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第十一話─ 変化─
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明堂院に対して興味を持ってから、私の中で、彼に対する印象が少し変わった。今までは、恐怖というフィルターがかかっていたからか、すこし穿った考え方をしていた。全ての言動に裏があるのではないか、と思ってしまったのだ。確かに、彼は全てのものに関心がない。生きていることにも頓着していない。まるで、人形がそこにいるかのような、みんなの望む明堂院 凛翔がそこにいる。それは決して、真実の明堂院 凛翔ではないと思っている。私はそんなに彼のことまだ知らないから、断言出来る訳じゃないが、そんなふうに感じてしまう。そして、その事を知っている人間は、ほんの数人しかいない。その数人も、明堂院 凛翔の本当を知っているのだろうか。私にはそれが疑問だった。もし、知らなかったなら?彼は独りだ。誰も彼を知らない、見ていない、認識していない。そう思ってしまったとき、私は誰よりも人に囲まれているあの人は、誰よりも孤独なのだと知った。
それからは、彼がどんな人間なのか、知りたいと思った。私が見つけたいと思った。一人は寂しいもの、それは私がよく知っている。沢山の人が周りにいたとしても、心を通わせていなかったら、それは一人でいるのと同じ、むしろ、一人でいる方が楽だ。
それでも、私は彼を見つけてあげたいと思った。だって、私と彼は似ている。周りに合わせて生きるしかなかった、自分の感情を押し殺すしかなかった私達。こんなのはただの自己満足だ。そんなこと分かっている。でも、一人ならなくてすむように、私が、見つけたいと思ったんだ。
どうして彼が、あんなに濁った瞳をしているのか、私にはまだ分からない。でも、その瞳をするようになった理由があると思うだけで、彼への恐怖心は少し和らいでいた。
だから、もう逃げるのはやめる。彼と向き合う。だって、こんなにも私の心に住みついている。その気持ちを無視するなんて、出来そうにない。
そうして、私は決心する。もう一度彼と直接話をしようと。
─────────────────────────────
「ぁ.......あぁ、うぁ..................ううぅぅぅう!」
結弦がそのうめき声を聞いたのは、確か一年の夏頃。明らかに尋常じゃない様子に何事かと思い、暗がりを覗き込むと、そこには泣いている女がいた。
結弦がその女を見た途端、なんて綺麗な子なのだろうと思った。自分もそこそこ整った顔立ちをしていると思っていたが、泣いている女はその比じゃない。
普段かけている眼鏡をとったら、そこには長い睫毛が綺麗に縁取られているぱっちりとした、水晶のように澄んだ瞳。紅く色づいた頬。髪はいつものように括られておらず、長く流れる美しい黒髪は艶やかだ。乾燥なんてしていない、瑞々しく感じる唇も、少し艶めいていて色気がある。そして、何よりもその肌は白くそして綺麗で透き通るような印象を抱く。
結弦は成程と思った。彼女がダサすぎると周りから囁かれても、頑なにお洒落をしなかったのは、自分の魅力を隠すためだったのだと理解したからだ。
結弦はその女に興味を持った。だから、普段は無視して行くところを、わざわざ声をかけたのだ。
「ねぇ、そこの貴女。こんな所で泣いていたら誰かに襲われてしまうわよ?」
「ぁ.........。あの君は.........誰..................ですか?」
「ふふ、私は有明 結弦。貴女と同じ心理学部の人間よ」
「有明さん.........?」
「結弦でいいわ、同じ学年でしょ?貴女一年よね」
「どうして、知って.........」
「貴女、ある意味有名だもの、根暗女って言われているの知らなかった?」
「ぇ.........嘘、知らなかった。」
「まぁ、立ち話も何だし、どこか落ち着くところに移動しましょう」
それが、有明 結弦と御嘉 雪麗の出会いであった。
「私は明堂院 凛翔が怖いの」
雪麗がそう言ったとき、結弦は少し驚いた。確かに、嘘くさい奴だとは思ったけれど、そこまで怯えるほどなのか。ただ、彼女の震え方が普通ではなかったので、そうなのだろうと納得した。彼を恐怖の対象として初めから捉えたのは、後にも先にも、雪麗だけだろうな、と結弦は思った。
そうして、彼女は己の過去についてぽつり、ぽつりと話し出した。予想した以上に過酷で、感受性や共感能力の高い雪麗には、さぞ苦しい環境だっただろうなと思いながら震える雪麗を見ていた。結弦も似たような境遇の者だと言えば、雪麗は明らかに安心した様子で笑った。
その笑顔を見て、結弦は決意したのだ。
御嘉 雪麗は私が必ず守ろうと──。
変化というのはいつも急速にやってくる。雪麗が直接明堂院に会ってからというもの、彼女は明堂院に対する印象を少し変えたようだった。彼女は彼に心を砕くようになってしまったのだ。それから彼女は、明堂院を知ろうと、ただ彼を真っ直ぐに追いかけ続けていた。彼女は気づいていないが、明堂院はそれに気づいていて、そうして放置していた。彼が雪麗を見る目はあまりにも他の人間のそれとは違う。まるで、神でも見るような蕩けるその瞳に気づいたものは結弦と、あとは彼の聡い友人数名。
結弦は思った。
これでは蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のようだ。
それでも、結弦は雪麗を守ると決意した。その気持ちは今でも揺らがない。
─だって、雪麗は私の大事な大事な大好きなお友達なんですもの─
それが歪んだ友情愛とは、まだ誰も、本人すら気づかないまま。
それからは、彼がどんな人間なのか、知りたいと思った。私が見つけたいと思った。一人は寂しいもの、それは私がよく知っている。沢山の人が周りにいたとしても、心を通わせていなかったら、それは一人でいるのと同じ、むしろ、一人でいる方が楽だ。
それでも、私は彼を見つけてあげたいと思った。だって、私と彼は似ている。周りに合わせて生きるしかなかった、自分の感情を押し殺すしかなかった私達。こんなのはただの自己満足だ。そんなこと分かっている。でも、一人ならなくてすむように、私が、見つけたいと思ったんだ。
どうして彼が、あんなに濁った瞳をしているのか、私にはまだ分からない。でも、その瞳をするようになった理由があると思うだけで、彼への恐怖心は少し和らいでいた。
だから、もう逃げるのはやめる。彼と向き合う。だって、こんなにも私の心に住みついている。その気持ちを無視するなんて、出来そうにない。
そうして、私は決心する。もう一度彼と直接話をしようと。
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「ぁ.......あぁ、うぁ..................ううぅぅぅう!」
結弦がそのうめき声を聞いたのは、確か一年の夏頃。明らかに尋常じゃない様子に何事かと思い、暗がりを覗き込むと、そこには泣いている女がいた。
結弦がその女を見た途端、なんて綺麗な子なのだろうと思った。自分もそこそこ整った顔立ちをしていると思っていたが、泣いている女はその比じゃない。
普段かけている眼鏡をとったら、そこには長い睫毛が綺麗に縁取られているぱっちりとした、水晶のように澄んだ瞳。紅く色づいた頬。髪はいつものように括られておらず、長く流れる美しい黒髪は艶やかだ。乾燥なんてしていない、瑞々しく感じる唇も、少し艶めいていて色気がある。そして、何よりもその肌は白くそして綺麗で透き通るような印象を抱く。
結弦は成程と思った。彼女がダサすぎると周りから囁かれても、頑なにお洒落をしなかったのは、自分の魅力を隠すためだったのだと理解したからだ。
結弦はその女に興味を持った。だから、普段は無視して行くところを、わざわざ声をかけたのだ。
「ねぇ、そこの貴女。こんな所で泣いていたら誰かに襲われてしまうわよ?」
「ぁ.........。あの君は.........誰..................ですか?」
「ふふ、私は有明 結弦。貴女と同じ心理学部の人間よ」
「有明さん.........?」
「結弦でいいわ、同じ学年でしょ?貴女一年よね」
「どうして、知って.........」
「貴女、ある意味有名だもの、根暗女って言われているの知らなかった?」
「ぇ.........嘘、知らなかった。」
「まぁ、立ち話も何だし、どこか落ち着くところに移動しましょう」
それが、有明 結弦と御嘉 雪麗の出会いであった。
「私は明堂院 凛翔が怖いの」
雪麗がそう言ったとき、結弦は少し驚いた。確かに、嘘くさい奴だとは思ったけれど、そこまで怯えるほどなのか。ただ、彼女の震え方が普通ではなかったので、そうなのだろうと納得した。彼を恐怖の対象として初めから捉えたのは、後にも先にも、雪麗だけだろうな、と結弦は思った。
そうして、彼女は己の過去についてぽつり、ぽつりと話し出した。予想した以上に過酷で、感受性や共感能力の高い雪麗には、さぞ苦しい環境だっただろうなと思いながら震える雪麗を見ていた。結弦も似たような境遇の者だと言えば、雪麗は明らかに安心した様子で笑った。
その笑顔を見て、結弦は決意したのだ。
御嘉 雪麗は私が必ず守ろうと──。
変化というのはいつも急速にやってくる。雪麗が直接明堂院に会ってからというもの、彼女は明堂院に対する印象を少し変えたようだった。彼女は彼に心を砕くようになってしまったのだ。それから彼女は、明堂院を知ろうと、ただ彼を真っ直ぐに追いかけ続けていた。彼女は気づいていないが、明堂院はそれに気づいていて、そうして放置していた。彼が雪麗を見る目はあまりにも他の人間のそれとは違う。まるで、神でも見るような蕩けるその瞳に気づいたものは結弦と、あとは彼の聡い友人数名。
結弦は思った。
これでは蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のようだ。
それでも、結弦は雪麗を守ると決意した。その気持ちは今でも揺らがない。
─だって、雪麗は私の大事な大事な大好きなお友達なんですもの─
それが歪んだ友情愛とは、まだ誰も、本人すら気づかないまま。
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