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寒く凍て付く雪、温もりに厳しさは和らいで

理不尽な現実、悲劇は繰り返されて 前編

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【1】

 友と永別を強いられ、葬儀を終えてから数日が経過した。無情にも、日常、時間は過ぎ去り、時間の流れの残酷さは募る感情の積だけ思い知らされていた。
 輝かしき朝が、人に依って鮮やかな色に彩られ、力強く生活が営まれるセントガルド城下町。城など存在せず、頑強に外界を隔てる巨壁に囲まれた其処、四つに区切られた区画の一つ、商業区。形状様々な建物が立ち並ぶその区画、東側の公道を挟んだ正面に目立つ建物が存在する。
 四角い外見の二階建て、奥にも敷地が広がる其処はあまりにもボロボロで、今にも倒壊しそうな雰囲気を醸す。けれど、堅牢に建つ其処はギルド人と人を繋ぐ架け橋ライラ・フィーダーの施設である。
 まだ、朝早き其処の中心で剣戟の音が響いていた。戦いのそれでなく、訓練を行うそれであった。
 円形に模られた広場、石畳が敷かれ、ベンチが置かれたただただ広き場所。休憩の為に、若しくは奥に存在する部屋へ向かう為に経由する者が多く。けれど、今日は別の用途で使用する。そう、剣が交えられていた。
 それは試合、訓練に過ぎない。互いが放つ気迫は死線を画くものではない。比較的、表情は真剣だが攻撃が相手の命を奪うものでもない。寧ろ、多少楽しさが混じって。
 黒き剣、一部の銀すらも黒く染めるそれを持つ青年。光の反射で薄く赤に映る黒のやや長き頭髪を流し、やや鋭き双眸、赤紫の瞳が相手を睨む。その動きは鋭く、繰り出される腕力に任せた一撃を見極め、上手く往なし、反撃を繰り出す。
 身を隠しかねない大剣、遠目で見れば塊、或いは板か。武器にしては大雑把に、だが凶暴性を放つそれを持つ青年。健康的な褐色の肌、青い短髪を揺らし、青き瞳で対戦者の動きに集中する。その動きは雑に見える。けれど、それを補う、腕力と武器の重さで強烈な一撃を繰り出す。
 真剣を用いての手合わせ、手加減はしていても一歩間違えば重傷必至。だからこそ二人は最大限の注意を払って攻撃と防御を繰り返す。少し熱中し、力が張っているのは御愛嬌か。

 剣を交えてからおよそ一時間程経過した頃、二人は手を止めて身体を休めていた。多少息を切らし、汗を僅かばかり流す。その訓練は身体を暖める程度で終わりを迎えていた。
「お前、何か強くなってねぇか?前よりよ、圧、って言うのか?ひょいひょい避けやがるし、攻撃は早くて見難い上に衝撃が強くなってるぜ?」
 腕に数ヶ所、薄皮斬る程度の傷を負い、それにフェレストレの塗り薬を塗るガリードがぼやく。
混血族ヴィクトリアになった影響だろうな。そうだとしても、お前も強くなっているな。攻撃も一段と重くなっている、とてもじゃないが受け止めきれない」
 対するトレイドは利き腕に掛かった負荷による小さな痛みを気にする。多くは避け、往なしたのだが殺し切れなかった衝撃に痛められて。
「まぁな!ちゃんと鍛えているからよ!」
「だが、動きに雑さが残っている。だから手傷を負うんだ」
 褒められて上機嫌になった即座に注意され、小さく肩を落とすガリード。その姿にトレイドは小さく笑って。
「確か、これからユウと料理をするんだったな?」
「おう!」
 少し休憩した後、正面に向かう通路へ向かう二人。多少身体を動かして抱えた小さな鬱憤を発散したお陰か、二人の表情は明るく。
「でよ!?ユウさんの料理の仕方が面白くってよ!まず包丁の持ち方からしておかしいんだぜ!?」
「・・・あまり笑ってやるなよ」
 以前に願いが叶って一緒に料理する機会を得た彼はその時の事を思い出して笑う。愉快に笑い声を出す彼を、トレイドは冷静に諫めていた。けれど、話を聞いて小さく納得して。
「ははは・・・それで、お前はあれだっけ?フェリスに行くんだっけな」
「ああ。グレディルと思しき魔物モンスターが出たらしい。それの調査と討伐だな」
「手伝おうか?」
「いや、フェリスに滞在する仲間の応援だ。恐らく大丈夫だろう」
「そっか。なら、頑張れよ」
「ああ」
 和やかに会話を為し、二人は暗き通路を渡っていった。

 平常に過ごすトレイド、その胸にまだあの日の蟠りが残り、気分はまだ優れていなかった。消沈の域に達していなくとも、それでも根強く。
 そう、その日もトレイドは魘されて目が覚めていた。瞼の裏に見た映像、夢が最も残酷な光景を作り出していた。それが現実ではなかったとしても、自信を苦しめるのは十分過ぎた。
 その心的外傷トラウマじみた記憶と向き合いながら過ごす。自分が向かうべき問題についても向かいながら。
 それは魔族ヴァレス人族ヒュトゥム間の問題、頭に思い浮かべない時はない。ほぼ常に頭を悩ませ、解決策を模索していた。知識が足らぬ故、友人ガリードに尋ねたり、知人のフーやユウに助力を仰ぎ、試行錯誤を繰り返した。
 けれど、明確かつ確実な方法は浮かばないまま日々が過ぎた。加え、魔族ヴァレスに会い行くような、法と秩序ルガー・デ・メギルを刺激するような真似は出来ない。苦悶する時間に、トレイドはやきもきしていた。今日の手合わせもその気分を抑える意味も含まれていた。

【2】

 地の色を見せぬほど敷き詰められた草地、草原が広がる。燦然輝く陽の恩恵を浴び、芽吹いた緑の全ては力強く根を張る。風に煽られ、誰かに踏み付けられ、動物に食われたとしても、辛抱強くその身体を立たせ、日を浴びんと葉を広げる。
 広く、何処までも広い其処は正しく海、大海と言っても過言では無い。様々な命を内包する蒼海、様々な命が芽吹いて光を帯びた碧海。宛ら、相似するように。
 常に晴天が広がる草原地帯に存在するセントガルド城下町にて、トレイドは仕事に勤しむ。悩みを抱えたまま、今出来る事、命じられた事をこなす彼。その日は迷子の捜索に当たっていた。だが、案外あっさりと発見した為、もう一度人と人を繋ぐ架け橋ライラ・フィーダーに戻る次第であった。
「・・・魔族ヴァレス人族ヒュトゥム、か・・・クルーエ達は元気にしているといいが・・・」
 思い悩む折、ふと心配が浮かぶ。作物が育ち難く、狩猟も難しい寒き土地。其処での暮らしは協力し合って何とか過ごせるもの。その過酷な環境に置かれた彼等を案じる。特に心配を抱くのは一人の女性、クルーエ。
 あれから月日は流れ、完全に身体の調子は戻っただろう。それでも心配するのは、どうしてもあの時の重傷を負って倒れた姿が思い出されるから。
 ならば、会いに、確認したい思いも生まれる。しかし、下手な行動は出来ない。関わりを知られた今、伝書を飛ばすだけでも場所を特定されかねない。そうなれば、如何なる事か。偏見が混じる懸念だが、間近で指揮するアイゼンを見たからこその危惧。余計とも感じる警戒により、身動きを封じられていると言っても過言では無かった。
 そんな葛藤を抱えたまま施設に戻った彼を待ち構えていたのは、焦りと驚きを抱いた自身を呼び付ける声であった。
「トレイド!トレイドは居る!?」
 施設の奥から珍しく動揺を、血相を変えたユウを発見する。呼ぶ声、その様子に事件が起きたと察して直ぐにも駆け付ける。
「如何した!?何かあったのか!?」
「如何したも何もないわ!これを読んで!」
 険しき表情の彼女に差し出される一通の伝書。既に彼女に読まれた、やや丸まるそれに目を通す。急く瞳が文字をなぞり、その面は直ぐに驚きと焦りに歪んだ。
「クソッ!!」
 感情を隠せないほど焦った彼は悪態を漏らし、伝書を放り捨てて飛び出していく。焦燥感に駆られ、何も見えず、何も聞こえぬままに。
「ちょっと、待ちなさい!トレイド!!」
 その背に幾ら呼び掛けようとも届かなかった。一目散に外へ飛び出し、その姿は直ぐにも見えなくなってしまう。
「何か、あったんスか?ユウさん。トレイドを探していたようっスけど」
「トレイドがまたなんかやらかしたっー事ですか?」
 多少の騒ぎを聞き付け、珍しく施設に居合わせた十人ほどが集まる。その中にはガリードとフーの姿が見える。
「ん?これ・・・」
 誰かがトレイドが落としていった伝書を拾い上げる。その動作に集まった多くがそれを覗き込む。それで大方の事情を把握する。
 簡潔に纏めるとそれはローレルに赴いた女性の同僚からの知らせ。ローレルにクルーエと名乗る魔族ヴァレスが現れ、人と人を繋ぐ架け橋ライラ・フィーダーのトレイドと言う人を探していたとの事。偶々居合わせた彼女が事情を問う。何か事件に逢ったであろう、汚れや傷でみすぼらしい姿の彼女が言うのは、知らない誰かが村に出て、皆を襲い始めたと。皆散り散りに避難し、自分はトレイドに助けてもらう為に来たと。
 事情を聴いて如何するべきか考えていた時、法と秩序メギルの者が現れ、彼女を連行しようとした為、何とか抗議したが聞き入れられなかった事が記述されていた。
 この内容を読み、皆は複雑な表情を浮かべた。その多くの者が嫌悪感を抱くような、厳しいもの。中でガリードは、だからトレイドを探し、真っ先に飛び出していったのだと納得する。
 皆が口々に思いを吐露する。その多くが魔族ヴァレスに対する文句の様な言葉、すっかりトラブルメーカーとなってしまったトレイドに対する愚痴。その中でユウは様々な思考を広げて苦悶の表情を浮かべていた。
「助けに行かないんスか?」
 その切り出したのはガリード。躊躇いも無く、そう口にした彼に皆の視線が注がれる。信じられないと言った面が多く、感心する仕草が少しだけ。
「・・・それは」
 向けられたユウは難色を示す。その意味は言うまでない。
 彼女が答えない事を皮切りに、ガリードの発言を否定し、その考えを否定する言葉が吐かれ出す。あろうことか、魔族ヴァレスの批難までする始末。
 二の足を踏むのではなく、その意思を否定する言葉達の中、ガリードの表情は徐々に怒りに満ち、遂には耐え切れなくなった。
魔族ヴァレスが何だってんだッ!!」
 怒号は拒否する口を黙らせ、全員の目を見開かせた。
「其処に!これに書かれてんのは、助けを求めている人間じゃねぇのか!?じゃあ、助けんのは当たり前だろッ!!俺は、人助けをする人と人を繋ぐ架け橋ラファーすげ格好かっけぇと思ったからに入ったんだ!!けど、皆は、何の為に入ったんだよ!?助けを求める奴を救わねぇで、人を繋ぐなんて言えんのかっ!!」
 感情のままに己が考えを口にする。求められた、ならばそれに手を差し出したい。純粋な善意、見て見ぬふり、見捨てる事など出来ない思いを。
 だが、叫べども周囲の反応は少し薄い。ガリードには尻込み、忌み嫌って関わりを避ける様子にしか見えなかった。少数は違っているにも関わらず。
「じゃあ、俺は一人だけでも行ってやる!!トレイドを、俺のダチを助けてくれた連中を見捨てるなんて、出来る訳がねぇだろ!!そんなの、じゃねぇ!!人が、人を助けんのは、当たり前の事だろうがッ!!」
 その宣言がどれだけの者の心に響いたか。感情のままに叫んだそれが僅かでも心を揺れ動かす。
「急ぎてー気持ちは分かるわな。でも、焦り過ぎんのは良くねーわな。一旦、落ち着けよ」
「フ、フーさん。でも・・・!」
 嬉しそうに口辺を上げるフーが冷静に成れと促す。興奮するガリードは反論しようとする矢先、フーはユウに顔を向けて口を開く。
「ねぇ、ユウさん。ガリードの言う通り、助けて欲しい人間を助けに行く、で良いと思いますよ?法と秩序メギルが何て言おうと、やっぱり魔族ヴァレスも人、だと思うんですよ」
 それなりの上に立つ彼の発言が場の空気を一変する。皆の視線が彼女に向けられた。彼女の判断に任せると言うように。
 受けた彼女は窮地に立たされた思いであろう。あの魔族ヴァレスを助ける、下手をすれば犯罪者、いや所属するギルドの存続したい危うくなる、そんな思案が過ぎる。それだけは避けたい、所だった。
「・・・そうね」
 一人納得したように零した独り言の後、僅かな間の熟慮の結果を表情に映して皆を見える。その面、立ち姿は凛然として。その少しの挙動に皆は姿勢を律した。
「単刀直入に言い渡します!魔族ヴァレスが住む地に赴き、状況確認の派遣を行います。状況次第で救助を始めとする介入を行います!」
 義を見て為ざるは勇なきなりと言わんばかりの発言に皆がどよめいた。救助に賛成の者は笑みを浮かべた。
「し、しかし、ユウさん・・・」
「関わりたくない者は、関与しなくて結構です!困った者を救いたくないと言うのなら、この話を忘れ、この場から立ち去りなさい!人と人を繋ぐ架け橋ラファーから立ち去っても結構です!!」
 それは厳し過ぎる命令であった。指示に従えないのならば切り捨てると言わんばかりに。だが、それはこの常識に従う者に対する逃げ道でもあった。
 魔族ヴァレスと関わりを持ちたくない者は押し黙り、俯くか数歩退くのみ。その姿にユウはゆっくりと視線を逸らした。その胸は小さく痛んで。
「救助に向かいたい者は集まって下さい」
 その指示にガリード、フーを始めとした数名が駆け寄る。その様を躊躇った者は疑惑の目で眺めて。
「先ず私達はローレルに向かいます。急ではありますが伝書を送り、数台の馬車、フェレストレの塗り薬を始めとする医療品、食料や飲料水を手配します。それは私が行い、その間に貴方達はローレルに向かって貰います。連絡を送り次第、私も合流します」
「んで、其処に居るクルーエ?っー子に事情を聞き、別途で必要な物を追加しつつ、現場に急行、っー事ですね?」
「ええ。加えるなら、物資を運ぶ係と先行して現場把握と指示を行う係、最低二手に分かれて行動してもらうわ」
 彼女の内で粗方の方針は決まっており、手早く皆に届けられる。その最中でガリードは思い出す。
「あ!トレイドが言ってたっス!魔族ヴァレスが居る場所が雪が降るぐらい寒い所って!」
「・・・なら、防寒具や火を起こす道具と、色々必要となりそうね」
 少し眉間に皺を寄せ、考えを巡らせるユウ。彼女だけでなく、皆が雪地に対する対策を思案する。ガリードの発言が起こり得た遅延を回避し、更なる状況悪化を未然に防いでいた。
「んで、俺、シャオ呼んでくるっス!かなりやばそうな事書かれていたっスから!」
「お願いするわ。もし、天の導きと加護セインクロスの方にも協力を仰いで!危険な場所に行ける人をね!」
「分かったっス!」
 指示を受け、ガリードは直ちに立ち去る。後で決定した事を尋ねればいい、今はその事が重要だと全速力で。
 その汲み取ってか、呼び止める事無く小さな会議の如き照らし合わせは続き、直ぐにも終えられる。
「・・・他は?」
「なさそう、ですね」
「なら、直ちに行動開始しなさい!!」
 彼女の号令が響いた瞬間、各々は準備を始める。武装していない者は直ちに自室へ、充分に武装した者は己の役割を果たそうと全力で駆けていく。
 その光景から視線を映し、未だにどちらにも踏み出せない者達を見るユウ。その面は理解し、それでも嘆くような切ないもの。
「・・・聞いての通り、私達は救助に向かいます。気持ちは良く分かりますが・・・今一度初心とギルドの方針を思い出して。その上で、選びなさい。私は、責めません」
 そう言い残し、彼女は立ち去っていく。彼女自身も自分がすべき事を為す為に。
 残された彼等の胸の内で何を思ったか。自身の不甲斐なさか、如何しようもない責任転嫁か。それとも、法に逆らう事への不信感か。如何であれ、その胸には、後悔がこびり付いていた。

【3】

 時間の概念すらも忘れ、レイホースを全力を出させ続けるトレイド。心の端でレイホースに無理をさせる事に負い目を抱きつつも、その頭にはクルーエの、そして魔族ヴァレスの安否を案じ続けて。
 広き草原を一直線に駆け抜け、森林地帯に踏み入る。植物達の合間に伸びる道に沿い、小休憩も挟まず、ただひた走らせる。枝に身体を、顔を打たれたとしても一切怯まず。
 やがて、延々と、だが静かに小雨が降り続く寂しき地に到着する。顔に付いた小さな擦り傷に雨が染み、少し目を細めるのはそれだけでなく。
 環境変化を前にレイホースは少しばかり足を止める。滑らないようにし、少しでも休憩をしようとして。だが、トレイドに促され、已む無く四肢は動かされた。
 泥濘が広がる地、不安定な場所は疲れた足には堪えただろう。憂いても、酷を強いて急がせた。
 そうして、ローレルに到着を果たす。その頃になれば、曇天に覆われた事で落陽は早く、夕暮れ時と言うのに夜と大差なく。
 大方の復旧を遂げ、天候を除いて人が快適に暮らす環境が整った其処。或いは、あるべき姿に戻ったとも言えようか。その感動を感じる余裕もなく、彼はとある建物に直行する。以前、此処で過ごした記憶を頼りにして。
 激しく呼吸を繰り返し、今にも倒れそうなほど頭を垂れるレイホース。細やかにその首筋を撫でるトレイド。感謝し、同時に謝罪を篭めて行った後、目の前にする建物へ突入していく。その面、戦闘時以上の迫力が篭められて。
 時間帯の配慮も無い、無法者の拠点に踏み入る様に騒々しく正面の扉を押し開けた。それは中に居た者を驚かせる。
「邪魔をする。此処に魔族ヴァレスが居る筈だ」
「何だ、お前は!?夜分に、何の用だ!」
 失礼な入室に対し、胸に法と秩序ルガー・デ・メギルの象徴を宿した男性が出迎える。やや歳を取り、傷が多く見られる男性、その周囲に数人居り、身構える。
「用件は先に言っただろ。奥だな?」
 法と秩序メギル達の剣幕に一切怯まず、奥に見える暗き部屋、或いは通路を眺め、其処に向けて歩き出す。そうすれば当然彼等は阻止しようとする。
「お前、魔族ヴァレスを解放する気か!?それが何を意味するのか分かっているのか!?」
「関係ない、退け」
 立ち塞がろうとする彼等を押し退け、押し通していく。
「止まれッ!!」
 強行に出るのならと、武器が引き抜かれる。その直後、トレイドの形相が豹変した。
 部屋の中に強烈な金属音が響き渡った。顔を顰めるその騒音の後、何かが部屋の隅へ転がり落ちる。その部屋の中に立つ者の視線が、剣を振り抜いて静止するトレイドと砕けた剣を持つ男性を捉えて。
「邪魔をするな!退けッ!!」
 怒髪しかねないほどに激昂し、憤怒の咆哮は震え上がらせるほどに。
 明確な力量の差と理解出来ない義憤による迫力に圧され、法と秩序ルガー・デ・メギルの者達はそれ以上の抗議は出来なくなった。その押し黙った彼等を押し退けて奥へ踏み入っていく。
 隣の部屋には簡易的な牢が幾つか設けられていた。勾留する為と思しきそれの中、見覚えのある者が横になっていた。
「クルーエ!」
 即座に識別し、彼女が入れられた牢に駆け寄る。その時、付近に立つ女性に気付く。牢の外、クルーエを心配して立つ彼女の胸に星の模様はない。
「貴方は、トレイド?先の大声は何?」
 彼女には面識があるようで、それはトレイドにも見覚えを抱く。そう、彼女こそがユウにこの事態を知らせた同僚であった。
「気にするな。それよりも・・・」
 深刻な問題に繋がりかねない先の遣り取りを些末だと切り捨て、今はクルーエの容態を気にする。その身は無残にもボロボロで、見える肌には傷が見える。そして、今は気絶するように眠って。
「まさか、拷問を・・・」
 それは度重なる経験による偏見から生じた想像。けれど、一度考えてしまえばそうとしか見えなかった。故に、身を焼きかねないほどに激怒する。
「待って!彼等は何もしていないわ。彼女は此処に来た時はもうその姿だったの。後は、伝書で書いた通り、なんだけど・・・」
 僅かに抵抗感を示し、表情の暗い彼女が慌てて止めて事情を説明する。抵抗感は魔族ヴァレスに対してであろう。それでも傍に居るのは流石にクルーエが放って置けなかったのか。それか、負傷者を牢に容れさせてしまった負い目か。
「・・・そうか。ありがとう、君のお陰だ。感謝しても、し切れない」
 少し落ち着いたトレイドは深々と頭を下げて感謝を伝える。殺気を放つほどに怒気を抱いていた者に感謝され、彼女は戸惑いの只中に立たされる。少しだけ安心が浮かんで。
 感謝を述べた後、ゆっくりと牢へ歩み寄る。粗雑に見える鉄格子、その扉部分に手を掛ける。力任せに引く。それは野蛮でしかなく、強引なそれは扉を破壊する。錠を破ったのではない、蝶番が錆びていたのか。どちらにせよ、冷静な判断とは言い得なかった。
「・・・え?トレイド、さん?」
 扉を開いた物音に拠って彼女は目を覚ます。激しき疲労、栄養が足りずに気力が全く感じられない様子。身を纏う浅黄色のローブは数ヶ所に渡って破け、泥で汚れて全体的に濡れて。
 その身、怪我が多く見られるその身は弱々しく震え、身体を起こす事も少々苦難して。そんな彼女に駆け寄ったトレイドに、彼女は信じられないと言う表情を浮かべた。
「トレイドさん・・・トレイドさん!」
 助けを求めた人物、頼った彼が目の前に居る。その事に感動した彼女、声を大きくし、震え出したと同時にその目から涙が溢れ出した。
 咄嗟にトレイドは彼女を抱き締める。安堵感によって生まれた悲しみによる流涙。埋め尽くしかねない悲哀を受け庇うように、強く抱き締めていた。
「・・・何があったんだ?教えてくれ」
 胸を貸し、追い付く前に詳しい事情を問い掛ける。追い込むような真似を少々気に掛けるも、悠長にはして居られないと割り切って。
 それに鈍くとも反応した彼女はゆっくりと面を上げる。やや赤い頬や目元に涙は伝う。今にでも崩れそうな表情は想像以上の惨劇があったと想像させられた。
「村に、一人の男の人が来ました。様子がおかしかったので、様子を窺っていました。すると、あの人が突然、私達を殺め、始めました・・・っ!」
「何だと?」
 信じられない内容だった。理不尽極まりない事態に怒りが、焼き付くほどの激しき怒りが湧き起こる。
「戦える人やお年寄りが盾になって、皆はそれぞれ散り散りに逃げました。そう言う訓練は、受けていましたので・・・私は、トレイドさんに、助けて貰いたくて、一人で・・・」
 震える言葉で伝える。思い出したくない現実だが、それでも皆を救いたい、助けて欲しい一心で話す。
「助けて、下さい・・・トレイドさん・・・っ!」
 激しく疲弊したクルーエはその身を預ける。漸く会えた事に因る安心感で緊張の糸は緩み、押し寄せた疲労感に力が奪われたのだろう。
 トレイドこそが、魔族ヴァレスに歩み寄ろうとした彼だけが唯一の救いであっただろう。だからこそ、懸命に請う、必死に請う。それは命も差し出しかねないほどに。
「・・・分かった、後は任せろ」
 そう呟き、疲労し切った彼女をゆっくりと立たせる。それだけの体力を何とか残す彼女だが覚束なく。けれど、不安な表情から安心を抱く面となって。
 安心させ、一先ず彼女を此処から連れ出そうとした時であった。表の方から駆け寄る音が耳に飛び込んで来た。
「その魔族ヴァレスを如何する積もりだ!?まさか、連れて行く積もりか!?」
 先の男性が気力を取り戻し、慌しく駆け付ける。彼等にとっては蛮行そのもの、それを止めようとするのは当然か。
「・・・罪もない彼女が、捕らえられる謂れはない」
「ふざけるな!!魔族ヴァレスは不穏分子、捕え・・・」
「阿呆も休み休み言えッ!!彼女は隣人の為に此処に来た、助けてほしくて此処に来たんだ!!この恰好を見て、何も思わないのかッ!!知らない記憶と下らない法で、人の尊厳を縛れるほど偉いと言うのかッ!!妄想を広げるのも大概にしろッ!!」
 職務に忠実に従う姿勢、それがトレイドには思考放棄にしか思えなかった。それに怒りを抱き、急ぐ思いを無視する態度に激昂し、空気を震わせるほどの怒号を吐き捨てた。その迫力は怒気を超越し、殺気すらも孕むほどの凄まじい物であった。それほどの気配も纏い、立ち塞ぐ彼等を震い上げる威圧が放たれていた。
「・・・よ、世迷言を抜かすな!魔族ヴァレスは存在・・・」
 威圧感に圧されるものの踏み止まり、尚も魔族ヴァレスを卑下する事を言い掛けた。それにトレイドの形相が変わる。それだけで黙らせていた。
「今は、一刻を争う。人命が、掛かっている!貴様等の指示に、相手をしている暇はない!何が罪か分かっていない連中は、引っ込んでいろ・・・ッ!」
 静かな面、やけに落ち着いた声で彼等の正義を遮る。その場を凍らせる程の威圧感を放ち、女性二人も震えさせるほどに。
 静かな声色、堪忍の緒が切れる寸前の彼の態度が、続く言葉を完全に禁じ、制止の行動さえもさせなかった。
 恐怖と屈辱に塗れて歪む顔を素通りするトレイド。支えられ、共に歩くクルーエは圧倒された者達を案じ、申し訳ない表情を浮かべていた。その二人の背に、犇めく思いを浮かべ、重く深く溜息を零して立ち去る後ろを、同僚の女性が続いていった。
 最後に鳴らされた閉扉音、その後に訪れる沈黙の中、法と秩序ルガー・デ・メギルの者達は何を思ったか。少なくとも、思い返すと言った表情でない事は確かである。

【4】

「すまない、クルーエを、頼んでも良いか?」
 外に出て、少々息を切らして待機するレイホースの手綱に触れるトレイドは、女性同僚に心配げに頼み込む。
「え?私、に?」
「トレイド、さん?」
 唐突に頼まれ、不安を大いに示す彼女。それは魔族ヴァレスに対する抵抗感。この事態に続いた責が少し。疲れた面のクルーエも不安感に声を零す。
「今から俺は救助に向かう。其処に彼女を連れていく事は出来ない、今の状態の彼女には危険だからだ。だから、頼む」
 頭を下げ、誠実な姿勢で嘆願する。危険な場所には連れてはいけない。かと言って、放置する事も論外。だから、同じギルドに所属している、それに信頼を置いて頼んだ。 
「えっ!?で、でも、私・・・」
「頼む」
 彼女は困窮した筈だろう。忌み嫌われる魔族ヴァレスを助ける事は何を意味するか。最初はギルドの一員としての最低限の行動をしただけの事。二回目の保護は完全に法に反する行為。ならば、おいそれと請け負う事は出来ず。
「・・・ええ、任せて」
 だが、彼女は請け負った。一度関わってしまった。最初に出会った時のあの様子、思い出せばとても見捨てる事など出来なかった。そして、トレイドの魔族ヴァレスに対する態度が、今も行う姿勢がそうさせていた。
「ありがとう・・・クルーエ、不安かも知れないが、待っていてくれ」
 感謝を、そしてクルーエに優しく語り掛ける。少しばかり安心させまいとして。彼女は強く不安感を示すのだが、小さく頷いて。
 不安は尽きないものの、今は人命救助を優先してトレイドはレイホースに跨り、村に続く方向へ向かせる。
「トレイドさん。如何か、皆を・・・お願い、します・・・」
「・・・ああ」
 彼女の切願を、即答出来ず、確実な言葉を返せないのは、過度な期待を、確実な約束を結べないから。それでも彼女を安心させようと、躊躇う口で告げていた。
 強く歯噛み、考え得る想定を頭に過ぎらせるトレイドは強く手綱を振るった。また酷使するのかと、少々疲れ気味に嘶いたレイホースは地を蹴り出し、雨風の隙間を抜けるように走り出していった。
「・・・さて、私達は・・・」
 トレイドが建物の影に消えた事を見計らって、女性同僚はその場から離れようとする。法と秩序ルガー・デ・メギルに正面から喧嘩を売ったのと同義、ならまずは追われる前に逃げようとして。
 その耳が接近する騒音を耳にする。雨に濡れた地を掛ける、多く重なった蹄鉄の音色。それは自分達に近付いていると察知し、大きく身体を震わせた。捕まると恐れて。
「お!?其処に居るのはレミじゃねーか。っー事は隣に居るのは礼の魔族ヴァレスか」
 二人の前にレイホースを止め、言葉を掛けたのはフー。その背に数人が続き、付近で停止する。見知った者達の登場に彼女は安心し、囲まれた事でクルーエは怯えて。
「お前等は手配したもんを受け取りに行け。詳しい話は俺が聞いとくわな」
 下馬しながら命令を下すフー。それに応じて数人は方々に散らばっていく。その光景を不思議に見送る彼女へ、彼は近寄る。
「・・・不思議に思ってるかも知れねーが、ユウさんの判断の元、俺達は魔族ヴァレス達を助ける事になったんだわ。っー事で、それを知らせてくれた、横のクルーエ?さんは保護する事になった。ま!それが俺達のギルドの方針、っー訳なんだわ」
 それを聞き、混乱する彼女だが兎も角自身の判断がギルドの方針に繋がったと思い、安堵にその場に崩れそうになっていた。
「と言っても、数人しか居ねーけどよ。そこん所は・・・悪いな、クルーエさん」 
 そう笑顔を浮かべながらフーは近付く。安心させる意味でのそれだが、返って彼女を怯えさせて。
「そういや、トレイドの奴が来ただろ?何処に行ったんだ?それに、こんな所に突っ立ってて、如何したんだ?」
 法と秩序ルガー・デ・メギルの施設の前で立っていた不可解さと、肝心の彼の姿が見えない為、その疑問を問う。
「か、彼なら、クルーエさんを此処から連れ出した後、レイホースに乗って何処かに走り去って行きましたが・・・」
「入れ違いかよ。慌しいな、あいつも」
 苦笑いを零す。仲間を頼ると言う思考よりも、ただ救いたいと言う思いが先行し過ぎているなと苦言を零しそうになって。
 事情を尋ねている最中、再び其処へ駆けてくる蹄鉄の音が響いてくる。其処に視線を向けると、レイホースに跨ったガリード、その後ろに同乗したシャオの姿を目にする。
 結局、彼はシャオしか同行する事が出来なかった。だが、それは魔族ヴァレスに対する差別の意味ではなく、早急に出られる者が彼しか居らず、そうした場所に送れる者が居なかった為。
「フーさん!トレイドの奴、何処っスか!?」
「居ねーよ!一人先に行っちまったんだわ!」
「何だよ、あいつ!慌て過ぎだろ!!」
 元気良く会話を為し、落馬するように飛び降りるガリード。それに続いてシャオも下馬し、最初に目に付いたクルーエに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?直ぐに傷を治しますね!」
「え?あ、あの・・・」
 シャオの勢いにクルーエはただただ困惑する。返答も出来ない内に聖復術キュリアティによる治癒が始められる。光に包まれ、その心地良さに抱いた警戒心は薄らいで。
「クルーエ、で良かったよな?トレイドから聞いてんだよ」
 小さく微笑み掛けながらガリードは話し掛ける。直ぐにも笑みを抑え、神妙な面持ちで正対する。
「ト、トレイドさん、ですか?あ、あの、如何言う・・・」
「俺達は人と人を繋ぐ架け橋ライラ・フィーダーって言うギルドに所属してんだ、つまり同僚?仲間、だな。んで、俺はガリード。あいつのダチ、親友だ」
「ガリードさん、ですか」
「・・・あいつを、支えてくれて、ありがとう。本当に、ありがとう。クルーエさんのお陰で、あいつは、救われた」
 大きく、大袈裟と見えるほどに頭を下げる。最大限の感謝。失意に暮れた友人を救ってくれた、感謝を告げる。会えば、必ずしなければと心にして。
「お、御礼なんて言わないでください!私も、トレイドさんに助けてくれましたので・・・」
 唐突の感謝を受け、彼女は大きく狼狽する。ローブで顔を隠していようと赤くなっている事が見える仕草を見せ、慌てて否定されてもガリードは謝意を示し続ける。その姿にフーはにやにやと笑って。
「いや!間違いなく、クルーエさんのお陰だ。俺は何もしてやれなかったから・・・」
 最後の言葉にクルーエは言葉を失う。その当時の様子はガリードが感謝をするに納得出来る姿であったから。
 会話の合間で聖復術キュリアティの治癒も終了し、シャオに感謝の言葉が掛けられていた。
「そのお礼と言ったらあれだけど、俺達に任せてくれ!」
 面を上げ、真剣な面持ちで断言する。強き言葉で少しでも安心して貰おうと、少しでも信頼してもらう為に。
「私も、全力を尽くします」
「勿論、俺もそうだし、此処に来た皆がその積もりなんだわ」
 シャオもフーも同じ思い、態度を以て宣言する。それに確実性は無くとも、揺ぎ無い言葉と顔を確りと合わせた事が信頼に繋がっていた。
「宜しく、お願いします・・・」
 途端に溢れ出す涙。トレイドとは異なる安心感、人族ヒュトゥムに敵意を示されない事が、そして助けてくれると公言してくれた事が何よりも嬉しくて。
 その気分を奇しくも阻害するように、また別のレイホースの近付く音が響く。同時に車輪が石畳を進む雑音が混じる。その方向へ視線を向けると、馬車が数台、同じ数のレイホースが近付く姿が映る。その先頭には武装したユウの姿が見られた。
「状況は如何なっているの?」
「まだ、詳しい話は尋ねてません。トレイドの奴が突っ走ったぐらいですね」
「・・・そう」
 ちょっとした広場となる其処にレイホースを待機させた後、近寄っていくユウは少しだけ眉を顰めて。その面を正し、囲まれるクルーエの前に立つ。
「私は人と人を繋ぐ架け橋ライラ・フィーダー、通称ラファーに所属し、代理のリアを務めているユウと言います。貴女がクルーエさんですね。事情を聞かせて下さるかしら?」
 凛然とし、真っ直ぐ彼女と顔を合わせて語る彼女。その内心、やはり自分達と何ら変わらない人と思って。
「は、はい・・・」
 彼女の様子に少し圧倒されつつもクルーエは事情を語る。その言葉を当事者から聞き取る者の多くが目を細め、同情を抱いていた。
「・・・ありがとうございます。そして、辛い思いを思い出せてごめんなさい」
「い、いえ・・・」
「これからは私達人と人を繋ぐ架け橋ラファーに任せて下さい。人数は少ないですが、最善を尽くす積もりです」
 代理とは言え責任者からの発言。それに追従して頷くフー達。それがどれだけクルーエの救いになったか事か。これだけ味方が居る、魔族ヴァレスを助けてくれる人の存在が嬉しかった事か。
「ありがとう、ございます」
 深々と頭を下げる彼女に微笑み掛けていたユウ。その頭では色々と考えていたのか、振り返って待機する部下を見渡す面は先以上に引き締めていた。
「フー。貴方に現場の指示を任せます。皆を連れて救助に向かい、状況に応じて行動をお願いします」
「わかりました。とりあえず、先行と補給の二つに分けて行動します」
「ええ、お願いするわ」
「ユウさんは如何するんスか?」
 指名されなくとも先行しようとレイホースに跨るガリードが素朴に問う。それに彼女は少しだけ眉を顰めた。
「私はレミと共に彼女の保護に務めます。その間、法と秩序メギルの対応を行います。また、リアにも連絡をしないといけませんから」
「ああ・・・まぁ、そうしなきゃ、なんねーわな」
 それが人道に則ったものでも法に触発しているのだ、弁解か交渉もしなければならないだろう。その対応の困難さを考えたフーは苦い表情を浮かべた。
「分かったっス!じゃ、俺先に行くっスね!トレイドが心配っスから!」
「あっ!おい!・・・お前も、急ぎ過ぎんだよ」
 フーが止める前にガリードはレイホースを走らせていく。その背に溜息を零したフーは何人か指名し、ガリードに続くように促す。命じられた彼等は苦笑交じりにレイホースに跨り、外に向けて駆けて行った。
「・・・すみません。私達に、関わった所為で・・・」
 先の会話を傍で聞き、責任を感じたクルーエは頭を深く下げる。押し潰されそうな表情でその場に居る者に謝る。それをユウが止め、面を上げさせた。
「貴女の所為ではありません。それよりも、私達、人族ヒュトゥムの常識が間違っているのですから」
「まーそうなるわな。これを機に、考え直していかねーといけねーわな」
 あくまで自分達に、人族ヒュトゥムに非があると語る。それでも彼女は負い目を感じて仕方ない。
「兎も角、後は私達に任せて、今は休んでください」
「・・・はい」
 これからの事を疲弊した心身で考えても更に疲れるだけ。休息してからでも、今直面する問題を解決する事が先と言い聞かせて。
「・・・さて、行くぞ」
 一呼吸を入れたフーが号令を下す。それに応じ、補給を運ぶ部隊に選ばれたシャオを含めた数人はクルーエに教えて貰った雪山地帯、魔族ヴァレスの村に向けて歩み出す。
 その歩み出し、誰もが魔族ヴァレスを救うと言う思いではなく、人を救うと言う共通の意思に溢れて。
 遠ざかる一行を見送ったユウはまずはクルーエを休める場所を探し始める。その胸に不安は尽きなくとも、それでも正しいと受け止め、最善を尽くす気概に溢れていた。
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