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過ぎ行く久遠なる流れの中で、誰もが生き、歩いていく

微笑みを残し、想いも残して

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【1】

 森林地帯での悲劇から数日、ラビスと共にセントガルドに戻ってきたシャオは日々を悔い続けていた。
 無慈悲でしかないあの存在の所業は胸に永久に刻まれるもの。そして、目の前で救えなかった事が記憶に焼け付く様に刻み込まれてしまった。それを振り払うように、詫びるかのように町の中を奔走していた。
 誰も彼の事は責めない、当然だ。数少ない生存者が語る。例え、死を前にしても聖復術キュリアティを行い続け、庇い続けた事は平伏に値するほどに称えられるべき善行。だが、果たせなかった彼にとってはその全てが虚しさを感じるばかりだった。そればかりか、責められる感覚すらも抱いて。
 その罪悪感から逃れるように、彼は住民の些細な依頼や雑務を、怪我人の治療に専念していた。それは寝る間も惜しみ、誠心誠意、全てに全力で取り組んでいた。見た者全員が心配するほどのそれは、まるで生き急ぐ様でも、未練を残さぬように見えた映った、映るしかなかった。或いは、身を削って乗り越えようとする姿とも取れた。
 だが、彼だけは理解していた。彼だからこそ理解していた。彼の額、蕾を模したような紋様が刻み込まれる。それは刻み込まれた呪いであり、天の導きと加護セイメル・クロウリアで幾ら治そうとしても、文献を探ったとしても治す手掛かりがなかったそれ。それが影響し、何時しか天の導きと加護セイメル・クロウリアに立ち寄らなくなっていった。
 そして、受けた彼を更なる絶望に引き込むように、あろう事か紋様は変化を見せていた。実物のそれが花開く様に形状を変え、色も濃さを増した。誰もが見ても違和感を感じ、指摘するのだが彼は誤魔化していた。
 徐々に拡大するそれは蝕んでいた。宣言通り、これが命の残りを示している事だと彼は察してしまった。行く末は紅蓮の如き赤に、蝋燭の火を彷彿とさせ、最後は考えたくも無かっただろう。
 だと言うのに、彼は笑顔を振る舞って善行を重ねる。その姿に焦りは見せない。無理している様子も見せない。誰かの為になる、それを最優先とする。それは生き急ぐと言った姿ではない、何かを残そうとする訳でもない。ただ、誰かの為に成りたくて。

 爽やかな風が何処からともなく、鮮やかに佇む城の下に群れる建物群を吹き抜けていく。青々とした晴天、淀んだ雲すら全く見られない。それは不穏さの欠片も無く。
 外界を隔てる巨門が大きな音を響かせて開き、レイホースを連れて入ってきたのはトレイドである。その顔、言い様の無い不安と心配に険しくさせて。
 新たな地帯が発見された事は既に伝書で報告済みである。其処で抱いた感覚に対する懸念はまだ残る。だが、今はそれ所ではない。向かうべき場所が、フェリスで受けた話を真偽を調べる為にしなければならない事があった。
 一直線に向かったのは天の導きと加護セイメル・クロウリア。施設に踏み入り、子供達に見付からないように建物の影に隠れながら離れへと、アニエス、或いは職員を探して。直ぐにも発見に至る。
「すまない、ラビスの様子は如何だ?シャオは今何処に居る?」
 直ぐにも尋ねるのは二人の容態。惨劇の結果を、数少ない生存者から、調査を再開した彼に聞いたトレイドは兎にも角にも二人を心配して駆け付けていた。
「トレイドさん・・・ラビスは・・・」
 言い淀みながらも彼女は後の話を聞く。ラギアを喪い、悲しみに暮れて部屋に引き篭もってしまっていると。
 宥められず、気に病んでいる姿にトレイドもまた気負う。自分でも今の少女を立ち上がらせる言葉を持ち合わせていない。それを悔しく感じながらも次にシャオについてを尋ねた。そして、知る。
「此処には居ないのか?」
「はい・・・お聞きと思いますが、謎の紋様を刻まれてしまったのですが・・・それの解明をしていたのですが、もう来なくなりまして・・・」
「・・・一人で、探っているのか?」
「いえ・・・町中を周って怪我人を治していたり、ギルドの仕事をして・・・」
「何でそんな阿呆な事を・・・っ!」
 聞くと否や、自分を優先しない彼に憤り、踵を返して町中へ引き返す。同じ思いの職員を置き去りにして。

 早急に彼を探し出さんと町中を駆けていく。行く先が分からない為に闇雲ではあるが、天の導きと加護セイメル・クロウリアの周辺やギルドの仕事で良く向かう区画などを重点的に駆ける。
 人で溢れる場所で特定の者を探すのは困難は必至。けれど、善行を積み、無償で傷を治す者が居れば自ずと人が集まると言うもの。多少走ったのだが、想像以上に早く彼の発見に至っていた。
「はい、治りましたよ。気を付けてくださいね」
「本当にいつもいつもありがとうねぇ」
「また頼むな!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
 実に人気を博し、その誰もが彼と顔見知りであり、実に友好的に接する。その様、頼りにするではなく、利用するでもなく、自然の一部、生活の一部かのように和やかに住民と微笑ましき光景を作り出していた。
 町の一角、大きな路地で聖復術キュリアティを施していた彼は丁度全員の相手を済ませて見送っている場面であった。優しく微笑み、手を振って元気に立ち去る姿を見守る。その姿、その顔を見たトレイドは真っ先に駆け出した。
「何でこんな無茶をするっ!?こんな顔で、こんなに衰弱して・・・っ!」
「トレイドさん・・・」
 叱責しようとした言葉を失い、その身体に掴み掛かって酷く心配するほどに彼は弱っていた。それは紋様の影響に他ならない。
 額に刻まれた花の紋様。彼の命を吸って大きく花弁を開かせ、血を滲み込ませたかのように赤く。比例して、彼の顔から血の気は引き、少しこけている様に見える。とてもではないが、元気溌溂と、気力隆々と動けそうな顔色ではない。それなのに動くのは彼の揺るがぬ精神が為せるのか、住民が心配しないのは変化に気付かないのか、気付いても彼が強引に押し通したのか。
天の導きと加護セインクロスに行くぞ!いや、あそこじゃなくても良い、今すぐ休め!」
 なんにせよ、今すぐ休ませるべきだと彼を引っ張るのだが彼はそれを拒んでしまった。
「いえ、僕は休みません。するべき事がありますので」
 それでも彼は休もうとしない。今でさえ立っているだけでも辛く見えると言うのに、その弱さを見せずに立ち続ける。対するその顔には不動の強き意思が見える。
「何でそこまでする!?碌に休んでいないだろ!命に関わるぞ!そこまで無理する必要はない!」
 必死に説得しようとする。彼の意思を無視してでも休ませようと思い立とうとした時、気付いてしまった。いや、気付くしかなかっただろう。彼の微笑み、否定せず、ただ受け入れるだけの悲しい笑み。取り作ったそれでない事が際立たせてしまった。
「ま、さか・・・そうなのか?そう、なのか!?・・・お前っ!」
 察する。もう、命が残り少ないと。正に命を削って鮮やかに咲き誇る紋様。ただただ悪意を刻み込んだそれが確信に至らせた。
「如何して言わない!?そんな重要な事を!!悠長に構えている場合でもないだろっ!!クソッ!!出会ったのは森林地帯だったな!!」
 己が命を惜しむより、誰かの笑顔の為に時間を使う彼を叱責する。その心は尊いものだが、知っていながら誰も頼ろうとせず、為すがままとする姿に激しく憤った。けれど、彼を責めても仕方なく、そもそも被害者なのだ。彼の選択を責めるより、一刻も早く救わんと早急に森林地帯へと向かう。其処に居続けていると言う保証も無いと言うのに。
 路地を響かせるほどの怒号を響かせ、ただ一人受け入れようとしていた残酷な仕打ちを覆そうと駆け抜けていった姿を、シャオは止めようとして止められずに立ち止まっていた。過ぎ去り、途端に静かになった路地に立たされた彼は罪悪感を顔に刻んで視線を落とす。
「・・・ですから、言いたくなかったのです・・・」
 そう零して眉を落とす。罪悪感に心を強く締め付けられていた。
 自分の為に、他の誰かが苦しむ事をして欲しくなかった。人の命を一つの仕草で葬るような存在に関わらせたくなかった。命を落とす事態は容易に考えられた。加え、自身と同じように他者を優先するトレイドに知られたら、間違いなく命を掛けてしまうと分かり切っていたから。
 止める事は出来ず、こうなる事態も予期していた青年は激しく悔い、惜しみながらゆっくりと歩み出す。それは彼を追う為か、それとも。

【2】

 シャオから詳しい話を聞かず、曙光射す騎士団エスレイエット・フェルドラーで関する情報を集めぬままにセントガルドを飛び出したトレイド。往来を繰り返す人波を強引に掻き分け、レイホースを賃貸屋で借り、気持ちのままに全力で駆けさせていた。
 際に小さく関わった住民、賃貸屋の店員を怯えさせる弊害を与えてしまった。当然、本人にその意図は無かったのだが、それほどに切迫する彼には気付ける筈も無く。
 一つの事に思考を囚われた彼はレイホースに無理を強いて草原地帯を疾駆する。レイホースの苦しむ声も混じった声、重い蹄鉄の音、接触する風の感触、周囲に広大に広がる景色、その全てに彼は気に留めない。普段はレイホースを気遣う事すらも忘れてしまう程に、目的地を、あの存在に遭遇する為に。
 森林地帯に踏み入ると全神経を尖らせ、様相が変わったかのように探し求める。先ず向かったのはフェリスであり、レイホースを交換すると共に生存者から襲われた位置を聞き出す為。その時、夜遅くだったとしても構わずに聞き出して深い森の中へと急ぐ。その姿はある意味狂気じみて。偏にシャオを死なせない為、他は捨ててしまったかのよう。
 いざ本格的に捜索したとして、都合良く発見出来る筈も無い。どれだけ思い焦れようと、懇願するように目を皿にしたところで望まぬ者の発見は不可能に近いだろう。虚しく過ぎる時間の中、焦燥と怒りが蓄積し、神経と心を擦り減らしていく。
 朝から探し始めたとしてもやがて斜陽は木々の果て、山々の尊厳に隠されて世界に夜が訪れる。ただでさえ暗い環境、物の輪郭さえも掴み難いほどに闇に包まれてしまう。その道を照らす手段はあるのだが、特定の生物の捜索の難しさは誰が考えても分かるもの。その危険性でさえも。
 それでも彼は断行した。己の危険性など度外視、全てはシャオを助ける為に。その行為が多くの者を、特にシャオの気持ちを蔑ろにしていると分からないままに。
 寝食を削り、休憩する事さえも惜しみ、その時間の全てを捜索に費やした。陽が昇ろうとも、その身に疲労が蓄積されようとも、魔物モンスターに邪魔されようとも変わらぬ意思を維持、不穏な空気が、身の毛を弥立つような気配が蔓延する森林地帯を駆け抜けていた。
 自分の命も削る蛮行を継続させたのは無論、彼の仲間に対する思いがそうさせていた。その顔を顰めるような精神が自身を強行させた。だが、それだけではない。偶々なのか、魔物モンスターとの遭遇が少なく、怪我を負うような危険が少なく、ほぼ順調に探索を続けられた事も要因となった。そして、最初から感じていた、息が詰まりそうな感覚、動悸と恐怖とは別に、心底から込み上げてくる深い憎悪の念。それに支配されるように身体は動いていた。それを意味する何かを彼自身も理解し、尚の事、探索は中断出来なかった。
 時間の経過と共に、濃密と、緑深い植物が密集する景色が違えて見えてくる。それは偏にトレイドの焦りがそう見せているのか、それとも、シャオ達を恐怖に陥れた存在が潜伏する影響か。もし、そうだとしても、その手掛かりすらも得られないままに、時は無情に過ぎ去っていった。

 やがて、流石にまともに動く事が困難になるほどに疲労を蓄積し、トレイドは膝を折り、激しい息切れを治める事に専念しなければならなくなる。その彼の光が射し込む。暗中に塗れていた木々の海、地平線の彼方から昇った陽の明かり。ただの明かり、光明でなく、無慈悲な時間の流れを知らせるものでしかなかった。
 気付けばそうなっている事に気付いたトレイドの表情は悔いに歪む。まだ手掛かりの一つすら掴めていない、何の進展もしていない。これをまさに克明にされ、気を狂わせる勢いで焦りは増す。それは自分の無力さに怒りを抱き、憎むほどに。
 だとしても、碌に食事や休息もしなかった上、その弱った身体に追い打ちを掛ける強烈な疲労感と脱力感。力を絞り出したとしても、戦闘も挟んだ彼の身体は上手く動かない。一度気を緩めると押し寄せるそれらに眩暈、意識が途切れそうになってしまう。それでも抗い、立とうとするのは不屈の心、大切な仲間を、シャオを死なせまいとする想いから。
 この懸命な努力を、誠意を水泡となってしまうのはあまりにも酷いと言うもの。だが、時に現実は理不尽はあっさりと突き付けてくる。命を絶たせまいとする者を嘲笑う事も有り得る。だからこそ、立たなければならないと指先から血を流し、汗を伝わせながらも立ち上がり、探し出さんと歩みを刻む。
「トレイドさん」
 消耗した彼の耳が聞き慣れた若い声を捉えた。よもや幻聴かと、まさか本人かと思考を巡らせながら振り返り、その顔は悲しみ一色となった。
 其処に居たのはやはりシャオであった。痛々しく、見るだけで胸を痛める額の紋様は赤々と目立つ。それを刻まれていながらも、彼の様子は数日前と変わらない。それどころか元気にも見えた。何せ、衰弱しているとは思えないほど普通に立ち、歩き、負い目に悲し気にするも感情は豊かに。
「シャオ、お前・・・」
 奇跡が起きたのかと淡い期待を抱く。しかし、疲労による判断力の低下と場の見難さ、彼の望みがそう見せていた。実際には悪化していたのだ。その上で、ここまで足を運んでおり、気持ちは再び揺れ動く。
「何故、此処に来た?」
 その心境を図る事は出来ず、真意を問い質す。更に自身を擦り減らし、目に見えるほどの消耗を示す彼に憤りが込み上げてくる。けれど、叱責しようとする思いは踏み止まっていた。選ぶ理由は数多く考えられ、そうさせた不甲斐なさと苦しませる存在に対しての義憤に身は焼かれる。
「それよりも・・・」
 彼もまた森の中を彷徨い歩いたであろう。魔物モンスターと遭遇しなかった事で再会に至れたであろう彼は何よりもトレイドの疲弊を案じて近寄る。彼もまた負い目を示しつつも、跪いて両手を差し出した。際に、苦しむ動作を示しつつも念じ出す。
 翳された手が、腕に通されたブレスレット、その十字架が輝きを満たす。その瞬きが広がる様に球体を描き、自身と共にトレイドを包み込んだ。治癒の光、傷を癒せても万物を治す事は出来ない。そう、心の傷もまた。それでも僅かな浮遊感と幸福感に浸れた。それはせめもの感謝か、暖かい光は何時もよりも強く、眩しく見えた。
「・・・ありがとう。だが、言いたい事がある」
 光が治まり、幾分か辛さが紛れたトレイドは立ち上がる。それは一時的なものなのだろうが、平然と立つ事が出来るほどに外見上から疲労感は消えていた。
「トレイドさん、もう構いませんから。僕の為に、トレイドさんが傷付いていくのは・・・耐えられません」
 疲労、消耗を肩代わりしたかのように状態を悪化させたシャオが零す。自分の為に誰かが苦しむのは耐えられないと。彼はそれだけの為に此処に来たのだ。
「・・・如何して、お前は・・・何で、そこまでして・・・」
「それが、僕の出来る事で、したい事でしたから・・・」
 彼はもう受け入れていた。無慈悲で残酷に突き付けられた死を。その上で、命残り僅かと分かっていようと己が為でなく、他者の為に生きる。それがどれだけ崇高な尊い意思か。
 その清らかな意思にトレイドは涙を溜め込み、硬く目を瞑る。込み上げてくる熱き感情に心は震える。
「何、言っているんだ・・・っ!!」
 激情にシャオの肩に掴み掛かる。零れ出す声は絶望に瀕したかのように弱く震えて。
「このまま死んで良いなんて事は無いだろ・・・っ!記憶を失ったまま・・・こんな、納得も出来ない、理不尽な終わり方を、受け入れようとするな・・・っ!!」
 当人が受け入れていようと、それは諦めと言えた。粛々とする姿を敬うと同時に、やはり憤りが込み上げ、説得しようと思いの全てを吐露する。それにシャオは寂しそうな笑顔を見せる。
「僕の事は、良いんです。それよりも、トレイドさんは、自分の事を・・・」
「俺の事は如何でも良いだろッ!!・・・まだ、諦めるな・・・っ!諦めて、くれるなっ!必ず、必ず、助ける、から・・・っ!」
 こんな善人を、万人から求められる人間をむざむざ喪わせてはならないと強烈に想う。今にも抱き締め、賞賛と叱責したい衝動を堪えながら宣言する。今抱える思いの丈を、偽りなど、遠回す事も無く伝える。それが慰めにしかならなくとも。
「トレイドさん・・・」
 切望する声にシャオの表情はまた揺らぐ。その顔に諦め切れない思いが覗く。彼とて、全てを諦めてしまった訳ではない。どれだけ素晴らしい思考をしていたとしても、やはり生きている。まだ未練は残る。何よりも、知らない事がまだまだ多い。そして、トレイドの様に惜しんでくれる者が居る。それを知りながらも受け入れるのは忍びなく感じて。
「トレイドさん、僕は・・・」
 その顔に生きる気力が見え始め、それを前にしてトレイドの顔に喜びが差す。考え直してくれた事を理解した矢先、その様子は急変する。
 同時に凄まじい重圧がその場を支配した。それは怒涛の大波の如く押し寄せ、震撼する振動に足は竦まれ、喉を絞められたかのように息が詰まる。全身に覆い被さる錯覚は実感するほどに確かに、極悪に。動きは鈍る。突然の事態に頭は困惑するのだがそれでも理解してしまう。得体の知れないそれ、戦慄しかない存在が現れたと。
 逸早く反応したトレイドが俊敏に動き、抑圧を振り払って剣で後方を薙ぐ。先程まで疲労していたとは思えぬほどの強烈な一撃。熾烈な一閃はだが空を斬っただけに終わり、途端に呼吸が乱れ出した。
 反撃を繰り出したトレイドの傍、シャオも蒼褪めた顔で身構える。それは身に刻まれた恐怖、あの時の全てを思い出したかのように怯えを示す。そうした二人の視界には、歪な存在が立っていた。トレイドの間合いから外れ、静かに。
「中々の余興、いや茶番であった。想定外ではあったが、楽しませてもらったぞ」
 途端に静まり、重くなった空間を砕くかのように奇妙な凄烈なる男性の声が響き渡された。それに二人は心底から恐怖を抱いた。全てを見下す態度に怒りを覚える暇も無く。
「己が状態を弁えて置きながら、様を変えず、強き目のままに保てるとはな。畏敬の念すら覚えよう。だからこそ、手中に収められなかったのは惜しまれるな」
 そう語る様子に全くの残念さが見えない。ただ反応の一つを見て、思い通りには運ばぬ事にも平然を保つ様は異様さしか感じなかった。
 厚く、汚れや傷が少々目立つ衣装は各地を巡る旅人を思わせる。整った顔立ちは美形で奇妙な魅力を放ち、貴族、或いは王族のような威風すら感じる。だが、その全てを霞ませる黒い靄を纏う。恐怖させ、逼迫させる圧を放つ禍々しいそれは意識を持つように揺れ動いて。
 性別は男には見えるが体格は華奢に映り、果たしてその全てを計り知れないその存在。引き寄せるような奇妙な魅力を放ちながらも、関わった者を破滅に陥れるのは自明の理。そうした存在が感情を見せずに口を動かす。
「そして、その方。数日の様、無聊の慰めには丁度良かった。いや、存外に楽しませてもらった。特に、そこな者と会う直前の無様、笑いが込み上げて来たわ」
 今迄の姿、遣り取りに感想を述べる。嘲るようで、如何でも良さそうな態度は明らかに人とは異なる雰囲気を纏う。本能で理解するのは死を呼び込む危険さ。身を震わせるほどの確かな恐怖がそれを理解する。風貌から来る不気味さと威圧感とは違った怖気は明らかに死を悟ってのもの。
 それに見付かった時、終わったと悟ってしまう程の感覚を前にトレイドは静かに対峙していた。刻み込む様に抱いた恐怖、それは即座に湧き上がった憎悪が振り払った。瑣末、些細な事に対して考える事は脳裏から消え去っていた。

【3】

「貴様かァッ!!」
 形相を変え、響かせた怒号が空を震わせる。我を忘れるほどの憤怒を剥き出しにし、出現した存在を弾劾する。殺意を抑えるなど出来なかった。其処に疲弊の影響など見えない。何もかもを忘れさせる憤怒は周囲の植物を圧を与えてしまう程の勢いを見せて。
 その声が絶望に囚われていたシャオを解放させ、避難させる事に至る。対して、現れた存在は気にも留めていない。逆に憤怒する様を冷ややかな態度で受け、やれやれと言った様子で息を吐いていた。
「そう猛るな。我はそこな者の結末を見に来ただけよ。それとも何か?我に歯向かうと?」
 愚策、愚問だと言わんばかりに呟く。相手にならないと言った態度を隠そうとしない。その不遜な姿は更なる怒りを買った。
「シャオを、解放して貰うぞ!外道ッ!!」
「良く吠える、滑稽だな」
 義憤する様を吐き捨てる。もう其処に会話の余地など要らなかった。最初から分かり切っていた事だが、分かり合う、譲歩し合うと言った余地など皆無であった。互いがそれを選ぶ事はしなかった。
 神経を逆撫でする発言を機にトレイドは蹴り出していた。身を焼く激しい怒りで純黒の剣を握り締め、殺意の満ちた双眸でその存在を睨む。一切の意識を集中させて一直線に疾駆していく。
 一切構えない、武器すらも持たない不用心な姿へ距離を詰め、見下すように反る首に目掛けて剣を振るう。その行為に躊躇などない、警告を促す意図も無く、最早呪いを解かせる思いなど皆無であった。渾身の力、一撃で殺める、ただそれだけで。
 今のトレイドの状態、最悪に近いと言っても良い。碌に栄養を摂取せず、休息すら満足にしていない。それでも万全に近い動きをしているのはシャオが行った聖復術キュリアティによる優しさに触れた事、怒りで我を忘れている事が挙げられる。その後に如何なってしまうのか、目に見えていた。
 ただ、今は何もかもが関係なかった。命の危機など思考の外。シャオを助ける、ただその一点の焦燥感と憤怒で身体を酷使する。それが普段に近い、いやそれ以上の動きに昇華させていたのだろう。寸前で何かを気取り、身体を躱す。動きが鈍った彼の身に鋭い痛みが走った。
 捻った腹部、左横腹に痛みが生じる。やや鈍った五感がそれによって鋭敏にされ、鈍る思考を電流と共に正常に戻させた。
 小さく呻き声を零した彼の目、怒気を満たしたその視線の先には飛び散る水の雫を捉えた。直前まで形作っていたのは棒状。宙に浮かんだ水球が急激に伸展、槍を突き出す如くトレイドを貫こうとしたのだ。それを直前で避けようとし、躱し切れなかった為に傷を付けられた結果となる。それは致命傷には成り得ず。
「牽制とは言え、これを躱すとはな。情報を掴んでいたのかも知れぬが・・・殊更、楽しませてくれる」
 余興にしては十分過ぎるほどに楽しませてもらうと、不敵だが思考の読めぬ表情で語る。その様を正面にし、間髪入れずに駆け出していた。
 トレイドは直前で懸念、受けた事で確信した。操魔術ヴァーテアス、或いはそれに似た能力を行使した事で目の前に居る存在が、以前セントガルドを、ステインを襲った者だと。
 侮った訳ではない。だが、それを確信した事で嫌な懸念が浮かぶ。今考えてはならない事を。それを振り払うように、全ての元凶に対する憎悪も膨らませて足跡を増やした。
「さて、どれ程抗うか、見物だな」
 そう吐き捨てると観察するかのような面で念じた。瞬間、怒涛の如き力の奔流がトレイドを襲った。
 息を整え、両脚に力を込めたトレイドは飛び出す。全力を篭めた脚力で距離を詰めようとする。だが、まだ間合いに入れていない距離で踏み止まった。同時に全力で斬り上げていた。寸前で感じた身の危険、身の毛が逆立つほどの直感に突き動かされての事。
 直後、彼等が居る一帯に突風が吹き荒れた。一瞬、なれど木々を大きく撓らせるそれは残酷さも持ち合わせて吹き抜けていった。
「う・・・ぐっ・・・!」
 吹き抜けた一帯、幾多に切り傷が刻み込まれていた。透明の風は無数の刃を持ち合わせて立ち塞がった全てを切り刻んだのだ。過ぎ去った後は何かの生物が駆け抜けたかの如く無惨に。その只中に居たトレイドも例外ではない。
 切り上げた姿勢から前屈みとなったその身、幾多の切り傷を刻まれて流血していた。身体を包んでいた頑丈な衣服を切り刻み、内部まで達するほどの切れ味。胸甲等の金属にも生々しい傷を幾多に刻むほどに。隠し切れない箇所は言うまでもない。迎撃して多少相殺したとは言え、酷くダメージを受けてしまった。
 方向は分かっても目に映らない攻撃はえげつないとしか言い得ない。加え、行使した存在の性格を表しているのだろう、標的を逃がさまいとするほどの範囲攻撃であり、シャオに及ばないようにしたのは観察対象と見ての事か。
 全身に至る無数の傷が衣服、防具を血染める。決して軽傷ではないが動けない訳ではない。顔にも刻まれた傷を、血を拭いながら警戒を深めて距離を詰めようとする。先の風は足止めの意も含まれていた。
「まだ終わりではないぞ」
 吐き捨てる忠告と共にトレイドも気付き、防御姿勢を取る。其処に無数の群れが上空から降り注いだ。
 それは半透明であり、歪な菱形を模していた。小さな塊は霜を纏い、それは雹であった。拳に治まるほどのそれが上空で無数に形成され、トレイドを中心した一帯に降り注いだ。
 目に留まらぬほどの速度で落ちたそれは砕け、無残に散らされる。地面に突き刺さる物もあり、全て降り注いだ後、凍て付いた棘が地面を覆い尽す、痛々しく心身を冷し込む光景が作り出されていた。
「・・・くそっ」
 新たな激痛に声を漏らすトレイド。その身には無数の雹が突き刺さる。急所を重点的に守った為に、突き刺さった箇所から痛々しい血を流す。
 抗い切れない痛みを受けて怯むその目が押し寄せる熱、赤の波を捉えた。それに対処する間もなく飲み込まれた。
 痛め付けられた一帯に更なる追い打ちが、彼の逃げ場を埋め尽くすほどの炎が大波の様に押し寄せた。敢え無く彼を呑み込み、全てを燃焼させていく。それだけには終わらず、渦巻く様に彼に向けて炎は収束する。一点に向けて凝縮される炎は濃い色に、禍々しい色へ変化、半径一メートル程の球体に収束すると否や炸裂した。
 限界を迎えたかのように爆散した炎、途轍もない衝撃と囂然たる爆発音を伴って消え去った。強烈な衝撃波が周辺を荒らし、更に焦熱させた。震えは大気を震わせ、地鳴りの如く何処までも響いていた。
 逃げる間も無く直撃したトレイドは無残に吹き飛ばされて地面を転がされた。地面の抵抗に妨げられて勢いが削がれても強い衝撃は木に接触するまで残る。制止した彼の身は巻き付かれる黒い煙を漂わせ、力なく倒れ伏す。
「ト・・・トレイドさんッ!!」
 息を吐く間も無く連続した無慈悲な攻撃を前にして唖然としていたシャオは漸く言葉を出す事が出来た。その声は自身の調子を忘れるほど大きく。
 惨たらしい姿を、ボロボロになった衣服や防具を汚す血の赤や焦げの黒。力無く倒れた様に駆け寄ろうとするのだが、
「余計な事はするな、黙って見ているがよい」
 静かな声だが蹲らせてしまう程の迫力にシャオは動けなくなってしまう。恐怖し、何も出来ない事を強烈に悔やんで。
「・・・もう終わりか、最後は呆気無いものだ」
 興味を損ね、今迄の褒美と言わんばかりに追撃の手を、手を翳して手の平に大きな水球を作り出す。止めを刺さんとしたその存在に異変が訪れる。
「・・・ほう」
 身に起きた小さな変化を前に、淡々と、だが関心を示す。小さく抑えた手の傍には僅かな傷が見え、直ぐ傍に異物が伸びていた。
 足元、怪しく煌きを灯す幾多の物体が一つ伸びる。形を保っているのが不思議なそれは報復せんが如く鋭敏に突起し、僅かに掠っていた。虚しいと言わんばかりに、塵と化して消え去った。
「やるではないか」
 微かな関心を示す。その視線の先にトレイドは立っていた。立っている事が不思議に思える重傷の姿で、それを霞ませる憎悪と殺気に満ち溢れさせる。今にも倒れそうでありながらも、衰えぬ戦意がその気配を掻き消す。
「やはり、その目・・・いや、有り得ぬな、無窮に流れた後の歳月だ。空似であろうよ。だが、不思議と昂揚するものだ」
 そう呟きながら立ち去るのか、踵を返す。見逃すのか、何かを思い付いたのか。何であれ、それを見逃す筈が無い。
「・・・待て。シャオを、解放、しろ・・・!」
 声を出す事も不可能なほどの重症でありながら呼び止め、尚も戦おうとする。その姿勢に小さく笑いが零された。
「勇猛なものだ、苛烈ともな。その姿勢、感嘆すらしよう。だが、愚かでしかない。死を選ぶと言うのか?」
「黙れ・・・!」
 状況を淡々と語れる冷静過ぎる男の態度に激怒し、更に力を篭めて剣を握り締める。しかし、指導権を握られている事は言うまでもない。ただ睨み付けるしか許されず、憤怒に息巻く。
「・・・それよりも、気に掛けなくても良いのか?」
 その警告にトレイドはハッとしてシャオを見た。離れた場所で崩れ落ちた姿が映り込んだ。
「シャ、オ・・・っ!」
 もう時間が無い。それを理解してしまった。その動揺が全ての神経を崩す。戦う意思も消えてしまった。気取られている内に無情を振る舞った存在は姿を暗ます。
 その事に気を掛ける余裕はなく、必死にシャオの下へと向かう。
 絶え絶えの呼吸、動く事も出来ずに地に任せた身体、今にも色を失いそうな肌。微笑みを残しているのだが力は急激に失われていく。そうした彼の額から例の紋様は消え去っていた。それは解放を意味するのではない、役目を果たした、そうでしかなかった。
 傍に倒れ込む様に膝を着け、剣を投げ捨てて倒れたシャオを抱き上げる。自身の苦しみに遮られようと関係なく。
 仰向けに抱き上げた彼の顔、苦しみも痛みも、何も感じないのだろう、安らかにも穏やかにも見える面に最早精力を感じられない。それに理解して止まない。苦しみを忘れさせる感情に囚われて項垂れる。
 受け止めるしかない。阻止したくて躍起になったと言うのにそれを果たせなかった。何処までも残酷な現実を憂い、嘆く。
 襲い来る後悔と悲しみを噛み潰すように食い縛り、穏やか過ぎる顔をまともに見られずに硬く目を閉ざす。惜しむ思いに眉に皺が寄り、全身に込み上げる熱に、目元に熱さが集まっていく。
 対して、シャオはただ静かにトレイドを見詰める。生気が失われていく様。零れる吐息はか細く、呼吸音は消え入るように。その口は微かに動き、何かしらの言の葉を呟いた。それはトレイドの耳に届かぬほどの小さな声、独り言なのだろう。それか、別れを惜しむ感情を吐露したのか。
「・・・っ!シャオ、お前・・・」
 悲しいに打ちひしがれるトレイドは唐突に温もりと痛みが遠退く感覚に囚われる。それに目を開くとシャオが聖復術キュリアティを施していたのだ。今際だと言うのに、苦しみを取り除こうと普段と遜色ない力を行使する。そして、優しく微笑んでいた。
 涙は誘われる。熱く、心底から込み上がる感情を映すそれは目頭に滲み、彼の姿を含めた世界の全てが滲み、歪み始めていた。
「まだ・・・まだお前は生きているべきなんだッ!まだ、自分の事も、この世界の事も・・・知らない事がまだ、まだある。生きて、それを知っていくべきなんだッ!まだ・・・まだ、生きて、くれ・・・ッ!」
 彼は感謝を告げる為に此処に来て、尚も助けようとして尽力する彼に礼を告げる為に残りを消費したのだとも分かってしまう。故に、声を震わせ、詰ませながら哀惜を拒む。共に生きたい、それを切実に嘆願する思いを叫ぶ。砕けてしまいそうな思いが、シャオの面に赤紫の瞳から零れた涙として落ちていく。
 何も考えられなくなるほどの強烈な感情、覆す事の出来ない永別を前に絶望に伏す。その姿に小さく引っ張る優しい手。それに気付き、意識を向ける。やや切なげにするシャオ、その彼が腕に通していたブレスレットを弱々しく差し出していた。
 促されるまま受け取って交互に眺める。落涙を受けた十字架は鈍く輝きを纏う。それもまた、状況ゆえ物悲しい瞬きであった。
「それは、僕の大切な人から・・・トレイドさん、に預け、ます・・・」
 その発言は決定付けた。彼は思い出していた。過去、嘗ての自分を取り戻していると。その前兆はあった、だが完全に取り戻したのはごく最近だと考えられる。しかし、もう何もかもが遅かった。残酷なまでに流れる現実に、ひたすらに嘆くしかなかった。
「俺に、預けるな・・・ッ!自分で、持っていろ!だから、頼むから・・・死なないで、くれ・・・ッ!」
 搾り出す一心の全てを受け、シャオは微かに苦笑を零した。硬く、握り締め、蹲って嘆く姿を悲しむ。けれど、想ってくれる事が嬉しくて。
「トレイド、さん・・・ありがとう」
 呟くように出された声、それはトレイドの耳に痛く行き渡った。直ぐに彼は、腕の中で佇むその顔を確認する。そのシャオは普段のあの笑みを浮かべていた。二の次は無い。代わりに応えるように、全身の力が抜け、トレイドの腕に重さが加わった。細い両腕は落ち、柔らかな笑顔のまま傾き、鼓動は感じられなくなった。まだ、暖かいと言うのに、温もりさえ、無くなっていくようで。何を言わずとも、理解してしまう。其処に彼は居ない、もう記憶にしか残らない。そう、もう居ないのだと受け入れるしかなかった。
 深い悲哀に身体が戦慄く。守りたいと駆けた決意は脆く砕かれ、強き慙愧の念に心は蝕まれた。繋がりを無残にも絶たれてしまった辛さに零れ出る嗚咽。感情の波が堰を切り、涙として溢れ出す。どれ程に嘆いたとしても、悔やんだとしても、事実を覆す事は出来ず、戻せない。どれだけ理解に思考を巡らせても穏やかに横たわる姿を前に、悲しむしか許されなかった。
 涙が伝う双眸を硬く閉ざすトレイドは彼を抱き寄せ、力強く抱き締める。まだ温かく、柔らかい身体は実感してしまうほどに、冷たく、硬くなっていく。それを阻止したいが為に、拒むように、抱き締め続けていた。その彼の胸に犇く思いは整理も着かずに錯綜し、混乱が招かれていた。
 彼の行為に意味はない。それは彼がそうしたいから。せめて、僅かにでも、体温を分け与えたい、凍えさせないように。ほんの少しでも暖かく、孤独を感じて逝かせない為に。それでも感じる冷たさ。それが更なる悲しみに追い立てた。
 悲涙は悲歎と共に伝い、押し込める嗚咽と哀哭は森の中に木霊され、誰に聞かせる事も無く消えてしまう。些細な日常の幸せ、有り触れた他愛の無い知人との平和な時間は、脆くも崩されてしまった。その悲しみは、染み渡る涙の跡と共に消されていった。
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