貴方の鳥籠に喜んで囚われる私の話

刹那

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第十七話─鳥籠の小鳥─

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 凛翔さんが退院したのは一ヶ月後のことだった。急所スレスレの所を刺されており、後数分搬送されるのが遅かったら、どうなっていたか分からない、と担当医の方は言っていた。

 それから私は、あれよあれよという間に外堀を埋められていった。
いつの間にか私たちが付き合っていると大学内で噂になっており(そのあと正式に恋人同士になりました)、知らぬ間に私の両親から結婚の承諾をもぎ取ったり(いつの間に私の実家を知ったのか)、デートだと思ったら婚約指輪を買っていたり(何故か凛翔さんは私の指のサイズを知っていた)、そうして互いの家を行き来して半同棲状態になっていたら、いつの間にか凛翔さんが家を買っていて、勝手に引越しが済まされ晴れて同棲していたり(本当にどうしてそうなった)などなど、本当に、本当にいつの間にか全てが終わっていた。

 凛翔さんの暴走はそれでは終わらず、私は大学三年生になる頃、プロポーズを受けた。それ自体は嬉しかったのだが、凛翔さんは日頃から「奥さんにはずっと家で僕の帰りを待って、僕のことだけを考えていてほしいよね」と言っていたので、これでは結婚=大学を辞めさせられる、という図式が出来上がっているのでは?という思考に陥り、私は結婚はせめて大学を卒業してからにしてほしい、と凛翔さんに泣きついた。あの時は本当に大変だった。納得してくれない凛翔さんを宥めて、説得するのに苦労した。ちなみに説得のために行ったおねだりはもうしたくない。思い出したくもない。恥ずかしさで死ねる。

 そんなこんなで、私は凛翔さんと恋人兼婚約者となった。明堂院家の跡取りの婚約者なので表舞台に立たなければならないのか、と少し不安に思っていたら、いつの間にか私に病弱設定が出来ていて、「君は表舞台に立たなくていいからね。ずっと家にいてね。結婚したら外には出ないでね」と圧をかけられてしまった。南無。

 だが、本当に幸せな時間だった。凛翔さんは私をどろどろに甘やかした。「精神的にも、肉体的にも僕がいないと生きられなくしたい」という言葉を本当に彼は実行してしまいました。私は凛翔さんなしではもう生きていけない。私の全ては凛翔さんのものだから、私は凛翔さんさえ入ればいい。そう思うほどには毒されてしまっていた。




























 そうして今日、大学を卒業した年の私の誕生日。この日に私たちは結婚式をあげる。以前に、親戚たちや他の来賓たちも招いて挙式は既に行っていたのだが、凛翔さんがどうしても二人きりの結婚式をしたいと言ったので、私たちは二度目の結婚式をするのだ。しかも、その日取りが私の誕生日。一度目は本当になんでもない、皆の都合が合う日だったから、疑問に思ったのだが、凛翔さんはこの二人きりの結婚式を私の誕生日にしようとしていたのだと今思う。改めて考えると本気度がすごい。そんなにやりたかったのか、二人きりで。

 来賓者もいない、神父様もいない、新郎新婦と神のみがいるこの協会で、私たちはお互いの愛を誓い合った。

「病める時も、健やかなる時も、雪麗を愛し続けると誓うよ。死がふたりをわかつことも出来ないくらいに」

 その言葉に、凛翔さんらしいなと思って私は苦笑してしまった。そこは普通死がふたりをわかつまで、だろうに。

「私も誓います。何が起きても、私は貴方の傍を離れません。私が愛するのは、凛翔さんだけです」

 真実、私は両親を愛する気持ちを失ってしまった。ただ、今はどこか遠いところで幸せに暮らしてほしいと願うだけ。私が愛を向けるのは、凛翔さんだけになってしまった。.........凛翔さんがそうなるように仕向けたのは否めないが。それでも、これで十分だと思えた。だって、私は幸せだから。

「嬉しいよ。僕も君だけ。君しかいらない。だから、死ぬときは一緒だよ」

 そう言って、凛翔さんはふふっと笑った。私は、これは迂闊に怪我とか出来ないな、長生きしないとな、と思った。凛翔さんはやるといったらやる。私が早死したときには、本気で後追い自殺しかねない。そんなの笑えない。

「はい。一緒におじいちゃんおばあちゃんになるまで生きましょう」

 そういうことで私は答えをはぐらかした。

「じゃあ、誓いのキスをしよう」

「はい」

 凛翔さんがゆったりとした動きでヴェールをとる。私は、幸せで胸がいっぱいで泣きそうになる。












 そうして、私たちは夫婦になった。
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