聞いても言わねぇんだよ」
「そうか・・・」
出発して序盤から疲労困憊したような表情を浮かべる彼にそれ以上の追及はしなかった。我儘で自分勝手に振る舞う友人を困惑させるほど。なら、手に負えないと想像に諦めるしかなかった。それを深く吐き捨てた溜息が示していた。
そのような調子で彼等はセントガルド城下町を出発、イデーアまでの護衛が始まる。滑車の音色は芝生状の草に吸い込まれても、奏でるそれは心障りの良く流されている。揺れる振動もまた、室内で座する人物をまるで揺り籠の様に揺らすようでもあった。
【3】
終始、行商人である中年男性からの警戒は彼女に、クルーエに堪えたであろう。大人である為か、ある程度の認識改善が為されたのか、表立っての拒絶は示さなかった事が幸いか。いや、同行する間の視線が刺さり続ける事はストレスでしかない。クルーエは目立たないように留まり、トレイドは胸を痛めていた。
僅かに空気が悪い中を、ガリードが明るく振る舞ったお陰で、大よそ絡んでいると思えるほどに主に男性に話し掛けたお陰で多少は和んでいた。時に彼の呆れてしまう程の性格は役に立つ者だろう。
長い長い行路の果て。ガリードの飛び抜けた明るさに手を焼きながら、敵意に気付いて変に気を遣うクルーエを心配しながら、何事にも動じないまま食事を強請るノラに呆れながら辿り着いていた。
緩やかな境界線、環境変化の境目に立った一行は準備を始めていた。一日を越え、朝早くだと言うのに熱さと暑さの対策を行れていた。
「ほら、兄ちゃんら。これを着な」
商人の男性は護衛を頼んだトレイドとガリードに厚手のコートを手渡す。特殊な素材で作られたそれは耐熱を目的として。それは護衛の為に用意したものであろう。
「ありがとうっス!でも俺達は持っているんスよ」
「代わりに二人に使わせて貰っても良いか?」
二人は砂漠に向かうと言う事で事前準備を整えており、耐熱コートも用意していた。なので、準備が整っていないであろうクルーエとノラに貸し与えるように述べる。すると男性は難色を示す。
だが、それは当然とも言える。クルーエとノラはただ便乗していると言っても過言ではない。ほぼ無関係の人間に気を遣う必要など無いのだ。加えて魔族、抵抗はあろう。
「い、いえ、私は大丈夫です。用意していますから」
彼女は事前にガリードから連絡を受けており、その為の準備も行っていた。勿論、備えも整えている。いざとなれば操魔術も使える彼女、だからこそ余分と言えるほどに気を遣って。
「・・・なら、姉ちゃんは使えよ」
その言葉で多少安心したかのように男性はノラにコートを手渡していた。全くと言っても良いほどに用意していないノラには必須、彼女は小さく礼を示しながら受け取って着込んでいた。
レイホースに対しても準備を進めている横、トレイドは気落ちするクルーエに近付く。傍目から見ても傷付いている為に、それを慰める事も含めて。
「・・・済まない、クルーエ。ガリードの阿呆が面倒事に付き合わせてしまった為に」
「大丈夫です、その・・・慣れていますから」
慣れる必要のない仕打ちに対し、悲し気な笑顔を示す彼女。それにトレイドは憤る。変えたいと思う価値観を前に、気を遣わせてしまう事に。
「・・・クルーエは砂漠には来た事はあるのか?」
「いえ、初めてです」
「なら、慣れていない環境だ。自分だけに操魔術を使っても良いからな」
「・・・使いません。使ってあらぬ誤解を生ませたくありませんので」
彼女は断った。自分だけ得するのは嫌なのだろう。反対に使用して更なる誤解や警戒を与えて要らぬ偏見を持たれたくないと言う気持ちもあるようだ。ならば、同じように準備して進む事が最良と判断して。
その判断を否定したい思いのトレイドだが飲み込む。今まさに苦しむ彼女に余計な悩みを与えたくないと、彼女の意思を尊重して言葉を飲み込む。
「辛いと思ったら何時でも使っても良い。その後は全部俺に任せてくれて構わない」
代わりの言葉を告げる。それが幾分か彼女にゆとりを与えたのだろう、示した笑顔から険が和らいでいた。
そうするうちに準備は整い、男性の合図の下、再出発する。此処からが本番だと示すように、三人は慣れぬ地へと踏み込んでいく。恐らくはノラもそうであろうが、彼女は常に無表情で佇んでいる為に読めなかった。
ただ、其処に敵意があれば幾らかは気分は紛れただろうか。恨む先があれば、心にもゆとりが生まれる。けれど、自然が織り成す熾烈さなのだから受け止めるしかないのだ。
雨と表現すれば驟雨であろう、それも滝すらも超え得る圧力か。身を潰しかねないほどに、微塵の隙間すらも無く、敷き詰めるほどに降り注ぐのは陽光。素肌を晒していれば焦がすほどに強烈に。
濃厚なまでの青の空、其処に君臨するが如く燃え盛る太陽、赫耀と輝き揺れる球体は視認を許さず、接近する一切を灰燼に帰すだろうそれ。例え、失明を覚悟で視認したとして明るさに視界を白に埋め尽くし、正体を掴ませない。ひたすらに煌々と、そして神々しさを覚えるだけ。
その熱線、熾烈な陽光を受け止め続けるのは砂。柔らかき茶色の砂は一握ですらも数を数える事が嫌気差す量となる。意識を遠退かせる猛烈な熱が蔓延し、陽炎が生じて彼方は揺らめくのみ。その視界の彼方にまで色が続く砂原が其処に有る。
なだらかに起伏を為し、所に砂丘が映る。それでも延々と続く景色はぼやけた彼方が見えるほど平坦に。故に、吹き抜ける風は自由に行き交い、だが炙られて熱風と化して地に立つ全てを焼いて回る。
障害物は無く、焼き乾いた地に植物など皆無。猛烈な熱と暑さに焦げた砂、明るい地獄の一つと言えば納得しよう。言うまでも無い、此処が砂漠地帯、寒さとは正反対の厳しさが広がる環境。通行は考えるまでもなく、立っている事すらも困難となるのは皆目の答え。
「此処が、砂漠、か・・・」
「あ・・・っちぃなぁ・・・」
「です、ね・・・」
まだ環境の変わり目に、境界を踏み越えただけだと言うのに猛烈な熱量に、極度な暑さに慣れていない者達は既に疲弊を示す。特にクルーエは今にも倒れそうな表情、立っている事も辛いほどであろう。
「おいおい、兄ちゃん達。踏み入ったばっかりでそんな調子じゃ先がやられるぜ」
往来を繰り返し、暑さにすっかり順応している男性、明るい場所では良く映える焦げた肌を鈍く光らせながら若者達を呆れる。トレイドガリードに対しては至極当然の感想と言えよう。
「ちゃんと防暑コートを着ろよ。水分補強も都度、塩も舐めるのもな。頼りにする奴がお荷物になるのは笑えないからな」
悪態吐きながらも指示を送る。当然のそれに反論する訳がなく、手早く準備を進める。
「・・・クルーエ、無理しないでも良いんだぞ?」
「いえ、大丈夫です・・・」
血の気が引けたような、耐えられない狭間に立っているような彼女に再度呼び掛けるも断る。要らぬ誤解を与えまいと。此処で有用性を示すべきかと思えども、彼女の意思を尊重し、
「・・・さっきも言ったが、本当に耐えられないと思ったら使え。倒れたら元も子もない」
疲れ切った表情の彼女に再度釘を刺し、仕事を全うする為に早々に準備を済ませる。その横、のろのろと防暑コートを着込んだ、汗を流すガリード。その意識は馬車に向けられており、仕事を放り出して馬車に乗り込んで逃げたい思いが滲み出している。それを阻止せんと言うように、トレイドは目を光らせていた。
それらの端、ノラは実に無口に、淡々と準備を進めていた。強烈な暑さにもたじろぎせず、表情もその色も全く変えずに。環境変化に強いのか、辛さを表に出さないのか。恐らくは前者であり、対処が出来ならと早々に馬車に乗り込んで軽食を口に運んでいた。全く逞しいものだろう。
また、馬車を引くレイホースも同じに。苛烈なる環境下でも平然とする様、極寒の逆の環境に対して全く意に介せぬ姿は驚くあまりに。
慣れない者達は商人の男性に呆れられながらも休み休みに砂漠を渡る。トレイドとガリードはいざと言う時に守れるように疲労を蓄積させない程度に。しかし、熾烈な環境は何処までも続く、まさに火に炙られ、焦がされる暑さは堪えるばかり。そう、耐暑など意味を為さないと言ってしまう程に。
汗が伝い落ちれば、砂上で小さな音を立てて消え去る。それだけで程度を思い知れてしまうと言うもの。広大なこの環境の凄まじさ、気を失いそうなそれに文句を叫んだとしても、陽炎に掻き消されてしまうであろう。
黄砂の世界は熱線で黄金に輝く。砂丘は穏やかに、取り囲む砂の海はただただ平坦だと言うのに、茹ったかのように揺れる。蹄鉄と滑車の跡を強く残したとしても見えなくなって。
此処に踏み入れた時、いや徐々に移り変わった地帯に接近した頃から抱いていたに違いない。似通った感想を述べるに違いない。それは独白でも、独り言であっても。知らぬ場所、新しき場所に到着した時、哀愁であり、悲愴であり、感動であり、呆然であったりと、様々に。だが、今回は大方が相似する。熱い、暑い、苦しい、と。
そのような外を歩くのは堪ったものではない。絶えず焼かれ続ける砂上に立てば宛ら鉄板の上。上下からの熱に苦しめられる。着物で覆っても、靴を履いていても容赦なく浸透するから厄介でしかない。もう既に酷き表情で歩いているガリードがそれを証明して。
「これを・・・」
度にクルーエが水を差し出して気を遣う。変に誤解を与えぬように我慢し、周りで苦難に耐える皆を励ます。それは男性も漏れず。無論、良い顔はされなかったものの、多少なりとも警戒を解く要因にはなったかも知れない。そう、払い除けるような真似はしなかった為に。
それでも道中は息苦しい時間でしかない。魔族に対する偏見に気を回す事も含め、やはり環境が神経を削り続けるのだ。唸っても仕方ないとしても厳暑に対して恨むばかり。
寒さよりも熱さと暑さは対策の幅が狭まる。どちらにせよ、最終的には忍耐力が試される。この世界、特異な能力を使わなければそうなろう。だが、常に晒される猛射、衣服や鎧に身を包んでも、晒さなければならない顔などの肌はまさに焼かれる。篭もる熱と度重なる二重の苦しみに憤りは湧く。水を飲んだとしてもひたすらに喉は渇き、汗が伝う肌を拭っても衣服は張り付いて久しい。それでも、ひたすらに我慢し、依頼者である商人の傍を離れずに砂地を進む。
「クルーエ、我慢し過ぎるな。このままだと倒れるぞ」
陽の陰りが見えず、まだ灼熱の砂海が広がっている。馬車の中に待機していると言えど、その中も蒸し焼きにされている様に暑い。暑さに慣れていないクルーエでは拷問に近く、壁に凭れ掛かってしまう程に参ってしまう。
「いえ・・・大丈夫です」
だが、彼女は意思を曲げない。流石にトレイドも辛抱の限界だと強制させようとする。寸前、彼は何かに気付いて声を止める。
「トレイド!来たぞ!」
「分かっている!クルーエ、ノラ。もしもの時、商人を頼む」
外で警戒していた友の声に応答、同行していた女性二人に一声掛けて馬車から飛び出す。二人の声も聞かないままに、その身に猛烈な熱線を浴びながら降り立った。
広大なる砂漠の光景、なだらかな砂丘が広がる其処は変化の発見はし易いもの。そう、何かしらの気配は気取り易い。その証拠に、黄砂の平地、とある方面を睨むガリードの姿があり、トレイドも迷う事無く隣に立った。
「群れだな」
「おお、群れだな」
接近する群れ、黄砂の平地。其処に異物が立っていれば否が応でも気付こう。そして、その周辺には砂が噴き出す。砂中から這い出して来るのは似たような存在、生物であるも当然に人でなく、そして人に友好的なそれでもなかった。
苦しさ、或いは辛さを顔に刻んだ二人は湧き出て来るように姿を晒す生物を睨む。武器を構え、次第に詰めていく様子からそれらは魔物である事を指す。気力を殺がれ続ける中、この展開は一縷たりとも望まない。しかし、やはり逃れられずに。
小さな振動と間欠泉を思わせるように大量の砂を散らせて這い出すそれは巨躯、武器たる何かを砂地に突き立てながら姿を晒す。その姿は金色に輝く地には紛れるように、鈍き光沢を帯びていた。
多くの黒き眼球、単眼がぎょろぎょろと動いたと思えば均一に獲物を捉える。その下、捕食する為の鋏角を怪しく蠢かせて食欲を示す。その渇望を指し示すように、巨大な触肢、鋏状のそれで地面を叩き、抉る。寸胴な腹部よりも大きいそれは捕縛よりも獲物を切断させるほどに鋭利に輝く、それ以上に潰す事を目的にするように厚く。
背から覗くは、気味悪く湾曲する針。先端は黒に着色されて不気味に揺らす。それは多接に繋がった尾の先端であり、それは鞭のように撓る為に更に不気味に。そうした全身を支える、計八本の多足は不釣合いなほど細く長く。その姿は他の生物よりも気味の悪く歪に見え、得体の知れない身の毛の弥立つ怖気を纏う。多き単眼、蠢かせる鋏角の為か。
そして、この地に相応しき体躯は黄金色に近く。擬態出来るに容易な金色に光沢を放つ装甲。鈍き光から重厚さは想像させられた。人の身など優に超えるそれはこの砂漠地帯に固有棲息する、スリオンと呼ばれる蠍を模す魔物であった。
砂の中に潜める存在がわざわざ姿を晒すのは解せないのだが、砂中を潜行出来ないのか、大きく道を外れたから慌てて飛び出してきたのか。それよりも、黄金の体躯を、巨大な触肢を広げて接近する様は体格が倍になったかのように錯覚する。それが数体も並べば圧力を感じよう。
「おう、兄ちゃん達頼むぜ!」
「・・・構わないが、普段からあれだけ遭遇するのか?」
「いや~・・・ないな!でも、兄ちゃん達なら大丈夫だろ?凄腕って聞いたしな!」
商人は全幅の信頼を置く様に、戦う二人を鼓舞するように煽てる。乗せられ易い、調子に乗り易いガリードでも流石に今回ばかりは反応が薄く。
「・・・危なくなったら急いで避難するんだぞ」
「おお、分かっている。もしもの時の準備はしているからな!」
「クルーエ、ノラ。いざと言う時は、頼むぞ!」
正念場も経験した事があるのか、余裕を見せて明るく振る舞う商人を見送りながら、二人の女性に再度呼び掛ける。二人からの返事はない。暑さに弱っているのだろうか。だが、聞こえていると判断してトレイドは剣を地面に突き刺した。それはお得意の黒い結晶を呼び出す予備動作。
「・・・!」
苦い表情で念じたトレイドだが意にそぐわない結果となり、更に皺を深めてしまう。それは偏に猛烈な暑さに邪魔されて、慣れぬ熱さに消耗し、距離感を狂わされた為であろう。
無尽を思わせる砂間から飛び出した、多面の表面を持つ、やや歪んだ黒き結晶。それが幾多にも飛び出す。大小、太細入り混じるそれは熱射に照らされて輝く身を、忙しなく多脚を動かす黄金蠍に襲い掛かる。両鋏を開閉させて威嚇を、多間接の尾を振り上げ、湾曲する毒針を光らせて、食欲を漲らせるように砂を乱暴に散らす様に襲った。
騒音を鳴らし、接近する様は食物連鎖の真髄を表すかの様に。そう、現実はどちらにしても厳しいものであった。
青い飛沫が、金色の世界に散る。輝く装甲が陥没、砕ける音を立てる。貫かれた身はその場に固定される。間髪入れずに追撃の如く、黒き槍の群れが襲う。槍は円錐を模る多面の結晶体、それが接近してきた串刺しにしていく。容赦無く穿たれたならばそれは致命傷となり、次第に命は落ちていく。
そうした同胞を一瞥もせず、多数の黄金蠍は砂地を駆け抜ける。獲物を狩らんと砂塵を舞わせる。無数の黒い結晶の円錐の群れにて瞬殺せしめられた。けれど、その多くは届かなかった。惨たらしく絶命させられたのは数体、絨毯爆撃の如く攻撃したと言うのに、その多くを外してしまったのだ。先述の通り、暑さと熱さが邪魔したのだ。
「すまない、ガリード」
「仕方、ねぇな」
次弾を投擲するよりも早く接敵する、それを理解して早口の謝罪が飛ぶ。受けたガリードは苦い顔を浮かべ、肩に担いでいた大剣を力任せに構えて迎え撃った。
黄金蠍の先手は巨大な鋏による叩き潰し、巨体の動力をそのまま乗せた威力は易々と砂地に同型の窪みを作り出す。けれど、そのような見え透いた攻撃など避けるのは容易い。それが波のように押し寄せてきたとしても。
だが、慣れぬ地、劣悪な環境に苦難する。情の無い熱線、抵抗の少ない熱き砂地は動きの邪魔をされて余計に体力を削られる。結果、回避しただけでも酷く消耗する、大量に流れる汗と共に。気を確り保たなければ身体がふら付いてしまう程。
「動きは単調だけどなっ!」
「ああ、本当になッ!!クソ熱ぃし、暑ぃなッ!!」
その黄金の甲殻はそれなりの武器なら弾いてしまう。なら、その関節は如何か。結論で言えば苦戦を強いられる強者とは言えない。関節部は攻撃に弱く、それなりの武器でも切断は可能。一つの足を切断すれば動きは一気に鈍化し、討伐は更にし易くなろう。
けれど、魔物は手強いもの。多足を活かした機敏な動き、相手の動きを潰すように振るう両鋏は脅威であり、尾にしたためた毒は戦闘には脅威の何物でもない。鋏で掴まれれば毒を滴らせる尾針が飛び、そうでなくても振るえばただの鞭であり、自身の隙を補うように空を震わせる。
だとしても、幾多の魔物との戦闘を経た二人ならば、多少なりとも知識を得ている二人ならば対応も可能。襲い来る波の如き攻撃を躱し、出来た隙を衝く。トレイドの黒き剣が装甲ごと関節を切り伏せる。ガリードの大剣が厚き装甲を陥没させる威力を放つ。一体一体であれば問題は無かった。
「ああ・・・しんどいな、コレはよッ!」
「そうだなッ!」
強引に気合を入れる二人。慣れぬ環境下では思った動きは出来ず、消耗は激しくなるばかり。踏み込めば砂地に沈んで足を取られ、攻撃も思うように展開出来ない。咄嗟の動きも同様の為、回避も危うくなるばかり。トレイドが強引に終わらせようと黒結晶を展開させようとしても集中が定まらず、黄金蠍に邪魔されてばかりで終わらせられず。
命を危ぶめる事は無くとも想定以上に苦戦する。数に苦しめられるばかり。護衛対象が居る為、急くばかりに。
「ああ、クソッ!!取り逃した!トレイドッ!!」
「ッ!!クルーエッ!!」
今の彼等に群れの対処は困難であった。それなりに手強い彼等の相手は面倒とも感じたのか、数体の黄金蠍が標的を遠くで待機する馬車に変えて多足を忙しなく動かした。それを迎撃しようにも一日の長を見せ付けるかのように砂地を俊敏に動いて距離を空け、追い付かせなかった。指示を受けたトレイドもそれを察知し、振り返りながら大声で呼び掛けた。
その先、黄金蠍が駆け抜ける先に馬車は待機する。慌てた様子の商人が馬車を動かそうとし、外に出た女性二人の姿もある。熱き場所に出ている理由は蠍だけではなかった。
別方向から長く蠢く何かが接近していた。遠目でも蛇の姿は見え、魔物である事は瞬時に理解する。漁夫の利を狙われたか、偶然に発見されたのか、どちらにせよ危機であり、その対応をしようとノラは短剣を構え、クルーエは躊躇っていた。その理由は言うまでもなく、トレイドの声に少し吃驚して。
「使うんだ、クルーエ!!後の事など考えるなッ!!今は自分の身を、いや命を護る事だけを考えるんだッ!!」
自身の負傷も顧みずに結晶を呼び出そうとする動作の中、警告を叫ぶ、懇願を響かせた。魔族の批難を危惧して誰かの命を見殺しにする、何に置いてもそれだけは許容など出来ない。仮定の恐れより、誰かの迷惑より、やはり命を、彼女自身の思いから目を背けないで欲しくて。
その言葉が勇気付けとなったのか、躊躇いを排除したのか、クルーエの表情に、動きに余計な配慮と躊躇が消え去った。
「はいっ!」
強い口調の返事と共に彼女は念じた。自分を護る為に、それ以上に傍のノラと商人を護る為に。その思いは今其処に居る誰よりも強く、彼女の力として顕現する。この環境に相反する形となって。
這って接近する蛇の頭上に巨大な塊が形成された。鉱石の類ではなく、凍て付いた氷であった。透き通ったそれは水晶を思わせるほどの純度を誇り、熱線を乱反射させる内部を見せる。けれど、暑さでは解けず、魔物の体躯を悠々と超えて滞空する。
舌を見せ付け、大口を開けて接近する様に落下する。敵意を以て降り注いだそれは砂地に突き刺さった。押し潰したのだ。その重さは下敷きにした蛇体を鎮めてしまう程であり、落下した下部は尖っていた為に貫通もしたのだろう、這い出す事は無かった。
また、その巨大な氷塊は接近していた黄金蠍も潰していた。甲殻も砕き、砂地に潜らせてしまい、もう動けなくして。
あっと言う間の出来事にノラは小さく見開き、商人はただただ呆気に取られるばかりであった。それでも脅威は取り除かれ、緊張していたクルーエは弛緩してその場に座り込んでしまう。直ぐにも暑そうにして馬車に近付いていって。
氷と言う手段を選んだのは彼女の今の願望が顕著に表れたのだろう。つまりは、あまりにも熱い、暑くてたまらないと、声にならない猛烈な主張として。
なんであれ、脅威は去り、操魔術を解禁したクルーエが傍に居るので一先ずは安全だとトレイドとガリードは気を緩めた。
「凄ぇな、やっぱり。俺達も負けてられねぇな!」
「ああ、さっさと終わらせないとな」
彼女の強さに触発されるように二人は気合を入れ、黄金蠍の群れと相対する。その為か、環境に多少は慣れたのか、戦闘も多少の機敏さと取り戻して戦いを終了していた。少々の手傷を負いながらも。
黄金の甲殻が辺りに転がる。それなりの硬度を有していても、群れを成して猛威を振るったとしても、命を喪えば他の生きる者の糧となる。その甲殻であったり、血肉であったり。
それらを見渡す中、目を惹くのは氷塊。極暑の地でもそれは形を保ち、今もなお下敷きにした魔物を凍て付かせ続けている。
周辺を警戒し、他が無い事を確認しながら待機する馬車の下へトレイドとガリードは急ぐ。その先では熱さに疲弊したクルーエと黙して立つノラが見え、少し離れて男性商人が氷塊を眺めて立つ尽くす。
彼に警戒しながらもクルーエを心配してトレイドは駆け寄る。
「・・・助かった、クルーエ」
「・・・すみません、トレイドさん。私の所為で・・・」
「謝るな、君のお陰で全員が助かったんだ。後の事は俺に任せていればいい」
状況を打開出来た事を、命を助けられた事を喜ぶより、操魔術と言う脅威による弊害を恐れて彼女は謝る。それを否定し、後の憂いなど他に任せてくれと励ます。暑さに負けてか、実に弱々しく見えて。
「・・・あれが、魔族ってのか・・・」
呆気に取られていた商人がぼやく。その声にクルーエ、そしてトレイドが警戒する。そうして動く彼の動向に警戒を強める。次に吐かれる言葉、或いは行動に警戒して動向を具に睨んで。
「・・・なんで、さっさと使わねぇんだよ!強いじゃねぇか!兄さんたちよりもずっとよ!!」
直後に送られたのは賞賛であった。恐れからもそれでなく、純粋な好意での言葉。それを予期していなかったクルーエは瞬きを繰り返す。遠回しに役に立っていないと言われてトレイドは少し渋い顔となる。
「・・・魔族、だからな。後々の事を考えて・・・」
「それよりも氷を出したんだろ!?なら、俺達を涼める事も出来るのか!?熱さを紛らわせるとかさ!」
「で、出来ます・・・」
悪意による圧ではなく、尊敬の念が乗った勢いに圧倒されて彼女は戸惑うばかり。蚊帳の外のトレイドも警戒を解いて見守る。
「なぁんだよ!それならジャンジャン使ってくれって!クソ熱いのに我慢する必要なんて、全くねぇ!!アンタは変な我慢をするんだな!それとも、使い続けるのはきついのか!?」
「いえ・・・長時間使う事も出来ます」
「そっか!!じゃ、使ってくれ。いや、是非頼む!何なら、報酬も払うからさ!存分に涼めてくれや!」
「い、いえ、お金は構いません。無理を言って乗せて・・・」
「そんな事無いっ!すげぇ事じゃねぇか!弾むから、ジャンジャンな!っと、長話しちまったな、さっさとイデーアに行くか!!」
魔族の利点を知って上機嫌の彼は周りの反応も置き去りに話を進める。その強引さあるからこその商人であろう。それに皆は呆気に取られながら先を目指す。その足取りの中、クルーエは大きく安心を浮かべ、トレイドもまた心底から安心を浮かべていた。
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それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
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