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第十四話─蛹─
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あの日から数週間、特に何事もなく日常は過ぎっていった。でも、私の中では、彼の存在が何度もうかんで、どうしようもないくらい、私は彼のことでいっぱいだった。この感情が、なんというものなのか、もう、私は気づいているくせに後戻り出来ないのが怖くて明確な答えを出せていない。彼もそのことに気づいているのか、私を急かすようなことはしなかった。
ただ、人前でも会話をするようになることを除いては。彼はあからさまに私に接触するようになった。まるで、恋人かなにかのようにして。私は周りに誤解されるのが怖くて、やめてほしかったが、それを彼に伝えることは出来なかった。自分の言うことを聞かないやつはいらないと、彼に捨てられるのが怖かったから。自分がもう、後戻り出来ないくらい、彼に依存しているなんて、絶対に認めたくない。
彼を拒むことも出来ず、彼を受け入れることも出来ない。
私は途方に暮れていた。
「.........はぁ」
最近、ため息をつく回数が増えているのは、きっと気のせいじゃない。
「どうしたの?」
いつもと明らかに様子の違う私は、結弦は心配してくれる。彼女には心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけている。そんな自分が情けなくて嫌になる。
「うん。なんだか、踏ん切りがつかなくて。どうしたらいいのかわからなくて困ってる」
「......そう。そんなに困ってるの?」
「.........困ってる。自分の中で答えは決まってるけど、それを絶対に認めたくないの。認めたら、戻って来れなくなっちゃう」
「.........」
一体なんのことで悩んでいるのか、私のこの言葉からわかったはずだが、結弦は何も言わずにわたしの頭を撫ででくれた。
「大丈夫よ」
「え............?」
「大丈夫、私が守ってあげるわ」
「結弦?」
「ね? だから安心なさい?」
「..................ぅ....ん」
結弦の有無を言わせない迫力に気圧されて思わず、返事をしてしまう。言い訳をしてもいいのなら、この時私はだいぶ参っていた。自分の正直な気持ちに嘘をついているのに限界を感じて、でも自分の全てを明堂院 凛翔に委ねるなんて、そんな覚悟はできなくて、うじうじとみっともなく、悲劇のヒロインのような気持ちでいたのだ。だから、そんな私に罰が罰が下ったのかもしれない。
結弦の様子がおかしいことは明らかで、普段彼女と過ごしている私が、それを見過ごすなんてこと、ありえない事だった。でも、私は臭いものには蓋をして、結弦がおかしくなっていたことに気付かないふりをしていた。
最近の私が弱っていたように、最近の結弦はどこか危うかった。私がそばにいないときは、無気力にぼーっとしていて、私を一目見ると、途端に活力を取り戻したように普段通りになったのだ。
それはまるで、私のためだけに生きる人形のようで。私は、友達だというのに、結弦のその変わりように恐怖心を抱いてしまっていた。結弦に恐怖を感じた私は、恐怖を感じなくなった明堂院にすがった。彼が傍にいれば、結弦は不思議と近づいてこなかった。無意識のうちに、私はそれを利用して、結弦から距離をとっていた。
私が気づいていないうちにしていたその行動は、明堂院と結弦には筒抜けだった。明堂院はそれに気分を良くし、結弦はさらに狂っていった。
そのことに気づいていないのは、二人を狂わせた私だけだった。
今思うと、本当に愚かだったと思う。
自分は散々結弦に頼っておいて、いざ、結弦が怖くなったからといって、私は簡単に結弦の元を離れた。
いや、明堂院の存在があったからこそ、私は結弦の元を離れたかったのかもしれない。結弦と一緒にいると知ると彼は、あからさまにはださないけれど、嫌そうだった。彼の嫌がることはしたくなかった。
もう、その時点で私はだいぶ彼に侵されていて、彼なしでは生きていけなくなっていたのだろうけど、そんなことを考える余裕は私になかった。
あんなに私をドロドロに甘やかしてくれる人はいなかったから。彼に捨てられるのが怖かった。
でも、全ては間違いだったのだ。
あのとき、ああしていれば、こうしていれば、結弦の苦悩に気づいていれば。あんなことは起きなかった。
私の彼への想いは、着実に育っていった。
ただ、人前でも会話をするようになることを除いては。彼はあからさまに私に接触するようになった。まるで、恋人かなにかのようにして。私は周りに誤解されるのが怖くて、やめてほしかったが、それを彼に伝えることは出来なかった。自分の言うことを聞かないやつはいらないと、彼に捨てられるのが怖かったから。自分がもう、後戻り出来ないくらい、彼に依存しているなんて、絶対に認めたくない。
彼を拒むことも出来ず、彼を受け入れることも出来ない。
私は途方に暮れていた。
「.........はぁ」
最近、ため息をつく回数が増えているのは、きっと気のせいじゃない。
「どうしたの?」
いつもと明らかに様子の違う私は、結弦は心配してくれる。彼女には心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけている。そんな自分が情けなくて嫌になる。
「うん。なんだか、踏ん切りがつかなくて。どうしたらいいのかわからなくて困ってる」
「......そう。そんなに困ってるの?」
「.........困ってる。自分の中で答えは決まってるけど、それを絶対に認めたくないの。認めたら、戻って来れなくなっちゃう」
「.........」
一体なんのことで悩んでいるのか、私のこの言葉からわかったはずだが、結弦は何も言わずにわたしの頭を撫ででくれた。
「大丈夫よ」
「え............?」
「大丈夫、私が守ってあげるわ」
「結弦?」
「ね? だから安心なさい?」
「..................ぅ....ん」
結弦の有無を言わせない迫力に気圧されて思わず、返事をしてしまう。言い訳をしてもいいのなら、この時私はだいぶ参っていた。自分の正直な気持ちに嘘をついているのに限界を感じて、でも自分の全てを明堂院 凛翔に委ねるなんて、そんな覚悟はできなくて、うじうじとみっともなく、悲劇のヒロインのような気持ちでいたのだ。だから、そんな私に罰が罰が下ったのかもしれない。
結弦の様子がおかしいことは明らかで、普段彼女と過ごしている私が、それを見過ごすなんてこと、ありえない事だった。でも、私は臭いものには蓋をして、結弦がおかしくなっていたことに気付かないふりをしていた。
最近の私が弱っていたように、最近の結弦はどこか危うかった。私がそばにいないときは、無気力にぼーっとしていて、私を一目見ると、途端に活力を取り戻したように普段通りになったのだ。
それはまるで、私のためだけに生きる人形のようで。私は、友達だというのに、結弦のその変わりように恐怖心を抱いてしまっていた。結弦に恐怖を感じた私は、恐怖を感じなくなった明堂院にすがった。彼が傍にいれば、結弦は不思議と近づいてこなかった。無意識のうちに、私はそれを利用して、結弦から距離をとっていた。
私が気づいていないうちにしていたその行動は、明堂院と結弦には筒抜けだった。明堂院はそれに気分を良くし、結弦はさらに狂っていった。
そのことに気づいていないのは、二人を狂わせた私だけだった。
今思うと、本当に愚かだったと思う。
自分は散々結弦に頼っておいて、いざ、結弦が怖くなったからといって、私は簡単に結弦の元を離れた。
いや、明堂院の存在があったからこそ、私は結弦の元を離れたかったのかもしれない。結弦と一緒にいると知ると彼は、あからさまにはださないけれど、嫌そうだった。彼の嫌がることはしたくなかった。
もう、その時点で私はだいぶ彼に侵されていて、彼なしでは生きていけなくなっていたのだろうけど、そんなことを考える余裕は私になかった。
あんなに私をドロドロに甘やかしてくれる人はいなかったから。彼に捨てられるのが怖かった。
でも、全ては間違いだったのだ。
あのとき、ああしていれば、こうしていれば、結弦の苦悩に気づいていれば。あんなことは起きなかった。
私の彼への想いは、着実に育っていった。
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