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霧は晴れ、やがてその実態は明かされゆく
逡巡する思い、強くなりたい焦り 前編
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【1】
燦々と輝く太陽が天を登り切ろうとする時間帯。セントガルド城下町に最近に出現した白き城はそれを受けて一層の輝きを放ち、見る者の目を眩ませていた。それ程までに光を反射し、神々しく輝く。謎を孕んでいるとは思えないほど美しく、セントガルド城下町内で自己を主張していた。
それとは別に、人々の活動は最高潮を迎え始める。理由は至極簡単なもので、昼食の食材の買出しや料理店に足を運ばせる者達でごった返しているのだ。その時間帯は其処に住む住人にとって最も怪我を負い易い時間帯である。
そう言った時間帯であろうとなかろうと、彼はそうした光景を見付けたなら即座に駆け付け、治療を施していた。所属するギルドの仕事を行いながら、支障のない範囲で。
「ありがとうねぇ」
「いえ、お気を付けてくださいね」
彼、シャオは人波に押され、転んでしまった老婆の治療を終えたばかりであった。杖を突き、皺で一層優しさと穏やかさが感じ取れる微笑みを浮かべた彼女に感謝を告げられていた。その後にゆっくりと立ち去っていく後姿に向け、優しく注意を掛けて見送る。
「おや、シャオちゃん。丁度良かった。また、腰を治してくれないかい?朝から痛くて・・・」
入れ違いになるように、丁度探していたと別の老婆が聖復術を求めてくる。それに微笑んで頷く。
「分かりました、直ぐにしますね」
快諾して治療に掛かる。正確には治療ではなく、痛み緩和の為にそれを行う。
「シャオちゃんや、此処に追ったのか。儂も頼むでのぉ。散歩の途中で打ってしもうてのぉ」
「あ!ドトのお爺ちゃんが居た!シャオのお兄ちゃんも!」
「集まっていると思ったら、此処に居たのか。俺も頼むよ、誤って指をトンカチで打ち付けてしまってさ」
「シャオの兄ちゃん!弟が怪我してしまったんだ!治してよ!」
最初の老婆を切欠にするように次々と彼に助けを求めて人が集まっていく。名を呼び、求められるのは信頼の証と言えた。
「慌てないで下さい、皆治しますので」
微笑んだ後、彼はゆっくりと両手を広げて怪我人達全員を捉え、瞼を閉じて念じ始める。程なくして、淡い光が皆を包み込むように輝き始める。共鳴するように、彼の手首に通した銀のブレスレットが、それに付属した小さな十字架が僅かに浮いて輝きを纏う。輝きは強さを増して。
小さな路地に淡き光が溢れ出し、小さな空間を包み込んだ。球を描いたそれは仄かな温もりを齎し、小さな瞬く球が上空へ浮上していく。浮かびゆくそれは途中で薄れ、消えてしまう。霧散する玉の数が傷を癒した証か。淡く、儚い光の動きは切なく感じて。
不可思議な現象、それこそが聖復術と呼ばれる力であり、傷を治癒させる不思議なもの。それを納得出来る、心に安らぎを与える、温かな光が放たれていた。
「はい、終わりましたよ」
光は音も無く治まり、それを境に告げる。その証拠に様々な傷や痛みは消え去り、苦しみから解放されていた。
「ありがとうねぇ、シャオちゃんや」
「また頼むな!」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「世話になった」
平時を取り戻した人々は口々に感謝を述べ、笑顔を見せる。
「いえ、大した事はありません。また、頼りにしてください」
奢りも偉ぶりもせず、慎ましく微笑んで答える。その無償の優しさは人を惹き付けよう。裏が一切ない施し、行う者の善意が周りに笑顔を齎した。
感謝を再度口にしながら住民達は立ち去っていく。また、何かを奢るだの、食べ物を持っていくと残しながら。
その皆の後姿を微笑んで見送った後、途端に静かになった路地に一人立った彼は憂いの色を表情に宿していた。それはふとした拍子に浮かんでしまう、気持ちであった。
それはもしかすれば記憶に端を発するものかも知れない。彼自身確信が取れないのは記憶を失っている為に。けれど、笑顔が少しでも崩れるほどの強いそれは確実に、本来の彼に関わるものと思われた。
切欠が銀龍。正しくは、襲来時に生じた混乱下で魔族が示した姿勢から。
献身、自己犠牲。身を挺し、死の塊でしかなかった銀龍から誰かを守ったり、危険を承知で避難誘導を行った。更には他の者と同様に立ち向かう、勇敢な姿を見せたのだ。
立場は聞いていた、その性格も聞いていた。境遇も同じく。それなのに、喪う事を恐れて身を挺した。その勇気を前にし、言い様の無い感覚が込み上げて来たのだ。喪う事を恐れ、己が命を犠牲にしてでもと言う直向な何かを。それが知らぬ為、失った記憶に関わると判断して。
故に、悩んでいた。あの日を境に悩み続けていた。人を助ける事を優先し、それに集中しても、気を抜けば考えてしまう。
そんな煩悶とした思いを抱き、彼は歩き出す。答えを見付けようとして、糸口を見つけられないままに。
けれど、転機と言うのは然るべき時に訪れるのだろう。
【2】
後日、商売人達が商いを始める為に暖簾を上げ始めた頃、人と人を繋ぐ架け橋の施設に主要の者が集められていた。その中にはシャオを始め、ガリードやフー等顔に覚えのある面々が中央の広場に会する。その中には、このギルドに所属しない者も居て。
けれど、其処にトレイドの姿はない。魔族に関する事で欠席しているのだ。そして、その魔族の姿が無い。まだ、信頼に置かれていないと言う事か。
「急に、突然、急遽集まってもらって済まない。けれど、そろそろと判断し、招集を掛けさせてもらった」
集めた皆の前に踏み出し、本題を切り出したのは此処のギルドのリア、ステイン。その手には古惚けた文書を持つ。解読している途中か、それを手放せないほどに忙しいと言うのか。
隣にはユウ。補佐として傍に立ち、持つ書類は今回の招集に関するものだろう。
「前回、手の空いている者に地震後の世界の調査に出て貰った。聞いているかも知れないが、案の定、予定通り、ご多分の漏れずに環境の変化が見られた。加え、その地帯で見られなかった生物、変化が見られた場所には新たな魔物も同様に」
以前トレイドとガリード、クルーエの三人で調べた簡素な資料を眺めながら説明して。
「それは前もっての軽い調査として切り上げさせた。だが、その直後に再び地震が発生した。それ以降は新たな人々が来た為、その者達の支援の為、人員も割く事は出来なかった。だが、ついに、いよいよ、漸く復旧にしても、支援にしても、依頼にしても一段落を迎えた。拠って、皆には調査に当たってもらう。今日は、それを言い渡す為に集まって貰った」
皆を見渡しながら軽い説明を行う。受けた全員は気を引き締めて耳を傾ける。
「差し当たって、先に今回の調査には応援も要請、天の導きと加護と赫灼の血より数名派遣してもらった。新たな魔物との遭遇が濃厚の為、魔物との戦いに長けた彼女達と聖復術による救護要員として彼女達にな。如何か、問題を起こさないように」
その説明で視線が向けられる見慣れぬ顔の面々。紹介された者の全てが女性であり、二十代から三十代の若者ばかり。けれど、清楚な修道服と上から下までの武器と防具の完全武装、やや気が弱そうで大人しそうな雰囲気とがさつで粗野に映る佇まいと正反対に見える顔触れであった。
「調査してもらう場所は四ヶ所、草原、森林、沼地、砂漠地帯となる。高山地帯は法と秩序の管轄である為、そっちに任せ、雪山地帯は寒冷に対する経験が浅い者達ばかりの為に見送る」
少し例外があるものの、活用の多い地帯を優先する方針。それに異論はない。
「これらを踏まえ、各場所に向かう調査隊を作る。各隊には責任者となる隊長、副隊長を一名ずつ任命する。その二名の指示に従い、臨機応変に調査を行え。まず、草原地帯はユウを隊長とするが、周知、存じている、知っての通り、色々な業務を任せている為に満足に参加出来ないだろう。だから、補佐に任命するフーが実質隊長となるだろう。頼むぞ」
「分かりました。正直、不安ですが、頑張ります」
緊張、不安と言った様子を示さない彼だが、何時もの口調を抑えている辺り、それなりには気を引き締めている様子。
「次に森林地帯はアドネラ、君だ。君は赫灼の血と引けを取らないと思っている。一番、魔物との戦いが想定される。補佐として、赫灼の血からの応援者、ラティラと共に行ってくれ」
「分かりました。宜しくね、ラティラ」
「こちらこそね。この調査が終わったら、一度手合わせ如何?」
任命された二人の女性、いや女傑と言える、男にも引けを取らない体格と武装した二人ががっしりと握手を交わして。
「次に砂漠地帯の隊長はイシリナ、補佐はオーレンだ。二人は普段、砂漠地帯の町イデーアで活動してもらっている。周辺の地形を把握し、砂漠地帯での知識を多く有している。二人を頼ってくれ。そして、二人共、大勢の行動になる、最善の注意を払うんだ」
「ええ、任せて」
「存分に、頼って下さいよ!」
踊り子風のミステリアスな雰囲気を纏う美女と褐色に良く焼けた肌と肉体美を晒した陽気な青年が返事をして。
「最後に、沼地地帯はナルナッドとする、が彼は今、沼地地帯に駐在しているから、顔合わせが出来ない。詳細は既に伝書で送って把握させているから現地で合流し、情報交換の後、共に行動してもらう。それまでは補佐である、ガリード。指揮を頼むぞ」
「え!?俺っスか!?」
思わぬ任命に当人は派手に驚く。その驚き様は隣に立っていた者達も驚かせた。
「ああ。先の調査での知識に加え、数回に渡って沼地地帯に向かった経験を踏まえて任命させてもらった」
「そう難しく構えなくて良いわ。向こうに行くまでは殆どする事は無いから。向こうで合流した後、補佐として支えてあげて」
ステインに指名され、驚いた彼だが、ユウの励ましを受けて沸々とやる気を漲らせていく。
「・・・分かったっス!!任せて下さい!!」
頼りにされていると認識し、大層意気込んだ彼は大声で受け答える。やる気に満ちたその姿は他者を少し圧倒して。
「・・・では、各部隊の人員を伝える。聞き漏らさないように」
ガリードの十分な気合を確認したステインは大方の概要を説明したと下がり、同時にユウが数歩前に出て、凛然と口を開く。室内の奥に響く、けれど落ち着いた声が選別した人員を述べていく。
「あの・・・」
大方の人員が割り振られようとした時、まだ任命されていないシャオは浮かない顔のまま口を開いた。それに視線が集まる。
「・・・私、沼地地帯でお願い出来ますか?」
そう、頼み込むように嘆願を述べていた。それは今迄の葛藤に加え、其処に記憶の糸口があるかも、と。
それに対し、口々に否定の声が投げ掛けられる。だが、それも仕方ない事。ユウやステインが個人の能力を考慮して割り振っている。それに口出しする事は失礼に当たり、自分本位で決めてはならないと言う思いが現れていた。
とてもそれを通す事は出来ないと言う空気が出来ていたのだが、其処に別の横槍が一つ。
「ああ、そいつシャオって言うんスけど、記憶が無い、記憶喪失って奴っス。でも、こいつと出会ったの沼地地帯で出会ったんスよ。もしかしたら、何か思い出したかも知れねぇっスね」
そうガリードが助け舟を出した。ならば一理はあるが、だとしても疑問視する声が零れる。
「そう、言っているが、如何なんだ?」
ステインに直接尋ねられる。無論、そうした事実はない。単にガリードの出任せに過ぎないが、当人の目配せと自分の思いからその嘘に乗って頷く。
「分かったわ。でも、元々沼地地帯に送る積もりだったから、問題ないわ」
そう要望が通る形で本来通りに任命される。口を挟む事は無かった、それでも通って嬉しくて表情を緩めて安堵して。その直後だった。
「俺も、行かせてくれっ!」
思いが溢れる、勇気を出したかのような幼さが残る声が響いた。その声で集められた視線の先には、修道服で勇ましくしても幼さが目に付く、中性を感じる子供が立つ。背にか弱く感じる姿には似つかわしい、物騒な剣が負われて。
少年はラギア、ラビスと呼ばれる天の導きと加護に所属する少女のもう一つの人格である。
直ぐにも否定の言葉が飛び交う。まだ幼い子供、危うい所には連れて行けない。第一、子供も付き合わせる、遊びでは為に。
「行かせてくれ!良いだろ!?俺だって、天の導きと加護なんだぞ!」
轟々と行かなくとも口々に否定される。それでも少年は頑なに主張した。その胸中には焦りがあった。あの銀龍が襲来した時、何も出来なかった。大人達に従い、恐ろしくて避難しただけ。それ以降も治療しか出来ていない。あの龍に対して恐ろしく感じるのは当然であり、治療出来る事も素晴らしい事。それでも少年は、そして少女はそれでは駄目だと日頃考えていた。
そんな折、今回の事を偶然耳にし、修行にもなると画策し、一大決心して無断で訪れて志願していたのだ。その為、そう簡単には折れず。
「君が良くても・・・」
「良いんじゃないんスか?ユウさん」
ユウが説得しようとした時、口を挟んだのはやはりガリードであった。
「そりゃ、確かに子供っスけど、ちゃんと天の導きと加護の一員として頑張ってますよ?聖復術も優秀なんで十分役に立ってくれます。それに何かあった時、どの道、天の導きと加護の人は護んなきゃなんねぇし、俺が守るっスよ?」
そうまた別の助け舟を出していた。安易に否定しない事は良いが、考えなしに肯定するのは如何なものか。
流石に子供を同行させる事に納得し切れないユウは静かにステインに指示を仰ぐ。
「・・・そうだな。天の導きと加護の方、実際の所は?」
ステインは他の職員に評価を問う。彼女達は返答に困るも正直に答えていた。様々な点において未熟ではあるが、子供ながらに戦いの心得は多少あり、確かに聖復術は優秀だと肯定して。
「・・・分かった。特別に許可しよう。面識のあるガリードと共に沼地地帯に向かえ。正し、周囲の者の指示には従って動くように。戦闘にもあまり関わらないようにしてくれ。これが君の為でもあるからな」
「・・・ありがとう、ございます」
認められたと同時に不用意な行動は慎むように念を押される。それに少々窮屈さを感じつつも、ぎこちなくではあるが感謝を述べて。
「後で天の導きと加護のリアには連絡はしておくが、終わった後は覚悟し、諦念し、観念する事だな」
そう悪戯心で告げられ、ラギアはとても嫌そうな表情となる。責任者であるアニエスの大目玉を想像してしまった為であろう。
「・・・終わりに、最後に、付け加えて言うが、節度を持ち、緊張を以って取り組んでくれ。分かっていると思うが、遊びではないからな」
最後に釘を刺す。それは物見遊山などでの精神、油断を持たせぬ為。それ故に、真剣な面持ちと声色を少し落としたその発言は皆の姿勢を正せるほどに迫力を放って。
「では、取り掛かってくれ。既に馬車等は手配し、城下町の外に待機させている。指定されたそれに乗り込んでくれ」
そう言い残すと文献に目を通しながらステインは立ち去り、ユウも早速ギルドの業務の為に何処かへ立ち去っていく。
二人の後姿を見送るまでもなく、皆は外に向けて歩き出していく。その集団から、調査に出るとは思えぬ気迫を感じさせた。
「宜しく頼むぜ、皆!シャオにラギアとラビスもな」
その中で少々場違いに明るいガリードが鼓舞し、緊張を僅かに解していた。
【3】
爽やかな草の香りと快晴の空の下、青々とした草原が一帯を占める。緑の大海を迷いなく駆け抜けていくのは、人に繰られたレイホース、それが引く馬車である。数台は連なって彼方に見える森林地帯に向けて車輪を鳴らし、車体を揺らし、軋ませる。
馬車の側面に備えた車輪と馬具を備えたレイホースから伝わる振動は馬車内へ響く。所狭しと座る者達にはそれは少々苦しく感じようか。
車内に居るのは沼地地帯に向かう者達、ガリードを始めとして各々の調子で腰掛ける。武装している為、狭くなってしまうのは仕方がなく。
「ほい、これを回していってくれ」
ガリードが近い者に軽食を配る。まだ到着には遠いが、到着して直ぐに調査開始となれば食事の時間も取れないかも知れない。小腹が空き始めると判断し、途中で購入していたそれを配って。
皆に行き渡り、早々にそれを腹に納めていく。その折り、全員を見渡して顔を覚えていたガリードの丁度前に座る女性が口を開いた。
「あんた、馬車に乗る前から気になってたんだけど、その剣、扱えんのかい?」
体格だけ見れば男と見紛うような鍛え上げた四肢を晒し、腹筋を見せても平気なほど露出の多い恰好の女性。勝気と言うより、格上の男にすら噛み付くような性格と思しき彼女が挑発するように問い掛けた。
彼女は赫灼の血から派遣された女傑の一人。腕を組み、足を組み、威圧的に座る彼女は整った顔立ちだからこそアンバランスで圧が強く。
「ん?俺?ああ、使えるな。最近、漸くものにしてきたって感じかな?」
「それじゃああんた、満足に使えていないのかい?情けないねぇ」
「そう?でも、格好良いよな?俺の恩人がくれたんだよ!」
少々見縊られているとしても気付かず、嘗ての事を思い出して上機嫌に。
「はっ!なのに満足に使えないって、笑えてくるねぇ。それで、ちゃんと魔物と戦えんのかい?尻尾撒いて逃げ出したら、ただじゃ置かないよ?」
どうやら、大剣は虚仮威しの為の道具と認識した様子。軟弱な男と見下し、挑発を続ける。漸くそれに気付いたガリードだが、それに乗る事とはしない。気付かないような様子で笑みを見せ、
「大丈夫だよ。俺、何度か倒しているしな。まぁ、頑張ってぶっ倒すから、調査頑張ろうぜ!」
「そうだね、精々頑張らないとねぇ」
余裕を見せるように満面の笑みを見せて鼓舞し合う。それを虚勢と取ったのか、薄ら笑みを浮かべて同意していた。
多少白熱した遣り取りから離れ、腰を下ろしたシャオは沈黙を保ち、物思いに耽っていた。依然として犇めく自己犠牲、献身に対するざわつく思い。そして、沼地地帯を探る事で少しでも自身を知れるのかと言う不安。募る疑惑と淡い希望が不安を濃くしていく。
けれど、葛藤に押し潰される事は無い。如何転ぶか分からないが、黙する彼は良い方向に向かう事を静かに願い、祈る。不安と向き合い、それが成就される事を閉じた瞼の奥にて。
その隣にはラギアの姿がある。小さな身体を足を抱えて畳んで更に小さくする。まるで、不安に囚われたような恰好で目を瞑る。暗い奥底、心層に少年は赴いていた。
水音が響く、暗い空間。一滴、一滴と立てる水音はまるで心音のように響き、反響せずに静けさが一定周期で包み込んでいた。其処へと、今は其処に居る少女と会話する為に。
『本当に大丈夫なの?』
『何がだよ?』
響く水音の合間、少女ラビスの不安の声が響き、それに少年は疑念を向けた。
『魔物と、戦うの、怖くないの?』
『・・・怖くない、平気だ』
不安に満ちた心配の言葉に、やや粗野な声が冷たく切り払う。再び鳴らされた水音、振り切った声に宿った躊躇いが残って。
『無理、していない?』
『してない』
『本当に?』
『しつこい、していないって俺が言ってんだ!大丈夫だよ!』
短い問答は、心配する気落ちを無理矢理に抑える苛立った声で中断する。その後に水音が響き渡る。それは躊躇いを示した。
『・・・無理、しないでね?ガリードさん達に、迷惑を掛けたら・・・』
『五月蝿い!無理じゃないし、迷惑って何だよ!』
大層憤慨する少年。姿があれば顔を赤くして怒っている事は間違いないだろう。
すると、空間の中で可愛らしい一笑が零された。ムキになり、必死な様子に思わず笑いを零してしまったのか。それに少年は不愉快そうな声を漏らして。
そうする合間にも水音が、心音のようなそれが響く。それは二人の会話に区切りを着ける、落ち着かせるように。
『・・・頑張ってね、ラギア。でも、無理しないでね』
『・・・分かっているよ』
優しい、応援と心配の言葉を、ややぶっきら棒に振る舞いながらも受け止める。最後に水音が一つ響き渡り、空間は静まり返った。
人の心の内など分からず、読む事など出来ない。同様な心象としているか、どのような風景を流しているのか、知る由も手立てもない。少なくとも、少年少女が交わすその空間は何処までも暗く、水音が響くだけ。
何処に至らぬような其処から瞼を開けた少年、様々な思惑を抱いた者達の姿を眺め、時間は過ぎていった。
【4】
時は急速し、時間帯として昼も半ばを告げようとする頃。一行を乗せて草原を車輪を響かせて疾走していた馬車は環境変化に至る地点に差し掛かっていた。
馬車は止められ、馬車と繋いでいた馬具から開放されたレイホースは身体を解す。木桶に溜められた水へ頭を垂れ、音を鳴らして飲む。
傍で外に出て窮屈さから逃れた一行も身体を解す。同時に、これから森林地帯に、魔物が住まう領域に踏み入る覚悟を定めていた。
「ラギア、知っていると思うが、こっから魔物が出てくる。不用意に動くなよ、分かってるよな?」
「何でだよ、折角魔物と戦う機会なのに」
強くなりたいと願って参加したと言うのに、寸前で禁止されれば不満を示すのは当然。
「馬鹿言うな、魔物は甘くはねぇんだぞ。そう簡単に戦わせられるか」
「戦わせろよ!俺だって、戦えるんだ!前も、そう言って駄目って言ったし、じゃあ何時になったら戦えるんだよ!」
強くなりたい思い、根差した、ラビスを守る為の強さを求めて少年は焦る。何も出来ない事を悔やんで、その思いで叫ぶ。それは成長の最中の叫びであった。
「そう言ってもよ・・・」
思いあぐねるガリード。少年の気持ち、強くなりたいをひしひしと感じ、それを理解する。けれど、彼もまた案ずる。まだ子供だからと。見縊っている訳ではないが、それでも認める訳にはいかずに。
「何だよ、硬いねぇ。良いじゃないか、本人が戦いたいと言ってるんだからさ」
会話に水を差すのは赫灼の血の女傑、無責任に言い放って。
「簡単に言うなって、それで怪我なら良いけど下手したら死んじまうんだぞ?こいつはそんな訓練とかしてねぇんだぞ?」
「甘い事を言うねぇ。何時かは魔物と戦うんだ、遅かれ早かれね。子供だからって何でも制限するのはいけないよ?」
それは正論でもあった。子供だから戦うのは難しいだろう。だが、適齢、程良い体格になるまで制限するのは、必ずしもその者の為になるとは限らない。時として、経験させる事も必要だと。
「それは人それぞれだ。ラギアとお前は同じようには出来ねぇよ。そいつそいつのペース、段階踏まねぇと駄目なんだよ」
「そうだとしても、それをあんたは決められるのかい?分かるのはそいつ自身。その子がしたいと思ったら、そうじゃないのかい?」
「だから、それで死んじまったら如何するんだよ!無責任な事を言ってんじゃねぇ!」
言う事も理解出来るが、一時とは言えど人を預かっている身。無責任に振る舞えない。その責任から感情を露わにする。
「落ち着いて下さい。二人共、言い争わないで下さい」
「そうそう、今から気張っても意味ねぇぞ?」
険悪な雰囲気となった時、周囲の者が止めに入る。間に立たれ、赫灼の血の女傑は馬鹿馬鹿しいと言った態度を示す。
「全く、そんな剣を背負っているのに、情けないねぇ・・・ま、誰が何と言おうと、自分が思うようにすれば良いのさ。アタシはそうして生きてきたからねぇ。それに、魔物と戦う、って言う触れ込みだから来たんだ。アタシはアタシの好きなようにやらせてもらうよ」
弱腰だと貶し、見下すような面で立ち去っていく。妙な自信に溢れた背に苛立ちを示して。
気持ちを落ち着かせる為に息を吐き、傍で不服そうな少年に顔を向ける。
「気持ちは、分かるけどよ・・・」
説得しようとした時、近付いてきたシャオに気を取られる。
「ああ、シャオ。お前も不用意に動くなよ。武器も防具もしてねぇからよ、俺が極力・・・」
「ラギアさん。如何して、戦うのですか?」
彼はラギアに対する疑念を優先して尋ね掛けた。単刀直入に、躊躇いも無く。それにガリードは口を止め、少年を眺めた。
「俺は・・・」
あまりにも直接的に問われ、驚いた少年は呆気に取られる。思わず口から零しそうになるも押し留まった。
「べ、別に良いだろ!なんでも!」
そう怒鳴り散らすように誤魔化して顔を背ける。横顔は赤く。
「・・・そう。そう、だよね」
小さく納得した彼は気を悪くさせた事を謝る様に頭を下げ、その場から離れていった。
慌て様から察したのか。日頃から会話を重ねている事から大方の理由を把握しているのか。納得する彼は何処か、切なげに。本人は微笑んだ積もりなのだろうが、他人には羨ましくするように見えていた。
「・・・戦うなとは言ってねぇからな。もしもの時は死に物狂いでも生きようとしろよ。でもよ、今無茶をしてさ、誰かを泣かすような真似をしてまで強くなる必要はねぇんだ。お前の、その時に身体に合わせなきゃ、後々で壊れちまうんだよ」
「・・・五月蠅い!」
急ぐ事は無い、それは裏を返せば今は我慢しろと言っているようなもの。理解されないと憤慨した少年は離れていく。
一部始終を眺めていた仲間達は右往左往する中、大きな剣を背負った小さな背を眺めるガリードは熟慮する。如何すれば良いのかを思案し、行き着かない為に苦悶して。
それぞれの胸に一抹の不安、不満が抱えられる。それでも仕事を行わなければならない。長時間の休憩は出来ないと切り替えるようにガリードが出発を告げ、その準備に取り掛かっていく。
休憩を挟み、少し機嫌が良くなったレイホースの手綱が引かれ、馬車が軋む音を立てて動き出す。その先は変わりゆく景色の奥、森林地帯へと。
燦々と輝く太陽が天を登り切ろうとする時間帯。セントガルド城下町に最近に出現した白き城はそれを受けて一層の輝きを放ち、見る者の目を眩ませていた。それ程までに光を反射し、神々しく輝く。謎を孕んでいるとは思えないほど美しく、セントガルド城下町内で自己を主張していた。
それとは別に、人々の活動は最高潮を迎え始める。理由は至極簡単なもので、昼食の食材の買出しや料理店に足を運ばせる者達でごった返しているのだ。その時間帯は其処に住む住人にとって最も怪我を負い易い時間帯である。
そう言った時間帯であろうとなかろうと、彼はそうした光景を見付けたなら即座に駆け付け、治療を施していた。所属するギルドの仕事を行いながら、支障のない範囲で。
「ありがとうねぇ」
「いえ、お気を付けてくださいね」
彼、シャオは人波に押され、転んでしまった老婆の治療を終えたばかりであった。杖を突き、皺で一層優しさと穏やかさが感じ取れる微笑みを浮かべた彼女に感謝を告げられていた。その後にゆっくりと立ち去っていく後姿に向け、優しく注意を掛けて見送る。
「おや、シャオちゃん。丁度良かった。また、腰を治してくれないかい?朝から痛くて・・・」
入れ違いになるように、丁度探していたと別の老婆が聖復術を求めてくる。それに微笑んで頷く。
「分かりました、直ぐにしますね」
快諾して治療に掛かる。正確には治療ではなく、痛み緩和の為にそれを行う。
「シャオちゃんや、此処に追ったのか。儂も頼むでのぉ。散歩の途中で打ってしもうてのぉ」
「あ!ドトのお爺ちゃんが居た!シャオのお兄ちゃんも!」
「集まっていると思ったら、此処に居たのか。俺も頼むよ、誤って指をトンカチで打ち付けてしまってさ」
「シャオの兄ちゃん!弟が怪我してしまったんだ!治してよ!」
最初の老婆を切欠にするように次々と彼に助けを求めて人が集まっていく。名を呼び、求められるのは信頼の証と言えた。
「慌てないで下さい、皆治しますので」
微笑んだ後、彼はゆっくりと両手を広げて怪我人達全員を捉え、瞼を閉じて念じ始める。程なくして、淡い光が皆を包み込むように輝き始める。共鳴するように、彼の手首に通した銀のブレスレットが、それに付属した小さな十字架が僅かに浮いて輝きを纏う。輝きは強さを増して。
小さな路地に淡き光が溢れ出し、小さな空間を包み込んだ。球を描いたそれは仄かな温もりを齎し、小さな瞬く球が上空へ浮上していく。浮かびゆくそれは途中で薄れ、消えてしまう。霧散する玉の数が傷を癒した証か。淡く、儚い光の動きは切なく感じて。
不可思議な現象、それこそが聖復術と呼ばれる力であり、傷を治癒させる不思議なもの。それを納得出来る、心に安らぎを与える、温かな光が放たれていた。
「はい、終わりましたよ」
光は音も無く治まり、それを境に告げる。その証拠に様々な傷や痛みは消え去り、苦しみから解放されていた。
「ありがとうねぇ、シャオちゃんや」
「また頼むな!」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「世話になった」
平時を取り戻した人々は口々に感謝を述べ、笑顔を見せる。
「いえ、大した事はありません。また、頼りにしてください」
奢りも偉ぶりもせず、慎ましく微笑んで答える。その無償の優しさは人を惹き付けよう。裏が一切ない施し、行う者の善意が周りに笑顔を齎した。
感謝を再度口にしながら住民達は立ち去っていく。また、何かを奢るだの、食べ物を持っていくと残しながら。
その皆の後姿を微笑んで見送った後、途端に静かになった路地に一人立った彼は憂いの色を表情に宿していた。それはふとした拍子に浮かんでしまう、気持ちであった。
それはもしかすれば記憶に端を発するものかも知れない。彼自身確信が取れないのは記憶を失っている為に。けれど、笑顔が少しでも崩れるほどの強いそれは確実に、本来の彼に関わるものと思われた。
切欠が銀龍。正しくは、襲来時に生じた混乱下で魔族が示した姿勢から。
献身、自己犠牲。身を挺し、死の塊でしかなかった銀龍から誰かを守ったり、危険を承知で避難誘導を行った。更には他の者と同様に立ち向かう、勇敢な姿を見せたのだ。
立場は聞いていた、その性格も聞いていた。境遇も同じく。それなのに、喪う事を恐れて身を挺した。その勇気を前にし、言い様の無い感覚が込み上げて来たのだ。喪う事を恐れ、己が命を犠牲にしてでもと言う直向な何かを。それが知らぬ為、失った記憶に関わると判断して。
故に、悩んでいた。あの日を境に悩み続けていた。人を助ける事を優先し、それに集中しても、気を抜けば考えてしまう。
そんな煩悶とした思いを抱き、彼は歩き出す。答えを見付けようとして、糸口を見つけられないままに。
けれど、転機と言うのは然るべき時に訪れるのだろう。
【2】
後日、商売人達が商いを始める為に暖簾を上げ始めた頃、人と人を繋ぐ架け橋の施設に主要の者が集められていた。その中にはシャオを始め、ガリードやフー等顔に覚えのある面々が中央の広場に会する。その中には、このギルドに所属しない者も居て。
けれど、其処にトレイドの姿はない。魔族に関する事で欠席しているのだ。そして、その魔族の姿が無い。まだ、信頼に置かれていないと言う事か。
「急に、突然、急遽集まってもらって済まない。けれど、そろそろと判断し、招集を掛けさせてもらった」
集めた皆の前に踏み出し、本題を切り出したのは此処のギルドのリア、ステイン。その手には古惚けた文書を持つ。解読している途中か、それを手放せないほどに忙しいと言うのか。
隣にはユウ。補佐として傍に立ち、持つ書類は今回の招集に関するものだろう。
「前回、手の空いている者に地震後の世界の調査に出て貰った。聞いているかも知れないが、案の定、予定通り、ご多分の漏れずに環境の変化が見られた。加え、その地帯で見られなかった生物、変化が見られた場所には新たな魔物も同様に」
以前トレイドとガリード、クルーエの三人で調べた簡素な資料を眺めながら説明して。
「それは前もっての軽い調査として切り上げさせた。だが、その直後に再び地震が発生した。それ以降は新たな人々が来た為、その者達の支援の為、人員も割く事は出来なかった。だが、ついに、いよいよ、漸く復旧にしても、支援にしても、依頼にしても一段落を迎えた。拠って、皆には調査に当たってもらう。今日は、それを言い渡す為に集まって貰った」
皆を見渡しながら軽い説明を行う。受けた全員は気を引き締めて耳を傾ける。
「差し当たって、先に今回の調査には応援も要請、天の導きと加護と赫灼の血より数名派遣してもらった。新たな魔物との遭遇が濃厚の為、魔物との戦いに長けた彼女達と聖復術による救護要員として彼女達にな。如何か、問題を起こさないように」
その説明で視線が向けられる見慣れぬ顔の面々。紹介された者の全てが女性であり、二十代から三十代の若者ばかり。けれど、清楚な修道服と上から下までの武器と防具の完全武装、やや気が弱そうで大人しそうな雰囲気とがさつで粗野に映る佇まいと正反対に見える顔触れであった。
「調査してもらう場所は四ヶ所、草原、森林、沼地、砂漠地帯となる。高山地帯は法と秩序の管轄である為、そっちに任せ、雪山地帯は寒冷に対する経験が浅い者達ばかりの為に見送る」
少し例外があるものの、活用の多い地帯を優先する方針。それに異論はない。
「これらを踏まえ、各場所に向かう調査隊を作る。各隊には責任者となる隊長、副隊長を一名ずつ任命する。その二名の指示に従い、臨機応変に調査を行え。まず、草原地帯はユウを隊長とするが、周知、存じている、知っての通り、色々な業務を任せている為に満足に参加出来ないだろう。だから、補佐に任命するフーが実質隊長となるだろう。頼むぞ」
「分かりました。正直、不安ですが、頑張ります」
緊張、不安と言った様子を示さない彼だが、何時もの口調を抑えている辺り、それなりには気を引き締めている様子。
「次に森林地帯はアドネラ、君だ。君は赫灼の血と引けを取らないと思っている。一番、魔物との戦いが想定される。補佐として、赫灼の血からの応援者、ラティラと共に行ってくれ」
「分かりました。宜しくね、ラティラ」
「こちらこそね。この調査が終わったら、一度手合わせ如何?」
任命された二人の女性、いや女傑と言える、男にも引けを取らない体格と武装した二人ががっしりと握手を交わして。
「次に砂漠地帯の隊長はイシリナ、補佐はオーレンだ。二人は普段、砂漠地帯の町イデーアで活動してもらっている。周辺の地形を把握し、砂漠地帯での知識を多く有している。二人を頼ってくれ。そして、二人共、大勢の行動になる、最善の注意を払うんだ」
「ええ、任せて」
「存分に、頼って下さいよ!」
踊り子風のミステリアスな雰囲気を纏う美女と褐色に良く焼けた肌と肉体美を晒した陽気な青年が返事をして。
「最後に、沼地地帯はナルナッドとする、が彼は今、沼地地帯に駐在しているから、顔合わせが出来ない。詳細は既に伝書で送って把握させているから現地で合流し、情報交換の後、共に行動してもらう。それまでは補佐である、ガリード。指揮を頼むぞ」
「え!?俺っスか!?」
思わぬ任命に当人は派手に驚く。その驚き様は隣に立っていた者達も驚かせた。
「ああ。先の調査での知識に加え、数回に渡って沼地地帯に向かった経験を踏まえて任命させてもらった」
「そう難しく構えなくて良いわ。向こうに行くまでは殆どする事は無いから。向こうで合流した後、補佐として支えてあげて」
ステインに指名され、驚いた彼だが、ユウの励ましを受けて沸々とやる気を漲らせていく。
「・・・分かったっス!!任せて下さい!!」
頼りにされていると認識し、大層意気込んだ彼は大声で受け答える。やる気に満ちたその姿は他者を少し圧倒して。
「・・・では、各部隊の人員を伝える。聞き漏らさないように」
ガリードの十分な気合を確認したステインは大方の概要を説明したと下がり、同時にユウが数歩前に出て、凛然と口を開く。室内の奥に響く、けれど落ち着いた声が選別した人員を述べていく。
「あの・・・」
大方の人員が割り振られようとした時、まだ任命されていないシャオは浮かない顔のまま口を開いた。それに視線が集まる。
「・・・私、沼地地帯でお願い出来ますか?」
そう、頼み込むように嘆願を述べていた。それは今迄の葛藤に加え、其処に記憶の糸口があるかも、と。
それに対し、口々に否定の声が投げ掛けられる。だが、それも仕方ない事。ユウやステインが個人の能力を考慮して割り振っている。それに口出しする事は失礼に当たり、自分本位で決めてはならないと言う思いが現れていた。
とてもそれを通す事は出来ないと言う空気が出来ていたのだが、其処に別の横槍が一つ。
「ああ、そいつシャオって言うんスけど、記憶が無い、記憶喪失って奴っス。でも、こいつと出会ったの沼地地帯で出会ったんスよ。もしかしたら、何か思い出したかも知れねぇっスね」
そうガリードが助け舟を出した。ならば一理はあるが、だとしても疑問視する声が零れる。
「そう、言っているが、如何なんだ?」
ステインに直接尋ねられる。無論、そうした事実はない。単にガリードの出任せに過ぎないが、当人の目配せと自分の思いからその嘘に乗って頷く。
「分かったわ。でも、元々沼地地帯に送る積もりだったから、問題ないわ」
そう要望が通る形で本来通りに任命される。口を挟む事は無かった、それでも通って嬉しくて表情を緩めて安堵して。その直後だった。
「俺も、行かせてくれっ!」
思いが溢れる、勇気を出したかのような幼さが残る声が響いた。その声で集められた視線の先には、修道服で勇ましくしても幼さが目に付く、中性を感じる子供が立つ。背にか弱く感じる姿には似つかわしい、物騒な剣が負われて。
少年はラギア、ラビスと呼ばれる天の導きと加護に所属する少女のもう一つの人格である。
直ぐにも否定の言葉が飛び交う。まだ幼い子供、危うい所には連れて行けない。第一、子供も付き合わせる、遊びでは為に。
「行かせてくれ!良いだろ!?俺だって、天の導きと加護なんだぞ!」
轟々と行かなくとも口々に否定される。それでも少年は頑なに主張した。その胸中には焦りがあった。あの銀龍が襲来した時、何も出来なかった。大人達に従い、恐ろしくて避難しただけ。それ以降も治療しか出来ていない。あの龍に対して恐ろしく感じるのは当然であり、治療出来る事も素晴らしい事。それでも少年は、そして少女はそれでは駄目だと日頃考えていた。
そんな折、今回の事を偶然耳にし、修行にもなると画策し、一大決心して無断で訪れて志願していたのだ。その為、そう簡単には折れず。
「君が良くても・・・」
「良いんじゃないんスか?ユウさん」
ユウが説得しようとした時、口を挟んだのはやはりガリードであった。
「そりゃ、確かに子供っスけど、ちゃんと天の導きと加護の一員として頑張ってますよ?聖復術も優秀なんで十分役に立ってくれます。それに何かあった時、どの道、天の導きと加護の人は護んなきゃなんねぇし、俺が守るっスよ?」
そうまた別の助け舟を出していた。安易に否定しない事は良いが、考えなしに肯定するのは如何なものか。
流石に子供を同行させる事に納得し切れないユウは静かにステインに指示を仰ぐ。
「・・・そうだな。天の導きと加護の方、実際の所は?」
ステインは他の職員に評価を問う。彼女達は返答に困るも正直に答えていた。様々な点において未熟ではあるが、子供ながらに戦いの心得は多少あり、確かに聖復術は優秀だと肯定して。
「・・・分かった。特別に許可しよう。面識のあるガリードと共に沼地地帯に向かえ。正し、周囲の者の指示には従って動くように。戦闘にもあまり関わらないようにしてくれ。これが君の為でもあるからな」
「・・・ありがとう、ございます」
認められたと同時に不用意な行動は慎むように念を押される。それに少々窮屈さを感じつつも、ぎこちなくではあるが感謝を述べて。
「後で天の導きと加護のリアには連絡はしておくが、終わった後は覚悟し、諦念し、観念する事だな」
そう悪戯心で告げられ、ラギアはとても嫌そうな表情となる。責任者であるアニエスの大目玉を想像してしまった為であろう。
「・・・終わりに、最後に、付け加えて言うが、節度を持ち、緊張を以って取り組んでくれ。分かっていると思うが、遊びではないからな」
最後に釘を刺す。それは物見遊山などでの精神、油断を持たせぬ為。それ故に、真剣な面持ちと声色を少し落としたその発言は皆の姿勢を正せるほどに迫力を放って。
「では、取り掛かってくれ。既に馬車等は手配し、城下町の外に待機させている。指定されたそれに乗り込んでくれ」
そう言い残すと文献に目を通しながらステインは立ち去り、ユウも早速ギルドの業務の為に何処かへ立ち去っていく。
二人の後姿を見送るまでもなく、皆は外に向けて歩き出していく。その集団から、調査に出るとは思えぬ気迫を感じさせた。
「宜しく頼むぜ、皆!シャオにラギアとラビスもな」
その中で少々場違いに明るいガリードが鼓舞し、緊張を僅かに解していた。
【3】
爽やかな草の香りと快晴の空の下、青々とした草原が一帯を占める。緑の大海を迷いなく駆け抜けていくのは、人に繰られたレイホース、それが引く馬車である。数台は連なって彼方に見える森林地帯に向けて車輪を鳴らし、車体を揺らし、軋ませる。
馬車の側面に備えた車輪と馬具を備えたレイホースから伝わる振動は馬車内へ響く。所狭しと座る者達にはそれは少々苦しく感じようか。
車内に居るのは沼地地帯に向かう者達、ガリードを始めとして各々の調子で腰掛ける。武装している為、狭くなってしまうのは仕方がなく。
「ほい、これを回していってくれ」
ガリードが近い者に軽食を配る。まだ到着には遠いが、到着して直ぐに調査開始となれば食事の時間も取れないかも知れない。小腹が空き始めると判断し、途中で購入していたそれを配って。
皆に行き渡り、早々にそれを腹に納めていく。その折り、全員を見渡して顔を覚えていたガリードの丁度前に座る女性が口を開いた。
「あんた、馬車に乗る前から気になってたんだけど、その剣、扱えんのかい?」
体格だけ見れば男と見紛うような鍛え上げた四肢を晒し、腹筋を見せても平気なほど露出の多い恰好の女性。勝気と言うより、格上の男にすら噛み付くような性格と思しき彼女が挑発するように問い掛けた。
彼女は赫灼の血から派遣された女傑の一人。腕を組み、足を組み、威圧的に座る彼女は整った顔立ちだからこそアンバランスで圧が強く。
「ん?俺?ああ、使えるな。最近、漸くものにしてきたって感じかな?」
「それじゃああんた、満足に使えていないのかい?情けないねぇ」
「そう?でも、格好良いよな?俺の恩人がくれたんだよ!」
少々見縊られているとしても気付かず、嘗ての事を思い出して上機嫌に。
「はっ!なのに満足に使えないって、笑えてくるねぇ。それで、ちゃんと魔物と戦えんのかい?尻尾撒いて逃げ出したら、ただじゃ置かないよ?」
どうやら、大剣は虚仮威しの為の道具と認識した様子。軟弱な男と見下し、挑発を続ける。漸くそれに気付いたガリードだが、それに乗る事とはしない。気付かないような様子で笑みを見せ、
「大丈夫だよ。俺、何度か倒しているしな。まぁ、頑張ってぶっ倒すから、調査頑張ろうぜ!」
「そうだね、精々頑張らないとねぇ」
余裕を見せるように満面の笑みを見せて鼓舞し合う。それを虚勢と取ったのか、薄ら笑みを浮かべて同意していた。
多少白熱した遣り取りから離れ、腰を下ろしたシャオは沈黙を保ち、物思いに耽っていた。依然として犇めく自己犠牲、献身に対するざわつく思い。そして、沼地地帯を探る事で少しでも自身を知れるのかと言う不安。募る疑惑と淡い希望が不安を濃くしていく。
けれど、葛藤に押し潰される事は無い。如何転ぶか分からないが、黙する彼は良い方向に向かう事を静かに願い、祈る。不安と向き合い、それが成就される事を閉じた瞼の奥にて。
その隣にはラギアの姿がある。小さな身体を足を抱えて畳んで更に小さくする。まるで、不安に囚われたような恰好で目を瞑る。暗い奥底、心層に少年は赴いていた。
水音が響く、暗い空間。一滴、一滴と立てる水音はまるで心音のように響き、反響せずに静けさが一定周期で包み込んでいた。其処へと、今は其処に居る少女と会話する為に。
『本当に大丈夫なの?』
『何がだよ?』
響く水音の合間、少女ラビスの不安の声が響き、それに少年は疑念を向けた。
『魔物と、戦うの、怖くないの?』
『・・・怖くない、平気だ』
不安に満ちた心配の言葉に、やや粗野な声が冷たく切り払う。再び鳴らされた水音、振り切った声に宿った躊躇いが残って。
『無理、していない?』
『してない』
『本当に?』
『しつこい、していないって俺が言ってんだ!大丈夫だよ!』
短い問答は、心配する気落ちを無理矢理に抑える苛立った声で中断する。その後に水音が響き渡る。それは躊躇いを示した。
『・・・無理、しないでね?ガリードさん達に、迷惑を掛けたら・・・』
『五月蝿い!無理じゃないし、迷惑って何だよ!』
大層憤慨する少年。姿があれば顔を赤くして怒っている事は間違いないだろう。
すると、空間の中で可愛らしい一笑が零された。ムキになり、必死な様子に思わず笑いを零してしまったのか。それに少年は不愉快そうな声を漏らして。
そうする合間にも水音が、心音のようなそれが響く。それは二人の会話に区切りを着ける、落ち着かせるように。
『・・・頑張ってね、ラギア。でも、無理しないでね』
『・・・分かっているよ』
優しい、応援と心配の言葉を、ややぶっきら棒に振る舞いながらも受け止める。最後に水音が一つ響き渡り、空間は静まり返った。
人の心の内など分からず、読む事など出来ない。同様な心象としているか、どのような風景を流しているのか、知る由も手立てもない。少なくとも、少年少女が交わすその空間は何処までも暗く、水音が響くだけ。
何処に至らぬような其処から瞼を開けた少年、様々な思惑を抱いた者達の姿を眺め、時間は過ぎていった。
【4】
時は急速し、時間帯として昼も半ばを告げようとする頃。一行を乗せて草原を車輪を響かせて疾走していた馬車は環境変化に至る地点に差し掛かっていた。
馬車は止められ、馬車と繋いでいた馬具から開放されたレイホースは身体を解す。木桶に溜められた水へ頭を垂れ、音を鳴らして飲む。
傍で外に出て窮屈さから逃れた一行も身体を解す。同時に、これから森林地帯に、魔物が住まう領域に踏み入る覚悟を定めていた。
「ラギア、知っていると思うが、こっから魔物が出てくる。不用意に動くなよ、分かってるよな?」
「何でだよ、折角魔物と戦う機会なのに」
強くなりたいと願って参加したと言うのに、寸前で禁止されれば不満を示すのは当然。
「馬鹿言うな、魔物は甘くはねぇんだぞ。そう簡単に戦わせられるか」
「戦わせろよ!俺だって、戦えるんだ!前も、そう言って駄目って言ったし、じゃあ何時になったら戦えるんだよ!」
強くなりたい思い、根差した、ラビスを守る為の強さを求めて少年は焦る。何も出来ない事を悔やんで、その思いで叫ぶ。それは成長の最中の叫びであった。
「そう言ってもよ・・・」
思いあぐねるガリード。少年の気持ち、強くなりたいをひしひしと感じ、それを理解する。けれど、彼もまた案ずる。まだ子供だからと。見縊っている訳ではないが、それでも認める訳にはいかずに。
「何だよ、硬いねぇ。良いじゃないか、本人が戦いたいと言ってるんだからさ」
会話に水を差すのは赫灼の血の女傑、無責任に言い放って。
「簡単に言うなって、それで怪我なら良いけど下手したら死んじまうんだぞ?こいつはそんな訓練とかしてねぇんだぞ?」
「甘い事を言うねぇ。何時かは魔物と戦うんだ、遅かれ早かれね。子供だからって何でも制限するのはいけないよ?」
それは正論でもあった。子供だから戦うのは難しいだろう。だが、適齢、程良い体格になるまで制限するのは、必ずしもその者の為になるとは限らない。時として、経験させる事も必要だと。
「それは人それぞれだ。ラギアとお前は同じようには出来ねぇよ。そいつそいつのペース、段階踏まねぇと駄目なんだよ」
「そうだとしても、それをあんたは決められるのかい?分かるのはそいつ自身。その子がしたいと思ったら、そうじゃないのかい?」
「だから、それで死んじまったら如何するんだよ!無責任な事を言ってんじゃねぇ!」
言う事も理解出来るが、一時とは言えど人を預かっている身。無責任に振る舞えない。その責任から感情を露わにする。
「落ち着いて下さい。二人共、言い争わないで下さい」
「そうそう、今から気張っても意味ねぇぞ?」
険悪な雰囲気となった時、周囲の者が止めに入る。間に立たれ、赫灼の血の女傑は馬鹿馬鹿しいと言った態度を示す。
「全く、そんな剣を背負っているのに、情けないねぇ・・・ま、誰が何と言おうと、自分が思うようにすれば良いのさ。アタシはそうして生きてきたからねぇ。それに、魔物と戦う、って言う触れ込みだから来たんだ。アタシはアタシの好きなようにやらせてもらうよ」
弱腰だと貶し、見下すような面で立ち去っていく。妙な自信に溢れた背に苛立ちを示して。
気持ちを落ち着かせる為に息を吐き、傍で不服そうな少年に顔を向ける。
「気持ちは、分かるけどよ・・・」
説得しようとした時、近付いてきたシャオに気を取られる。
「ああ、シャオ。お前も不用意に動くなよ。武器も防具もしてねぇからよ、俺が極力・・・」
「ラギアさん。如何して、戦うのですか?」
彼はラギアに対する疑念を優先して尋ね掛けた。単刀直入に、躊躇いも無く。それにガリードは口を止め、少年を眺めた。
「俺は・・・」
あまりにも直接的に問われ、驚いた少年は呆気に取られる。思わず口から零しそうになるも押し留まった。
「べ、別に良いだろ!なんでも!」
そう怒鳴り散らすように誤魔化して顔を背ける。横顔は赤く。
「・・・そう。そう、だよね」
小さく納得した彼は気を悪くさせた事を謝る様に頭を下げ、その場から離れていった。
慌て様から察したのか。日頃から会話を重ねている事から大方の理由を把握しているのか。納得する彼は何処か、切なげに。本人は微笑んだ積もりなのだろうが、他人には羨ましくするように見えていた。
「・・・戦うなとは言ってねぇからな。もしもの時は死に物狂いでも生きようとしろよ。でもよ、今無茶をしてさ、誰かを泣かすような真似をしてまで強くなる必要はねぇんだ。お前の、その時に身体に合わせなきゃ、後々で壊れちまうんだよ」
「・・・五月蠅い!」
急ぐ事は無い、それは裏を返せば今は我慢しろと言っているようなもの。理解されないと憤慨した少年は離れていく。
一部始終を眺めていた仲間達は右往左往する中、大きな剣を背負った小さな背を眺めるガリードは熟慮する。如何すれば良いのかを思案し、行き着かない為に苦悶して。
それぞれの胸に一抹の不安、不満が抱えられる。それでも仕事を行わなければならない。長時間の休憩は出来ないと切り替えるようにガリードが出発を告げ、その準備に取り掛かっていく。
休憩を挟み、少し機嫌が良くなったレイホースの手綱が引かれ、馬車が軋む音を立てて動き出す。その先は変わりゆく景色の奥、森林地帯へと。
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